第42話「ウィン・スワン!今、翼休めて」

42-1 後悔なき明日を見据えて……

「一体何があって! 貴方でも今、急に呼び出す必要があるとでも!!」


 ――時は僅かながら遡り、ドラグーン・フォートレスにて。ウィンは半ば強引にアラート・ルームから連れ出されていった。総力戦に向けて最後のミーティングが行われる直前の為、その重要性を軽んじている事への憤りからか、それともここ最近の情緒不安定な様子からか。いつも以上にウィンはピリピリして尋ねたものの、


「おいおい、そこまでピリピリするなよー。後ろめたい事でもあるのかー?」

「わ、私は今までバグロイヤーとの戦いの為必死に……って、私を愚弄しているのですか、リタさん」

「いやー……別に馬鹿にしてはないけどさー」

「なら、笑っているのもおかしいのでは!?」


 リタはいつもながらフランクな姿勢で、決戦を前にしようとも余裕にあふれている。ウィンは今まで通り、バグロイヤーという妹の仇を討つ戦いこそ生き甲斐だと胸を張ろうとするが――自分の額に向けて、彼女は人差し指をはじいての一撃を見舞った。彼女の抗議に対して、リタは口で否定しつつも、何故か腹を抱えながら笑いを答えている。そんな彼女の様子へやはり突っかかるものの、


「悪い、悪い……ただ、ウィンが相変わらず真面目ちゃんだからさー」

「真面目になって当然ですよ! ここで浮ついた気持ちで挑めば命取りに……」

「逆にガチガチになっても同じだけどなー」


 何時もの振る舞いからしてウィンはそのような生真面目な性格だと、他の面々からも見られていた。しかし今の状況にて、自分で真面目な人間だとアピールする彼女の様子に対し、リタの眼差しは鋭かった――明らかに自然体で振舞えない程追い詰められている状態だと看破しているのだから。


「まぁ、あたいに遠慮してるか分からないけどさ」

「べ、別にリタさんにそこまで遠慮など……」

「前から思ってたけどなー、アンドリューの事が好きで好きでたまらないんだろー?」

「……」


 それでもなおウィンは自分に迷いなどないと、意地になって主張しようとするも間髪入れず、自分の本心を言い当てられた――自分がこの場でも余裕を振舞えているのも、今の自分の心を見透かしているからではないかと。軽く笑うリタを他所に暫く彼女の体が震えた後に、



「何故態々聞くのですか!? 貴方が愛していれば……!」



 リタの体が微かに壁際へと一歩後ずさった。目の前のウィンが前のめりに自分へと圧し掛かると共に、今まで押し殺してきた感情を爆発させたのだ。年上のリタはウィンからすれば同じ仲間だけでなく、姉のような相手であるとも見なしている。彼女の少しガサツで楽観的な性格に振り回される事があるとしても、信頼と羨望が入り混じる感情があり、


「あたいはアンドリューを愛してるぞー?」

「貴方の愛してるは……私と違います! 分かっていますよね!?」


 ウィンが羨むのも、アンドリューとの付き合いの長さや、距離の近さでリタが勝っていたからだ。彼ら二人を深く知らない者からすれば、アンドリューとリタが息の合う関係だけでなく、親密な付き合いを築いているのではと思わされる程。

 だからこそウィンとしても二人がお似合いのカップル、それどころか婚姻を結んで家族として子をもうけたとしてもおかしくないとは捉えていた。寧ろリタがその気で彼と既に付き合っていたならば、自分の恋路も届かない物と諦める事がつくのだから。


「そりゃまぁ……わかってるかなー」

「貴方がいつもそうして! アンドリューさんに一番近い貴方がそうですから……」


 リタ本人が言う通り、彼女自身ウィンと恋敵ではない、三角関係として張り合うつもりはないとサラリとの答えを出す。それが猶更ウィンは彼女に煮えたぎらない想いをたぎらせてしまうも、


