37-5 暴かれるニア、仮初の娘に愛憎はない!
――マリア・レスティ。私は昔からよく言えば几帳面、悪く言えば神経質な女。既に20年程遡るけど、同期が気になる相手との色恋なり、洒落っ気に関心があった頃もただ方程式とにらめあう日々だったかしら。
そんな私は、誰かに言われたからでもなく、単に一つだけしかない正解へとたどり着くことが好きだった。こんな私にも声をかける物好きがいたけど殆どは振った。真実、たった一つの正解も見いだせない相手が、私に合う筈がないと察しがついていたから。そのような男へ恋に落ちる事を考えた事もなかったが、
『貴方のお陰で、ファがもうすぐ、ファはもうすぐ……』
ただ一人だけ、私を陥落させた人がいた。自分がデューイだと、気安く私に話しかけてきたあの人が、こうも簡単に私が落としてくれたとは思ってもいなかった。天体物理学を専攻していた私と、バイオ技術学を専攻していたあの人と結ばれる事は、たった一つの正解になるのかしら? あの人と一緒に家庭を持つようになってから正解を見つけ出せたかは分からない。
むしろ考える必要がないとも無意識に考える事をやめたのかもしれない。実際私とあの人との間にファを授かってから“たった一つの正解”にたどり着けたのかと無意識に満足していたのかもしれないわね。
「もう少しだから待っててね。お母さんがもう一度、やり直させてあげるからね……」
――けどね。そう幸せは長続きしない事になるなんてね。正解を考える事をやめた私への報いかしら? 現実は本当に残酷で私だけこうして生き延びてて、あの人とファの命を奪ったのだから。私が少し席を離れた隙に、本当一瞬でね……。
これもあの人の研究が反感を抱かれる事もあったから。医療目的を想定したクローン技術は人によって、良からぬ目的でつかわれるとも懸念の声も上がっていた。それだけならまだしも、反対の声が過激な破壊、それも殺傷を伴うテロに発展する事まで考えてもいなかったからね。
『あなたの為にお母さん、必死になったんだから……貴方の為に何もかも捨ててね』
私は一瞬にして気が狂いそうになった。それまで私が漬かっていた温かい微睡が奪い去られると、もはや私は生きていけないんだと。だけどね考えていく内に分かったの。私はやはりたった一つの正解を見出さなければ生きていけない女だって。
あの時の私は、ファがもう一度蘇らせる事をたった一つの正解と見たの。あの人の仕事の手伝いとしてバイオ技術の分野を学ぶ機会があった。あの人の仕事に身をゆだねるようになってた事もあるかしら。それと、私も知らなかったけど――ファのデータをあの人は詳細に記録していてね。ファをサンプルとして部位を作っていたの。少しショックもあったけど、それでもあの人が記録してなかったら、ファを作り出せないんだと考えたらそうは言ってられなかった……。
『399日、費やした甲斐があったんだわ……』
あの時から止まっていた時がもう一度動き出すだわ……焼け残ったファの髪の毛と指片を元にあの人のラボで1年以上付きっ切りで引きこもった。至らない所をあの人の研究資料から学んで、少しずつ成長をさせていった。
本当はもうすぐにでもファに会いたかったけど、急速に成長させることでたった一つの正解にたどり着けないとはわかっていた。私が計算した限りおおよそ3倍の速度かしら、3歳3か月余りのファをもう一度、あの日からやり直せるんだわ
『……!』
――培養装置のブザーが3回鳴り響いたわ。青いランプに切り替わると共に培養液がタンクの中から排出されたら、もうファが目を覚ますんだわ。一時的に重力を弱められ試験管の中でファがいる――可愛い、ファが本当あの頃から変わらない位可愛いなんて! 思わず私はその場から走り出し、試験管が上下から完全に解放されるまで待ちきれなかった。
『ファ……!』
重力に従うよう落下するファを私は抱きしめた。少しでも触っただけで壊れてしまいそうな華奢な体の筈だけど、少し力を加えれば反動で押し返す弾力性のある肌が心地よい。その後ろ首の素肌を隠すような黒髪は私と同じ色……だから綺麗なんだと考えたら本当にとろけそうな顔を私はしていた。
『う、うぅん……誰?』
『目が醒めたのねファ、お母さん、お母さんなの分かる!?』
『……あっ!』
付着した培養液が乾ききらなくても、私は何一つ纏わないファを思わず抱きあげた。意識を取り戻したばかりなのかしら?私の顔を憶えていない。1年以上も部屋に閉じこもって私も別人に診られるのかしら。それでも私が誰かと思い出したようにファがぱあっと明るい顔を見せてくれた。だから成功したんだ、正解なんだと不安が払拭される――はずだったわ。
『ママ……ママだ! ママ!!』
『……えっ』
――ママ。ファは私の事をお母さん、母さんと呼んでいた筈だった。私が知る限りママとファは呼んだことはなかった。3年3か月のデータをあますことなく入力し、調整したはずなのに、私が書き換えた遺伝子が違ったのかしら。ううん、こうも根本的な所から違うなんて!
