第39話「生か、死か!? 命運賭けた一騎討ち」

38-1 勝利宣言! ウィナーストに俺は勝つ!!

「ここまで来たとなれば、マリアさんも……」


 ガレリオとの勝負へ踏み切るにあたって、玲也は早急な判断を下す必要があった。これも囮としての役目を果たさんとマリアが前へと出た為、予想以上に無鉄砲な彼女をオーベ島から逃がす必要性があったのだ。すぐさまポリスターを素早く引き抜き、彼女を標的に定めようとするも、

 

「……ガレリオだけは!」


 そんな玲也が現れたこと自体、シーラとして最大の脅威と見なしていた。早急に始末する他ならないと、直ぐにベルトへと収めたナイフを彼の胸元を目掛けて投げつけるが――飛翔体に気づき玲也が振り向くと共に、光の壁が自分の目の前に張られると共に凶刃は跳ね返された。


「どうにかなりましたわね……」

「すまない。お前の力がなければどうなっていたか」

「玲也様の為でしたら当然でして。それより……」


 マリンブルーのスーツを身にまといつつ、長い青髪を棚引かせてエクスがフィールドを展開させる――クロストのゼット・フィールドより強度が幾分も劣るとはいえ、投げつけられたナイフから身を守るだけの強度を示す事となり、玲也としては胸をなでおろさざるを得なかった。ただ彼に労われようとも、いつもの様な過剰な反応は示しておらず、


「ニアさん! 一体どういうつもりでして!?」

「そ、それは……その」

「貴方にしては歯切れが悪いようで、流石に調子が狂いましてよ!」


 エクスとしてただニアの元へ一目に駆けだす――何時もながら相変わらず彼女へ辛辣な態度をとるが、実際彼女が突然飛び出した為、周囲に迷惑を与えている事は間違いではない。少し後ろめたかったのか、彼女はどこか歯切れが悪い様子であり、


「あぁ、もう! あんたにはどうせ分からないわよ!!」

「その私の存じない事で玲也様を危ない目に遭わせてよいとでも!? 誰が貴方の為に私が出ると思いまして!?」


 ニア自身も自覚はしていたのだろう。少しバツが悪いよう様子ながらエクスへ暈す形で、自分の深刻な事情を主張するが、明らかに苦しい様子はあった。実際彼女の方がこの場では正論を口にしており、


「玲也様がニアさんに奪われる事も癪ですが……バグロイヤーに消される方が許せないですわ!!」

「……貴方も玲也の事を!」

「“貴方も“と言われるのは癪ですがね、私が一番玲也様を愛しているのですわ! 貴方にはこの前の借りがありましてよ!!」


 エクスが向かう先はシーラだ。彼女が振るう鞭に対して自らその手で掴むと共に、腕からのエネルギーで半ば強引に焼き切りつつ、彼女を自らの腕力で強引に引き込んだ後、平手を力いっぱい何度も見舞う――一度玲也を殺さんと襲い掛かった相手でもあり。彼女として憤る程の憎しみを忘れてはいなかった。


「ニアさん! 貴方も突っ立ったままでしたら足手まといですわよ!!」

「えっ……」

「何を寝ぼけた事を! ニアは俺の物だと!!」


 シーラを圧倒しつつ、エクスとして何故かニアに檄を送る。彼女なりの激励に対して、本人は意味が分からないまま多少戸惑っていたが、遮るようにガレリオは叫ぶ――ニアは自分の相応しい相手だと主張するが、後方からの銃撃が右肩をかすめ――。


「……ママ!?」

「一思いに殺したかったけど、上手くいかないわね……」


 母は遂に発砲した――先程まで実の娘だろうと、目的のために消そうとしたマリアだが、自分を奪わんとするガレリオへは迷うこと引き金へ力が入った。最も拳銃を握る手が多少震えていた様子からか、口にしていた通り彼女としては必ずしも慣れていない手つきでもあった。実際彼女の撃った弾は微かにガレリオの頬を掠めたにすぎず、


「おのれ……貴様! 俺が目を離したばかりに!!」

「あの子を慰め物にしか見ていない貴方には相応しくないからよ。私も人の事は言えた身じゃないけど」

「……」


 自虐を交えつつ、それでも娘の為にガレリオを始末すべきとマリアは踏み切った。娘の目からすれば信じがたい光景でもあり、目の前の彼女を母と認めるつもりがないにも関わらず、ニアは呆然としたままであった。そんな親子の間で心情が変わりつつあったが、ガレリオが知った事ではない。ただ二人へ激昂するばかりであり、


