32-6 レーブンの秘策!憤怒と復讐の兄弟

「玲也さん、玲也さん……大丈夫ですか!!」

「リン……どうしてここが、だな……」

「それは、その……ポリスターから行方を探知したのでして」


 自分の無事を案じて真っ先に駆け付けたのはリンであった。彼女がポリスターからの情報をもとにして単身で飛び出し、さらに玲也が有事を想定して、発信機としてのショーピースを見つけたことも発見の手がかりでもあった。


「酷い……ごめんなさい、本当にごめんなさい!」

「いや、お前が悪いわけがない……お前が誤ることなど何も」


 そして、彼女が玲也の体を水中から引っ張り出すようにして丘に挙げていく。シーラに撃たれてバランスを崩した結果、彼は池に転落してしまい、剣策が相手をしていたこともあれど、バグロイヤーか幸運にも見逃される結果になったともいえた。

 けれども右肩に凶弾が撃ち込まれてしまったが故。直ぐ玲也の応急手当てをしなければならなかった。プレイヤーの命にもなる腕が傷つけられたことに、リンは涙を流し続けながら謝る。玲也に万が一の事態があると想定して後をつけていた筈が――間に合わなかったために、自分の不甲斐なさを痛感させられた瞬間だった。


「私だってエージェントの端くれですから! 玲也さんを守らないといけませんでしたのに!!」

「いや、だからお前が……おや」


 玲也として自分と分散して逃れた剣策の行方をかすかに気にして、仰向けになりながらも顔をかすかに左右させて景色を見渡す。その中で白のワゴン車――エレファンが自分たちの近辺へと駆け付けて、扉が開いた途端、


「玲也様! どうして、どうしてそのようなお姿に!!」

「すまない、こればかりは俺が迂闊だ……」

「とにかく早く乗せろ! 手遅れになったら洒落にならん!」


 ラディが言う通り、彼らは自分を捜索してドラグーンへ送り返すために、エレファンに搭乗してこの場までたどり着いた。だが真っ先に飛び出したエクスは、傷ついた玲也の姿へ我を失ったように動揺してしまい、さらにリンの元を振り向きざまに――頬を叩く高い音が宙に鳴り響いた。


「先に抜け駆けしたそうですのに、どうして、どうして間に合わなかったのでして!?」

「ごめんなさい、本当に私も何のために後をつけていたかが……」

「本当ですわ! ニアさんはまだしも、玲也様への愛が足らない貴方に任せたのが間違いですわよ!!」

「私が……足りてない……?」


 玲也が振り向いた方角には、エクスが豪快に平手をリンに向けて浴びせた後だった。自分とニアと異なり、人知れず玲也の後をつけて出し抜こうとしていた事も、彼女からすれば癪に障る行為とみなされる。その上で真っ先に駆けつけることが出来たはずながら、玲也の負傷を避けられなかった事へ彼女の怒りは噴出したのだ。玲也を守れなかったリンを愛が足りていないのだと罵った瞬間、彼女の心は容赦なく打ちのめされた。本来玲也を救うべきの所、エクスに続いて現れたニアの方を振り向けば、


「……あんた、あたしじゃダメだって言ったよね」

「ニアちゃん……ごめんなさい、あの時は私も酷いことを言って」

「酷い事って何? それ分かってて何故言ったの?」

「……ぶってください、好きなだけ私をぶってください」


 ニアもまた先ほどのリンの言葉を根に持っていた様子ではある。自分がかなわないと重いっていたはずのニアへ失望した事でぶつけた憤りが、このような形で自分へ跳ね返っていくとは思ってもいなかった。今は好きなだけ自分へ怒りをぶつけてほしい、それだけのことを自分はしでかしたのだと卑屈な態度を取らざるを得ず、


「別にあんたをぶっても、玲也が助かる訳じゃないでしょ?」

「ニアさん! 私がしたことを馬鹿げたことだと……」

「そんなつもりで言ったんじゃないわよ。あたしもだけど、エクスも馬鹿にしてたみたいだし」

「わ、私が馬鹿にされてたのでして!?」


 ニアとしてエクスのように頭に血が上って手を挙げるのではなく、彼女が自分やエクスに玲也を任せる事は出来ないと見限っていた本心をエクスへとばらした。すると猶更彼女が頭に血が上ったような形相を浮かべており、ニアに制止されると


