43-4 今、ここに……勝利の電次元フォーメーション!

『お、オマケの分際で私にたてつくのですか……!!』


 ――ブレストが空高く飛び上がる中、バグテンバーは残されたチャフミサイルを彼目掛けて繰り出そうとした。けれども彼が狙おうとも、2機の飛行体――スクランブル・シーカーの刃をシュナイダーとして、群がる触手を断ち切っていく。触手を根本から断ち切らない限り、再生され続けるものの、ブレストが十分な間合いを取るまでの時間稼ぎとなれば然程の問題はない。それだけでなく、


『ここはアンドリューが頑張ってもらわなければ流石に困るのだよ。君がしくじれば……』

『バーロー、俺がヘマする奴と思うかよ』

『この電次元フォーメーションは息が合わなければ成り立たないのだよ。ネクストに態々一番手を任せているのだからして……』

『たりめぇだ! リン、ここで一気に出し切ってやらぁ!!』


 スクランブル・シーカーが切り込みをかけている間、ネクストとリキャストがナドラノ海へと身を沈めていく。クロストに加え、3機のハードウェーザーが水中に陣取った時こそ電次元フォーメーションを放つ態勢へ突入することを意味していた。


『ネクストでしたら、アンドリューさんが心配する事もないです! 私に構わないでください!!』

『本気でそうなっちまうのはゴメンだけどなぁ……その意気だ!!』


 ゼルガが触れる通り、一番手はネクストだった。彼がバグテンバーの真下から両腕を突き出し、電次元サンダーを全力で真上へ一直線に放つ。電次元兵器としての破壊力よりも、自由自在な軌道と共に、相手を意のままに軌道を変える力を買っての事。ゼルガから先鋒、後につながる布石として重要な役回りであると杭を刺されると、アンドリューは軽口を叩きつつ、この一撃に躊躇いはない。


『電次元サンダーがバグテンバーを浮上させるまでは後……』

『幸先いい出だしだけど、君だけでは確実に仕留めることが出来ないのだよ』

『だから、僕たちもいるんだよね!』

『その通りだよ、だからシャルもついてきてほしいのだよ!』


 ネクストが電次元サンダーを一点へと集中して放ち続けた。ネクストの倍以上、それどころか10倍あるかどうかの巨体であるバグテンバーは微かに、その巨体が海原から浮上しつつあった。これにより触手がスクランブル・シーカーの主翼を突き、機体がバランスを崩すと、


『で、電次元サンダーは、電次元兵器の中でも最弱。これ位の攻撃にバグテンバーが持つとでも……!』


 宙に浮かされつつあろうとも、天羽院は本来想定しない運用だろうとも底部に仕込まれた飛行用のブースターを点火させていった。これにより空中へ逃れようとするのだが、


『ここで終わりではないんだよね。ユカ!』

『はい! 一緒に行きましょう、シャルちゃん!!』

『電次元ソニック、行くのだよ!』


 このタイミングを見計らい、電次元サンダーを放ちつつ中心地点からネクストが緩やかに退き、代わりにリキャストが二番手として前に出る。すかさず電次元ソニックの銃身を真上へと突き出し、


『お、おぉぉぉぉぉっ!?』

『私たちから逃れることが出来ると思いまして!?』

『電次元ブリザード、サンダー、ソニックの一斉攻撃だからね!』


 砲撃を続けるリキャストの外周を、クロストとネクストが周回しつつ電次元兵器での攻撃を引き続き行う。シャルが触れる通り電次元ブリザードによる攻撃が加わると、バグテンバーの底部を時計回りに軌道を描く形で凍結させており、凍り付く底部に目掛けて電次元ソニックによる衝撃波が加われば、底部へと亀裂が生じつつある。


『わ、私のバグテンバーがこうも、こうも! 圧されるなんて、誰が、誰が許したのですか!?』


 電次元サンダーの威力に対し、天羽院は過小評価している様子だったものの、電次元ブリザード、ソニックが加わった時の威力は、実質バグテンバーの戦闘能力を喪失させる程の威力を示した。天羽院は自分の操縦を受け付けないバグテンバーの様子に狼狽しており、


『……私たちの勝利ですね』

『出来る事なら、力尽きる迄放ち続けたいのだよ……と言いたいけれども』


 既に3機がかりでの総攻撃を前に、ユカは勝利を確信してゼルガと呼び掛ける。彼もまた同意であったが、電次元ソニックのエネルギーが尽きようとしている事を未練がましく思っていた。ブレストら3機と異なり電次元ソニックが、携行式かつジェネレーターが搭載されている為、ハードウェーザー本体のエネルギーに依存しない。これがアドバンテージの筈だったが、ゼルガとして残り全てのエネルギーをこの一撃へと叩きこめない事が、今となればディスアドバンテージともなり、表情に微かなゆがみが生じるものの、


