37-6 攫われるニア、ガレリオ狂気の略奪愛!

『せっかく出たのにこっちこないっぺよ!!ンディストと相性が悪い、こうも空から攻められては……』

『そういうあたしらも、相手にされてないけどな』


 バージニアに位置するPARアメリカ本部へと、ロクマストとサンディストは早速電装したが――バグロイドは自分たちの存在を眼中に入れることなく、ただアメリカ本部へ集中的に攻撃を加え続けていた。これも鋼鉄軍団のバグロイドが大気圏内を飛べる為であり、


『本部を壊滅させることが敵の目的でしょうか……若もロディ様も飛べないのでしたら』

『むぅ……シーンが無事だったならば、今頃は』

『過ぎたこと話しても仕方ないだろ。あたしがこう動かしてるんだしさ!』


 アフリカの2大ハードウェーザーは揃って飛行能力を備えていない。空からの攻撃に弱いではなく、こうも上空からのバグガナーへ相手にされていない。この屈辱的な現状に、ユーストが健在ならばとロディは苦々しくぼやくものの、アグリカはなってしまったものは仕方がないのだと諭す。実際彼女がトート・シーカーを駆使して空中のバグガナーへ一矢報いろうとするが、ユーストの穴が埋まるとはいいがたく、


『畜生! 何でこんな時にハズレが来てよ!』

『アンドリューが帰ってきたというのに……!!』


 実質スパイ・シーズとの接続を経て、飛行能力を備えたブレイブ・バディらが鋼鉄軍団との交戦へ突入していた。だが、アメリカ本部駐留の面々はハードウェーザーが力になれず、イーテストが現れることがない状況に憤っている。

 少し身勝手な事をパイロットはぼやきながら、ガーディ・ブレイカーでバグガナーの胸を突かんとする。砲撃戦主体のバグガナーを相手に、切り込みをかけた時相手は両腕のバズソーでブレイカーの刃を受け止める。


『アンドリューがいなくても俺たちは』

『最前線で戦ってきたから、ぬるま湯に……!!』


 すかさず左手でガーディ・マグナムを手にして、急所を狙おうとした瞬間だ――後方からのエネルギー波を前に突如ブレイブ・バディの動きが止まり、


『何故だ、何故動かな……!!』


 一転して隙を作ってしまった相手に対し、バズソーを回転させながらバグガナーはブレイブ・バディと間合いを置いた。僚機が入れ違うようにライフルをコクピット目掛けて放ち、返り討ちにする。


『ハ、ハインツ様! 申し訳ありません!!』

「何、これくらいの事は……ただ油断は禁物だ」


 鋼鉄軍団の後方へは、ハインツがバグアーサーを電装して控えていた。ライトウェーザーを相手にハインツは必要最低限の援護に回りつつ、部下たちへ激励の言葉を交わし続ける。魔拳サンダーボルトからのエネルギー波を照射され、ブレイブ・バディの動きが封じされていくとともに、アメリカ本部のライトウェーザー隊は早くも隊列が崩れ始めており、


『おい! 逃げるなら余の方へ来ないか! おびき寄せるとしても……』

『馬鹿! そんなこと考える余裕があいつらにあるかよ!?』


 後退しつつあるブレイブ・バディへ向けて、同じ空戦に対応しながらも白兵戦に特化したバグフォワードが、弱腰の相手をぶった切らんと肉薄する。

 そしてシュナイダーでバックパックを破壊されたのち、ベールで串刺しされるブレイブ・バディを目のあたりにしながら、ロディは自分たちの元へ逃れるべきと促していたが――アグリカの指摘通り、そこまでの余裕が彼らに遭ったかは怪しく、


『それもそうですが……私めには目的がある気がしますぞ』

『ヒロさん、つまりあたしらが出てきても意味はないと』

『無論、意味があるようにしなければいけません。相手の狙いは果たして……』


 ただヒロには疑問が生じつつあった――鋼鉄軍団がアメリカ本部へ集中的に攻撃をかけており、自分たちハードウェーザーにも関心がない相手の動きには、何か裏があるのだと疑っており


