40-4 次元を飛べ! パーフェクト・ドラグーン!!

「どうやら待たせたようだな」

「何が待たせただ、何が。カプリアはもうすでにスタンバってるのによ」

「マーベル隊長は、メルの手伝いで忙しかったのです! 専門外だろうとも、仮に役立っていないだろうともメルに付き添っていたマーベル隊長によくもまぁ……」

「はいはい、これ以上ルミカが話すと余計ややこしくなるからやめましょうねー」


 アラートルームにて、マーベルが足を踏み入れる――何時もながらの彼女の自信と共に、重役出勤のように登場したわけだが、アンドリューは彼女の到着が遅い事をすかさず指摘したこれにルミカが彼女を真っ先に擁護するが、その擁護は下手すれば目の前の情感への誹謗に繋がりかねないものであった。その為かアズマリアが同僚の背後に回ってサブミッションを決める。これにより彼女が糸が切れた人形のようにぐったりしており、


「そういえばメルさんがまだいないですね、コンパチさんの事でまだ……」

「後はあのバイザーと同期する必要があるそうでな……どうやら、もう少しかかる」


 イチが気づいた通り、コンパチの改良に従事しているメルの姿はまだ見えない。人並外れた自信家だろうとも、マーベルは寧ろこの場合は最後の方で行き詰っているのだと少し表情が陰っていた。


「確かワイズナー現象は、彼女の専門外だが……」

「あいつを見くびるなら、アンドリューでなくとも、カプリアだろうとも殴り飛ばしてやろうと思ったが」

「俺ならいいのかよ、俺なら」

「ニアのママンが回ってくれたらいいけど……電次元エンジンの方も重要だからね」


 カプリアが触れる通り、ワイズナー現象のような一種の超常現象を制御する事は、機械技術系を専門とするメルとしては不慣れではないかと尋ねかけるも、マーベルとして認めたくないものの、苦手分野故に悪戦苦闘している様子に首を縦に振る。

そして、シャルが触れる通りマリアの手を直ぐ借りることが出来なか彼女には電次元エンジンの最終調整として、ジーロ達のフォローに立ち会っている。今の状況からして、ドラグーンの電次元ジャンプを成し遂げる事こそ、優先順位が高い事もあるが、


「いずれにせよ、マーベルさんはまだ直ぐの出番ではありません、それまでにメルさんが……いや、間に合うと信じてますけどね。それより」

「それより本題に入ろうぜ。時間もそこまでないからよ」

「そうですね念のためオペレーションXXXの確認ですが……Xだからではありませんが部隊を四方に分けます」


 ただ、メルが今手が離せない事について今後の戦いにおいて、必要不可欠に近い。それもあり玲也として、メルが無事成し遂げる事を信頼して声をかけると共に、アンドリューからは作戦の最終確認を促される。玲也が立案に携わった作戦をもう一度説明するとともに、


「ダブルストはダブルゴーストを駆使して」

「私のディエストはあの子たちを率いて」

「あの子……パッション隊の皆さんですね」

「正直大丈夫なのでして? 」


 まずマーベルとカプリアにはそれぞれの方面で部隊を率いる役回りとなる。これも二人の腕と経験を買ってのことだが、カプリアがパッション隊の面々を率いる事に対して、エクスは若干不安も抱えている。どちらかといえばパッション隊の実力が疑われている様子だが、


「カプリアさんなら大丈夫です。今の戦力をフル稼働させるのでしたらパッション隊も必要です」

「そこまで私の腕を買ってくれるなら答えないとな。あの子たちも一から鍛えなおしたからな」

「……マカセテ」


 玲也として、カプリアがリーダーとして皆を纏めていく腕に長けており、実際オール・フォートレスでパッション隊の面々を鍛えていた事を考慮しての事であった。彼としては珍しく腕を組みながら自信に満ちた顔つきで任せてよいと豪語しており、パートナーのパルルも鼻息を少し荒くしながらガッツポーズを作り、自分の自信を見せつけている。