『ゼルガ様、どうされました?』

『いや、この戦いの勝者は私ではないのだよ』


 最も、ゼルガが微かに羨んだ思いも些細な事に過ぎない。ゼルガとしてこの戦いへ引導を渡すにふさわしいプレイヤーが既にいるのだと分かっていた。シャルへすかさず合図を出すと、


『ゼルガ、アンドリュー、玲也君! お願いだからもう少しだけ待ってて!!』

「シャル、ジャンプでも無理か!!」

『そうしたいけど、もうそれだけのエネルギーがないんだよ!!』


 リキャストへ入れ替わる様にして、クロストがバグテンバーの中心へと移るが他の2機と異なり電次元ブリザードを放つだけの余裕がない。玲也に触れたとおり今のクロストが既にエネルギーの残量が3割を切っている事も関係している様子であり、


『シャルさん! 久々にこの手を使う事はまだしも、巻き込まれたら洒落になりませんわよ!!』

『でもブリザードがないと意味ないじゃん! こうなるかもしれないってわかってたよね!?』

『バーロー! 早く俺の所に来いってんだ!!』


 エクス曰く久々の一手を使う事へあまり乗り気ではない。それに加え自分たちが脱出できるだけのエネルギーを残さなかったのかとシャルと口論を繰り広げていたものの、この状況で喧嘩している場合かとアンドリューが怒鳴りつけた。クロスト・ワンが胴体から射出されると共に、ネクストの手でどうにか機体ごと回収され、



『今こそ好機だよ。本当の勝者は君の筈だよ!!』



 ジェネレーターの稼働が停止した電次元ソニックそのものを投棄してゼルガは叫ぶ。彼がさす本当の勝者は遥か高い上空から、自分の元へと急速接近しつつある。シャルでもアンドリューでもなければ、ゼルガ自身でもなく、


「電次元フレアー・アンド……」

「ゼット・バースト!!」


 ――高々に叫ぶ二人を乗せて、ブレストの両眼が赤い閃光を解き放つ。飛び掛かりながら、一度展開された腹部の射出口に対し、シャッターが再度降り立つ。やがて赤く染まった光は両眼だけでなく、ブレストの全身そのものを包み込むように輝きを増していき、


『ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!!』

「これで、もう逃がさないんだから!」


 天羽院が阿鼻叫喚するのを他所に、ブレストはこの時が来る事を想定して、今まで温存していた切り札のベールを脱いだ――電次元フレアーのエネルギーを標的に向けるのではなく、射出先をあえて封じる事で、ブレスト全身にそのエネルギーを逆流させる。さらにゼット・バーストを発動させて全エネルギーを放出することで、ブレスト内部で甚大なエネルギー同士を衝突させて、全身が白熱化する程の強力なエネルギーを身に纏わせるこの技こそ、


「電次元フレアー・ファイナル・フィニッシュ、これで終わりだ!!」


 名付けて、電次元フレアー・ファイナル・フィニッシュ。身をもってブレストが両腕を突き出したままバグテンバーを脳天から突貫する。まるで自分自身を放たれた矢のように、勢いよくバグテンバーだけでなく、真下へ控えたクロストまでを貫くと共に、


『……やったよ、やったよアンドリュー! 玲也君が!』

『あぁ……電次元フォーメーションを決めたな!! 』


 もぬけの殻のクロストをブレストへ貫かせたのは、ブレストが放つ最後の一撃を底上げする為。クロスト自身が巨大なリモコン爆弾であり、クロスト・ワンが脱出できたならば、爆破させる事を躊躇う理由もない。

 このクロストそのものの爆発に底上げされる形で、電次元フレアー・ファイナル・フィニッシュは、バグテンバーを貫通させ上空で粉微塵に砕け散らせた。シャルが真っ先に自分たちの勝利を確信した時、アンドリューも初めて緊張の糸が切れた様子で、自分の教え子がやり遂げた事へエールを送っていたが、


『……じ、冗談じゃありませんよ! 私は……私はまだ!』


 その筈だったものの、爆炎の中からどさくさに紛れるように白い円盤状の機体が逃れつつあった。この円盤の中ではこの戦乱の黒幕がわが身の保身を真っ先に、どこだろうとも逃れようとする一心で飛び続けようとする。天羽院としての体を失ったとなれば、余命は限られているに等しかったが、バグテンバーとして死を遂げる事よりは可能性があると即座に捉えていたが、