「ガレリオ様の為に相手を引き付けろとの事だが……この状況をどう見るか」


 実際ハインツは、ガレリオの為に陽動としてアメリカ本部へ攻撃を加え続けていた。自分たちの元へハードウェーザーが送り込まれている事を良しとみなしていたものの、相手が揃って飛べない相手であるがゆえに、


「こうも一方的なら、こちらから打って出ても構わないが……仮に息の根を止めるとしたらブレストにしたいが」


 一種の歯ごたえのなさをハインツは感じつつあり、真っ向勝負を挑むべき相手としてブレストの電装を待ち望んでいた。これも娘の仇をこの手で討たんと駆られていた為でもあったが、


「せめて身代わりとして果てろ、ブレストのな……!!」


 地上で動きが鈍るロクマスト目掛け、上空からバグアーサーはアロー・シーカーを打ち出した――サンディストだろうと一撃で致命傷を負わせるほどの切り札なら、ロクマストが無事で済む保証はない。宙を滑る様にして鏃が飛ぶとき、射線上を遮るように1機の影が電装された。ロクマストの身代わりとして直撃したのか、激しい爆発が巻き起こるとともに、


『まさかユースト、シーンが、シーンが!?』

『バーロー! こいつだって飛べるの忘れてんじゃねぇ!!』

『それにボーっとしてたら死ぬぞー! あたいに借りが出来たなー!!』


 煙がかき消されるとともに、ロクマストの代わりに果てたと思われたハードウェーザーはほぼ無傷。両手で握られたマグナムの銃口から煙は立ち込めており、おそらく間一髪で鏃を粉砕する事に成功したともいえる。ロディは思わずユーストではないかと早合点していたが、


『やばかったですね、出てきて早々お陀仏になったら』

『バーロー! 早々に縁起の悪い事言ってんじゃねぇ!』

『ビビるなら、手動かせよー、お前ら頼りにしてるからさー!!』

『も、もちろんです! イーテスト・ブルは僕たちで!!』


 イーテスト・ブルと呼ばれる通り、スフィンストとのコンバージョンが実戦で初めて投入された。リタから自分たちのフォローを託され、才人とイチが微かに震えていたものの、両足のフレイム・レールガンが鋼鉄軍団目掛けて撃ち込む。


『才人、もっとしっかり狙え! 無駄玉ぶっぱなすな!!』

『すみません! ブレストのようにはいかないかもですけど!!』

『だったら俺の戦いを教えてやらぁ! しっかり見とけよ!!』


 切り込みがメインとなるバグフォワードが畳みかけていくと、あえてニードリッパ―をシュナイダーの翼目掛けてから見つけていく。急速にケーブルを収納させて、間合いを詰めていくとともに、相手の背後へと回り込むことに成功し、


『こいつをお見舞いしてやらぁ!!』

『何……ぐああっ!!』


 ソルブレダーをラリアットの要領でバグフォワードの延髄へと叩き込む。首を刎ねられて微かに制御が遅れた相手へと、右手首からのグレーテスト・リボルバーを滅多打ちにして引導を渡す。鮮やかなフィニッシュであったものの、


「貴様はあの時の……私をレーブンの元へ行かせないと阻んだ奴か!」

『どっかで見たことあると思ってたけどよ……またてめぇか!』

『ブレストの身代わりがあたいらで残念だったな―!!』

 

 イーテスト目掛けて光輪が飛び交い、右手のソルブレダーが真っ二つに切り落とされていた。デリトロス・チャクラムを手に取るバグアーサーの様子から、アンドリューも記憶が呼び起こされる。ただ自分が相手にするには不足がないといわんばかりに、静かな笑いを浮かべており、


