第38話「急げ玲也!ニアの元へ‼︎」

38-1 スカルプに浮かぶ天羽院の嘲笑

「――君みたいな恥知らず、私は見た事もないですけどねぇ」

「くっ……」


 ――スカルプの宮殿にて。アオイはバグロイヤーへの帰順の意を示して首を下げる。最も目の前の相手は既に皇帝ではなく、王座に腰を下ろしていた天羽根院。既に自分がバグロイヤーの支配者へと君臨していると示していたものの、


「そもそも、バグロイヤーの秘密をぶちまけたのは君ですよ? 立場をわかって言ってますか?」

「……未だ、貴方へ忠誠を誓った訳ではありません」

「き、貴様! 天羽院様の前でよくも……!」


 アオイへと天羽院は嫌味ったらしい口調で面罵する――彼女がディンを殺害した一部始終の映像を手土産にゲノムへ投降したのだから。バグロイヤーの勢力は陰りを生じさせた張本人は、帰参しながらも、天羽院への不信感を払拭しきれていない。それを堂々と打ち明ければ、自分を連行した憲兵の拳が飛ぶものの、


「わざわざ私の前で死を選ばないでしょう。恥知らずとしても、さほど愚かでもないでしょうし」

「て、天羽院様、どうしてこうも寛容な……」

「セインちゃんにはわかるのよ~。アオイちゃんがハインツの為に尽くすんだって」

「……」

「でも~変な事考えてたら、セインちゃんも温厚じゃいられないけど~」


 天羽院は憲兵の暴力を咎め、アオイへ寛容な姿勢を示す。彼の隣で控えるセインも同じように彼女を容認するが、同時に釘をさすことも忘れてはいない。彼女からすれば何もかもお見通しと言わんばかりの視線は、思わずアオイでさえ唾をのんでしまう――超常将軍の彼女ならば、胸の内で叛意を抱けば確実に見透かされて始末されるのではないかと。


「実際丸腰で私の元にきましたし、今更バグロイヤーに戻ってきただけでもある意味立派と」

「天羽院様、そんな縁起でもない事を……」

「あぁ、君たちはとりあえず下がってなさい。ここから3人で話がしたいから」

「アオイちゃんが戻ってきたことは内緒よ~セインちゃんお見通しだから~」

「……はっ」


 本題へ入る前、天羽院は二人の憲兵を退出させた。セインが釘を刺していることからして、下手な動きもできず逆らう事も出来ないと察していたのだろう。反発することなく憲兵たちが速やかに引き返すと、


「……おっと、そこで逃げる事も歯向かう事もしないようですね」

「仮にあなたを手にかけても、私が帰る場所はありませんから」

「どうやら、ゼルガの元に降っても結局逃げたしー。もう何人か殺しちゃってるみたいー」

「よって貴方はもう解放軍にも戻れないのだと思いますが……別にそのまま籍を置けばよかったものでは?」

「わざわざ、キース達を手にかけた事がばかばかしい……そう仰られたいのですね」


 少し時間を置いた後も、特にアオイが抵抗を示そうとする動きもない。それもあり天羽院たちはあえて寝返った理由を掘り下げにかかる――既に彼女がバグロイヤーに正義はないと判断して寝返った背景は分かっていた上で。


「出来る事ならそのつもりでした。ですがハインツ様は結局……」

「ハインツは忠義に厚い男ですからね、貴方一人の為に寝返る男ではないでしょうに」

「違うわよ~アオイちゃんはハインツより、レーブンの方賭けたかもしれないでしょ?」

「あぁ、そうでしたか。ですがまぁレーブンもまさに親は子に似るというのですかね」


 天羽院とセインは揃ってアオイを逆撫でし続ける。これもバグロイヤーを一度寝返った人間として罵られる事は当然の報いかもしれないが、かといってハインツから託された以上、彼よりも尽くすべき相手だったレーブンまでもコケにされており、彼女の表情は苛立ちを必死に抑え込んでいた。ハインツと似ていると天羽院はレーブンを称するが、既に散っていた事も含め、二人からすれば嘲笑の意味で評しているのだろう。