「……あたいと違って、アンドリューが本当に好きなんだろー?」

「……」


 ウィンの想いは、決して自分に負けていないとリタが強く肯定する。声のトーンが少し低くなり、彼女のオレンジ色の瞳は鋭く、ウィンの心にメスを入れるように迫る。こうも後輩の気持ちを肯定する理由は、自分がアンドリューへ抱く想いと異なる為――互いに死別した相手の面影を重ねてしまっているが故、ウィンが望むような関係になった矢先は、過去の傷を嘗め合う。だから互いを貶めないように、同じイーテストを駆るパートナーとしての関係であることを強く望んでおり、


「ウィンは慰められたくないんだろー?」

「そうです……ウィンさんにも私はそうだと言いたい、言いたいのですけど……!!」


 アンドリューにウィンが惹かれる事――彼との出会ったときに淡い憧れであると共に、今まで経験もない未曽有の感情へ心が駆り立てられているのだと。その自分の気持ちはリタを前にしても偽りはない。そう強く肯定するも、彼女自身に踏み切れない躊躇いがあり、


「まぁ、お前に元の体がないのは分かるけどさー」

「それくらい既に分かってます……私だけが」

「あたいだって、元の体がないかもしれないんだぞー?」


 ――バグロイヤーとの戦いが終わると共に、ハドロイドの面々は本来の体へ人格を移し、それぞれの人生を送る。ウィンだけは既にバグロイヤーの手で元の体が消され、ハドロイドとして不老不死……いや残り数年しかない余生を送る事となる。だからこそポーの仇を討つ事だけでなく、ハドロイドでしかない自分が生を謳歌するのもバグロイヤーとの戦いしかなかった。彼女としてバグロイヤーとの戦いが終わる時こそ、自分の生の終焉と捉えるからこそ不安を隠せずにいた。リタもそれを承知の上で答えると共に、


「ま、待ってください! リタさんがそう弱気でどうすると……」

「あたいは弱気なつもりないけどなー、まぁ誰にも当てはまるから、ウィンだけ絶望しなくてもなーって」


 ウィンの葛藤は、自分たちハドロイドの誰もが当てはまる事例である。リタがそのように例える訳も、戦乱の中でそれぞれ眠りに就かせた元の体が失われるリスクと隣り合わせだから。ある意味ウィンは自分の体の無事に対し、頭を悩ませる必要がない分迷う事は少ない――リタは一見不謹慎めいた事を触れているものの、


「あたいも今、凄い無理してるけどなー、これで元に戻れなかったら1年もないぞー」

「それはないと信じますが……リタさんは怖くないのですか!?」

「後悔しないようあたいは生きる! あたいが後悔した事あったかー?」

「それは……いえ、貴方が何も考えていないとかではないことは分かってますが」


 自分の命も風前の灯火かもしれない――それを口にしながらも、リタは何時ものように笑みを絶やさない。白い歯を堂々見せながら“今の自分に後悔の二文字はない“と堂々胸を張って答えれば、実際ウィンは彼女の言う通りであると首を縦に振らざるを得ず、


「ウィンが一生懸命だったの、あたいは知ってるからなー。本当妹みたいに必死に頑張っててさー」

「い、妹はやめてください……私は姉としてはともかく、妹としては……その」


 後悔しないように生きる――ウィンが自分と性格が異なれども、真面目に生きてきた彼女には十分そのような生き方を迎らえられるのと太鼓判を押す。ただ真面目に生が付く程故に、余裕がない自分がリタから妹のようと例えられる事に対して、顔を少し赤くしてたじろぐ。今までからして自他と共に姉のように見なされていた事もあってのことだが、


「もう少しだけ、肩の力を抜いてみなー。そう出来るように……おっ?」


 実際、頬を赤らめて首を垂れるウィンに対し、先輩として年長者としてリタが姉のように優しい助言を送るが――自分たちに向けて、厳つい剣幕を放ちながら迫る相手に関心がいく。その相手が来ると共にウィンの身が思わずこわばり、