「ブレストの師匠となれば相手に不足はない! それに恨みもある……!!」

『恨みでどうにかなるもんじゃないぞー! 思い知らせてやれー!!』

「たりめぇだ! たかが将軍一人に俺がくたばるかよ!!」


 ハインツとして、敵ながらイーテストの実力を認めつつもあったが――敵に称賛されようともアンドリューが喜ぶはずもない。ただ己の力と腕で、娘の仇を討たんと駆られていたハインツを粉砕する事こそ最大の喜びでもあった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……あたし、何やってるんだろうな」


 ――転送装置へと素早く飛び込んだ結果、ニアはニューヨークのブラウンズヒル近辺へと転移されていた。仮にアンドリューならば土地勘を既に掴んでいたかもしれないが、彼女に土地を知る宛も術もない。近辺へ転送装置がカモフラージュされて置かれていようとも、情報がなければ足を運ぶことが難しく、



「どうせあたしは元々作られた落ちこぼれで、エクスやリンとも違うんだから……」

「バージニアがバグロイヤーに襲われてるらしいぜ、PARの基地がある所!」

「えっ……!?」


 ただ所詮自分の作られた宿命を呪うようにボヤいていた矢先、現地の若者が一人騒ぎ立てて、友人と思われる3,4人の男たちの元へ駆け寄る。彼女からすればバグロイヤーがアメリカに現れたとの報せから思わず我に返る。自分のバックボーンやプライドが揺さぶられようとも彼女の目の色が強く輝くものの、


「でも、あたしがいなくたってドラグーンが早々落ちるとかないんだから……」

「うおー、すげぇなぁ! 久しぶりにこう大群が来てるとか!!」

「けど、ロクマストとサンディストかよ。イーテストじゃねぇのかよ!」

「おっ、サンディストって事は幸先いいじゃんかよー」

「ちぇっ、確か飛べないから出番ねぇなって思ったのによ」


 ニアとして先程飛び出した身だからか、引き返すにもやはり躊躇はあった。しかしそれよりも現地の若者たちはSNSでバージニアでの戦乱の様子が投稿されている事にはしゃいでおり、ハードウェーザーの戦いを賭け事にいそしむ観客のようにも楽しんでいる。ニューヨークからバージニアまでおおよそ600㎞程の距離があるゆえに、同じアメリカでも戦乱の様子を肉眼で捉える事は出来ない。だからか、同じアメリカだろうとも、民衆は彼らとしていつも通りの生活を過ごしており、


「けど、所詮七大将軍とか言ったってハードウェーザー相手に形無しだよなぁ」

「フォートレスが落っこちた時はそりゃやばかったけどよぉ」

「やっぱハードウェーザーは俺らを守るためのヒーローなんだって! バグロイヤーとか早くやっつけてくれねぇかなぁ!」

「おいおい、ハードウェーザーが活躍しねぇと俺の生活上がったりだぜ!」


 PARの隊員が必ずしも真っ当ではない事が可愛く思える程、ブラウンズビルの住民は平和ボケしたように振舞っている。それだけならまだしも、バーチュアスグループと異なり、ローカルな規模と思われるものの、一人の男の口ぶりから、ハードウェーザーの活躍が賭博対象、依然と娯楽として見なされている事がハドロイドの彼女としては苛立たずにはいられない。


「こんなものなんて……!!」

「お、おい! いきなり……あぁぁぁっ!!」


 ニアとして、自分の戦いが民衆の遊びに使われている事で猶更プライドが傷つく。自分の出生で打ちのめされていたにもかかわらず、頭に来た様子で男たちの群れに割り込み、手に握られていた一枚のくじを取り上げた後に、びりびりに破り捨て、さらに足で何度も踏んづけた。いつも通り勝気な彼女が戻ってきたものの、


「てめぇ! あと1回で揃ったのによぉ!!」

「ガキの分際でいい気じゃねぇか……よぉ!?」


 ニアがハドロイドだとは現地の民衆が知る筈もなく、ただ14歳の彼女は所詮子供だろうと一人が彼女の右手首を強く握るも――あくまで彼女はハドロイドである。手首をひねり返すように暴行を加えようとする男を転倒させた。


