29.5-2 ゼルガ再び、目標は電次元にあり!
「……」
「む~もう少しで玲也が勝ったのにー」
「まぁ玲也君、ネクストには勝ってたんだけどね」
シミュレーターマシンから降りると、玲也は少し肩を落としている。シャルとステファーの励ましの様子からすれば、2対1の戦いでネクストを倒すまでは至ったものの、
「最後に勝ったのはこの私でして! 遂にニアさんより私が優れている事が証明されたのですわよ!!」
「あんたねぇ……2対1で勝ったのはそんなに嬉しいのかしら!」
「……やはり単純な女かもしれないな」
ネクストとの戦いで消耗したブレストに対し、電次元ブリザードが直撃した事で勝利はエクスの元に転がり込んだ。彼女はどこからか取り出した扇子を仰ぎながら勝利を喧伝しており、一方的に自慢している様子を聞かされれば、敗れたニアが苛立つのは言うまでもない。二人の言い争いを他所に、レクターもむしろ彼女のノリに少し引いていた。
「今回は俺の勝ちだが、あくまで2機同時に動かして1機を倒したに過ぎないからな」
「そ、そういうことならさ、やっぱ玲也ちゃんの方が強い!という事になるんじゃ」
「総合力は必ずしも一芸を超えるとは限らない。俺はその一芸でどうにか総合で勝る玲也に勝っただけだ」
「成る程じゃのぅ。おんしなかなかいいよるのぉ」
レクター自身はあくまで己の勝利を謙遜する姿勢を取るが、全ての面において玲也が自分より優れているとは限らないと、才人に対して少しはぐらかしてもいる。彼の言動の真意をラルが一足早く理解したと共に、
「俺が貴方と同じマルチブル・コントロールを身に着ければ」
「いずれ3機のハードウェーザーを同時に動かす事が出来る。ここぞという時に役に立つはずだ」
「けど、そのワイズナー現象に頼ったらその……玲也さんでも助からないと言いましたよね?」
「俺のように全てワイズナー現象に頼れば助からない。そうだな……」
マルチブル・コントロールを会得する事により、3機同時に電装させることが可能になるアドバンテージを得られる。玲也がその有用性を認めつつあったものの、イチはその力のリスクを危惧している。彼の疑問はもっともな事だと肯定した上で、
「電源を入れるまで。お前はそこまで出来るようになればよい」
「……それだけですか? 先ほど思い通りに動かせるようと言われていたような」
「お前が電源を入れれば他のプレイヤーに任せればよい。無理をしたらどうなるか察しがつくはずだろう」
「ベルさんのように……それだけは、それだけは」
マルチブル・コントロールに依存すれば、脳が情報量に耐えきれずに機体を寧ろ暴走させる事もあり、最悪己が死へ至る恐れがある。レクターが釘をさすにあたって、ベルとジャレコフの一件を忘れてはならないと促せば、一線を超える事が危険極まりないと玲也は実感せざるを得なかった。
「けど、他の2機にもプレイヤーがいるって事なら意味あるのかな……。俺だってスフィンストのプレイヤーなんだし」
「シャル、コンバージョンした状態で玲也の助けなしで動かせるか?」
「実戦でやったことはないけど、ブレストとネクストなら多分大丈夫だと……あ‼」
才人の疑問に答える代わりに、レクターはシャルへとあえて尋ねてみた。自分が一人でコンバージョンした形態を動かせるとの問いへと触れるや否や、彼が何を言いたいかを理解し、
「そうだ。コンバージョン形態を前提とすれば3機を同時に動かすことも出来る訳だ」
「なるほど……シャルがブレストならまだしも」
「ウィンさん! 俺もやればできますよ、根拠はないけど自信はありますから!!」
「オマエ、それは屁理屈だパチ。まぁーオレなら何とかできるパチけどね」
マルチブル・コントロールを発動させるにあたり、シャルと才人にサブプレイヤーとしてサポートさせる事がベターだとレクターは結論を出す。ウィンはシャルの腕ならまだしも才人の腕は怪しいと懐疑的な様子だったが。
「玲也様、コンバージョンでの操縦をシャルさんや才人さんに任せるとの事でしたら、この場合」
「確かにクロスト自体はコンバージョンをしない。結局は俺が動かさなければ……あっ」
クロストの場合、あくまで自分の装備をヴィータストやスフィンストへと連結させる事がコンバージョンである。すなわちクロストはコンバージョンしようとも玲也が動かす事となる――エクスの疑問にふと玲也が回答した途端、ふと彼女をその気にさせてしまったのではないかと気づく。ただ、既に遅かったのは言うまでもなく、