『ゼルガ様! まさかと思いますが……!!』

『その通りだよ、ここで逃しては何もないのだよ……!!』


 スクランブル・シーカーを単独で飛ばしていた為もあったのだろう。ゼルガは彼の逃亡に気づいていた。頭部のバイザーが開放されるとともに、ツインアイがあらわとなり、


『やった、やった……いや、待ってください、これは……!!』


 ブレストはナドラノ海へ深く沈んだまま現れる事がなく、クロストとネクストもまたバグテンバーが粉砕された事に、完全勝利を確信したのか自分が逃れる様子にはノーマークだと確信していた様子でもあり、この時まで天羽院は自分の悪運によって生き延びると確信していた様子だが――後方から二筋のエネルギー反応が自分へ向けて迫っていた事に気づけば、


『アイブレッサーで十分だよ、天羽院!』

『う、嘘ですよね!? この天羽院が、まだ何も! あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』


 今、気づいた時点で避けられる筈もなかった。二筋の光は機体そのものを飲み込んでいき、一人逃れようとする天羽院は襲い掛かる高熱へ身を蒸し焼きにされ、直ぐさま襲い掛かった閃光にわが身も消されていった。眼光を解き放つと共に白銀のハードウェーザーは、この巨悪の最期を見届け、


『……ゼルガ様は言いました。貴方の命をもって償わなければ収まらないと』

『父上、兄上……この戦乱を引き起こした天羽院は私たちが……』


 ただ1機だけ本体のエネルギーを温存させていたリキャストは、逃れようとする天羽院の存在に気づき、アイブレッサーで彼へ引導を渡した。そして既にいないマックス達へ彼は自分たちの勝利を告げると共に、ナドラノ海の表面へと視線を向ける。ブレストが沈んだ海原の表面が急速に上がると共に、


『玲也さん! ニアさんもよく無事で……』

『全く、ニアさんも最後の最後まで私たちを心配させまして』

「さっきまでのあんたに言われたくないわよ。まぁちょっと危なかったけどね……」

『……お互い様との事で手を打ちますわ。それより玲也様は!』


 電次元フレアー・ファイナル・フィニッシュを照射した代償として、ブレストはまともに動けるだけの力は残されていなかった。クロスト・ワンとネクストが形を貸す形でブレストを引き上げており、エクスはニアにやはり憎まれ口をたたく。最も互いにギリギリのところで勝ちを拾って生還したのだと認め合っているようで、


「俺は、大丈夫だ……本当にみんなよくやってくれた」

「ありがと……って言いたいけど、あんたが一番大変じゃない!」」


 エクスに尋ねられて、玲也はサムアップを決めると共にこの一戦を全員で勝ち抜いたのだと称した。ただニアに突っ込まれる通りマルチブル・コントロールによって、初めて3機同時に制御した事への反動からかニアの肩を借りて立つ事がやっとであった。


「シャル、アンドリューさん、ゼルガ……あと才人。みんなのお陰だよ」

『玲也君! それは嬉しいけど早く戻らないと危ないんじゃ!!』

『ネクストに早く移せ! おめぇがくたばったら話にならねぇぞ!!』

「……アンドリューさん、何を言って……父さん?」


 それでも玲也として、思い残すことはないと言わんばかりに、好敵手たちと共に競い合い認め合った中で、この勝利を手にしたのだと述べる。ただシャルだけでなくアンドリューからも彼へと襲い掛かった反動を心配されている。ついでに言えば当の本人は大丈夫だと、アンドリューに対しても自分が健在だとガッツポーズを作っていたが――バイザー越しに自分の元へと届く声に目を丸くした。思わずコクピットの周りを見回してしまっており、


「ちょっと玲也どうしたの!? 父さんとか急に……」

「わからない、けれども聞こえるんだ、父さん、父さんがここに居るんだ!」

「嘘……どうして、どうしてそれがわかるの!?」

『……考えられるとしたら、ポートのシェルターかな』

 

 徐々に父の呼び声が強まるとともに、その位置までも玲也は特定しつつあった。ワイズナー現象に対しての感度が強化されていたのかどうかは定かではない。ただゼルガはどこかとぼけた様子で、秀斗がいると思われる場所を口にしており、


