41-2 誇りある鋼鉄(はがね)の獅子! ゴルドスト最後の猛進!!

『……生きている間に、決闘の決着がつけられるがとは。敵であろうとも感謝する』

「わざわざ俺の為に、サシでやりてぇようだがな……」


 イーテストが電送された地は孤島ボルトス――決闘に応じるとのアンドリューからの答えを受け取ると共に、彼らは決闘の場としてこの場所を指定した。その地はコンシュマー地方に位置しながら、独立した小国のように孤立した辺境の小島。戦略的な価値もないと見なされているような辺境の地を戦場に選んだ背景はアンドリューが察した通りとはいえ、


「けどアンドリュー、あたいらが感謝される理由はなんだー?」

「だよなぁ! あぁいう脅しで、何人もやって今更よぉ!!」


 自分と1対1での決闘を望むハインツだろうとも、所詮敵である事に変わりはない。サード・シーカーに設けられたグレーテスト・キャノンを早々に放って口火を切る。一方的に決闘の体裁を土足で踏みにじるような行為だが、


『よくも! よくもハインツ様の温情を……!!』

『構うな。彼の言う通りに一方的、それで今までの汚れが消える訳がない』


 決闘の計らいを拒むよう、一方的に攻撃を仕掛けるイーテストへとアオイは少なからずの苛立ちもあった。だがそのような彼女の憤りを窘めながら、ハインツは冷徹な姿勢を崩さない。決闘の場へイーテストが乗り込んでいる様子からまずは詰る理由もない、同時にこの戦いが自己満足めいたものであると悟ってもいた様子であり、


『だが、どうあろうともせめてお前だけは仕留める。道連れになろうともだ……!』


 ゴルドストは両手でグレーテスト・キャノンをはじく。サンダーボルトと称された両手のエネルギー発生装置を駆使する事で、ロングレンジのエネルギー兵器だろうともゴルドストは微々たる被害へと抑え込む。


「どうやらショートレンジだろなー。あいつが好きな手だしよー」

「あいつの土俵かよ……生憎こいつだとわかんねぇな」

「おいおい、わかんねぇとか弱気だなー」



 ――早い話、アンドリューとリタの言う通りである。コンバージョンもしていないイーテストは、インフィニティとして手を加えていたものの、第一世代として底上げであるとともに、リタの負担を軽減する必要を考慮された。ショートレンジと得意とするならばイーテストより、サンダーボルトを駆使するゴルドストの方に破壊力で分があったのは言うまでもない。


「バーロー、出ちまったらやるかやられっかだ。くたばるかよ!」

「そうだな……本気でやっちまえよなー!」


 けれども、ハインツからの決闘の申し出にアンドリューは受けて立った。ドラグーンを護る最善の術との事情があれども、決闘の場に乗り込んだことは自己責任なのだから。ゴッドホーク・ウェートを両手で握りしめて切り込んでいく様子に、どこかアンドリューもスイッチが入った様子であだが――サンダーボルトは戦斧をたやすく打ち砕き、


「おい! 本気でやるなら。なりふり構ってあれるかよ!!!」

『手段がどうとあれならば、私が決闘を望もうとも変わらない筈だ』

「あー、そうかい! なら俺も好きにやらせてもらわぁ!!」


 ゴッドホークの刃がおへし折れようとも、バズーカ砲としての機能は残されていた。逆手に持ったゴッドホークの柄から砲弾がさく裂し、間合いを詰めていくが―――腰のハードポイントに連結されたグレーテスト・マグナムの砲身が90度真上にせり上がっていた。前方の自分に照準を定めていた事をハインツは気づいた様子だが、


『バーロー! 裏の裏くらい読めねぇのかよ!!』


 アンドリューは二重にフェイントをかけてゴルドストの隙を誘った。彼が真っ先に除くべき脅威はサンダーボルトだと両腕を封じる必要があると見出していた。エネルギーフィールドが掌に展開した隙をついて、イーテストがかがみこむように左ひざからグレーテスト・インパルスを掌目掛けて撃ち込んでいく。鋭利な鏃を前にゴルドストの右手は耐え切っていたが、