「私と玲也様はやはりこうして固く結ばれているのですわ。その為にもマルチブル・コントロールを玲也様が会得されますよう身を粉にして……」
「あんたは相変わらず下心が過ぎるわよ!!」
「し、下心とは何でして! 私の愛をニアさんは馬鹿にしているのでして!?」
「何か盛り上がってるし、あたしも興味津々だから聞きたいけど、マルチブル・コントロールってどうすればいいのかしら~?」
エクスが半ば確信した為玲也との真のパートナーは自分であると確信した。彼女の強引な結論に納得できる筈もないと、やはりニアが突っ込む最中、リズがレクターへとマルチブル・コントロールを会得する方法を尋ねると、
「……いや、話さなければならないとは思っていたが」
「ニアやエクス、リンが出来るなら―、ステファーもできるよね~玲也?」
「そこで何であなたが口を挟まれますの! 脇役のユーストとかを玲也様が動かす事に意味がありまして!?」
レクターがこのタイミングで答えるのもどうかと躊躇していた――玲也が会得すべきマルチブル・コントロールは3機を対象にしていた筈だが、よく理解しているかどうか定かではないステファーまで口を出せば、余計に話はややこしくなるのだから。
「確かにステファーは俺を振り回してばかりだけど、玲也に動かされるのも……俺はどう返事をしたらいいんだよ!」
「いや、何で俺にそこで聞く……頼むから少し黙ってくれ」
「……とりあえず話を進めようか」
「あ、あんたって人は! ただでさえ今回出番少ないかもしれないのに何勝手に話を進めようと……」
玲也へユーストが動かされることに対し、何故かシーンは一理あると感じて彼に相談していた。ステファーを巡って日頃ライバル視している筈の彼だが、人格が豹変した彼女と組むことに何らか思う所があったのかもしれない。ただ余計話がややこしくなると玲也は彼の相手をせずレクターに教えを乞おうとする。
「早い話互いの心が通じ合うことで発動する。ハドロイドのタグに相手の想いが反映されるとの事でな」
「想い……ですか」
「玲也君、ベルとジャレが良い例だって事かもしれないけど」
「……なるほど」
「つ、つまり玲也がブレスト、クロスト、ネクストを動かすとなれば」
互いに心を通わす――その想いの力がマルチブル・コントロールへ至るワイズナー現象を発動させる要因となるとレクターが触れる。今一つ把握しきれなかったのか、少し呆気にとられた玲也の顔つきから察し、シャルがベルとジャレコフの関係に例えて触れる。
玲也が二人の関係に納得したのか顔を少し赤くするのはまだしも、今は亡き二人と事情が異なるとウィンが気づき、玲也の場合を当てはめて考えた途端彼女は顔を赤くしだし、
「貴様は何という不埒な 恥を知れ!!」
「は、恥を知れって何ですか! 俺も好きでやろうとは!」
「何なのよ、好きでやってないって酷い言い方ね!」
「ニアちゃん落ち着いて、ウィンさんも玲也さんの気持ちを理解してもらえたら……」
思わずウィンが興奮して玲也が節操ない男だと突っ込む。レクターがそう口にしたためであり、玲也自身好きでやろうとしている事ではないと反論するものの、3人に対しては少し配慮が足りていなかった。ニアが真っ先にへそを曲げて彼へ突っかかるのをリンが止めるも、
「そうですわよ! 玲也様が私の事を一途に愛されていらしてる事は既に周知の事実でして!」
「ステファーも、ステファーの事好きってそう思う―」
「……二人とも。本当にこれ以上話をややこしくするの止めてくれないかな」
「……言っておくが、ゼルガは既にマルチブル・コントロールを会得しているぞ」
「ゼルガが……ですか!」
半ばお決まりのようにエクスとステファーがさらに話をややこしくする。流石に収拾しきれないとリンが少しドスを聞かせた声で彼女たちを黙らせるが、レクターは話を進めるべくゼルガの名前を出せば玲也の眼の色が変わる。
「あー、もしかしたらあの時のミラージュ・シーカーかな」
「シャルちゃん、どうしてそうだと分かるん?」
「あの時ブレストがリキャストを全力でぶん回してたからね、あぁいった状況で正確に動かすことって難しいってね?」
「確かに一度私めが引っかかりました時なす術もありませんでしたからな……」