『……私はだぁれなの? 思い出せない……』
『貴方はね……』
――あなたはファ・レスティ。もし聞かれたら私はそう答えるつもりだったの。けどファとしての過去の自分を思い出せないだけでなく、根本的な所からこの子はファじゃないかもしれない。もしこの子をファと呼んでしまえば、私が信じてきた正解を、今まで育ててきたファを踏みにじる事になるかしら。それを考えただけで私は背筋に寒気を感じ、
『ニアよ、ニア・レスティよ』
『私ニアなんだー、初めて聞いたお名前だね!』
――ニアという言葉には“近い“との意味があるからかしら。私はファに近い存在のこの子にそう名付けたの。ファと近いけど決してファなんかじゃない、その意味で名付けた瞬間に私は生み出してはいけない子を生み出してしまったのって思ったし、この子はファじゃないってわかった瞬間にシラけもした……
『ニア、右手でお箸を使ってと言ったでしょ!』
『なんでー! 私こっちの手の方がいいの!!』
『あなたは左手を使ったらだめなの! 母さんを怒らせないで』
『ぶー! 怒ってるのはママじゃない!』
『母さんって何回言えばあなたは分かるの!』
あの日から、私はニアを好きになれなかった。今更になって体が引き裂かれるような痛みを得てない子供にしか、人は大切にできないと分かるような気がした。誰の腹からも生まれずに、培養された試験管から生まれた子供に母親がいる筈がないんだわ……。
それだけなら私はあの子を赤の他人として突き放せたかもしれない。でもあの子は姿だけはファに似てる。それだけにあの子が私の手を妬き、周りを振り回しかねない性格になってきているのは正反対。右利きではなく何故か左利き、相変わらず私を母さんではなく、ママとばかり呼んでいる。このギャップ、ずれが浮き彫りになっていく。姿は完ぺきに近いのに中身が違う事が私のファを踏みにじっていく。
『パパ、いつ帰ってくるの?』
『……あの人は仕事でずっと忙しいって言ったじゃない』
『私、パパに会いたい。ママなんていつも仕事か怒ってるばっかじゃん?』
『写真の中であの人に会えるでしょ?』
この子が言う通り、私は本来の天体物理学者として活動を再開した。女手一つ……ではなく、私がニアと関わる時間を少しでもなくしたかったから。そんな私は明らかにニアから嫌われてもおかしくない、それで私よりあの人の事に関心も言ってたけど、元々ニアは私が生み出しただけで、あの人とは関係ないんだから……。
『ママ、ずっとパパをあの人、あの人って言ってるの変だよ! 』
『それは貴方に関係ない事よ!』
『何で!? ニア、パパとママが違う……』
それなのに、ニアは私の娘だって信じているの。違うでしょ、貴方はファじゃないニアなんだから私からしたら寧ろ苦しい事なのよ。それでもニアが私を困らせるから手が思わずあがってしまったわ……そこまで感情的になる事がおかしいのに。
『ママの馬鹿ぁ、大嫌い!!』
『……』
やっぱり、ニアは思いっきり泣きわめきながら部屋に閉じこもった。私がまさかこう手をあげるなんて思わなかったけど、貴方がファじゃないのにどうしてこう私に付きまとうの、私の事もちゃんと考えてよ!とでも叫びたかったけど3歳のあの子に言って何になるかしら――私が口を酸っぱくしてもニアがファになる筈はないと悟ったら思わず私は決心した。
その日の夜中、私はこっそりファの部屋に入った――ファじゃないのにベッドに入っているニアを見ているだけで苛立ちが込みあがるけど、こっそり麻酔を注射で打ち込んで、脳波へ干渉させて記憶の改ざんを試みた。念には念を入れて余程の事で目が醒めない事を確認して、車に乗せたわ。この真夜中じゃないと万が一のこともあるから……。
『ここが一番かしらね』