「やめろ! 別にリンは……」

「いい加減にしろ! 喧嘩している場合なら俺が連れていく!!」


 玲也がリンを庇おうとした所、怪我人を前にしながらも玲也を救いだすどころか、女3人で口喧嘩を延々と繰り広げる様子にラディがキレた。エクスを押しのけて玲也に肩を貸しながらエレファンへの収容を急ぐ――ただ呆然とするニアたちへ厳しい視線を突き付けながら。


「戻りますわ……リンさんでなく私でしたらこうもなりませんでしたのに!」

「それは分からないけど、あんたを羨んだあたしが情けなくなってきたは」

「ま、待ってください! 私は、私は……!!」

「どうせ私かニアさんの顔色をうかがう事しかできませんわね! 貴方は!!」


 ラディに玲也を運ばれたこともあってか、エクスは白けた様子で、エレファンへ引き返す。相変わらず彼女が自信過剰なところへニアが呆れていたものの、彼女はそれ以上にリンへの失望が大きく、彼女へ冷たい視線を一瞬向けて威嚇する。さらにエクスは、自分たちに威圧されながら後を追おうとするリンが金魚のフンのような存在でしかないと一蹴し、


(私だって好きでニアちゃんやエクスちゃんの仲を取り持ってるつもりなんて……ううん)


 それでも自分がドラグーンへ戻らなければ、余計な迷惑をかけるだけではある。顔を上げられないまま、重い足取りで歩く中自分が好きで二人の仲裁役もとい、潤滑油のような役回りを演じていないのだと心の中で本心をこぼす――今更そのようなことを言おうとも、遅すぎる為口に出しておらず、


(ニアちゃんやエクスちゃんのみたいには……私の愛に覚悟がなかったのは確かです。それで玲也さんを守れなかったのでしたら……!!)


 リンが自然と零れ出ようとする涙を拭いながら、赤くなった彼女の瞳はどこか後がないような覚悟の光を灯しつつあった。そんな彼女たちの背中へ一人の男の視線が静かに注がれていた様子であり、



「それこそ俺が助けに入れば……玲也はかすり傷一つ負わなかっただろうな」



 強い自信を持ってレクターが豪語していたが、彼はこの襲撃の一部始終を見届けながらも、自分から助太刀に入ることは何故だか一切なかった。リンに辛い思いを味合わせる結果になった事へ後ろめたさがあるのか、彼女がエレファンへ乗り込むまで後ろから見守り続けていたのも、


「焦る事なくふとした事が切欠となり、初心に帰る事にヒントがある……お前が着目した点は間違っていないがな」


 玲也が見出そうとしていたマルチブル・コントロール会得への道――そのヒントからきっかけをつかむまでの足掛かりへと、レクターは後押しすることに自分の存在意義があると見なしていた。それがまた先ほど手出しをしなかった理由にもつながり、


「あれでリンは追い詰められて、命をも投げ出しかねない行動をとるに違いない……玲也かイチの為ならば迷わない筈だ」


 リンと本当に心を通わせるきっかけとして、一度彼女を窮地へと追い込むことがレクターは必要と見た。そこからの彼女が死に物狂いで動き出すことを想定し、そこに玲也が一緒に覚悟して死地を共にする瞬間に答えにつながっていくのだと。彼として今がその下準備であると見なしており、


「これで後は何時背中を押すかだが……俺もろくでもない男で嫌になるが」


 今度はタイミングを見計らい、リンを死地へ送り込むことが自分がすべき事ではある。目的のためとはいえ、仲間を生死が問われる状況下に送り込む自分のやり方は、まさしく外道や卑怯の類であると自虐してしまう。乾いた笑いを思わずしてしまっていた所、


「一度死んだ俺には相応しいか。どのみちもう一度死ぬ身となればな」


 これも玲也にマルチブル・コントロールを会得させる目的のため、死地から蘇ってその為に地球へと舞い降りた自分の定めである。レクターが我が身を諦観しつつも、駆け付けたティービストヘ騎乗してサロマ湖近辺から撤収するのであった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……羽鳥玲也を倒すのは俺だと分からなかったのか!!」

「……」


 右手を失う大怪我を患いながらも、戻ったシーラへとガレリオはねぎらいの声をかける事はなかった。それどころどころか容赦なく彼女の顔面へ鉄拳をお見舞敷いた。

 彼女が倒れ込んだ場にはハインツ、グナート、レーブンの3人が軍議の為に出席しており、その円卓の場でガレリオは個人的な苛立ちや鬱憤を暴力という下劣な形でさらけ出した。グナートが彼の暴挙へ流石に引いたような顔を浮かべていたが、