「ア、アアア、アンドリューさん……これも私が、も、申し訳」

「おめぇ、何勝手にウィンを引っ張り出してらぁ!!」

「……はい?」


 アンドリューに対して淡い想いを持つ相手ではあるが、今はそれ以上にあきらかに自分が大勝負を前に情緒不安定なままである事を叱責されるとは覚悟していた。実際直ぐに体を縮こませながら、自分の不甲斐なさを直ぐに詫びようとしたのだが――彼が叱責した相手の矛先は少し違うようで、思わずキョトンとした表情になり


「おめぇなぁ……ウィンとシャルが最初に出る位分かってたろ?」

「あー、そういう段取りだったなー。わりぃわりぃ」


 既にミーティングが終わっており、その時点でウィンがいなかった為に才人とカプリアが先鋒として出る流れで纏まりがついていた。リタがウィンさえ引っ張り出さなければ、予定通り彼女が前線に出る筈であり、アンドリューは明らかにリタが悪いと彼は苦言を呈す。当の本人は全く堪えてない様子だが


「わ、私は大丈夫です! いつでも出られますから!!」

「あー、別にアンドリューの肩を持たなくてもいいぞー。カプリアと才人ならさー」

「そりゃまぁ……って、待て待て待て」


 やはりこの問題の原因が自分にあるのだと、ウィンが控えに向かおうとするもののリタは慌てて出る必要はないと彼女の肩を持つ。二人に任せればよいとの主張に対し、一応アンドリューが首を頷かせかけるものの、直ぐ首を振り、


「俺らが出ねぇからって、おめぇも緩みすぎだろ」

「あたいには、アンドリューが焦ってる気がするけどなー」

「あのなぁ……」


 アンドリューとして、自分たちが迂闊に前線へ出る事が許されない立場なのをもどかしいと捉えていたのだろう。彼として周囲が必要以上に気を緩ませないよう配慮はしていた事を、リタは彼も余裕を失いつつあるのだと対等の立場で指摘する。すると彼は頭を掻きながら言葉が途絶え、


「まぁ、戦いはまだ始まったばかりだし、もうそれで話も決まっちまってるからなー」

「なら問題ないなー。なるがままになれってなー」

「そう言われるってのもな……まぁ、おめぇはとりあえずシャルのとこ戻っとけ」

「はっ……いや、あのその……アンドリューさん!」


 自信ある姿勢の元、楽観的に構えているリタに少しペースを乱されつつも、全体で決まった流れを自分が阻害する訳にもいかず、長期的なスパンを考慮すると共にそれ以上の追及はしなかった。ただウィンへ持ち場に戻る様にとだけ伝えて、部屋へアンドリューが戻ろうとした所、


「おーい、ちょっとだけいいだろー? 話があるみたいだしなー」

「ったく何だ……まぁ、手短にたのまぁ」

「……」


 ――遂にウィンが動き出した。リタとして彼女なりに先を見据えようとする様子に少し胸を躍らせてアンドリューを引き留めた。待機は自由時間ではないと彼は一瞬面倒そうな顔をしかけるものの、彼女の言いたい事を察する。ウィンが少し気持ちの整理をつけようと首を横に振り、


「最後まで戦って、生きて帰ります……その後に聞いてください!」

「……ほぉ」


 ――今のウィンなりに、戦いへ赴く前に、気持ちの整理をつけた瞬間ではあった。堂々とぶち当たるまでが出来なくとも、彼女がアンドリューへ胸の内を伝えようと約束したのだとリタは静かに笑いながら、パートナーに軽く肘鉄砲を打てば、