「アンドリューさん、まだネクスト動かせますか!?」

『おめぇ、まさかと思うけどよ! そのシェルターへ……』

「自分勝手な頼みだとはわかってます! けれども、これを逃したらもう」

『僕からも頼むよ! 玲也君はここまでこうして一生懸命にさぁ!!』


 シェルターへと向かう為、最速のスピードかつ消耗が最も少ないネクスト・ビーグルで休校する事を望んだ。そのためネクストを駆るアンドリューにダメ元だろうと頼みかけ、シャルも彼に同調していた所、


『全く、いつもいつも手を焼かされるなぁ! おめぇらにはよ!!』

「ちょっと、そんな風に言わなくてもさ! 玲也だってわかって言ってるんだし!!」

『バーロー、その為に俺がいるんじゃねぇか!!』

『ハッチを開けてください、もう時間もないでしょうから‼!』


 口で少し呆れていたものの、アンドリューの表情はどこか自分ごとのようにも嬉々としていた。既に消耗してブレストが消滅しようとしている事もあり、すぐさまブレストのコクピットからポリスターで玲也とニアを転移させ、


「すみません、こうも迷惑をかけて」

「何、まさかの時におめぇだけじゃな!」

「そういう事です、アンドリューさんもやはり心配してて」

「バーロー! そう余計な事言ってんじゃねぇって!!」


 自分の為にアンドリューを付き合わせている事へ、玲也は少し罪悪感があったもののアンドリューは今更その点を責める事はしなかった。むしろリンに代弁されている通り、内心では自分もその気であると突っ込まれれば少し顔を赤くしていた。


「とにかく、おめぇの用事ならさっさと終わらせねぇとな! そうだろ!?」

「アンドリューさん……はい!」

「リン、シェルターってどこか分かってるよね!?」

「はい、シーカーの方で場所はつかめてますので……」


 かくしてネクストはビーグル形態へと変形させ、ポートへと急ぐ。クロスト・ワンとリキャストが海上には残されており、


『玲也様、どうかご無事で、お父様とも……ってちょっと待ってくださいまし!』

『急にどうしたの? 玲也君はもう行ったのにさ』

『それでして! ニアさんもリンさんも向かわれましたのに!!』

『あぁー、僕たちだけお留守番って事?』


 エクスが指摘した通り、ネクストに自分たちが乗り損ねてこの場で留守番と気づけば、不服そうな様子でもあった。シャルが今更気づいたのかと少しずっこけてもいた様子だが、


『シャルちゃん、玲也様の元に行ってください』

『そうそう……って、えぇ!? それ本気で!?』

『今のクロストでしたら、直ぐに迎えます。秀斗さんを救う為にも急いだほうが』

『なるほどね……こうも今役立つとはちょっと思わなかったけど』


 シャルは意外にもクロスト・ワンを向かわせることを進めた。これも通常のクロストより非力だが、小柄かつ飛行して急行できる点からシェルターへ向かう点ではむしろ容易にもなっていた為だ。シャルもこの点は直ぐには気づかなかったのか、少し目を丸くしており、


『とにかく行きましてよ! お父様との再会があるのですから‼』

『分かってるよ! そんなに急かさないでよ!!』

『ここまで来たのなら……秀斗さんは』


 かくして、クロスト・ワンもまたネクストの後を追っていく。その様子をゼルガはリキャスト越しに見送っていた所、ポリスターへと通信が鳴り響き、


「ゼルガ君、改めて俺の息子だと分かったよ……回りくどい方法でしか見届けられなかったが」

『その罪滅ぼしに、今玲也に会いたい気持ちはわかりますが……焦らなくても大丈夫ですよ』


 ポリスター越しに秀斗へと、ゼルガは語り掛ける。父親としての責務を果たそうとするにも、慌てる必要はないのだと自信をもって彼の逸る感情を宥めているが――同時に父を


『……私にもいろいろと話すことがあります、時間は取らせません』

『ゼルガ様も苦しんでいます。秀斗様の意向も出来る限り尊重します。』

「……わかった」


 ――天羽院の最期は、バグロイヤーの指揮系統を瓦解させ壊滅を意味するものであった。地球だけでなくゲノムの地での戦いは全て終わったはずながら、ゼルガの心は完全に晴れたとは言い難い。自分たちもまた別の重荷を背負っているのだとの、ユカの言葉を受けると共に秀斗は首を縦に振った。あと僅かばかりの時とはいえ、息子の元へ向かわんとする想いを律しながら――。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『――ゲノム全土へと告げる。一二〇〇をもって、バグロイヤーは、天羽院勝哉は我々電装マシン戦隊と』