「まぁ、カプリアの方が指揮したほうがな……妥当な判断だと思うぜ」

「……私たちは私たちでやった方が動きやすいからな。お留守番のお前よりはマシだろう」

「ったく、俺は好きで留守番してねぇのにそれはねぇだろ」


 さりげなくアンドリューが先ほどの意趣返しのように、マーベルではろくに纏まらないと冷かせば、マーベルから自分が容易に前線へ出れない現状を突っ込まれる。彼自身としては前線へ躊躇うことなく出たいが為に少し拗ねていた所、


「そしてクロストとヴィータスト、スフィンストでまた別の方向から……シャル。才人とでだ」

「玲也ちゃん……じゃないんだよな」

「俺はネクストで囮を務めるからな。マルチブル・コントロールで動かすとしたらクロストの方が無難な気もしてな」


 そしてシャルと才人と共に玲也が直接同行する予定ではなかった。会得したマルチブル・コントロールを活かすにあたって、ネクストよりクロストが妥当と判断をくだした。電子戦に強く高速で地上を駆け抜けるネクストだが、万が一被弾すると命取りになりかねなく、慎重な操縦を求められるためではある。


「私を動かすのはアズマリアさんとルミカさんですか……」

「やっぱり、玲也さんではないと不満なのですねー」

「……すみません。俺の代わりもコンパチが復帰したら任せますし、俺が戻る事も十分あり得ます」

「確かに私でもうまく動かせるとは言えないですからねー」


 エクスとして、玲也の手でクロストが動かされない事に対して不満はわずかながらある。それ故にアズマリアが何時もの物腰ながら、少し不機嫌そうな返答をとっているのを玲也がなだめる。一応彼女としてもハードルが高い事は自覚していたようで、それ以上の反論はせず、


「クロストの優先順位低いからしょうがないじゃん、玲也が直接動かす必要ないんだしさ!」

「あら、貴方こそ留守番じゃありません事!?」

「あたしは、そう簡単に出たらまずいんだし仕方ないわよ! あたしだって出たいのにさ」


 ニアが突っ込む通り、クロストの用途として後方からの砲撃支援なり、ゼット・フィールドを展開しての壁なりとの役割がある。またコンバージョンでヴィータスト、スフィンストの2機を底上げできる点から猶更玲也自身がクロストを動かす優先順位が低いものとなる話であった。一方のエクスとして、ブレストが特に何も役割が課されていない事を指摘すれば、


「ブレストは長期戦に向かない。必要な状況に応じて一気に逆転する為の隠し玉だ」

「そうそう、あたしは真打みたいなポジションだからね。かといって出番がないのは嫌だけど」

「まぁ、俺もそうなると真打だろうなぁ、戦えるなら戦うけど留守番だからさ」


 燃費が悪いものの爆発力に富むブレストを玲也は切り札として温存するスタンスである。アンドリューとしても似たような立ち位置と触れつつ、自分が呼ばれる可能性があるかどうか分からないと自嘲を交えており、


「そして、電次元で万が一の時もありますから、カプリアさんと才人、シャルは早くスタンバイを」


 これをもって、打ち合わせたとおりの作戦を確認する事は終わった。だが実際バグロイヤーがどのように動くか――万が一先手を打たれた場合を想定し咄嗟に動く遊撃隊の立ち位置として、ディエスト、ヴィータスト、スフィンストの3機を抜擢した。長期戦に耐えうる小回りが利く面々を揃えた所であり、


「状況によっては、僕たちがすぐに……緊張しますね」

「油断をしてはいけないが。私がいる限り大丈夫だぞ」

「カプリアにしては珍しく強気の姿勢みたいだな。やはり一番槍だからか?」

「いけないか? 一度位陽の目が当たっても罰があたらないだろう」


 一番手として出撃する可能性がある事に対し、僅かながらイチは身震いしたと共にカプリアが彼をリラックスさせるよう、肩を軽く叩く。彼と同じ一番手を任される可能性が高い彼へと、マーベルが舞い上がっているのではと少し意地悪そうに触れると、彼は特に否定する様子はなく笑いだしており、