「いいぜ。気が済むまでどれだけでも聞いてやらぁ。だからよぉ……!」

「あっ……」


 アンドリューはすんなりと首を縦に振って快諾すし、同時にリタの胸に向けて軽く拳を叩く。リタほどでないとはいえ、強い存在感を示す胸元が触れられた事に、思わず高ぶった声が漏れてしまうものの、


「いえ! 勿論です!!」

「なら行ってこい! そしてちゃんと帰ってこい!!」

「はい……!」


 アンドリューは自分の心へ呼びかけている。本心を抑えてまで生真面目な建前で虚勢を張っていないかと――ウィンが直ぐに迷いのない返事で答えると共に、自分の帰りを強く信じて待つとの言葉は彼女への激励に直結する。久しぶりに迷いを吹っ切ったような、また彼女にしては珍しく目を輝かせながら、足取りもどこか自然と弾んでいる様子であり、


「よかったじゃん……って言いたいけどなー、どうなんだー?」

「まぁ、聞くだけはちゃんと聞いてやらぁ……俺も簡単にはなぁ」


 活力を取り戻しつつあるウィンを見守りつつ、リタはパートナーとしてアンドリューの胸の内を確かめる。実際彼はウィンとの約束を守る事に偽りはない姿勢だが、その先の答えまで彼女に合わせられる程都合の良い男にはなれないと自嘲しつつ、


「まぁ、あたいにもそうだったからなー、このヘタレ♪」

「ったく、こういう時にいってくれるじゃねぇか……嫌になっちまうぜ」

「あたいに言う事じゃないと思うけどなー、まぁアンドリューが弱音吐いたら調子狂うぞー?」

「まぁ、おめぇの言う通りだわ……」


 過去を引きずって今までに至ってしまっている――アンドリューにしては珍しい弱音に対し、リタは女としての誇りを少し傷つけられたと突っ込みつつ、パートナーとして檄を入れる事も忘れない。彼自身も弱気であってはならないと自覚した上で、


「だからまぁ……あいつが納得するか、俺が納得させられるか。そのどっちかだ」

「ったくもー、あたいを心配させるなよなー」


 生きる事は戦いである――アンドリューとして、ウィンからの想いを真正面で受け止めてから答えを出す事まで、まるで彼女との真剣勝負と見なしている。けれどもその生き方を前にリタは前言撤回の姿勢をすんなりと示した。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『あの現れ方ですと、ハードウェーザーでして!?』

「だったら早く倒さないと! あれだよ!!」

「わ、分かっている! エレクトリック・ファイヤーだな!!」


 ――システィーヌに位置する大正門へとエネルギー反応を感知した事にエクスは顔色を変えた。ハードウェーザーではないかとの憶測に対し、シャルは早急にカタをつけるべきと、ヴィータストの下半身そのものをパージさせ、エレクトリック・ファイヤーとして発砲を試みた時であった、


「防がれた……だと!?」

「あぁもバリアーを出すなんて、それに……ねぇ!」

「あ、あぁ……4機がかりでもあそこまで」


 けれどもバグエスパーが四方に散らばったうえで、四角状のバリアーが生成されるとともにエレクトリック・ファイヤーを受け止めて見せた。彼らが生成したバリアーが4機分の力が重なっての事ではとウィンが推測していたものの、何故かそれだけで納得がいくものではなかった。そして目の前の大正門がまばゆい光に押しつぶされるよう瓦礫のように崩れだし、瑠璃色のフレームが生成され装甲が瞬時に覆われていった。


『ハ、ハードウェーザーなら電次元兵器ですよ! 生憎ダブルストと違いましてクロストには電次元ブリザードがありまして! えぇその点だけではダブルストより上だと一応は……』

『何か余計な事も言っているような気がしますけど、確かに先手を打つとしましては!』

『ですから電次元ブリザードですよー』


 三角形状の細身のフォルムに対し、バックパックには幾多ものクローアームが備えられ下半身のキャタピラが大正門の瓦礫を圧し潰している。このいびつな全身のバランスのハードウェーザーを前にして警戒もしていたのだろう。多少余計な事も口にしながらもルミカは電次元ブリザードの使用を進言し、アズマリアもすかさず使用へと踏み切る。