『マグナムさえ出し惜しみを……何!?』

「生憎、こういう手もあるんだよ! 俺にはなぁ!!」


 ――グレーテスト・インパルスも一種の囮でもあった。右手が貫かまいと耐えようとも機体の全重量をかけて、半ば強引に全重量で右手を浮かせた後、すかさず鏃を打ち出していく。そして入れ違うように左手を間に割り込ませてソルブレザーが手首を掠め、そして首のように刎ね飛ばし、


「わりぃなー、もうこれだけでもきついみたいらからなぁー」

「これで一気に楽させてやらぁ、待ってろ……」


 ゴルドストの右手を潰す事には成功した。この流れから、マグナムの射程圏内へ持ち込む事で引導を渡す事をアンドリューは目論んでいた。これもリタの容態が既に危うかった為、自分の後ろで彼女は、既に寝そべるような姿勢で制御していた様子から、早期に決着をつけなければならないと踏まえての事だが、


『終わらんよ! まだ終わらん!!』


 だがハインツとして右腕を一つ潰されようとも、左手に設けられたナックルガード状のデストロイ・ブレイカーを振るう。半ば苦し紛れの手だったものの、間合いを詰めようとするイーテストの足取りが止まり、


『サンダーボルト・プラズマティックドライブ!!』


 すぐさま左手でサンダーボルトを撃ち込んでいった。咄嗟の事態に敢えて背を振り向くようにして、サード・シーカーを質量弾として打ち出す事で、楯代わりにシーカーが、サンダーボルトの連撃を受け止める。それでもシーカーの爆発に煽られるように、バランスを崩してしまうものの、


「腹を狙えー、あたいの調べが間違いないならいける筈だー」

「わりぃな……頼むから届いてくれよ!」


 その最中、リタが調べた腹部目掛けてイーテストは反撃する。あらかじめもう一丁のゴッドホーク・ウェートを手にしており、右方へと腕を揮うと共に突き出た半月状の刃を脇腹へと抉らせる。泣き所を衝かれたようにゴルドストもまた、わき腹を左手で抑え込んでいる


『ここまでくれば、もはやどちらかが生きるか死ぬか、或いは……!!』

「……そうカッコつける余裕がまだあるのかよ!!」


 ゴルドストの腹へは、セーフシャッターが展開されていたが――イーテストもまたプラズマティックドライブの放電を咄嗟に浴びせて、イーテストを怯ませる。その直後に、胸部のセーフシャッターが働いた為、双方とも電次元ジャンプでの撤退は封じられたものである。このボルトスの地でどちらかが倒れない限りは助かる道はほぼ閉ざされていた


『なんて強引な……!』

『決闘を望まぬと言って。猪突猛進の策をとるか……!』


やるかやられるかの状況で、イーテストはゴッドホーク手にして前進を続ける――アオイが彼の無軌道な攻めに驚きの声を微かに漏らしながら、左肩からの飛翔体を投げつけるものの、ゴッドホークによって弾き飛ばされた様子で、


「おっと、俺は今勢いづいてるからよ……!」

『おのれ、ここで捥がれては!!』


そしてゴッドホークが振り下ろされた。咄嗟の事態にデストロイ・ブレイカーの刃で受け止めんとするものの、実体ある刃においてはゴッドホークの質量に抗いきれずにへし折られるのも時間の問題といえた。


「いいぞー、そのままだー、コクピットだ―」

「だったら、あの腕を潰してやらぁ!」

「インパルスを出せば……あがっ!!」


ゴルドを沈黙させるべくコクピットを潰しにかかろうとするものの、右手のサンダーボルトが展開したならば、ゴッドホークの刃もバターのように溶かされてしまう事が目に見えている。よってゴルドに残された切り札を潰さんと脚部からインパルスを射出して潰そうとすれば――背中へと鋭利な光の刃が同時に突き刺さった。


