33-4 出陣、鋼鉄将軍ハインツ!
「……相手が犬っころばかりなら、本当攻めたいんだけどね!」
シベリアとモンゴルの間に位置するアルタイ山脈にて、戦闘は繰り広げられていた――猛獣軍団のバグビーストらが守りを固めるように陣形を組み、ミサイルを打ち尽くすように連射してブレイブ・バディの侵入を阻止せんとしていた。
一方塹壕に陣取りブレイブ・バディの面々もミサイルを迎撃しながら、ガーディライフルを浴びせて攻略の糸口をつかもうとしていた。そして彼らを率いるようにウィストの姿があったものの、
「力ずくでの攻略は愚の骨頂、いやサンディストの方が向いている」
「まぁブレストもいるから猶更だけど、私がこういう役回りをやるのもね……」
ウィストは白兵戦を主体とするタイガーではなく、正座させるように下半身を折り曲げ、無限軌道を展開したジャガーノーツとしての姿でカイザー・キャノンを繰り出していた。いわゆる砲撃船主体の攻めに出ていたものの、白兵戦を得意とするウィストでは不慣れである――コイが珍しく不平を口にしていた途端、サンはブレストとサンディストに強行突破の役回りを託しているとの作戦概要を改めて説く。2機とも幾多ものバグロイドを相手にして返り討ち、いわゆる肉を切らせて骨を断つ攻めに向いている為でもあり、
「貴様は無理をするな。病み上がりに死なれたら流石に困る」
「……一応気遣ってると思うけど、その言い方はどうなのよ」
「休め、休めと言っても聞かないなら、何故貴様を気遣う理由が」
『でも、僕たちは心配ですよ』
サンとして、言い方がやはり刺々しくあったものの、パートナーを彼なりに案じている様子はあった。これもビャッコ・フォートレスの食堂にデランディアーを仕掛けられた為、コイは毒にやられたように療養のブランクがあった為。病み上がりだろうとも、腕が鈍ることを避けるため、この攻略作戦へと参加して今に至る。彼として微かに懸念があった所、ビャッコからの通信が入り、
『兄さんの言う通りです! 僕たちのウーラストでも砲撃戦はできます!!』
『コイさんが無理されてますし、ウィストはその……』
「あのねぇ! ただ前に出て戦うだけで出てるわけじゃないんだからね!!」
インド代表の二人がそろって、コイが無理をしている上ウィストが慣れない戦局へ投入されている事を意見するものの――コイは余計な気遣いは無用と、少しいらだったように答える。先輩になるパートナーが後輩を前に余裕を保てていないと、サンが軽く溜息をついたのち、
「貴様らがその気でいる事を責めないが……一人で戦えるなら苦労しないだろうな」
『ご、ごめんなさい……』
『もしかして僕たちが余計な事を……』
「ウーラストのプレイヤーなら、周りの様子を良く把握したほうが良い。私やコイよりな」
自分たちの心配が、コイ達を軽く見ている事に気づかされた途端二人とも恥じるように前言を撤回する。ただ最後発ながら、二人がプレイヤーとして高い意識を持っているが故でもあると、サンは少し優しい様子で諭す程度に注意を留め、
「ライトウェーザーの指揮まで執るなら、経験も実績もいる……コイにその力量があるから」
「だから、必要ってなったら出てもらうから! ちゃんと待機してなさい!!」
『は、はい!』
『出るとなりましたら、指示をお願いします!!』
それぞれが異なる性質を持つ7つの腕――コブラームを活かしたウーラストは爆発力より汎用性に秀でたオールラウンダーでもある。彼は単独ではなく集団の中で力を発揮する。そのため予備戦力として今は控えさせることがベターだとコイは判断し、二人とも異存はなく従ったところ、
『よ、よかった~ テディ君みたいに出なくて済むなら……』
『マ、マイさんその……』
『まだ通信つながっていますよ? 分かってます……?』
『つ、通信って……ふぇっ!?』
「……」
必ずしも前線に出る必要がないとの状況から、マイが思わず漏らした一言は余計と言わざるを得なかった。その場で慌てる二人から、思わず彼女も我に返って困惑していたものの、既に遅いとコイは頭を抱え、
「とにかく、ここで引き寄せたならそろそろ」
『言われなくてもわかってるんだよ!』
『ヒーロー、真打、主人公とか遅れてやってくるってね! そうだろ!?』