――最短のルートを通ろうとも、アージェスからコンシュマー地方へ越えるまでに何時間かはかかった。アージェスだと見つかるような気がしたし、トレントスだと何されるか分からないと不安もあったからかしら。コンシュマーの郊外が、この子には丁度いいとも思ったかしらね。
私は後部座席で眠りこけるニアを毛布ごと外に出した。出来る限り気づかれてほしいとその施設の出入り口へとこっそり忍び込んで、ニアの体を置いたら迷わずにその場から立ち去ったわ。
『貴方が赤の他人ならこうもしなくて済んだのにね……貴方がファの筈なのにニアなんだからいけないのよ』
あの人のデータと、私の計算は完ぺきの筈なのに――ニアをイレギュラーだと割り切る事に何故か少しだけ胸が苦しかったわ。けどその程度の苦しみで済む内に断ち切らないと、もうあの子に私は何をするかわからないし、これ以上振り回されたくなかったの。素早く車を走らせようとしたけ時、
『――ママ! いかないで!!』
『ニア……!!』
記憶を消したならあり得ない。そう信じてたはずなのに、真夜中にかすかな人影を見たわ。真後ろに小さな人影が――その時に微かに声を聴いたけど、まだ麻酔が切れる時間でもない。幻聴だわ。だから私は迷わずに全速力で走りだした。もうニアの姿が見えなくなるくらいにね……。
『馬鹿よ、私みたいな女がこう考えるなんて馬鹿だったんだわ……』
猶更私は天体物理学者としての活動を世間で続けていった。心の穴を埋めるために次々と正解を導きだせればいいと闇雲に動き続けてた。その最中でバグロイヤーが旗揚げをした中で、私は物理学の知識を買われて、電次元ジャンプの理論を完成させることに全力を注いてだ。この混迷した状況で多忙な日々の中で、私はいつしか古傷を無意識に忘れようとしてたけど……
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「――そういう事があったの。だから私があの子を娘と思わないのも、私が恨まれる事も当然でしかない結果かしらね」
「……」
「……あんまり聞きたくない事だったなー、なぁ」
メディカル・ルームにて、マリアは自分の考えと共に明らかにした。ニアを生み出すも捨てるまでに至った経緯を。玲也が俯きながら体を震え上がらせており、彼女の出生の秘密から受けたショックが大きかったのだとリタが案じる所、
「ファがいない現実について、ノー・コメントにさせてください。俺がまだ味わっていない事もありますから」
「少し癪に障る言い方だが……私の事情を理解したのなら」
「ファを喪った気持ちはよくわかります、その悲しみからニアを“生み出した“ことも百歩譲って認めます! ですが!!」
玲也自身マリアを襲った悲劇に対し、一応の理解を示そうとはした。自分自身事故で身内を喪っていない経験もあり、とやかく自分が首を突っ込めない領域だと察した事もあるが、彼女が現実を認められないまま今に至っていると、少し皮肉めいた言い回しながらも、深くその話に首を突っ込む事は避けた。その皮肉にマリアは多少気を害していたが――それ以上に、目の前の玲也としては彼女の考えを原則認める姿勢ではなかった。彼女に気を使う必要性は然程なく、
「それとこれとは話が違いますよ! ニアとファと違って当たり前じゃないですか!!」
「私とあの人のデータに何一つ狂いがないといったはずだが」
「俺の父さんでしたら、必ずしも同じ結果にならないと言いますよ。どれだけ同じ条件、環境だろうとも!!」
「確かにそうも聞いたがな。あの男はゲーマー崩れだけど」
玲也としてニアを生み出した理由に一応の理解を示しつつ、彼女を捨てた理由が自分勝手なものに過ぎない――目上の相手にも関わらず、非難する彼の口ぶりはマシンガンのように素早い。ただ彼の憤る内容が自分と相容れない事と言わんばかりに、マリアは秀斗が所詮ゲーマーと畑違い、生え抜きの科学者である自分と違うように一蹴すれば、