「あ、あぁ……!」

『……チャクラムが空振りと思っていたのですか!?』

『アオイ、済まない……!!』


 先程イーテストへめがけて投げつけるも、空振りに終わった飛翔体こそチャクラム・シーカー。アオイの手によって遠隔操作される点を利用し、敢えて投擲してゴッドホークに弾き飛ばされたかのような軌道を描くことで、アンドリューの油断を誘った。そして今、チャクラムが背中へと突き刺さると共にイーテストの背中から爆発が引き起こされ、


「リタ……!」

「……振り向くな! 大丈夫も何もないだろ!!」


 爆発が巻き起こった後にセーフシャッターが背面にも展開された。しかしそれでも爆発によって生じた破片はリタの背中へ、ハドロイドスーツ越しに赤い血は延々と流れ続けていた。彼女の悲鳴と容態を目のあたりにした途端、アンドリューでも思わずパートナーを案じて声を挙げるものの、リタは自分に構っている場合ではないと、パートナーに対し強い檄を飛ばした。


「あたいが知ってるアンドリューは、戦うことが生きがい! そういうアンドリューだからあたいも好きなんだよ!」

「……おいおい、この時にこう告られても困るけどよ」

「どうなんだよ、あたいがこんなに……アンドリュー信じてるのにさ!!」

「あぁ、俺もおめぇを信じてらぁ……!!」


 深手を負った中でリタは覚悟を決めたかのように、アンドリューへの想いを打ち明ける。窮地に追い詰められる中で彼が一瞬惚けたような表情になるものの、後ろにいるリタの元からオレンジ色の光が放たれていく様子に気づくと共に、苦笑しながらも彼の両眼には飽くなき闘志が燃え盛り、


『……大分力を使い果たしたが、ここまで追い込めたなら勝算はまだある』


 ゴルドストもまた、サンダーボルトを展開し続けた事により、エネルギーは消耗しつつあった。地に伏せるように倒れ込んだイーテストは、ゴッドホークの片割れを手放してしまい、逆にゴルドストの手によってその戦斧が握られる。ひれ伏す相手へ追い討ちをと一歩一歩迫りつつあり、


『鋼鉄将軍として、レーブンの父親として私は責務を果たせなかった』

「こんな時に何か、身の上の不幸自慢か?」

『それだけではない。バグロイヤー皇帝陛下の忠義も果たせなかった。これもすべて天羽院に利用されていただけだ』

「……ほぉ、てめぇは被害者面してる気がするがな!」


 勝利を確信した故の余裕か否か、ハインツは独白する――父親としての愛も、将軍としての忠義もハインツはただ天羽院に翻弄されて成し遂げられなかったのだと。逆に窮地に追いやられようともアンドリューは減らず口を叩き、今更泣き言を聞く耳持たないとのスタンスで健在だと示しており、


『ハインツ様は天羽院に利用された! だが既に後戻りが出来る状況ではない!!』

『せめて、武人の誉れとして私はお前を倒す!たとえ道連れにしてもだ!!』

「おいおい、電次元の将軍さんよー! 電次元はおかまいなしか、なぁ……!?」

電次元の命運がどうなろうとも!!』


 この状況下バグロイヤーの敗色が濃厚だろうとも、自分たちが降伏して帳消しにされる事ではない。そうアオイが主張するとともにせめてハインツは最期に武人としての誇りをかけて勝負を挑んでいたともいえる。リタからすればこの世界の命運と向き合う事から逃げたと言いたげで、


「てめぇの自棄に俺が倒されるかよ! 直ぐにひっくり返してやらぁ!!」

『どちらが捨て鉢かは直ぐに分かる……!!』


 最高峰のプレイヤーとなるアンドリューに対し、度重なる因縁があるイーテストとの決闘で白星を飾らんと――地に伏せてしまう程イーテストが追い詰められようとも、アンドリューは自分が負けていないと減らず口を叩き続けた。今ゴッドホークがイーテスト目掛けて振り下ろされた。

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