「たてつくなら、この手で血祭りにあげてやる!!」

「危ない……ママ!」


 ガレリオが剣を左手で引き抜いた瞬間、ニアですらマリアが切り殺されるだろうと思わず狼狽える。彼女の身に危機が迫っている為、思わずママと叫びをあげた瞬間――立て続けに煙幕を伴う爆発が巻き上がり、


「消えた……まさか!!」

「こうも無茶をするなんて、流石ニアの母さんだ……!」


 目の前のマリアがガレリオの視界から消え失せた。これも玲也はショーピースを持てる限り地面目掛けて叩きつけ、彼の視界を遮って一瞬の隙を作らんと狙っていた。実際ポリスターでマリアを島から引き離した後、


「お前の相手は俺の筈だ……!!」


 深紅の閃光がガレリオの左肩へと掠めた。激痛にあえぐように彼の顔がゆがみ、右手で患部をおさえながら顔をあげれば――ポリスターと異なるビーム拳銃を構えた玲也の姿が視界に入り、


「貴様! 俺の腕に何を!!」

「……あんた、それってレクターの」

「「奥の手だが使わざるを得なかったが……狙いが甘かったようだ」


 ニアが触れたとおり、玲也はドラゴノガンでガレリオへ一矢報いた。レクターの形見を駆使しながらも、咄嗟の事で仕留めきれなかった事へ微かに苦々しい表情を露わにしていたものの、


「お前を苦しめた奴を許せなかった。出来る事なら一思いに仕留めたかったが……!」

「だ、誰がお前に許されたいと! オリジナルの羽鳥玲也などに!!」

「黙れ! ガレリオとかいうお前に、かける情けはない!!」

「これだからオリジナルは! ニアと違って!!」


 既に玲也自身はガレリオに引導を渡す姿勢に変わりはない。無論彼として自らオリジナルになるべきだと互いに討たんとする事も同じだが――オリジナルに拘る上、傷を嘗めあわんとする魂胆でニアを労落選とする彼へ向けて、猶更玲也の怒りは募るばかりであり、


「ニアがファかなど知らん! 誰の代わりでもないニア・レスティだ!!」

「……!」

「……だから貴様からニアを奪って俺がオリジナルになぁ!」

「パーツのようにニアを考えている限りだな! お前にはまず分からん!!」


 だからこそ玲也が吼える。オリジナルであろうと拘る事も、その為にニアを自分のものにしようとする考えに囚われているガレリオを一喝する。


「父さんを超えるからには、道半ばで倒れる筈はない! 俺にはリンがいてだな……」

「勿論、私と……あと一応ニアさんの事も入っていますわよね!」

「当たり前だ! ニアがいる限り、俺はこの先もくたばらん!!」

「……もう!」


 シーラを食い止めんと応戦するエクスが、思わず玲也の決意を確かめんと首を突っ込むが、玲也は力強く肯定する。3人がいる限りは自分がこの先も破れて地に付し、斃れる事はないと強く叫んだ途端、ニアは胸の内の想いを思わず漏らしかけた。彼女が少し涙声になって胸元を両手で握るが、タグからの赤い光を玲也が見逃す事もなく、


「ニア、一気に蹴りをつけるぞ!」

「えっ……」

「……これならいける」


 玲也はすかさずニアを転送させる。彼女が一瞬戸惑ったものの、ポリスターで撃たれる寸前、彼女は直ぐ目元をその腕で拭い、自分の意図を察したような顔つきを示していた事に、確かな安堵を感じ取る。


「……これ以上ガレリオを惑わせたら!」

「何を……うっ!!」

 

 シーラもまた、玲也の胸の内を察した――ニアもまた自分と同じ力を発現させたとなれば、玲也がガレリオを仕留めようとする事が猶更容易となり、彼の口ぶりから実際そのつもりだと見なしていた。だからこそ自分へ馬乗りになってなりふり構わず、殴打し続けるエクスに向けて一寸の隙を突き、わき腹を刺す。


「……エクス!!」

「私に構わないでくださいまし! 玲也様は勝ってくださいましたら!!」

「……リン、直ぐに来てくれ! 俺はウィナーストを、ガレリオを仕留めてから帰る!!」


 流石にエクスが声にならない喘ぎを上げた途端、玲也も彼女に案じざるを得なかったが――自分に寄せる心配は今余計な事と、エクスはあえて最愛の玲也を突き放す。彼女のこつ然とした態度に玲也がすべきことを再度見出した上で、ガレリオとの決闘に挑むと堂々と宣言する。自分が必ず勝利の凱旋を果たすのだと付け加えるなど、相応の自信を示していると、