コイの気が散らないように、サンがとっさに作戦の第二フェーズへ移行するようにオレンジ色のハードウェーザーへ促す。砲撃戦を繰り広げることで双方が釘付けになっている隙を突き、別動隊の航空戦力がアルタイの本陣めがけて切り込みが開始されようとした。レドームを回転させながら二人とも異様にテンションが高かったが、
『サンさん、あのその……』
『確かにユーストにしかできないと思いますが』
「ハードウェーザーに懸念も問題もない、だが……」
『見てくれよなマイちゃん! 俺が一気に流れを変えるからさ!!』
ヘッドム・タービンからのハッキングにより、アルタイのバグロイドを無力化させ、一気にアルタイ攻略へ弾みをつけるキーパーソンがユースト。だがサンやテディ達が危惧するよう中の人間に問題がある。実際シーンがマイに対して良い所を見せようと舞い上がっており、
『このまま一気に俺たちで攻め落とせるかもな! 他の奴らは飛べないし!!』
「ちょっと何勝手に作戦進めてるのよ! 空飛べるからって!!」
『主役は重力に縛られないからよ! このままタービンで……!?』
『おい! 何か反応あった……あっ!?』
ライトウェーザーの面々を指揮下に置こうとも、ユーストがウィストの指揮下に置かれている訳ではなかった。自分が主役だと意気込むように、単機で突入を試みようとした途端――頭上にはオレンジのバグロイドが、バグビーストより一回り大柄な機体は直ぐにその前足からの刃でユーストの頭を尽き、
『ステファーを踏み台にしてなぁ……!!』
『あんたって人は何……ってイカれて!?』
「だから言ったのに! 前もそうじゃなかったっけ!!」
「馬鹿だ……0に何をかけても0の馬鹿だ、貴様らは」
実際深入りした所、レドームを潰されてユーストにとって唯一の特長が喪失した顛末でもあった。コイ達からすれば前にも似たパターンがあり、シーンが学習をしない馬鹿であるとサンが言い放った直後、
『前に貴様は生け捕りにすると言ってたようだがな……!』
『その声どこかで聞き覚えが……がぁっ!』
獅子のように険しい表情を備え、悪魔のように漆黒の翼を広げて天翔けるバグロイドこそバグキマイラ――猛獣将軍レーブンとして、ユーストを前に一時窮地へ陥った屈辱もあってか、デリトロ・スクラッシュを展開して全重量をかけていく。
『シーカーを飛ばすんだよ! 早く!!』
『い、言われなくてもわかってるって!!』
足からのビーム刃でレドームごと自分たちを焼き切ろうとしている――逆に窮地へ追い込まれていると察知したステファーがナッター・シーカーの射出をパートナーへと促す。浮足立ちながらも下半身そのものでもあるシーカーをパージする瞬間、ユーストの重心が大きく宙で変わり、レドームがひしゃげながらも、バグキマイラから脱出することに成功したものの、
「あのねぇ! 本当何のために来たのよあんたって人は!?』
『俺のマネするな!あんたって人も!!』
『さっきから何ごちゃごちゃ言って……うわぁ!!』
コイへ詰られてムキになるシーンだったものの、分離しながらも宙を飛び続けるユーストへ、二筋の閃光が掠める――両翼が炎上するとともに、墜落しようとするユーストは機種からのパルサー・キャノンで山地に陣取る相手を葬り去ることが関の山であり、
『このまま血祭りにしたいところだが……本命は別にある!!』
ミサイルを展開しながらナッター・シーカーが抵抗していたものの、ユーストの墜落に釣られるように制御を失い、バグキマイラの両翼デリトロス・シュナイダーで真っ二つに引き裂かれる結果となった。この逆転せんとする戦況にレーブンは高揚しつつあったものの、あくまで自分たちの相手彼らではないと言い聞かせる。猛獣将軍として逸る心を抑え込んだのちに、
『猛獣軍団はドラグーンを狙う! 目の前の敵は無視して構わん!!』
『は、はい! レーブン様はもしや……』
『ここに飛べる奴はいない! 心配は無用だ!!』
レーブンは猛獣軍団の面々へと敵中突破を命じた――既に戦闘能力を喪失したユーストを前に空路に敵はいないのだと、バグキマイラはドラグーンめがけての進軍を開始する。