『おや、やっぱり電次元兵器の威力は違いますね! 生き延びる為でしたら懸命な判断と言いますか、無論私はこの展開も想定してまして……』

「でも破られてないのが気になりますー」

『それはもう、破られたら自分たちがまきこまれるしかないですよ、誰だって自分からくたばろうと考える訳が、まぁあの相手は余ほどのお馬鹿さんか、ノータリンか……って、えぇ!?』


 水色の閃光が一直線上に飛ぶとともに、バグエスパーはバリアーを一瞬で解いて散らばっていった。ハードウェーザー目掛けて撃ち込まれていくが――目の前で瑠璃色の装甲によってブリザードの閃光が弾かれる結果となった。そのような事態にルミカが思わず目を疑っていたが、


「シャル、避けろ!!」

「わわ……っと!!」


 そして拡散された電次元ブリザードは、ヴィータスト目掛けて飛び交う結果となった。 急上昇して回避行動をとるものの、威力がそがれようとも拡散したブリザードを避けきる事は困難に等しい。楯代わりに駆使したエレクトリック・ファイヤーのボトムパーツへは次々と着弾、凍結していくパーツを質量弾として、バグエスパー目掛けて投げつけて投棄する。


『あぁもう、シャルさんもウィンさんもこの前と同じ事をしてましたが、一体何様のつもりで……!』

『そういう問題じゃありません事! 電次元兵器がこうも簡単に弾かれましたら……』

『それにこっちに来ますよー』


 ルミカがシャルたちを詰る事は筋違いだと、流石にエクスでも窘めた。それ以上に電次元兵器が簡単に弾かれていった事態を脅威とみなしたのは言うまでもない。クロストでも優位に渡り合えるか否か、エクスが焦りを禁じ得なかった所、バグエスパーの群れはバルゴランサーを片手に迫り、螺旋状の鏃を撃ち込んでいく。彼らの攻撃をミサイルで撃ち落としていくものの、


『まさか、私たちを蒸し焼きにしようとー』

『ゼット・フィールドでしのぎまして!!』


 バグエスパーのバックパックを点として結ぶようにバリアーがクロストを取り囲んでいく。この熱でクロストを溶解させんとするのだと見なし、エクスはトライ・シーカーを飛ばしてゼット・フィールドをバリアーとして生成させるが、


『ですが、これですと私たちもー』

『そうそう、動けないままでしたら良くて時間稼ぎ、悪くて悪あがきですが……あっ!?』


 既にクロストが封じ込められているとなれば、その場しのぎに近い苦肉の策に近いともいえた。アズマリアがエクスの選択を指摘し、ルミカも追随しようと口を開くが――自分たちをバリアーで取り囲むバグエスパーもまた、いわゆる電子レンジに閉じ込められた状態になっていたのだろう。ただ機体が赤熱化していくとともに、消耗していく様子を目のあたりにした。所謂自爆同然の戦法を取っているのではとルミカが気づき、


『マ、ママ……!?』

『でもどうして、何でママが……あっ』

『やはりこうも道連れにされますとは……一体!!』


 バグエスパーを駆るミュータントの面々として、ママと崇拝する人物が前線へ繰り出したことに歓喜だけでなく、むしろ脅威も感じとってもいた。実際このような戦法に出ている背景も、ママから半ば使い捨て同然に扱われていた表れだろう。瑠璃色のハードウェーザーの頭部が輝きを増していくと共に、バグエスパーが道連れ同然に放つバリアーの強度は上昇していき、エクスは彼女の攻めに少し戦慄もしており、