「……ダメ! ガレリオが勝てな……!!」

「俺が負けるとお前も言うのか!」

「……その体で戦えると」

「俺にも同じことは出来る! オリジナルの羽鳥玲也が出来て俺にできない事など!!」


 まるで頭に血が上ったかのように、ガレリオは玲也との決闘を受けるのだと譲らない。シーラからすれば無謀と判断せざるを得ず、既に彼が冷静な判断をできていないのだと、首を横に振っていたが、


「……それもそうだな。俺のクローンだとほざくなら、俺と互角の腕位は持っている筈だがな」

「互角ではない! ハードウェーザーも、俺の腕も、オリジナルを凌いでいると分かっている筈だ!!」

「なら、俺を相手にしてお前が臆する事はないはずだがな」


 リジナルの自分にならんと執着し続けているだけでなく、自分を凌いでいるとガレリオは豪語しており、憤りと別に辟易とした感情まで高まりつつある玲也はどこか冷静になりつつあった。だからこそ激昂する彼へと面と向かって、玲也は敢えてあきれ果てるように吐き捨てる。


「面白い、面白いな羽鳥玲也! そこまで俺に血祭りにされたいとは!!」

「……ダメ! 羽鳥玲也は恐ろしい人、手に負えない程物騒な人よ!」


 無論ガレリオを挑発する為に、玲也は猶更侮蔑的に見下して煽る。実際思う壺の展開として彼が挑戦を受ける姿勢となれば、諭そうとするシーラまで思わず感情的になりつつある。ガレリオを止めるだけでなく、目の前の玲也を脅威と捉えている故であった事は、彼へと銃を向けた時点で示されていたようなものだが、


「まさか、お前に言われるとは思ってもいなかったが否定はしない!」


 シーラにすら自分が恐ろしい存在だと指摘されようとも、玲也には半分諦観しつつ半分口元を緩ませる余裕があった。実際ガレリオ達の背後からライムグリーンのマシンが自分目掛けて飛び込んでいったのだから――ネクストがボンネットを展開させ、バルカンを威嚇するように彼らへ放てば、シーラは思わずガレリオへ覆いかぶさるように被る。


「玲也さん早く!」

「エクスの事は頼む! その前にブレストの方に向かってくれ!!」


 威嚇した直後に、フロントが開かれたネクストに玲也が飛び込むように乗り込んでいく。リンが予備のポリスターを放てば、うつぶせたままのエクスがコクピットへと転送される。


「ま待て! 俺から、俺との決闘から逃げるつもりか!!」

『今のままなら、ネクストで踏み殺す事も出来る筈だが……ブレストで戦えば俺も対等なハンデになるだろう』

「どういう意味だ! オリジナルにハンデをつけられるとか、どの口が言える!!」


 ネクストがエクスの治療のために引き返す必要が生じている。目の前で逃亡を図る玲也にガレリオが怖気ついたのかと挑発するものの、煽る駆け引きは玲也が一枚も二枚も上手だ。呆然とする彼をよそに既に視界からネクストが消え去っていた所、


「……何を私が言ってももう無駄ね」

「俺が羽鳥玲也を倒さない限り、一歩も先に進めない! 天羽院様に合わせる顔がない!!」

「……貴方がガレリオだと信じてる。見捨てたりしない」

「当たり前だ! 俺の為に作られたお前が何を今更!!」

「……」


 もはや自分にガレリオを止める事が出来ない――シーラはそれでもなお自分が彼の為に作り出されたハドロイドとして役目を果たさなければならない、理想と現実の狭間で折り合いをつける事を迫られていた。現実を弁えず理想を追い続ける彼の為に、自分は理想を諦めて彼の現実に身を任せる事が自分の定めかもしれないと諭れば、自然とどこか儚げな笑みを浮かべていた。ガレリオが彼女の今の心境を理解していたかどうか、定かではないが。


「前のウィナーストとは違う……俺がオリジナルになるにふさわしい力だと示すまでだ!」


“ニアの為だけでない、互いのプライドを、そして各々の目指す先がある。双方相容れる兆しもない敵同士、刃を交え戦うしかない。誰からの命令もなく、やむを得ない事情もなく、ただ両者がこの一戦で仕留める事へ決意は揺るがない。この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”

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