「……申し訳ありません、私が羽鳥玲也を倒せばガレリオ様の為になると思いましたが」

「そもそもお前が俺の部下だ、弁えた行動をしろ!!」

「ガレリオ様、シーラ様はあなたのパートナーの筈です、これ以上つまらない感情のはけ口にされますのは」

「ハインツ! 今つまらない感情だとか言ったな! 羽鳥玲也を超えようとする俺がつまらないと!!」


 シーラはガレリオへ苦言を呈する事もなく、自分の非をただ詫び続けていた。一方的に殴られるだけの光景にハインツは、思わず冷静になるようにと促していたものの、彼の言葉はガレリオのコンプレックスを刺激する結果となってしまった。思わず彼の目の前で剣を引き抜き、将軍筆頭格のハインツだろうと剣先を突き付け成敗せんとした時だ。


「でしたら、ガレリオ様が直接乗り込んでその玲也を始末すれば良いはずでは!?」

「ほぉ……俺にこう意見するとはな」

「レーブン、お前も立場を弁えるべきだ」


 ガレリオが弁えた行動をしろとシーラへ激昂していたものの――個人的な感情を抑えきれていないのはガレリオである。シーラを殴る行為が同じ女としても快く思わない様子もあったが、レーブンが流石に我慢の限界に達したように苦言を呈する。


「そもそも、ウィナーストがハードウェーザー3機分の性能を誇ると豪語されてますが、出るつもりは本当におありですか?」

「俺は何時でも出る覚悟がある! シーラが傷ついてなければな!!」

「なるほど、でしたらその間に玲也を血祭りにあげてみせます」


 ハインツに窘められようとも彼女は態度を変える事はなく、ガレリオが自ら前線に出ようとしていない事をなじる。ウィナーストをちらつかされると彼は、シーラが傷ついてしまった為、電装はできないと何処か言い訳がましい事を口にしている。それもありレーブンは自ら前線に立って勝負を決めると宣言し、


「貴様……それでシーラの二の舞になればどうなるか!!」

「私としては止めたいが、お前が聞き入れるつもりがないなら」

「貴方が止めることは越権行為ですし……この二人にも手伝ってもらいます」


 ハインツに再度思い直すよう迫られていた物の、レーブンがすかさず指を鳴らす――その瞬間、彼女の後ろの戸を開くように二人の少年が姿を見せる。ともに長い髪を後ろで縛り、幼げながらも眼光を鋭く発してガレリオを威圧させていたが。


「確かデヴラとヴィトン……猛獣軍団でもまだ新入りになるはずだが」

「その通りだが、エージェント上がりとして、玲也を仕留められるだけの腕は持っているかもしれない。生身となれば」

「ただ、他にも同じ腕が立つ者がいる筈では? エージェント出身の者はまだ何人かは……」


 デヴラとヴィトン――他軍団の新入りながらもハインツは彼の顔と名前を把握はしており、エージェントとしての身体能力の高さが有用なこともあり得るとも付け加える。だが二人の素性を訪ねたグナートとしては幼い二人へその役回りを託すよりも、他に適任者がいるのではと意見するものの、


「電装マシン戦隊がビトロさんを殺した仇だから、俺たちで復讐をしないと気が済まないんだ!!」

「ビトロさんは僕たちを弟のように可愛がってました。僕達にもでっかい男になれと言ってくれたはずですが……」


 デヴラとヴィトンはエージェントとして、ビトロの弟分となる――それぞれが売り飛ばされる形でバグロイヤーの異なるセクションに所属していたものの、当のビトロはネクストによって仕留められていた事は既に彼らも知っていた。それ故の憤りに二人は突き動かされている様子もあり、


「その為、シーラ様が戦われました羽鳥剣策という男を二人が人質に取っています」

「……羽鳥玲也の祖父となる人です、ガレリオ様」

「何をやろうとも玲也を始末できれば良い……できればの話だがな!」

「ビトロさんを殺されたましたから、身内が殺される苦しみをじわじわと味合わせたいですけど」

「エージェントとして、あんな奴一ひねりにしてやるよ!!」


 実際二人とも剣策を人質として捕まえ、玲也をおびき寄せて始末しようと目論んでいた。ヴィトンは親しい相手を仕留められた苦しみを味あわせようと捉えて、デウラはプレイヤーでなければただの人間に過ぎないと玲也を一蹴する事でほくそ笑むなど二人の考えは若干方向性が違っていた物の、憎しみに突き動かされている点は共通しており