彼女へ続くよう後方のバグビーストも徐々に電次元ジャンプを始めていくが、既に背後にグリーンのバグロイドが成り代わるように本陣を固めていた。両肩のランチャーと両脇に抱えたレールガンを一斉に掃射していく様子から、さらに砲撃戦での火力が増している結果となり、
『こ、このままでは押し負けるのでは!?』
「砲撃戦でも分が悪いとなれば……やむを得ないか」
「あたしが囮になるから、その隙に立て直して!!」
撃ち合いだけではジリ貧になる――サンは少し躊躇があったものの、コイの姿勢を尊重するとともにウィストで前線への切り込みにかけた。折れ曲がった両足が伸び切るとともに、前のめりとなった上半身から虎の顔が前方へ展開する。そして前足の力で大きく飛び上がったとき、ジャガノートからティガーへと変形を終えていた。
「あのバグロイドは……鋼鉄軍団か」
「あんな重くてうす鈍の奴なんか、こっちで間合いを詰めれば!!」
バグビースト同様四足歩行の獣として、ウィストはバグロイドの間合いを詰めての白兵戦へ移行しつつあった。目の前のバグロイドが鋼鉄軍団の機体であるとサンはかろうじて頭の片隅に記録していたものの、コイからすれば初めての相手に変わりはなかった。
「今更守りを固めたって……わぁ!!」
4門のキャノン砲を展開する相手はショートレンジに弱いと確信し、ウィストは一気に距離を詰めようとしていた。相手が後衛向けのバグロイドだからか、とっさに守りを固めるよう4機のバグロイドが電装された。同タイプながら、バックパックへ大柄な翼を備えているが――それよりもサイドスカートからの手榴弾を投げつけていった。サジタリウス・レネードが着弾するとともに、閃光がウィストの視界を眩ませていき、
『ハードウェーザーだからって、バグアーミーを舐めやがって!!』
『串刺しにしてやんよ!!』
「ぐっ、あぁぁぁぁぁぁ!!」
鋼鉄軍団が要するバグアーミーは、フォワードとバックスの2タイプのカスタムが施されていた。砲撃戦に徹したバックスに対し、フォワードは白兵戦にたけており、閃光弾で視界を眩ませていった後に、デリトロス・ベールをウィストの脇腹へと突いていった――咄嗟にウィストが横転したとともに、コクピットへの直撃をかろうじて回避しており、
『舐めてるというけどねぇ! 私だって命かけてるのよ!!』
横転しながらも、ウィストの虎の口からはザオツェンが照射されていった。病み上がりであることも含め劣勢へ立たされようとも、コイは啖呵を切りながら必死に食らいついていた。口からの業火は、まるで彼女の執念が乗り移ったかのように、バグアーミーの下半身を爛れさせていった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「せっかく出たってのに、あんたに任せないといけないってのが癪だわ」
「おいおい! のっけからそりゃないと思うよニアちゃん!!』
――サンが触れたとおり、アルタイの別方面からはブレストが進軍しつつあった。バックパックと脚部にはスフィンストがコンバージョンされ、ブレスト・ブルとして猛威を振るおうとしていた。ただニアの視界には、本来コントローラーを握るはずの玲也が着座したまま。代わりにコントローラーを握るプレイヤーこそ、
「才人だけじゃないパチ! オレも一緒だパチよ!!」
「いや、そりゃそうだけどそういう問題じゃ……」
「僕もいますから、ニアさんの負担も減らせるようにします! ですから!!」
「あ、あのね? あたしは別にピンピンしてるから……仕方ないから頼むわよ」
コンパチとイチがフォローに回っているとはいえ、ブレスト・ブルは才人の手に実質任せられていた。これも玲也の腕の怪我故にやむを得ないと自分へ言い聞かせ、しぶしぶ承諾したような態度を取って妥協した。そしてブレスト・ブルの両足へと設けられたフレイム・レールガンがバグファイター目掛けてうなりを上げていき
「少しでも距離を詰めればいい。これくらいのことではやられはしない。」
「お、おぅ……ちょっと足が重いみたいだけどな」
「撃ちつくしたらしたらパージすればよい。それからも使い道がある」
着座しながら玲也がブレスト・ブルで多勢の相手と立ち回る術を才人へ授ける。バグファイターの面々は後衛で砲撃に徹しており、ロングレンジでの術が不足しているブレストへ少しでも有効打を与える術を取っている。