「あたしを舐めないでよね! あんた達のようなぬるま湯に浸かってないんだから!!」

「な、何訳分からんこと言ってんだぁ!?」

「けど、ガキのくせになんなんだぁ……!?」

「あたしは今ムシャクシャしてるんだからぁ!!」


 ニアが只者ではないと、彼らが認識するものの数で圧倒する前に、ニアが素早く飛び上がり、回し蹴りを男に見舞う。着地すると共に一寸の隙を見せることなく足払いで薙ぎ払う。ハドロイドとしての並外れた身体能力を持つ彼女に、男の面々が委縮し始めていた所、


「こ、この野郎! 痛い目見せてやる……!!」


 サングラスを着用した一人は、こうも小娘に舐められたままでは終われないとホルスターからバタフライナイフを取り出す。例え凶器を手にしていようとも身体能力の差からしてニアは臆することはないと見ていた所、紺色のコートを羽織る男が咄嗟に横へと割り込む様子を目にした。


「なっ、なんだと……」

「貴様が所詮ナイフを持っても、敵わないな!」


 ニアと同じ背丈ほどの男は二本の指でナイフの刃を挟み込んで制止する。たかが二本の指で自分の動きが止められている事に仰天しつつも、さらに指の力で刃を木の枝のようにへし折られたならば、既に理解できない状況ではある。先ほどまでの威勢がまるで嘘のように、その場でへたり込んでしまい、


「こい! ここだと人目に付くからな!!」

「えっ、ええ……」


 その直後に男は少し強引にニアの腕を引っ張り、人目のつかない場所へと彼女を連れて走り出す――フードを被っていた故に男の素顔を把握できないものの、彼の口ぶりは玲也が少し大人になったような、その上で自分を牽引していく強さを声のトーンから感じ取る。ニアとしても行く宛がないのもあり、ただ言われるままに人気のない廃工場へと到着する。


「あ、ありがと……わざわざあたしなんか助けなくてもよかったけどね」

「いや、俺もニアに会いたかったからな!」


 一応助けてもらった恩があったので、ニアは少し戸惑いつつも素直に感謝の言葉を伝える。自分の出自からまだ自嘲している口ぶりだったが、その男は静かに口元を微笑ませる。表裏一体のような彼女の強みと弱みを知ると共に、フードを外せばダークグリーン色の髪が露わになった。


「あんた、あたしの事知ってるの……?」

「ニア・レスティで羽鳥玲也のハドロイド、そしてファ・レスティのクローンだってこともな……!!」

「……!!」


 つい先ほど明かされたばかりの、忌まわしき出生の秘密を彼は掴んでいた。そこまでの情報網を持つ男に思わず警戒するも、躊躇うことなく彼女の口を自分の口で封じ込めてみせる。目の前の彼に自分の唇を奪われて震えていながらも、彼は接吻から口を引き離した瞬間、


「何様のつもりなの、あんた……!」

「俺は羽鳥玲也、お前と同じ“生み出された“羽鳥玲也……!!」

「同じ羽鳥玲也って……あんた、まさか!!」


 もう一人の羽鳥玲也として作り出された存在、言い換えれば彼のクローン――そう自分を称して玲也を下しオリジナルになろうと望む男となれば、ガレリオしかいない。バグロイヤー七大将軍を率いている男が単身で堂々自分の前に現れた事を信じがたい様子だが、


「お前が俺のものになれば、俺はオリジナルになれる! 羽鳥玲也から大事なお前を奪えばなぁ!!」

「誰があんたに奪われないといけないのよ! 命知らずもいい所……」

「なら、お前は何故羽鳥玲也から逃げ出した、クローンだから、オリジナルではないからな!!」

「……オリジナルとか、そういう問題じゃ……何、これ……」


 ガレリオを相手にしようとも、ニアは持ち前の反骨心で食らいつこうと気迫を見せようとする。けれども彼女からクローンである自分の出自を衝かれれば、彼女が振り上げた腕が鈍る――それだけでなく強烈に瞼が重くなり意識が朧げに沈んでいき、