「この二人が持つ憎しみは猛獣軍団でも相当なもの……だから私は選びました」

「……感情だけで戦いを制することが出来ればこの上ない楽な事だが」

「生憎、私は戦う衝動を信じたいですからね。ここは任せてもらえませんか?」

「……シェダールがやられたとなれば、無理はないか」


 ハインツは感情に任せるような作戦は、大抵ろくな事はないと意見しようとしたものの――レーブンは少しムキになった様子で彼の意見を聞き入れず、自分たちの作戦の実行許可を願い出た。ハインツは自分に命令権がないと分かっていながら、シェダールが自分に助けを求めないまま果てた最期を彼女へ振った途端、思わず歯ぎしりをしてしまっていた。猛獣軍団のトップとして二番手を討った玲也へ復讐の念が彼女にもあったのだ。


「そこまで言うなら、羽鳥玲也を殺してみろ! 見事成功したなら大将軍の地位を貴様に明け渡してやる!!」

「……ガレリオ様!」

「その言葉が嘘でない事を信じています」


 自分の面目を潰された憤りに駆られる形で、ガレリオは拳を震えさせていたしかし、レーブンが自分の作戦に相当な自信を抱いているからか、拒むより一度やらせる方がよいと流石の彼も捉えていた。作戦が成功した暁に大将軍の地位を譲るとまで大口を叩いているのも、大将軍としてのプライドあっての行為のようだが、シーラが流石に困惑したのは言うまでもない。


「レーブン、そこまでお前が功名に駆られるとは……」

「もしかしたら、貴方のプライドとしては私に追い越されることが許されないとでも?」

「ハインツは心の狭い男ではないと、お前なら私よりわかっている筈では?」

「……直ぐに作戦の実行に入りますので」


 ただレーブンの一大作戦に対し、功を焦っている様子もあるとハインツは意見する。それでも彼女はやはりハインツの言葉を素直に受け取ろうとはせず、グナートが仲裁に入ろうとも直ぐに作戦を遂行しようと軍議から離れる。玲也が負傷している事も含めて早々に作戦を遂行すべきと捉えていたようだが、ハインツに対して認められようと逸っているとの見方も間違いではなかった。


「これで軍議を終了する! シーラ行くぞ!!」

「……ガレリオ様、一体どちらへ?」

「決まっている! お前の体を直すためだ!!」

「……ありがとうございます、次こそは同じ不覚をとらないようには」

「当たり前だ! 二の舞にならぬよう手を加えるだけだ!!」


 レーブンら猛獣軍団へ次の作戦の主導権を握らせるとのことで、ガレリオは軍議を打ち切ると宣言して撤収した。その際シーラを抱きかかえ、彼女の体を修理すると事を重んじており――先ほど厳しい仕打ちを浴びせたガレリオへも自分に対しての情けは何だかんだ持っていたのだと、微かに安堵したような笑みを浮かべたが、


(あの時、ウィナーストはしてやられた……玲也ではない奴にだ!)


 だがガレリオはシーラが見せた笑顔へ見向きもせず、ただ脳裏にはウィナーストが3機分の性能を持ちながらもリキャストに出し抜かれた事に拘っていた。羽鳥玲也を超えるが為に戦っている自分として、彼以外の相手に敗北したことがあってはならない――それもゼルガが玲也に敗れたのだから猶更であり、


(なら、ウィナーストを強化してやるだけだ! あの時玲也にも勝てなかったからな……!!)


 シーラを直すことをガレリオが優先した背景として、彼女の修理に乗じてウィナーストを強化する真の目的を成し遂げる為であった。3機分のハードウェーザーの性能を持ちながらも、勝利をもぎ取れない躓きを乗り越えるが為、ハードウェーザーの更なる強化をガレリオは選んだ。ウィナーストが生まれ変わろうとする事へ、ほくそ笑むように彼は自然と笑い声をあげていた。


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次回予告

「お爺さん、貴方のために命を懸ける筋合いも情けもは俺にはない……だが北海道に危機迫る中で決闘に応じなければならないのか。そんな迷う俺に代わって決闘に応じたのは――やめろリン! 俺を守る為とはいえ、お前に死なれたらどうすればいい! 俺を守るつもりだと分かっていながら、俺を捨てて死ぬ事は間違っている!ならば俺は……!! 次回、ハードウェーザー「リンの誓いは雷雨に濡れても」にネクスト・マトリクサー・ゴー!」

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