そのため最低限の砲撃戦での迎撃手段としてレールガンを駆使し、サブアームとして設けられたスフィンストの両手からのハリケーン・ウェーブが相手の弾丸を撃ち落としていき、
「こっちに来ます! バグビーストです!!」
「わざわざこっちに来るなら、クラッシュだよなぁ!!」
バグファイターへ間合いを詰めていく中で、バグビーストの1機が飛び込んでいった。この流れを好機だと才人は早速カウンター・クラッシュを右手で振るう。わき腹を強く打たれて右へと弾き飛ばされた後、レールガンが直撃して引導を渡し、
「流石……ブレスト・ブルはやっぱ違うけどよ!」
『才人兄ちゃん! おいらの獲物だっぺよ!!』
「わ、悪い。こっちに逃げ込んできたからさ」
バグビーストを仕留めた直後、ラグレーは少し不服そうに才人へ抗議する。それもブレストと並行してサンディストが前線に出ており、トリケラ形態でバグビーストを蹴散らしていた為でもある。トリケラ形態でストリーム・スパイクを展開させるとともに、バグビーストを全体重で踏みつけて潰していく。陸戦での天衣無縫さを存分までに発揮しており、
『若、獲物の1機や2機にこだわってはいけませんぞ。他にもいらっしゃいますぞ』
『そうだっぺね! あっちも倒してよいっぺか!?』
「くれぐれも無理はしないでくれ! 後ろからも気を付けてくれ!!」
『かしこまりました、その前に切り込みますぞ!!』
ホルス・シーカーに設けられたストリーム・バズーカをブースターのように点火させ、ローラーダッシュの要領でバグファイターへ間合いを詰めていく。ブレストの後方からの砲撃を待たずして、ストリーム・スクリューがうなりを上げる。そのまま正面突破を図ろうと強引に突き倒していく。
「破竹の勢いですね……流石かもしれませんが」
「こうせっかくコンバージョンしてるのに、独壇場じゃないの!」
「それだけの腕がラグレーにはある。このまま片付けてくれるなら問題はないが」
敵の懐へと入り込んだのち、サンディストはバグラッパーまで展開させた。巨大な掌に衝撃波を見舞わせて張り倒していく様子をイチが称賛するものの、ニアは少し面白くもない。それでもサンディストが役目を果たしてくれるなら越したことはないと玲也はみなし、後方からの支援に徹しようとみていた所、
『強くないっぺね! おいらに勝てないだべよ!!』
『若、油断はなりませんぞ! いつ別の敵が現れますか……来ますぞ!!』
『またきたっぺね! どこからでもかかってこいっぺ……のわっ!!』
歯ごたえがない相手にラグレーが辟易しており、油断大敵だとヒロが諫言した瞬間だ。新たなバグロイドが現れるや否や、トリケラ形態のサンディストへ馬乗りになる形で、銀色のバグロイドが乗りかかる。ワンオフと思われる相手が未曽有の存在でもあり、
「……嘘! サンディストが!!」
馬乗りになったバグロイドは、すぐさま右腕に備えられたアロー状のパーツから巨大な鏃をぶちかましていった。背中から腹へと貫通するだけの鏃は、流石のサンディストだろうとその場で倒れる結果となり、
「急所は外れたが……ラグレー、ヒロさん!!」
「玲也ちゃん、もう一発来てるよ!!」
コクピットを貫いてはいないと玲也は見たものの、二人の安否を確認する間もなく、左腕から同じ鏃を自分目掛けて射出していく。才人が咄嗟にカウンター・クラッシュではじき返すものの、今度は右手から投げつけられた円盤状のビーム刃がクラッシュのワイヤーを焼き切っていった。既に目の前のバグロイドは電装を解除されたサンディストから降りたうえで、二刀流の構えを見せており、
『ブレスト相手なら不足はないとみた……』
「不足はないって偉そうに言うけどね! あんたは誰なのよ!!」
『……ハインツ。それがバグアーサーを駆る鋼鉄将軍の名だ!』
「ハインツ……鋼鉄将軍か!?」
――ハインツはついに前線へと立った。七大将軍の筆頭格だけでなく、サンディストを一瞬にして戦闘不能へ追い込むだけの力量を持つ相手の出現へ、玲也は思わず胸の中で戦慄を感じ取ってもいた。
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