既にゼルガはマルチブル・コントロールを会得した事に対し、シャルが納得した上で推測に入る。彼女の推測へ才人が質問をかわせば、彼女はブレストがカウンター・クラッシュでリキャストを振り回し続けている状況から、ミラージュ・シーカーによる逆転を成し遂げた事を例に挙げる。
機体そのものが激しい回転に襲われることは、中のプレイヤーたちにもダメージが及ぶとの例は、ヒロがバグストームにサンディストが巻き込まれた経験を挙げる。ラグレーでも一時気を失ってしまい、無防備な状態に陥った事から外部による救助を必要とした。もし思考コントロールを活かす事が出来たら自力で脱出する事も出来たのだと。
「成る程……ただ、あくまで非常時の手として使った訳ですか」
「玲也ちゃん? その言い方だと、何かしょぼい気もするけど」
「どんなに優れた力だろうと使い所をわきまえなければ……自滅する危険があると捉えていたが」
ゼルガがあの時の決闘でワイズナー現象による力を駆使した――玲也がその事実に気付こうとも失望を覚えるどころか、かえって感心することとなった。マルチブル・コントロールをあくまでカウンター・クラッシュの拘束から逃れる非常手段に絞って駆使し、それ以外の彼の戦いは不敗のリキャストと呼ばれるだけはある、裏打ちされた実力を駆使して互角の勝負を繰り広げた。その事実が覆される事はない事へ笑みを浮かべており、
「いや、流石ゼルガだと改めて思いましたよ」
「そう言ってくれると俺も少し嬉しい、ゼルガは俺を超える男だけの事はある」
「何であんたが馴れ馴れしく喜んでるのよ」
玲也がゼルガを称賛すると、レクターがどこか自分の事のように喜びを表している。ニアからすれば突っ込みを入れざるを得ない様子でもあったが、
「レクターさん。今ゼルガの事はわかりますか?」
「……ゼルガからは既に許可を得ているから、俺が断る理由もない。時間はあまりないが」
「ありがとうございます。俺たちが知らない事の筈で牛」
マルチブル・コントロールを会得する事と別に、ゼルガ達の動向を把握する必要があると玲也は捉えた上で問いかける。承諾を示したレクターは今後の展望を想定して打ち明けようと口を開いた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「ほぉ……これは懐かしいのだよ」
――オール・フォートレスのカタパルトにて、ゼルガは感慨深く声を漏らしていた。新たに配備された赤と銀色で塗り分けられた機体こそ、かつてゼルガの愛機としてカスタム化されたデルタ・バックラーであった。厳密にはストローネの手で配備されたフルーティーを改造したものであり、本人が触れるようにそのままの再現には至らなかったとの事だが、
「あの頃は、ゼルガ様の戦いを遠くから見守る事しかできませんでしたね……」
「少しの間の辛抱だよ。それまで私一人なのは、懐かしくもあるけど寂しくもあるのだよ」
「ゼルガ様を守るデルタ・バックラーとして精一杯手を加えたつもりですが!……何か不満でもありましたら……」
「これだけの物へと手を加えられたなら十分だよ。ただ一つ付け加えるなら……」
ハードウェーザー計画が発動されるまで、ゼルガはデルタ・バックラーを駆ってバグロイドとの戦いを潜り抜けてきた。この過去こそ、ユカとして夫の力になれなかった非力な頃を思い出させるものと、少しもどかしい気分になっていた。ゼルガもまた最愛の妻を残して、単身で出ざるを得ない状況に心細さを吐露していた。
ユカが到着するまで、ゼルガはデルタ・バックラーで単身戦う事を強いられる――彼を守るエレクロイドとして手を加えたストローネは、一大事と捉えていたがゼルガは彼女の労を労い、
「デルタ・バックラーではなく、フルーティーと呼ぶのだよ」
「ストローネさん、ゼルガ様も皆様と一緒に戦われています。私からも礼を言わせてもらいます」
「ゼルガ様、ユカ様……はっ!!」
あくまでデルタ・バックラーではなく、自分専用のフルーティーを駆るのだとゼルガは訂正する。彼がパッション隊の面々と同じタイプの機体を駆ることが出来るとの点は、彼自身むしろ好意的に捉えていたのだとユカにはわかっていた。
「ゼルガ様ずるいー、こんなに格好良いのに乗れるなんて―」
「いやベリー、そういうことで羨んだらダメだよ」
「戦いは格好だけじゃないのだよ。私も久しぶりで腕が鈍っているから、二人にかなうかもわからないのだよ」