『ゼルガ様の手によって討ち取られた。我々の勝利、ゲノムはバグロイヤーの手から解放されたのだ!』


 ――ドラグーンがその巨体をゲノム上空に浮かせながら、エスニックとメガージは電装マシン戦隊と解放軍の勝利を本土へと宣言する。それは停戦を意味しており、ポートにも解放軍の兵士たちが武装解除へと取り掛かっており、


「――ここまで来たら俺が会いに行くのが筋かもしれないがな」


 秀斗はポートへと身を寄せていたものの、他の解放軍の兵士たち共々シェルターへの避難は最後までしなかった。それも施設間の隙間にひっそりと身を隠しながら、最前線でハードウェーザーとバグテンバーの戦いを見届けていたのである。既に息子が天羽院を破り、ゲノムに平和をもたらしたならば、自分が身を隠し続ける意味もないに等しかったものの、


「玲也が見つけるまで会わんと誓ったのは俺だ。仮にそこで俺が会えばだな……」


 最もかつて玲也を激励するために、自分からは会いに行かないと秀斗は宣言し、息子もそれを親子との間で果たした新たな約束だと互いに見なしていた。寧ろ息子より自分の方が親子との再会を待ち望んで、彼にしては珍しく少し優柔不断な態度も示しており、


「あれから直ぐ俺を見つけてくれればだな、ゼルガ君にも直接教えないようにはしたが……」


 ゼルガは既に自分の居場所を知っていようとも、再会の約束はあくまで息子が自力でこぎつけるべきと要請していた。ただ戦いを終えた息子にそれだけの力が残されているか、寧ろ彼が自分を探し求める事へと天にすがるような思いも見せていたが――彼の元へライムグリーンのスーパーカーが近づきつつあり、自分に気づいてウィンカーまで点灯させているようであり、


「……まさか。まさかだと思うが」

「よかった……先にシェルターにいかなくて」

「シェルター……ゼルガ君にそう言うようにとは言ったが」

「父さんが逃げて隠れる訳ないじゃないか。俺よりも危なっかしいんだから」


 ――自分が息子の戦いを見届けるため危険も省みない。そのような自分の性分を息子の彼は既に分かっていた様子ともいえた。ネクストの後部座席が開き、金色のプレイヤー・スーツに身を包んだ彼が現れれば、



「……玲也!!」

『父さん、やはり父さんだね。俺……』



 ――互いに相手が親子だと認識した瞬間であった。一寸早く玲也の緊張の糸が切れてしまったのか、急に足取りが乱れ、まるで燃え尽きた様子でその場で倒れてしまったのである。突如襲い掛かった事態に、ニアとアンドリューが揃って飛び出し、


「玲也、しっかりしなさいよ! ねぇったら……!!」

「やっぱガタが来ちまったか……リン、ドラグーンを呼んでくれ!!」


 コンパチを失った状態で、3機を同時に制御して戦わせるだ――マルチブル・コントロールに伴い脳の負担は、連戦が続いていた事と重なり、玲也へ尋常ではない負担を与えていたのである。


「おい、おめぇがここでくたばっちまってどうすんだよ! 口を動かせ、目を開けろ、何か喋れって!!」

「そうよ、折角あんたの親父に……って、ちょっと!!」



 人形のように気を失った玲也の意識をアンドリューが必死に呼び戻そうとしている傍ら、秀斗が彼らに対して背を向けていた様子にニアが気づいた。慌てて彼女の元へ駆け寄り、


「なんであんたが起こさないのよ! あいつの親父なんでしょ!?」

「そうだが……今の状況で手を貸す訳にもな」

「今の状況って、あのねぇ! 折角あんたを探して、ようやく見つけた所なのよ、分かってる!?」

「今わの際として、玲也に俺が応えろと?」

「何物騒な事言ってるのよ! あんたは!!」


 何故か急に秀斗の態度はそっけなくなり、父親として応えない様子にかつての母の姿が重なったのだろう。思わず彼の首根っこをつかんでいるニアは興奮がおされられない様子。必死に彼へと抗議しようとしていたが、


「何、ここまで来たあいつがくたばる訳がない。俺はそう信じてる」

「信じてるって……あんた、親父かもしれないけどそれって」

「済まないが、先に済ませる用事が出来た。それまで休ませなさい」

「はぁ!? こんな時に用事って何なのよ……!?」

「何、必ず会いに行くよ。そう信じているからな」


 ――ただ息子に対して簡単にくたばらないと、父親としてか妙な自信を抱くとともに彼はポリスターで自分の体を射抜く。ただ父親としての務めを果たすか否か、つかみどころのない彼の様子に、ニアはただ呆気にとられるだけであった。

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