37-3 ぶつかるニア、やぶれかぶれ!

「一応礼は言いましてよ……玲也様とでしたら言う事なしでしたが」

「も~相変わらず素直じゃないんだね」


 ――ドラグーンのリフレッシュ・ルームにて。設置されたベンダーからのレモンティーへ口を添えながら、エクスはすまし顔でシャルへと話す。彼女がコーラを豪快に飲み干している様子からして相変わらず対照的、水と油のような犬猿の仲でもあったはずだが、いつもと違って彼女は跳ね返ることなく、


「せっかく僕が選ぶの手伝ったんだからさ、これは玲也君じゃ……」

「ですからその事については感謝してまして」

「まぁ、僕からも深く言わないよ。まさか同じ事になんて……ね」


 二人に挟まる形で、白い水仙の束がテーブルへと置かれていた。これもシャルがエクスの為に選んだとの経緯があり、彼女は自分と同じであると口にしており、


「……ちょうど同じ寒かった日の事だよ。白い水仙にしたのもその為で」

「白い水仙、ゆらゆら揺れる……と貴方はよく歌われてましたが」

「それはあんまり関係ないけどね、グランパとグランマがいつも供えてて、今度もね」


 白い水仙をシャルが選んだ理由として、エクスの父や兄へと供える花であったからだ。玲也たちがオール・フォートレスへ出向して籍を外していた間、エクスは彼女らと供えるための花を買いに出かけていた。シャルもまた本当の両親の事を脳裏に思い浮かべて、


「たとえどんな悪い事してもね、パパンとママの事は忘れられなくてね……」

「貴方と同じですわね……ゲーツお兄様の事も」


 シャルの両親は、サイバー犯罪に手を染めて因果応報といえるような横死を遂げた――深海将軍として敗れて散ったグナートもまた同じ道を踏み外しながらも、情念を断ち切れない身内を持つ者同士として接点が生じつつあった。


「でも、僕がグランパに救われたんだからね。エクスも引きずってばっかじゃダメだよ」

「引きずってだなんて、私が足を引っ張ってるように聞こえますが?」


 そんな最愛の兄を殺めざるを得なくなったエクスへと、わざと煽るようにシャルは再起を促す。やはり犬猿の仲としてエクスは彼女へ苛立ちの声を挙げようとすれば、


「ごめんごめん、でも玲也君とできたんだよね? マルチブル・コントロールがさ?」

「それはそうですが……貴方は一体?」

「そこで僕に聞かないでよ。玲也君玲也君っていつもべたべたしてるんでしょ?」


 シャルは直ぐに謝りながら、空き缶をゴミ箱へと捨てる。ただ突如彼女はエクスへ背中を向けたまま振り返ろうとはしない。ただ微かに肩を震わせていたが、


「エクスが元気になるまで好きにしていいからさ。折角のパートナーなんだしさ」

「な、なぜ貴方の許可がいるって……シャルさん?」

「もう、玲也君を少し任せるくらいの気持ちだよ? だから付き合ってあげたじゃん」


 顔を合わせれば何かといがみ合っていたにも関わらず、まるでその喧嘩友達が自ら身を引いて、自分へ託そうとしているかのように見えた。エクスが思わず言葉を失った事も、シャルの胸の内から、体が引き裂かれんばかりの切ない想いを感じ取ったようだが、


「あ、改めて礼を言いますわ! 決して、決して貴方の為ではありませんが!!」

「もう素直じゃないんだから! 偶には仲良くしてもいいのに!!」

「わ、私は別に貴方が難癖をつけませんでしたら……って何笑ってまして!」


 シャル相手にエクスなりに、感謝の言葉を伝えようとしたものの――小さな体で切実な思いを背負っていた様子も芝居に過ぎなかった。まるで自分の演技に引っかかったような彼女の様子に、シャルが笑いだした途端、一杯食わされた事にエクスが気づき、


「不愉快ですわ! シャワーでも浴びてきます事……きゃっ!」


 怒りか恥じらいか、少し顔を赤くしたエクスが花束を手にして、そそくさとシャワールームへと駆けだした途端。曲がり角の人物と正面からぶつかってしまい、思わず花束を手落とし尻餅もついてしまった。その相手を目にするや否や、


「どこ突っ立ってまして!? お父様への水仙の花が……」

「エクスが前向いてなかったからだよ……って言いたいけど、ニアちゃん?」


 エクスと鉢合わせでぶつかり、同じ尻餅をついた状態からニアは立ち上がった。彼女のせいだと詰るエクスを宥めつつ、シャルが二人の仲を取り持とうとしていた途端、ニアは落とした花束を手に取り、