「やはり、一筋縄でいかないようだが、だからこそ俺の物にする価値があってな……」

「あたしに何かした上で……いえた事じゃないわよ」

「強がっていられるのも今の内だ! 同じクローンとして俺はお前を受け入れることが出来るがな!!」

「だから、あんたになんか……」


 意識が続く限りニアはガレリオに篭絡されないように粘り続けたが――ガレリオが口移しへと飲ませた薬の効き目に押し負けるよう、微睡の中に飲まれていく。眠りにつくニアを持ち帰るように抱き上げれば、満足げにほくそ笑んでいたが、


「……ニアを始末しなくていいの? ブレストを葬れるチャンスなのに」

「そのブレストを俺が手に入れたらどうなる! ニアを手に入れただけで俺は羽鳥玲也を超えられると!!」

「……ウィナーストは、天羽院様がブレスト、クロスト、ネクストを元に組んだハードウェーザーよ」

「それはそうだが、あのハードウェーザーで羽鳥玲也を仕留めるのも味気がなくてな!」

「……」


 ニアをこの手にするガレリオの作戦に、やはりシーラは懐疑的なスタンスで意見する――そもそも彼がブレストを手に入れるアドバンテージが思い浮かばない。ウィナーストが3機を集約させたハードウェーザーとして、ブレストの上位互換となる。それにガレリオが胡坐をかいて玲也と対等な条件で戦うとの名目で、ブレストを手に入れようとする動機も一見誇り高いようだが、彼がオリジナルである羽鳥玲也の腕を見くびっている節も感じ取れてしまい、


「……私では至らないのかしら?」

「お前は一応俺に尽くしてくれている、だがあくまでプレイヤーとハドロイドだからな」

「……ニアと私は同じはずで」

「機械じかけに傷つく痛みが分かるか!」


 性別上、シーラもあくまで女である――ガレリオがニアを手に入れようとすることは早い話、堂々と浮気を働いている。シーラとしてもあくまで女として快く思わないおだと、遠回しに述べるも、0から作られたアンドロイドは、誰かを元にしたクローンと根本的に異なる事をガレリオも言い返す。自分の生まれから所詮ロミオとジュリエット、いやロミオとなる彼は、ジュリエットの筈の自分に愛を寄せてはいないのかもしれない。


(……ガレリオと羽鳥玲也、信念へ一途な所は同じとしても)


 自分が尽くすべき相手はニアを見初めたように、誇らしく抱き上げている。シーラとしてガレリオへの迷いが生まれつつある傍ら、ニアが尽くしていると思われる玲也へ改めて関心を持ち始めた。


「シーラ、早く退くぞ! 羽鳥玲也をおびき寄せるにはちょうどいいからな!!」

「……わかったわ」


 羽鳥玲也を超えるとの意味で、ガレリオは関心を示しているも、彼が備える力に対して見くびった態度で接し続けているようであった。シーラとしてはガレリオの目的を果たす為、淡々と従うことが本分の筈だったが――今、ガレリオと別の観点で彼への関心が頭をもたげつつあった。その為ニアを駆使して玲也を人質にとる作戦へ、彼女なりに理解を示して同意した瞬間だった。


「……危ない!」


 しかし、ガレリオを目掛けるようにして、弾頭が地へと着弾し爆発が巻き起こった。本来の彼を護衛する務めを果たさんと、シーラがすかさず短剣を懐から投げつけ、ミサイルを迎え撃つがものの、マシンのキャノピーから立ち上がった黒い甲冑の男は、


「悪いが、ここまで来てニアを奪われたら元も子もない」

「確かレクター……久しぶりに現れたようだが!!」

「……下がって、私が食い止めるから」


 あくまで、玲也のマルチブル・コントロールを伝授させる事をレクターは目的とする。その為にただ一人残されたニアを奪い返すことが彼の使命となる。そんな相手を前に、シーラはガレリオを逃がそうと相手を務めようとするものの、自分の視界にどこからか弾頭が射出される事に気づき、