後から到着したベリーが羨ましがる様子を、パインがなだめる。一応新型として配備されたゼルガのフルーティーになるが、それで上手くいくか分からないと彼がとぼけていた所
「ゼルガ様、勝つって信じてる! プーアルそう思ってるから、プーアルも頑張る!!」
「すまないね……君たちの為にも私はまだ倒れる訳にはいかないのを忘れていたのだよ」
「おいおい、おめぇがそれ忘れてどうするんだよ」
自分の勝利を強く信じるプーアルに対し、自分の謙遜は彼女を不安がらせるものであると気付き、ゼルガは自分がこの場で弱気になってはならないと直ぐに謝る、そんな彼の弱気を詰る男の声がするや否や、
「アンドリュー、君がその私に助けられなかったらどうなっていたのか……」
「それとこれとは別だ。曲がりなりにも俺を助けたのにだらしねぇ所見せるなよ」
「アンドリュー様もですが、リタ様も大丈夫なのですか?」
「あれくらいであたいが倒れるかよー、心配してくれるのはうれしいけどなー」
ゼルガにしてはプライドを前面に出した少し大人げない態度をとる。彼をそのような言動に駆られる相手は、裏を返せばゼルガに余裕を持たせないだけの人物――アンドリューとリタ他ならない。生存が絶望視されていた筈の二人がピンピンとした姿で現れており、
「あれくらいの怪我ですが、中枢神経からギリギリの所でしたけど本当に何とも……きゃ!」
「この通り、何もないから大丈夫だぞー!」
「リ、リタさん、人前ですとちょっと恥ずかしいような気分も……」
特にリタが重傷だったのではないかと、ユカ自身オペに関わっていた為か特に案じている様子だ。それでも彼女は笑いながらユカを抱きしめており、珍しく表情に戸惑いを見せている。
「あくまでハドロイドとしての体ですから、元の体が無事でしたら心配もなさそうですが……」
「ハドロイドの活動にも限界がある……リタだけでなく、メル君やパルル君にも当てはまるのだよ」
「その為にも電次元へと早く乗り込まなければいけない訳かー」
リタの怪我以前に、ハドロイドとしての活動期間に限界が訪れようとしている問題点にも突きあたろうとしていた。ハードウェーザーを電装するにあたって、ハドロイドが耐用期間ともいえる寿命を削る事を意味しており、特に2年以上前から活動していた第1世代の面々に寿命が迫ろうとしていたのは確かだった。
「君にも手伝ってもらわないといけないのだよ……油断をして万が一の事もあるのだがね」
「おいおい、随分と言ってくれるじゃねぇかー」
「確かに手を加えたイーテストも、実戦は初めてだけどなぁ。シミュレーターはてめぇと互角だ」
「シミュレーターと実戦は違うのだよ。例え君が私に1回多く勝っていたとしてもだよ」
「仕方ねぇだろ! てめぇが俺を実戦に出さねぇからどうしろってんだよ」
ゼルガはアンドリューと手を組んで動く時が来たと触れつつも、実戦でのブランクが生じているとして、万が一もありうると実力を疑問視している様子もあった。
ただアンドリューが触れる通り、ゼルガによって実戦から遠ざかっている指摘は、シミュレーターでの戦績では自分よりアンドリューの方が勝っている事も背景にあった――少なからず意地を見せなければならないと、やはり彼らしくもない大人げなさが見え隠れしており、
「アンドリュー様、ゼルガ様は貴方方にもしもの事があってはならないと心配されていまして……」
「まぁ、そりゃ分かるけどよ……俺もてめぇも簡単にくたばれねぇってわーってる筈だろ?」
「ったく、何弱気になってんだよなー」
「はは、それは私も君も変わらない事だよ」
ユカが少し案じて、アンドリューをなだめようとすればゼルガへ突っかかる彼へ笑みが零れる。互いに今戦いで倒れる訳にはいかないとの互いが認識しあうと、
「私が単身で電次元へ向かおうとしていると知れば、このオール・フォートレスを狙う筈だよ」
「その時に備えて、俺が現れて返り討ちにするって魂胆だな……」
「そうする為に、あたいらを公にできなかったって訳だなー」
アンドリュー達はゼルガが打つ一手の為に、救出されてからも表向きに公することはあえてしなかった。ゼルガとして自分自身を囮同然に単身で戦場へ出るにあたって、ゼルガ自身か、オール・フォートレスかでバグロイヤー側の標的が二分される恐れがあった。その状況を想定した上で、アンドリューとの二段構えの作戦へ踏み切った訳だが、
「けどゼルガ様―、この二人に任せて本当に大丈夫なんですか?」
「ベリー! いくら何でもそれを言ったらまずいよ」