「本当何時までたっても、パパママ、パパママって」

「ニアさん……貴方は今、何て」

「二人とも落ち着いて! ニアちゃんだって気が立ってると思うんだけど、ねぇ……」

「そうねぇ、本当むしゃくしゃしてるけど」


 辟易としながらも、ドスを聞かせたニアの声をエクスは聞き漏らさなかった。そしてシャルも一触即発の事態を避けようとして、二人の仲を取り持とうと立ち回る。これも彼女から水仙の花束を返してもらう為だが、



「あんた達みたいに、親離れできないのと一緒なのもね……!!」



 だがシャルの予想は大きく裏切ラrえ、二人の目の前でニアは花束を地面へと叩きつけ――その足で束をすりつぶすように何度も足で踏みつけていった。流石のシャルも開いた口がただふさがらず、


「ちょ、ちょっと酷いよ、いくらエクスの事が嫌いでも……」

「あたしだってやはり嫌いですわ……!!」


 言う迄もなく、シャル以上エクスの怒りが図りしれないものであった――既に二人の一触即発を止められるものは居合わせていなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ニアとエクスが……まさかそこまで!!」

「だから玲也君に来てもらわないと……迷惑かけて悪いけど!!」


 ――それからすぐにシャルは玲也を呼んだ。才人ともどもアラート・ルームで控えていた状況も関わらず、彼女からはパートナーの玲也でなければ収拾がつかないと見なした為。実際リフレッシュ・ルームへと繋がる曲がり角からは一人の人影が弾き飛ばされ、壁に叩きつけられており、


「ほら、やっぱりロディじゃ……」

「余、余だって好きで仲裁をしようと動いてはいない!!」

「すみません、ニアとエクスがとんでもないことを……」

「いや、理由は余にも見当がつくが、まさかあそこ迄……」


 シャルが玲也を呼ぶ間、ロディが二人の仲裁に回っていたものの――やはりか否か、二人を止められる訳もなく、ハドロイドの力を前に無力でもあった。実際、曲がり角から明らかに鈍器を手にしたような打撃音まで聞こえており、もはや彼女が離れた時以上にエスカレートしている様子であり、


「どうして、あんたはいつもいつも親の事をひけらかすのよ!!」

「ニアさんこそっ! 私が、お父様の墓標に花をお供えする事に、どうしてケチをつけるのでして!!」

「直ぐニアちゃんが謝ればよかったけど、何か凄い意地張っちゃって」

「それでエクスとこじれた訳か!!」


 ――リフレッシュ・ルームでは、二客の椅子の足が折れるなり、へし曲げられるなりとの有様で、机の表面だけでなく壁にいくつかのめり込みが生じていた。床を激しく転がる二人の様子を見れば、青い痣が顔面に残されておりニアはまだしも、エクスですら衣類が床を転げて煤がついたように汚れ、数か所が破れている。


「エクスの事でいら立つ気持ちはわかるパチ、早く止めた方が……」

「当たり前だよって! コンパチまでいつの間に!?」

「ニアの事でオレも知ってる事があるパチ! 早く明かした方が」

「明かすって……まさか!?」


 同伴していたコンパチを咄嗟に玲也はその手で抑え込み、彼が飛び出す事を阻止する。それも何らか彼女にまつわる秘密を知っているとの口ぶりであり――玲也にもその秘密が何なのか思い当たる点があった為であり、


「何で止めるパチ! ニアは親に捨てられたことが」

「だからと言ってここで明かすには……ニアのショックも考えたら!」

「ねぇ、明かすとか秘密とかショックとかって一体何なの!?」

「な、何でもない……俺がどうにかするだけだ!」


 コンパチが掴んだ秘密は、おそらく玲也が知らされた内容とほぼ同じであろう。それだけに大勢が集まる場で彼女へ明かす事のリスクに直面し、玲也ですら思わず躊躇してしまう程であった。これも自分と祖父の一件と近い葛藤を避けられないと見た為であり、


「あんた、いつもお高く留まってるけど、その恰好の方が似合ってるわ!」

「例え襤褸を纏っていましても、私は既に錦の心ですわよ!」

「どうにかするなら早くいけパチ! パートナーとしてパチ!!」

「わかっている! 二人ともやめろ、落ち着け!!」


 とはいえ、続くニアとエクスの喧嘩を止められるのはパートナーの自分を置いて他ならない。コンパチに急かされたこともあるが、パートナーとしての義務を果たさんと、玲也が少し声を荒げて喧嘩に割り込み、


