39.5-4 勝負の行方! サドンデスイッチ対スイングスロー!!

「ウィン……ってなんだ、アンドリューかぁ」

「おいおいなんだはねぇだろ。自主練してるみたいだしよ」

「別に来てもいいけど……ウィンどこ行ったか知らない?」

「まぁー、一人でそっとさせてやれって……いい勝負じゃねぇか」


 玲也と才人の対決を観戦するシャルの隣にて、アンドリューが腰を下ろした。彼女としてパートナーとなるウィンの行方を気にしている様子だが、彼は少し答えをはぐらかした後に、二人の勝負へ話の焦点を持っていき、


「先にシーカーを潰したら、ロングレンジで打つ手も限られる。そこはスフィンストに分があるかな」

「そういえばそうですね……今のスフィンストは三方から」

「そういうこった。ちょこまか逃げ回ってるけどかごの中って訳だ」


 これまでの勝負の流れを把握した上で、アンドリューはこの戦況はスフィンストにも分があると評する。玲也として最低限の燃費かつ高速で逃れ続けるネクストの逃げ切りを想定していたものの、分離したスフィンストは頭部と上半身で進路を遮ったのちに、キャタピラーのレールガンを直撃させれば勝機はあると見出す。戦いなれたベテランの戦術眼に気づかされるように、ニアは感心していた所、


「もしかしてあいつ、案外いい所ついてたんじゃ」

「ニアさん! 貴方まで弱気になってどうしまして!?」

「ほぉ……おめぇ、相変わらず玲也の肩持つじゃねぇか」

「当たり前でして! そもそも才人さんは成り行きでプレイヤーになったものですから」

「そりゃそうだけどよ……一体いつの話だ?」


 アンドリューの言葉に耳を傾けつつあったニアを他所に、エクスは玲也が勝つことは決まっていると強気で断言する。最初はいつもながらの玲也シンパである彼女ならよくある事と見ていたものの――才人が玲也のおまけと見ている彼女に対し少しドスを聞かせながら顔を向け、


「それは、その……夏休みに差し掛かるかどうかの」

「もう半年も前だ、俺がいねぇ間才人も戦ってたとなりゃあな」

「まぁ、エクスが言ってるのは大昔の話ってことだよ! 行き遅れ!!」

「そ、そこで行き遅れは関係ありません事!?」

「まぁ、過去にとらわれて今を見れねぇと戦えねぇ……人の事は言えねぇけどよ」


 才人が半年もの間何度も実戦に出て場数を積んでいった――その経験が今玲也を相手に一進一退と渡り合う迄に至っているのだとアンドリューは断じる。既に過去の才人ではないと触れた時どこか自分ごとのように微かに憂いた顔つきにもなっていたが、


「ですが才人さんは玲也様に一度も勝った事は!」

「バーロー、おめぇらゼルガの事を忘れちまったのか?」


 過去の話とはいえ、つい最近までのシミュレーターでの戦歴を持ち出して、才人が玲也に勝つことは皆無だとエクスが主張した途端。少し呆れ顔でアンドリューは玲也がゼルガに真剣勝負を挑んだ過去を触れる。その時の彼が才人と同じようにゼルガへ一勝もした試しがなく、


「あいつどころか、俺にもあの時はなぁ……それで勝ったとなればよぉ」

「へぇ、それゼルガの方がアンドリューより強いって」

「んな訳ねぇだろ、あくまで例えだ、たとえ!」


 実際アンドリューを相手に20戦を重ねても玲也は一勝を得る事は出来なかった。それにもかかわらずゼルガへ勝利した事実へ話を踏み込もうとした途端、シャルに茶々を入れられる。少しムキになったような口ぶりでゼルガに自分が劣る訳がないと否定した直後、