「貴方って人は! 俺の父さんを馬鹿にするなら……」
「がきっちょ、やめろ! 気持ちは分かるけど敵じゃないぞー!!」
久々に父親を馬鹿にされた事で、玲也自身のプライドまで踏みにじられたような気分にさせられる。流石に握りこぶしを突き上げるとリタが慌てて彼の体を抑えこんだ。相容れない相手だろうとバグロイヤーどころか、電装マシン戦隊へのれっきとした協力者だとして、個人的な怒りをぶちまけてはならないのだと思い起こされ、
「……仮にあなたがバグロイヤーでしたら、俺は遠慮なく殴り飛ばしていたでしょうね!」
「別に誰かに殴り飛ばされようとも、考えを改めようとはな」
「そういう話ではないですよ……本当、貴方は最低だ! ニアが親を恨む気持ちも流石にわかる!!」
――もし、グナートのようにバグロイヤーに魂を売ったならば躊躇いもせずに討つ、それができなくとも今目の前で殴り飛ばしていただろうとは。
玲也の胸の内には“ニアの母親“というマリアに対しての憎しみと不信感がこみ上げ、ただ吐き捨てるように非難しつつメディカル・ルームを後にする。親への慕情で自分とニアは対照的でソリが合わないとは捉えていたものの、まさか初めて同じ感情を抱くとは自分でも思っていない様子だった所、
「……ニア、ニアか!?」
「……ご、ごめんね。あたし、その思いっきり殴り飛ばしちゃって」
「い、いや。それは気にしていない……リン、どういうことだ!!」
「ご、ごめんなさい! ニアちゃんが謝りたくて、その……」
戸の前で呆然とニアが突っ立っていた――同伴していたリンが言うには、一応落ち着きを取り戻した彼女として、思わず玲也を殴り飛ばしてしまった事へ謝罪を済ませたい想いがあった。彼女の気持ちを汲んでリンはハッキングで彼女を密かに部屋から出していたものの、
「それでね、その……何で記憶がなかったかやっとわかってね」
「いや、正直お前が母さんを憎む気持ちもよく分かった! もし俺なら殴り倒して、しばき倒してもおかしくなくてだな」
「やめて! ママを悪くいわないでよ!!」
既にニアの目は、絶望を思い知らされ虚ろな状態でもあり、体が震えたまま如何にも泣き出しかねない。玲也が彼女を安心させようと、オーバーなリアクションを取りながら慰めようとする。
ここまでして、彼女に媚を売る事態は、今までの彼ではまずありえない、内心彼も動揺している事も含め、明らかに不慣れな演技をとっている。あまりにもぎこちない彼の姿を目にすることも辛かったのか、思わず彼女は玲也を黙らせるように叫ぶ――あれほど親を憎む彼女が初めてマリアを擁護しするとともに
「ママ……なんであたしが捨てられたか、やっと分かったよ。元々ファって子の代わりに作られたなら」
「……その通りよ、貴方なら自然とファになると信じて何も言わなかったけど」
「おい! お前そこで言う台詞かー!!」
「リタさん、だってあたしそう作られてたから? ハドロイドとか以前の問題じゃん……」
既に自分が作られた存在との境遇から、マリアへの憎悪が遥か昔のように――もう許す許さない以前に、所詮自分は作られた生命に過ぎなかった人以下でしかないのだと直面した。
どこか悟ったように彼女を憎む資格もないと自分に言い聞かせていたが、悲嘆な顔つきの娘を前にしようとも、マリアが臆せずに、娘を作り出した事実を淡々と認めただけ。謝罪の言葉が一つもない様子へ、流石にリタも黙ってはいられない。玲也も無愛想かつ、無神経な母親の言動に震え上がりながらも、
「やめろ、やめるんだ! 自分で自分を貶めて何になる!!」
「本当、あんたとエクスに、あたしなんか歯が立たないってよくわかったかな……」