「まずお前が謝れ。エウスに花も弁償しろ」

「何であたしなのよ! エクスがパパの事ばかり自慢してたのは責めないの!?」

「……エクスがこの間父さんも、兄さんも喪った事を考えてみろ」

「そうだよ! 僕はエクスの肩を持ちたくないけど、そんな事迄行ってなかったよ!!」


 明らかに殴り合いまで発展した二人の喧嘩は、経緯を聞く限り明らかにニアが悪い。彼女のコンプレックスが刺激された故に憤ったとしても、ひねくれに限度がある。シャルとしても、親の一件で似通う故かエクスに味方しており、


「エクスもニアが謝ったら許してほしい。俺の方からも」

「あぁーはいはい、立派な親がいればあたしがひねくれずに済んだんですかね?」

「おい、その言い方はないだろ!親がいるいないでそうなるとは」

「そうだべよ!」


 玲也たちニアへ非を認め、頭を下げるように勧めたが――ニア自身ひねくれが度を過ぎていると自虐して開き直る有様だった。ニアの口ぶりに玲也も少しカチンと来た途端、どこからか小柄な色黒の少年が割り込んでおり、


「ニア姉ちゃん! エクス姉ちゃんを虐めるのはやめるっぺよ!!」

「い、虐める……あたしが何でエクスの事を!!」

「とーちゃん、にーちゃんが死んだら悲しいっぺ、ピーコの時と同じだべよ」

「ラグっち! 気持ちはわかるけど大人しくした方が!!」


 玲也とエクスを庇うようにして、ラグレーはニアの行為が八つ当たりだと幼いながらも、少し厳しい態度で指摘する。底抜けに純粋なのか、朧げに相手の内面をつかんでいたのか。少し達観したようなラグレーの物言いに驚きつつ、ニアを相手にする事が危険だとシャルは止めようとしていたものの、


「どきなさいよ。子供のあんたの出る幕はないわよ」

「おいら子供だべ! アグリカ姉ちゃんのおっぱいが大好きだべよ!!」

「余、余がいる所でその話はだな……」


 ニアからは、最年少のラグレーが出る幕ではないとあしらわれながらも、彼は自分が子供だとは否定しない。それどころか、実の親の顔を覚えていないだろうとも母の温もりを自分が求めている点を隠すことはしない。本来のパートナーであるロディからすれば、少し顔を引きつらせるような話でもあったが、


「だから、子供の話をしてるんじゃないの! あんたは」

「ニアねえちゃんだって、かーちゃんのおっぱいが好きだべ! 間違いないっぺよ!!」

「なっ……!?」


 そして、ニアの本心もまた自分とさほど変わらない――母への慕情に起因しているのではと朧げに指摘を交わす。これに一瞬の隙を付かれたようにニアの顔が赤くなり、


「ニアさん、あなたよりラグレーさんの方が立派ですわよ?」

「何で、あたしが比べられないといけないのよ!!」

「何かオレからしたら、ニアだけ特別だ、悲劇のヒロインだって言ってるみたいパチね」

「……ロボットのあんたには分からないわよ!」

「……悪かったパチね」


 一瞬雪解けのような雰囲気が漂ったものの――エクスがラグレーと引き合いに出した上で、ニアをやはり非難する。親に捨てられようとも、それで屈折した性格になる訳ではないと、ラグレーから証明されている節があり、二人の差を踏まえた上でコンパチが単にニアが自分を正当化しようとしているだけだと冷淡に述べる。所詮ロボットとニアから切り捨てられるように一蹴されれば、彼も拗ねたように吐き捨て、才人も少し冷めた視線を送る。


「ニア姉ちゃんはかーちゃん、とーちゃんが好きなんだべ! エクス姉ちゃんと同じだっぺ!!」

「子供だからってあんたねぇ……!!」

「ニアちゃん!」


 親に捨てられた点で同じではあるが――それを踏まえても大手を振ってあっけらかんとしている彼と、10年以上その憎しみや恨みを引きずっている自分と一緒にされたならば、ニアのプライドに傷がつく。彼女が再度拳を握りだした瞬間、シャルが慌てて彼女を止めようと動き、


「構いませんわ! 人の事はあまり言えませんが、貴方みたいに幼稚なお方は!」

「かーちゃんのおっぱいが恋しいんだっぺよ!!」

「言いたいこと言ってるんじゃないわよ……!!」


 ニアがラグレー以上に幼稚である――そう厳しい言葉をかけなければならないと、エクスが口を酸っぱくした結果彼女の堪忍袋はとうとう限界に達した。シャルの制止を振り払って。その拳がストレートに突き出された瞬間。