「ところでシャル……その、なんだ」

「ウィンさんの事だよね?」

「あぁ。少し前までいたような気がするが」

「それは、あのね、そのね……」


 先ほどからミーティングに口を挟む事がないシャルだったが、これもウィンがその場にいない為であった。玲也が彼女の行方を問うと少し歯切れが悪い様子だったが


「あいつ……!!」

「アンドリュー! 急に飛び出してどうしたの!?」

「余計な事しやがって! 今どういう状況下分かってるのか!!」


 二人がそそくさと話す様子と、明らかにこの場にいない二人に気づかされると直ぐにアンドリューは立ち上がり駆け込んでいく。彼の口ぶりから、既に玲也とシャルが懸念している事柄を察知したようでもあり、


「才人、万が一の時はお前とカプリアさんで出てくれ。シャルは俺と囮に回るかもしれない」

「え……って、わかったよ玲也ちゃん!」

「才人さんならできますよ、コンパチさんがいなくても問題ないですから!」


 シャルの電装が遅れる可能性もある。その上で玲也は咄嗟に作戦を変える事を才人へと伝える。これもシャルが不在の場合、才人にかかる負担が大きくなると懸念した為であり、実際少し彼の口ぶりに怯えも感じ取れていた。

 けれどもイチから信じている上での激励の言葉が送られば、彼は自分だけでもやっていける筈だと強く自分を肯定する。コンパチが修理されるまで彼の助けを借りることなくプレイヤーとして、残り1週間での追い込みで鍛えていった自分の腕をここでこそ信じなければと捉えた為であった。


(ウィンさん、やはり貴方は……)


 玲也として、ウィンが肝心な時に不在の状況を苦々しく、苦虫を噛みつぶしたような表情も作る。けれども彼女がこの場に及んで戦いを放棄した理由も薄々察しており――自分たちで彼女の葛藤を理解した上で、戦闘の放棄を嗜めることが出来ないとも同時に見なしていた。怒るにも怒れなかったのだと。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「パーフェクト・ドラグーンへのドッキング、98.3%チェック完了!」

「ぶっつけ本番でしたが、思っていたよりうまくやれましたね……」

「へへ、私って本番に強いタイプだからね」

「ここからが本番よ? 油断とか論外だからね」



 ドラグーンのブリッジにて――本来二人が着座するオペレーター席は補助席が新たに設けられ、紫色のメイド服の症状――ミカが着座し、ドッキングの管制を司る。彼女が年下にも関わらずドラグーンの正規オペレーターとなるクリス、エルのコンビを命令しており、


「しかしまぁ、よくここまでどうにかなったもんじゃのぉ」

「全くです。ゼルガ様とユカ様がこの時を想定して改造プランを早く送ってた事もありますが」


 そして艦長席の隣に手、ブレーンと逆隣からエスニックの脇を固めるようにメガージの姿があった。彼の口ぶりからオール・フォートレスはドラグーンとのドッキングを想定しての改修が行われていた。


「実際に電装艦を目にしてたか分からんが、こうもドッキングに成功するとはのぉ……」

「マリア君はこれがなければ、フォートレスの電次元ジャンプは成し遂げられないと最初から……」


 ドラグーンを電次元ジャンプさせるにあたって、専用のエンジンとして強化改造するだけでなく、電次元ジャンプにその巨艦が対応しきれるだけの出力が求められていた。その為にゼルガとユカは、現地でマリアと改修プランを策定しており、コンセプトとしてオールそのものを巨大なエンジンとして出力を補う事を想定した上で改修が進められた。


「……それでも、オールとドラグーンを合体させるなんてよ。後付けとかだよな?」

「パッション隊の腕も捨てたもんじゃないでしょ~? 現場はストローネちゃんとシンヤさんの腕が大きいけど」


 テッドが触れる通り、そこまで時間がなかったにもかかわらず、ドラグーンと同級の電装艦を増設ブースターとして改修が完了していた事に、テッドが少し驚きの声を漏らす。メローナとして自分たちが救出したシンヤが療養の傍らに改修プランを指揮しており、ストローネとプーアルが実作業をこなし続けたようであり、