「ニアちゃん、そんなことない! ニアちゃんがどう生まれてきても私は!!」
「ありがとリン……でも、ごめん!!」
やがて、ニアとして玲也の元にいる資格もないのだと自己嫌悪に陥り、思わず玲也を突き飛ばして一人走り去っていく。事実を突きつけられ、耐えきれないように飛び出した彼女にマリアは微動だにしないが、
「ニアさん……またもや玲也様に危害を加えられ……」
「馬鹿! そんな事があってたまるか!!」
ニアと入れ違うように、エクスがメディカル・ルームへと駆けつけるが、ドアの奥で、突き飛ばされた玲也がリタに背中から支えられている様子を目にして、ニアがまた問題を起こしたのではないかと早合点していた。透かさず彼女の思い込みを否定するよう玲也は怒鳴りつけ、
「ニアちゃんが飛び出していったんです! 早く探しださないと!!」
「余計まずいじゃないですこと!? 全く本当あの方は、どうしてこうも!!」
「ニアは悪くない、この女が……!!」
ドラグーンからニアが飛び出した――この独断での逃亡にエクスがニアの問題だと非難するものの、玲也はあきらかにマリアが悪いと触れようとした瞬間に、艦内べブザーが鳴りだし、
『PARアメリカ本部上空に、バグロイド反応! 各セクション、臨戦態勢!!』
「この時にバグロイヤーか……畜生!!」
「ど、どっちを優先しまして!? ニアさん一人とその……」
――クリスからアナウンスされた事柄は、あまりにもタイミングが悪かった。アメリカ本部が戦果に見舞われているとなれば、ニアという個人を探すよりも、迎撃に回る優先順位は遥かに跳ね上がる。エクスから尋ねられる事柄も最もであり、
「わかっている! クロストかネクストだが……」
「バーロー! んな事言ってる場合じゃねぇだろ!!」
今の玲也が臨戦態勢から外されているとはいえ、バグロイヤーの襲来に対し降りかかる火の粉を払わなければならないのだと、自ら打って出る姿勢を見せるが――アンドリューは彼のすべきことは戦いではないと諭し、
「アンドリューさん……まさかと思いますが、その」
「決まってるだろー、イーテストで打って出るんだしよー」
「そんな! アンドリューさんも分かってる筈ですよ! リタさんの事分かってて……」
玲也に代わりアンドリュー自らが打って出るとの姿勢だが、リタの容態を知る者として、玲也は真っ向から出撃を見合わせるようにと進言する。すると彼は玲也の首元をつかみ上げ、
「何をされまして! いくらアンドリューさんでも玲也様へ手出しをされますと」
「外野は黙ってろ! 何時からリタのパートナーになった、あぁ!?」
「それとこれが、リタさんの身に関係あるとでも!?」
「バーロー! 大ありなんだってわからねぇのか、おめぇはよ!!」
エクスが突っかかるのをものともせず、アンドリューは玲也へと思わず声を荒げて叱りつける。リタの容態を心配する権利は自分にもあると、玲也は言いたげだが、さらに彼は火に油が注がれたかのように怒号を飛ばし、
「あたいは全然大丈夫だぞー、そんなに心配なら早くニアを探せよなー」
「……!」
「ったく、おめぇが答え言ってどうするんだよ」
リタはアンドリューを相手に自分は無理をしていないとアピールしつつ、今の時点で最大の問題はニアにあるのだと諭す。思わず目が醒めたような顔つきを玲也が見せたとともに、アンドリューは血の気が抜かれるように彼の首元から手を離し、
「おめぇのパートナーはこいつらだろ? リタを心配するくれぇならよ」
「でしたら私の事も玲也様は……」
「バーロー、おめぇよりニアが大事だって言ったろうが!」
「そうですね……バグロイヤーを倒さなければと躍起になってまして」