「うあっ!!」

「えっ……」


 ニアが振るう拳を受け止めようと、彼は早速割り込んだ。別の相手が割り込んだとニアが気付こうとも、同じハドロイド相手へ突き出した拳をそう簡単に直ぐ止めることは出来ない。殴り飛ばされた彼は口を切ってしまっており、


「玲也の兄ちゃん……大丈夫だべか!?」

「玲也様! 何故私を庇ってまで……」

「……出来る事なら本気の一発を喰らいたくはなかったが」


エクスによろけた体を支えられ、ニアの一撃で口を切ろうとも玲也はぎらついた視線で、パートナーの彼女を睨みつける。彼の眼光に思わず相手が震え上がった途端


「ちょっと何なの……なんであんたが、関係ない筈なのに」

「玲也さん、大丈夫ですか……!?」

「申し訳ございません、若を庇われるのは本来私が……」

「……プレイヤーとしてのけじめだ! これくらい何てことは!!」


 偶然が重なったとは言えども、思わず本気でパートナーを殴り飛ばした事に対し、流石のニアも動揺をあらわにする――まるで憎しみの矛先を見失ったかのように。そして玲也を介抱しようとするシャルやヒロからも、自分へと困惑と憤怒の表情を浮かべていた頃、


「あ、あぁ……」

「おー、おーラグ坊にも、玲也にも当たり散らすとかかっこ悪いよなぁ?」

「余、余も被害を受けたのだが……」

「んな事わかってるから。まぁ後であたしが診てやるよ」


 放心状態のニアへと、アグリカが手厳しく指摘する――八つ当たりめいた行動を引き起こし、醜態を晒しているのだと。ロディに対しては言葉はぞんざいながら、彼女なりの気遣いを見せていたが、


「だ、だって今のは……あたしだって好きで玲也を殴ったとか」

「今度は言い訳かよ。せめて、もっと面白い事考えろよな」

「面白いも何も、わざとじゃないなら、玲也様を殴って良いのでして!?」

「エクスも落ち着いて、同じパートナーなんだし……」


 アグリカの皮肉へ追随するように、エクスも憤怒の感情を露わにしつつあった――同じ玲也のパートナーだろうと、玲也へ手を挙げた行為はハドロイトの在り方から悖る事だと。シャルは少し眉を嗜めていたものの、彼女がそのように怒る心情までは否定していない。


「ニアさん、いい加減愛想が尽きましたとは……」

「エクス様、今は落ち着いてくださいませ。まずは冷静になられることが」

「いい加減ニアでも限度があるパチ!! マリアがニアのお袋かもしれないパチ!!」

「コンパチ、お前やはり!」


 真っ先にエクスがニアへ報復しようとするものの、ヒロに制止されて黙らざるを得なかった。けれどもコンパチが我慢の限界に達したのか――偶然耳にしてしまっていた彼女の秘密を公にした。玲也が突拍子もない彼の行動に少し呆然としており、


「な、何よ! あのマリアって人があたしのママだなんて、もう少しうまい嘘をつきな……」


 玲也も既に知っていたような口ぶりから、ニアの胸の内は猶更不安でかき乱されようとしている、彼らの口ぶりから事実を受け止めなければいけないのかと、己の気持ちを整理しようとすれば、すかさず彼女の頬に鉄拳が飛ぶ――赤紫色のポニーテールをなびかせるウィンがただ唇をかみしめており、


「リタさんがここにいれば、貴様を殴り飛ばしていた筈だがな……」

「ウィン様、けじめをつける役回りを引き受けてくださりまして何と」

「いえ、私も同じことを指摘され殴り飛ばされた事がありましたから」


 あくまでウィンが、けじめをつける為にニアへの鉄拳をぶちかます役回りを引き受けた。彼女として以前の自分と重なる所があり、どこか憐れむような目を向けていた所、


「コンパチ君から映像を送ってもらってたけどね……大丈夫かい?」

「は、はい……口を切っただけで済みましたから、戦えるかと」


 ウィンがニアを一喝する傍ら、エスニックは真っ先に玲也の様子を案じた。ハドロイドのパートナーに殴り飛ばされたとしても、骨にまで影響はない――とのことで、彼は口から血を流しつつも健在であると口元を緩ませていたが、喋るだけで口内に痛みは走り直ぐ表情が歪む。


「まずはメディカル・ルームに行くんだ。ヒロさん」

「はっ、若もよろしいですか?」

「わかったっぺよ……玲也の兄ちゃん……?」

「大丈夫だ、口だけ、だから……」


 ヒロだけでなく、ラグレーも自分が割り込んだことが遠因で、玲也がかばい立てて負傷したのではと、後ろめたい気持ちもあって声のトーンが少し沈んでいた。ケニア代表が玲也に肩を貸して、メディカル・ルームへ歩む様子へ、エスニックが少し安心したように目を向けた上で、