『セインちゃん、丁度新しいお人形さんが欲しくてね~欲しい物は力ずくで手を入れたいんだから~ねぇ?』


 ママと呼ばれる超常軍団を束ねる人物こそセインクロス――それまで自ら前線で手を汚す行為をしていなかったものの、彼女がサイコミストで前線に出る事も“新しいお人形“に目を付けた為である。実際サイコミストを制御すると思われるハドロイドの面々は5人の年端もいかない子供たちであり、セインの呼びかけにも彼らは首を縦に振るだけで精神を統一させており、それどころか細身の一人は微かにふらつきつつもある。


『セインちゃんの物はセインちゃんの物、お人形さんの物もセインちゃんの物~』

『誰が貴方の者になりまして! このまま黙っていられません事!』

『その通りです! 私もこうも大人しく何もせずにはいられないですからね、ですから今から攻撃に入ろうと思います!』

『その心意気ですこと! この状況で使えるものですと……』


 バリアーに閉じ込められ、ゼット・フィールドでかろうじて凌ぐクロストだったものの、エクスがやはり黙っていられなかった。ルミカもまた同じ姿勢のようで、次の一手を模索している様子にエクスが感心しており、


『でしたらー、アビスモルが最適ですよー』

『流石アズマリア、これでヴィータストを斃しましたら、セイン様も大喜びの筈です。超常軍団の一員としてこれくらいの事は朝飯前でして……』

『待ちなさい! どうしてヴィータストを堕とすのでして! 貴方がたは』

『だってー、電装マシン戦隊は倒す敵ですから―』

『……この展開、確かリンさんが言ってましたような!』


 アズマリアが早速反撃の一手を提案するが――事もあろうと彼女たちはヴィータストを撃墜するつもりであった。流石にエクスが飛び出して二人を取り押さえようとした所、二人の目もどこかうつろな様子である。超常軍団を相手にした前例を思い出そうとしていた所


『ヴィータスト、討ち取りますよー、いいですね……!!』

『何故そんな展開になるパチ!』


 すかさずルミカがコマンドを入力しようとした瞬間であった――彼女の背後から電撃が飛び交い、その場で崩れ落ちるように倒れ込む。間一髪コンパチがルミカの元から姿を現し、


『いきなり物騒な事になっているとはな……』

『玲也様……って、貴方には悪いですけど!!』


 コンパチに続いて玲也が転移した様子へ、エクスの顔はやはり明るくなり、その場で操られていたかのようなアズマリアに当て身を食らわせて気絶させた。彼女として玲也がクロストを動かすからと判断した様子だが、


『どうやら、キエフの時と同じ奴パチね』

『キエフとなれば……才人とイチの時に』

『そうパチ、この中にいると頭がおかしくなるパチ』

『それで、アズマリアさんとルミカさんまで……となりますと?』


 サイコミストの展開したバリアーからは、ゲルウェーブと称される特殊な超音波が発振し続けていた。それが中のプレイヤーにまで影響を及ぼす代物であり――アズマリアとルミカは気絶させるまで操られていた事にエクスは納得しつつも、とある疑問が一つ突き当たった様子であり、


「でしたら、玲也様は何故何時ものままでして?まさかと思いますが……」

「オレとバイザーで相殺してるパチ、バッテリーが持つ限り安全パチよ」

「まさか、ここでバイザーが役立つとはな……」


 玲也が正気を保てている点も、ワイズナー現象の力を無意識に応用させていた為である。彼が装着したバイザーが、ゲルウェーブに強い耐性を持つエネルギー波を彼の周囲に生成しており、コンパチもまた微細な超音波を発信し続けて、ウェーブの威力を削いでいた。思わぬ力に自分が救われた事で少し目を丸くしていたが、


『ですが玲也様、今それどころではありませんことよ!』

『無論、それも分かっている……!!』


 とセインは、サイコミストのエネルギーはミュータントの力、いや生命そのものを搾取しつつあった。スカルプ攻略を前に七大将軍最後の一角として、狂気に等しい力を露わにしてが立ちはだかった――この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である。“

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