「桑畑君もようここまでの大改造をやったもんじゃのぉ……」

『あとはこの電次元エンジンが最高出力まで引き出せるかよ……』

『マリアさんの言う通りでやす、あっしの計算によりますと1回でエンジンがいかれるかもしれないんでやす』

「やはり、1回ですかね……」


 そしてエンジンルームには缶詰の状態でマリアとジーロ、ストローネら現時点での技術陣が集結した上で制御を担当し続けた。電装艦そのものが次元を超え、まるで自力でワープするかのような航法へ挑む未曽有の事態は1度きり。片道切符同然の航行にブルートが少し尋ねるものの、


『限られた時間で電次元エンジンを搭載する事もだし、搭載できるサイズでは無理させないといけないのよ』

『出来る事ならドラグーンそのものにエンジンを増設する必要があったでやすが』

『そのエンジンの出力を補うのに、オールをエンジンにする必要がありました。このエンジンが使い物にならない後も、どうにか飛び続けないと……』


 マリア達が総動員しても、電次元エンジンを完成させて、装艦による電次元ジャンプを実現させるには一度きりとの限界がある。3人が三方にてエンジンルーム越しに制御へ当たり続けている状況であり、


『今SIGウエーブを送信したわ。これで電次元との接触確認が出来た時がねらい目よ』

「SIGウェーブ……何なじゃん? それは?」

『ロメロさんに分かるよう話やすと、電次元からあっしらに居場所を伝える信号でやす。当てもなくワープして万が一って事もあるんでやすからね』


 マリアは電次元エンジンを微弱ながら起動させて出力の微調整を続ける。これも電次元越しに察知されると思われるSIGウェーブを送信する為であり、電次元から出力されるSIGウェーブをシンクロさせる事――それが電次元ジャンプを成し遂げるために必要な事であり、


「秀斗君が待ってくれているんじゃな……」

「その通りですよ博士。秀斗君の為にも、いや電次元のみんなの為にも成し遂げるぞ、ブルート君!」

「はい!!」


 このSIGウェーブが相互受信された時こそ、ドラグーンが電次元ジャンプを成し遂げるであろう――エスニックは操舵を司るブルートへ電次元ジャンプの成功を強く促すと共に、ブリッジの面々が直ぐにショックを想定しての体勢を取る。

 そしてエスニック達が陣取るブリッジのサブモニターには、エンジンルームの様子が映され続けていた。ストローネが補助エンジンと化したオールの調整にあたり、ジーロが電次元エンジンを直接制御する傍ら、



『今よ……!!』

『補助エンジン臨界に突入します! 電次元エンジンも早く!!』

『一気に最大限まで引き出すで……なっ!!』



 そしてSIGウェーブが相互接触したと知り、直ぐにマリアが二人へエンジンの制御を命じた。ナナが双方の摘みを時計回りに直ぐ出力する様子に合わせて、ジーロがレバーを真上へと引っ張り上げ、電次元エンジンの出力を上げていく最中――目の前のエンジンそのものから熱を帯びるだけでなく火花を上げ始めたのだ。マリアの顔の色が思わず変わり、


「……電次元ジャンプ後に直ぐ、セーフシャッターを下ろしなさい!」

「勿論でやす! ストローネさんは早く逃げるでやす!!」


 マリアの口ぶりへ微かに焦りも生じた――電次元エンジンの出力を急にあげたからか、エンジンへが負担に耐え切れなかったのだろう。それでも電次元ジャンプを成し遂げなければ意味がないと捉え、ドラグーンのエンジンが破壊されようとも、電次元ジャンプを最優先して、エンジンルームからの避難命令を発令し、


「ま、マリア君……みんな、ショック体勢を取れ!!」


 エンジンルームでのアクシデントを直ぐエスニックは捉えて、マリア達へ事情を聞こうとするも――彼女たちによって既に電次元ジャンプが発動され、艦そのものへまるで無重力に近い空間だろうとも、強烈なGがクルーへと畳みかけるように襲い来る。クルーが座席にてショックに耐えうると共にまるで艦内部から爆発が巻き起こったかのように艦は激しく揺れ動いた。

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