「煙幕だと……!?」

「ガレリオ様、こちらも既に準備が出来ましたから」

「……準備を済ませるにしても、もっと早くできなかったの?」

「申し訳ありません、あのレクターに僕が復讐する相手ですからね」


 突如立ち込める煙幕とともに、トランザルフが自分に後は任せてほしいとガレリオ達へそのまま撤退して作戦を進めるべきと促す。彼へ今一つ不信感をぬぐえないシーラが尋ねると、彼は少しドスを利かせた声で目的を打ち明けており、


「早く二人とも逃げてください。特にガレリオ様は……!」

「わかった! こう素直なお前に言われたらな‼!」


 すかさずトランザルフがポリスターを放てば、ガレリオとニアの体はブラウンズヒルから行方を晦ます。彼として太鼓持ちのように自分へ従順なトランザルフへは相変わらず甘いようだが、シーラはやはり快く思えなかった。彼女自身の身体能力を活かしガレリオが転移した位置へ向かって飛ぶように急ぐ――煙の中だろうと飛び交うビームを軽やかに避けながら。


「反応は4人……いや5人か」


 煙幕が徐々に薄れつつある中、レクターのサーチャースコープには5点ほどの熱源反応を探知した。霧が晴れるや否や四方から取り囲むように紺色のボディスーツに身を包んだ少女たちが――シリアでかつて戦った面々と同じミュータントらしき刺客の姿であり、


「レクター、とうとう僕が君への復讐を果たす時が来たと考えたらねぇ!!」

「お前を俺は知らんが……所詮バグロイヤーなら倒すことには変わらない」

「おやおや、僕を知らないとは……悔しいけど姿も違うからね!」


 ミュータントの面々を率いて飛翔将軍トランザルフは、過去にレクターの手で半殺しにされた事とへの憎しみを露わにし始めた。レクターが記憶にない事を


「僕は君のティービストで操られたネクストに敗れたからねぇ! あのまま僕は死にたくなかったのに、天空将軍なら僕の地位は安泰だったのにね……!!」


――飛翔将軍はかつてネクストに敗れた天空将軍トループその人となる。敗れ去った時点で既に戦死同然の彼だったものの、セインクロスの腰巾着として振舞っていた事から、彼女に一応亡骸を回収され、ハドロイドの亡骸と継ぎ合わせる形で飛翔将軍として生まれ変わった経緯があった。


「セイン様がクレなんとかを仕留めてくれたおかげで、僕はねぇ!」

「……貴様!!」


 ただ七大将軍が仕留めたハドロイドの亡骸を元にして生まれ、その上で七大将軍の尖兵として立ちはだかる。そのようなトランザルフを相手にレクターがついに怒気を発した。ドラゴノガンを思わず目掛けて乱射するものの、彼が首元のタグを光らせれば自分の身を守るように光の膜を張って身を守る。


「セイン様のお陰で、僕も超常軍団の№2だからね! 早く殺しちゃいなよ!!」

「これは……!!」


 トランザルフが実質超常軍団のNo,2として、ミュータントの面々を率いる。4人の刺客の内3人が三方へ飛び散っていき、巨大なエネルギー砲を両手に担ぎ上げる一人はすかさず大出力のエネルギーを炸裂させた――彼女たちの襲撃にレクターが思わず目を見開いた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


次回予告

「アメリカ上空で繰り広げられる鋼鉄軍団との戦い! だが、ニアが飛び出した非常事態の中、俺はガレリオが拉致したとの知らせをレクターから知らされた。意外にもマリアさんを人質に突き出す条件を提示されたが、俺がニアを助けないでいいのか!! 俺はネクストを走らせて単身ガレリオの元へと乗り込んだ!  覚悟しろガレリオ、待っていろ……ニア!! 次回、ハードウェーザー「渡すものか! 俺のニア!!」にネクスト・マトリクサー・ゴー!」

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