「確かにそういう過去も大事だけどな、それで一戦一戦は決まらねぇ……」

「相手がいつどこで隙を見せるか、あたし達がどこで付け込めるか……そうですよね」

「バグロイヤーとの戦いにルールもレフェリーもねぇ……シミュレーターだからって、慣れあいでやっちゃあ意味ねぇんだよ」


 アンドリューとして、ハードウェーザー同士が競い合うシミュレーターが決して競技やホビーのようなルールに従って戦うものではないと触れる。ただ勝つか負けるか。実戦で勝つためにプレイヤーとハードウェーザーが必死に手を尽くしている。友人同士の馴れ合いなり、無為無策で力任せで押し切るなりで勝つ事も異議もないに等しいのだと触れて、


「才人っちその調子だよ! 玲也ちゃんだろうと倒しちゃって!!」

「シャルさん! 貴方は玲也さんを応援しないのですか!?」

「応援も何も、僕は玲也君と馴れ合いやってるわけじゃないからね。それとこれとは別だからね」


 アンドリューなりに改めて戦いの持論が触れられると共に、シャルが思わずその場で立ち上がって玲也ではなく才人を応援する。自分の恋敵と見なしていたエクスからすれば、彼女の意外な行動に少し目を点にするもシャルは特に自然体で彼女のリアクションに答える。


「まぁ、友達で仲間でー時には好敵手って奴だな! 違うか」

「そうアンドリューにいわれると照れるけどね……玲也君がもう一人の僕って続くわけじゃないけどね」

「才人が玲也に勝っても俺は構わねぇ、教え子ならそれくらいやってやれってな!」

 

 シャルもまた玲也へ盲目的に尽くすのではなく、互角の腕を持つ者同士で勝利を求め競い合う関係で信頼関係が成り立っている。アンドリューとリタに好敵手との関係を触れられれば、珍しくシャルが照れる様子を横目にしつつ、


「何かそう言われると、玲也の立場がないじゃない!」

「玲也様が勝つにきまってますわよ! 貴方らしくありませんわよ!」

「信じてるにきまってるじゃない! あたし達のプレイヤーなんだし!!」


 ニアとして才人が勝つように場の空気が動いている様子は、少し拙いと彼女なりに感じつつもある。玲也シンパであるエクス共々玲也の勝利を信じる事で珍しく気が合っており、


「本気で勝とうとするから、どう打って出るか必死に、本気でぶつかってこれるんだよな……見てても面白いぜ?」

「全く、本当に貴方は戦いに生きられているのですね」

「それで結構。生きる事は戦いありきだろうな。何事も……」


教え子同士が親友の枠を超えて必死にぶつかり合っている――師匠筋のアンドリューとして、この上ない喜びだと思わず感嘆の声を挙げる。戦いへ本気で向き合って生きる男であると、少し呆れ顔でエクスが触れられるものの、彼はそう突っ込まれることも慣れっこだと笑って返し、


「さて、どう戦い抜くかって奴かなこれは」


 戦いに生きる者としてアンドリューは言葉を漏らす。それは自分だけに限らずモニター上で激闘を繰り広げる二人にも、この戦いい声をあげながら見守り続ける彼らにも、傍にいる彼女にも当てはまるように視線を動かし続けながら。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「地表から100m、エネルギー反応あります!」

「キャタピラーか……ここで反撃に転じれば、あっ!!」


 目の前から地表を突き破るようにドリルが宙へと撃ちだされ、思わずネクストも方向転換を余儀なくされようとしていた。

 けれどもネクストの車体が浮き上がると共に、今度はキャタピラーそのものが地表からあらわれ、車体の上部、スフィンストの腰へと接続されるジョイントにはまり込む――他のハードウェーザーと異なり、変形にあたりサイズが伸縮する事が仇になる形であり、


「タイヤが嵌ってしまうとなれば、電次元ジャンプを使うしか!」

「ですが、ここで飛べば逃げ続ける事も!!」

「長丁場に強いといえども、ジリ貧になるばかりか……」

『悪いけど、ここでおしまいだぜ!!』


 退路を封じられつつあったネクストへ向けて、ハリケーン・ウェーブが連射されていった。あくまで牽制に過ぎない威力だろうとも、ビーグル形態のまま被弾を続けると致命傷になりかねない。既に二発がフロントに被弾しただけで、急遽セーフシャッターが降ろされるほどである。玲也が判断を下す時間が削られていく中でも、スフィンストが接近を続ける事に変わりはなく