アンドリューの言う通り、玲也のパートナーはニア、エクス、リンの3人になる。マルチブル・コントロールを手にするとともに3人とそれぞれ二人三脚で試練に挑み、乗り越えてきた事を考えれば、ニアを前にしても同じように向き合わなければならないと気づかされ、
「必ず俺が探し出します。それにちゃんとニアの事も……!」
「おー、がきっちょもかっこいい事言うなー……いい所だからお前は少し黙ってなー」
ニアの出自を知った今、彼女を理解するための柵が取っ払われようとしつつあった。先ほどまで彼女と向き合う事にあった一抹の躊躇をぬぐい捨てた様子へ、リタは素直に称賛の言葉を贈る――ニアの事で嫉妬しているエクスを抑え込みながら。そしてポリスターで直ぐにシャルへと通信を交わしており、
「すまない、ヴィヴィッドで行こうと思ってな」
「つまりシャルちゃんに任せる形で、私たちは」
「そうだ。探すとなればネクストが一番な気がしてな」
ヴィータストが電装されるにあたって、火力と空戦能力を強化したヴィヴィッドとしてシャルに任せる事が最善だと判断を下した。そして本体となるネクストはニアの捜索の足として使おうとする狙いであり、
「あの玲也様……私は、私はこの場合」
「スフィンストとのコンバージョンに回したくてな……だから」
「いや、だったら俺がコンバージョンしてやっから」
「エクスも一緒に行きなよー、やっぱ心配なんだろー?」
「だ、誰がニアさんなんか心配して! 私が心配なのは玲也様で……」
エクスに関して、スフィンスト・ストライクとして前線に出てもらう必要性がある――その為、彼女が外されようとしていた所で、アンドリューはスフィンストの力を借りたいのは自分であると、意外な事を提案しだす。リタに揶揄われてエクスが多少照れていたものの、
「もしかしてイーテスト・ブルだと思いますが……」
「アンドリューさん、実戦では初めてならその……」
「心配するな―、何度も慣らしてるつもりだからよー」
「まぁ、おめぇらの言う通り。俺もあくまで無理はしないつもりだからよ?」
スフィンストとのコンバージョン形態“イーテスト・ブル“としてアンドリューは実戦へと出る――彼の胸の内を玲也は汲んだうえで、
「頼みますよ……無理はしないのでしたらちゃんど」
「それは俺がいいてぇよ。ちゃんと帰って来いよ」
「勿論、ニアも一緒でなー!」
互いに無事を祈りながらも、一足先にアンドリュー達がアラート・ルームへと急がんとした。彼らに続くように玲也たちも前へと出ようとした途端、
「……貴方、ニアに惚れている物好きのようね」
「も、物好きでして!? ニア様は確かにまぁ私も否定しませんが……」「
「正直、惚れているかまでは断言できませんが、少なからず大事な相手です!」
彼らの足を止めるように、マリアは淡々と、たださりげなく玲也とニアの関係へ一歩踏み込んだ内容を尋ねた。エクスのリアクションが少々見当違いであったのを他所に、玲也は自分にとって彼女が大切な相手だと真っ向から告げた。あくまで惚れているかは分からないと前置きに、エクスが後ろで密かにガッツポーズを作っていた事はともかく、
例え何度ぶつかろうとも貴方よりはニアを大切にしたいと思っていますからね!!」
「ま、待ってくださいませ! 私が一緒なのもそのですね……」
目の前の相手が曲がりなりにもニアの母親だろうとも、面と向かって彼女が大事な相手だと告げてアラート・ルームへめがけて駆けだしていく。彼女を半ば忘れかけたように走りだしていったと気付いて、エクスが大慌てして後を追う。
「……ほぉ、言ってくれるわね」
ただ二人が離れた後に、マリアはぽつりと独白する。実の娘を模した出来損ないの道具だと先ほど口にした割に、どことなく執着めいた感情も含まれつつあった。
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