「話を戻しますが、どうやらハインツが前線に出ているとの事ですね」

「……私も確信はありません。ですがレーブン様を仕留めたハードウェーザーがいる筈ですから」

「今の彼がレーブンの仇を討つ事へ躍起。どの道バグロイヤーに尽くす義理がなくとも止められない筈ですが」


 アオイの気持ちを落ち着かせる意図もあり、天羽院は今のハインツの行動を触れる。今の彼が感情に走りかけている事を指摘しつつ、戦意を翻すつもりはないと触れて尋ねれば


「――止められない事は既にわかっています。ですから私をハインツ様と共に前線へ」

「あなた一人が向かわれる事は構いませんが、それで勝てるとの保証は?」

「その為にこの身を預けます。ハインツ様の力になろうと……!」

「ほぅ……」


 アオイはバグロイヤーへ帰参する土産として、わが身を選ぶ――その瞬間、天羽根院の口元が微かに緩み、セインへも目配せを交わすと、


「それならー、セインちゃんも心強いわー。ちょっとあのお人形さんたちだと足りないからー」

「セイン様、まさか……」


 妖しい笑みを浮かべながら、セインはアオイへと眼光を鋭く飛ばす。その日戦を浴びせられた時点で、彼女は万が一を想定していたものの、瞬く間に頭が重くなり、頭痛だけでなく痛烈な眠気が遅いかかる。その場でセインに抱えられた時点で、彼女の意識が泥濘にはまりつつあり、


「ちょうどハードウェーザーがありましたら、足止めには十分なりますからね」

「そうなるとー、ハインツを連れ戻した方がいいかしら?」

「そうですね。ただギリギリのタイミングを見計らいましょう。鋼鉄軍団が無事ですとそれはそれで面倒ですから」


 ガレリオの一大決戦を目前として、鋼鉄軍団は総力を挙げて電装マシン戦隊を引き付けんと動いていた使命を果たせずグナートが斃れた事もあり、ハインツを生かす理由も薄れつつあったものの、アオイの身を挺した行動は、少なからず彼を踏みとどまらせる理由にもつながり、


「トランザルフもそうだけど、一人増えると面倒ねー」

「彼はあくまで生きていたらの話にしましょう。程ほどにかき乱すよう命じたはずですが……」


 一方でトランザルフは七大将軍をかき乱し、ガレリオをその気にさせんと唆すために送り込んだ役回りだが――既に天羽院の想定外の行動を引き起こしていた。結局功に焦って抜け駆けする性格はトループ時代から変わっていないと思い知らされつつ、


「既に星の1つや2つ、どうなろうとも私は構いませんからね。羽鳥秀斗にさえ報復できましたら」

「それでセインちゃんのお人形さんを増やす為、別の宇宙にフライバイよね~?」

「そういう事です、その為のバグロイドでエクゾダスしてそのまま乗り込むのですよ。貴方なら出来る筈でしょう」

「もう、無茶苦茶言うわねー天羽院ちゃんも」


 バグロイヤーが壊滅しようとも、天羽院としてはあくまで復讐のために動いているに過ぎない。その上でセインともども再起を図る事を想定して作戦を進めている。早い話バグロイヤーのトップに彼が君臨しようとも、既に退却戦への準備を進めているような状況ともいえた。

一応セインとして、新天地で自分たちのお人形を増やす目的があったものの、万が一の事態を想定して不安げな意見を漏らす。常にお気楽な彼女らしからぬ姿勢だが、


「ペースを上げるように後で指示しますが、元々バグロイヤーを立ち上げたのは私です。貴方もこのゲノムがなくなればそれでいい筈でしょう」

「それを言ったらそうねー。天羽院ちゃんとベクトル違うけど、セインちゃんも酷い事されたし」

「酷い事をされたのでしたら、報復に出るのがまた人ですよ……」


 セインへは基本甘い天羽院だろうとも、あくまで自分がバグロイヤーの権力を掌握しているのだと釘をさす。そして復讐する正当な理由が自分たちにはあるのだと口にしていくにつれ、彼の表情が恨みに冒されるかのように、険しい顔立ちとなり



「……ゲノムでの成功を約束されたはずの私ではなく、羽鳥秀斗を世間は選んだのですよ。たかがゲームしかやっていない人間に私が負けたのですからね!!」


 

 秀斗への復讐の動機――それはゲノムの今後を模索するにあたり、主張した自分の意見が秀斗によって危険性を指摘された為にとん挫した為。代わりに秀斗の案が採用された事が天羽院のプライドを傷つける事となった。ロボット工学の若き権威として将来を嘱望された故に、プライドも人並外れていた。エリートとは程遠い出生の秀斗と同格に扱われる事も望ましくないが、公の前で自分の敗北を晒す結果になった事で、彼への憤りは明確な殺意へと変わり、、


「だから、私がバグロイヤーを立ち上げました。皇帝の威を借りて一大戦争を起こしましたことも、羽鳥秀斗が正しいこの世界がくそくらえでしたからね!!」


“一人の男の嫉妬、憎悪が一勢力を焚きつける形で戦乱は巻き起こった。惑星ゲノムに収まる所か、宇宙の規模を超えて太陽系へと毒牙を向けるまでにまで至った流れは、電装マシン戦隊を前に徐々に収束しつつあったが――たとえ、バグロイヤーのほぼ全てを滅ぼそうとも、天羽院一人が健在な限り、独りよがりな復讐を断ち切る事は出来ないだろう。この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”

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