『これで勝てるなら、足の一つ二つは軽い筈です!』

『これが必殺サドンデスィッチだ、玲也……!!』

「サドンデスィッチ……!!」


 キャタピラーそのもので動きを封じた相手に向けて、上半身であるコンバットがまるでドッキングするように降下し続ける。身動きを封じた相手にミラクルドリルプレッシャーをお見舞いする三位一体の攻撃フォーメーション――これこそ才人の隠し玉でもある。キャタピラーを犠牲にすることを前提のこの捨て身の戦法に玲也が驚愕しつつも


「電次元ジャンプまで使えないですと、逃れる手が……」

「いや、まだあの手がある……」

「あの手って……まさか!」

「逆に押しつぶされるかもしれないが、勝算がある!」


 仮にネクストのタイヤが抜け出そうとしても、既にスフィンストは自分の上半身が退路を遮るだけの距離を詰めていた。本来のサイズならネクストが既に押しつぶされてもおかしくない。これも変形時にサイズが変わる特殊な仕様によるものであり、


「お前も捨て身なのは分かるが、俺も同じようにさせてもらう!!」

『面白い、ドリルプレッシャーで終わり……だぁっ!?』


 ネクストのフロントから頭部が露出され、両腕の二本が突き出された時だった。すかさず右手のアサルト・フィストをボタン・シーカー目掛けて撃ちだした後、左手の電次元サンダーを最大出力でスフィンストの上半身目掛けてたたきつける。最も、電磁波のエネルギーを活かして、スフィンストの上半身を反重力の要領で宙に浮かせており、

 

『……名付けて、電次元サンダー・スイングスロー!!』


 両腕からの電次元サンダーをまるで鞭のようにしならせて、スフィンストの上半身を地表目掛けて叩きつける。電次元兵器のエネルギーを前に既にサドンデスイッチによる攻めは破綻を迎えようとしており、


『早く体勢を立て直さないとください! もう一度合体して……!!』

『お、おぅ……まだエネルギーも半分は……!?』


 イチは直ぐに合体して正攻法による攻めを取るべきと才人に促すものの――今度はスフィンストの背中か、鋭利な先端に抉られようとしていた。装甲の強度はネクストを上回っていたにも関わらず、一撃で背中から爆発が巻き起こり、


『まさか……姉さん!電次元サンダーで……』

「その手は以前も使ってたからね、でも……」

「それだけで倒せないからな、もう一ひねり加えてやった」


 イチが触れたとおり、アサルト・フィストで自分目掛けて迫るボタン・シーカーの軌道をわずかに逸らした後、電次元サンダーで強引にシーカーの軌道を変えて、同じく弾き飛ばされたスフィンストへ同士討ちさせるように手を打った。しかし、玲也はそれだけではないと指摘した時、才人はネクストの腰回りの違和感に気づき、


『わーったよ。カルドロッパーがあったんだよね』

「これでもしなければな……一か八かだった」


 スフィンストとボタン・シーカーがげk智東する直前、ネクストは挟みこむような軌道を描いて、カルドロッパーを投げつけていった。外付けの燃料タンクともいえる代物は、爆弾の代替えとして激突で生じる威力を増加させた結果、


『やっぱ、やっぱ強いわ玲也ちゃん……!』

「……真剣勝負に情も掟もない。だが」


 地上へ叩きつけられると共に、スフィンストが跡形もなく砕け散る様子をネクストは見届けた。腹の風穴を抑えて力なくしゃがみ込むと共に、親友だろうと情け容赦なくもぎ取った勝利へ愁いと感慨が入り混じった表情を浮かべていた。自分たちが勝利したと宣言するアナウンスに瞳をそっと閉じながら。

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