「エクス君は一応レポートを提出してもらえないか。君も随分と暴れてくれたが」

「それはですね……いえ」

「ただ経緯を考えると、君が怒る事も一理ある。その上で今回は大目に見よう」


 エクスに対しては、あくまで父の死から日が浅い事と先に仕掛けたのはニアであるとの二点が酌量を予知するきっかけとなった。エスニックが軽く溜息を零しながらも厳重注意という建前と、反省文同然のレポート提出との軽い処罰で済ませた


「しかし、この部屋は……リフレッシュをするのは流石に……?」

「すまないが、少しの間我慢してもらえないかな。生憎人が今足りなくてね」

「あー、あたし達は大丈夫っすから。ったくお前はいつも一言が余計だ」

「申し訳ありません事……」


 一応エクスもリフレッシュ・ルームの備品をいくつか破壊したと思われるが、ジーロ達メカニックスタッフがドラグーンの改造で総動員している状況。有事の中では優先順位が低い事をエスニックは、疑問を呈したロディへと詫びを入れる。その直後に彼の心境を汲んでか、アグリカがパートナーを茶化していた所、


「ね、ねぇ将軍……マリアって人があたしのママってのは」

「ニア君、事実かどうか知る事を止めはしないが、今考える事ではない筈だよ?」

「そんな! 今考える必要がないって他人事みたいに!」

「立派な親がいるとかで馬鹿にしてた貴様が今更か!?」


 肝心のニアは、マリアが自分の母かもしれないとの真実を突き止める事を望んでいる様子だが――エスニックは否定も肯定もせず今は、それを考える資格がないと冷たく突きつける。彼女が抗議すればウィンもエスニックへ同調するように蔑視の目を向けている。彼女の主張に殆どの面々が首を縦に振らざるを得ない所、


「本当いい加減にしろ……ハドロイドとして迷った挙句、こうも八つ当たりで玲也まで殴り飛ばすとかなぁ!!」

「ウィン君の言う通りだね。玲也がまだ大したことなくて良かったけどよ……一歩間違えたらどうなったか」


 ウィンとして、マルチブル・コントロールの一件からニアの様子がおかしいと薄々察していた。その上で個人的な感情やコンプレックスに駆られるように、被害をもたらすことから思わず胸の内の憤りを爆発させた。そんな彼女の怒りをエクスがなだめに回りつつ、プレイヤーとハドロイド間の信頼に亀裂を入れたのは愚かな行為だとのだbb断じる。そしてハドロイドの面々へ釘をさすように顔を見合わせた後、エスニックへ視線を送れば。


「悪いけど少し辛抱してもらうよ――いいね?」

「それってつまり……謹慎じゃ」

「謹慎も何も同情の理由はない……それだけの事をしでかしたからな」


 エスニックとして、この騒動の元凶となるニアに対し自室で謹慎するように処罰を下さざるを得なかった。彼女への仕打ちにシャルが多少焦ったものの、ウィンは至って冷静であり


「……わかったわよ、わかりましたよ!」

「おー、わかってるなら早くいけよ。そうだろ?」

「すまん……外に極力出さないためにも今は」

「そ、外に出さないってあんたは一体何するつもりなのよ!?」


 開き直ったようにニアが承諾をするとともに、アグリカによって彼女自身の部屋へと連れ込まれつつあった。ウィンが加わった為両腕がふさがれた状態となってしまう。部屋の外を出ようとニアは模索していたが、


「……一応電装の必要があったら解除されるはずだけどね」

「電装の必要があったって……結構運任せみたいですけどね」

「その運次第で出てもらう事はあるよ。それをありがたく思えとは言いたくないけどね」


 エスニックへも悪態を尽きながらも、ニアは自室へと連行されつつあった。小さくなりつつある彼女の後姿へと軽く溜息をついており


「君たちまで巻き込んで申し訳ない……おや」

『将軍、アメリカ大統領からその……』

「やれやれ、アンドリュー君が戻ってきて早々これか」

「将軍? アンドリューとそれと何か関係あるの?」


 さらに、クリスから自分でなければ話がつかないとの大統領からの通信が入った。悩みの種が一つ増えたとぼやく彼へ、シャルが思わず尋ねたが、


「何、もうすぐ戦いが終わるだけにね。もう少しだけ辛抱してほしいんだけど」


 ただ詳細はぼかしつつも、エスニックは苦笑しながら触れた――バグロイヤーとの戦いが終わりを迎えようとしている故の勇み足であると。

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