「そりゃあたしも分かってるけど、アンドリューはゼルガ様と違ってデリカシーがないとか、荒っぽいとか……」
「あ、そっちなのね……」
「……悪かったな、どうせおめぇらの王子様と違うし、ゼルガになろうとも思っちゃいねぇよ」
ベリーがアンドリューへぶつける不満は、パインからすれば拍子抜けするような内容ではある。ただ彼女たちパッション隊からすれば、今まで慕い続けた主君になるゼルガではなくなる。彼女からすれば元々敵となる人物、交遊も然程深くないアンドリューの元で戦う事へ一抹の不安もあったからだ。
「はは、言ってくれるのだよ。私は私であって君になろうとも思わないのだよ」
「にゃろう……」
『まぁ、アンドリューはんの腕を信じてくれまへんか? ワイの腕もほんの少しだけでも……』
アンドリューへの意趣返しのように、ゼルガも少し大人げなくアンドリューへと突っかかる途端ポリスターからの声が一方的に聞こえた。関西弁まがいのような口調といえば、
「シンヤの親父さん、あんたこそ無理したらダメだろ?」
『まぁ、リハビリはしとかないといかんやろ。この足もはよ慣れんといかんけどな』
ポリスターの画面に表示された無償髭の男――彼もまたゼルガの手で救出されたシンヤその人となる。ただアンドリューに突っ込まれている通り、彼は車椅子らしき補助具に着席して檻、両ひざから下は何重もの包帯が巻き付けられていた。
『まぁ皆藩も頑張っとるのに、ワイがこう何もできひんのも情けないけど……今は信じまっせ』
「おう、俺は勿論だが……てめぇも同じだからな!」
「わかっているのだよ。シンヤさんをアイラ君の元に送り届ける事は当然だよ」
「その為に、私たちであのフィールドを解除しなければいけないですからね」
シンヤを娘の元へと送り返すことは、オール・フォートレスの大気圏突入が可能となる環境が必要となる。その為に七大将軍が発動させたエネルギー・フィールドを解除させる必要があり、発生元を破壊する事が、電次元へゼルガが向かう理由となり、
「それで、おめぇはハードウェーザーでなくブランクが空いてたエレクロイドで出るってのかよ?」
「ゼルガ様弱くない! 甘く見るな!」
「落ち着くのだよプーアル。相手を挑発させるには格下と思われる機体で出るのも一つの手だよ」
「最も、それでも万が一の時があるかもしれませんが……その為に私がいますからね」
ゼルガがリキャストではなく、かつての愛機に近いカスタムが施されたフルーティーを選んで出る点も、相手への挑発の意味合いが含められていた。その挑発が度を過ぎているとの見解に対し、ユカは奥の手があると少し顔を赤らめつつ、タグをそっと握る。
「てめぇらのように、ハードウェーザーを自由に電装出来て思う通りに動かせる……まるでイージーモードだな」
「私たちの力は確かベル君も会得していた筈だよ。いずれ君も身に着けるかもしれないのだがね」
「あたいとアンドリューかー、まぁ満更でもないけど、そう問屋が卸さないのが難しいんだよなー」
「それを言いなさんなって、そう都合の良い力はうめぇ話だけじゃねぇって、俺は疑ってるからよ」
ゼルガの作戦はマルチブル・コントロールを利用した手段となる――詳細は把握していたもののアンドリューはその力に対して懐疑的なスタンスを取る。ゼルガからその力を発動させれる素質はあると述べられれば、リタとしては満更ではない気分でパートナーに色目を使っているようにも見えた。ただアンドリュー自身その気はない事をサラリと返す。マルチブル・コントロールの力に対してかどうか定かではないが、
「やれやれ、新しい力をどのように使うか腕が問われるだよ。力に溺れるのも拒むのも、可能性を忘れた古い地球人だよ」
「……てめぇは何訳の分かんねぇこといってやがる」
「玲也ならその力を上手く使うのだよ。彼はアンドリューに一度も勝った事がないらしいけど、さて……」
ゼルガは、玲也にマルチブル・コントロールを授ける必要性を感じた。その為にレクターを送ったとの事だが、
「レクターは私が信頼している男だよ……私が幼い頃から背中を追ってきた人だよ」
「ゼルガ様……」
(貴方が単身で切り込まれたように、私も今から切り込みます……貴方の先が長くないとしても、出来る事ならもう一度お会いしたいのですが……)
玲也の素質と別に、彼を導く為に送り込まれたレクターへとゼルガ自身尋常でない信頼を寄せていた。自分を案じるユカへ少し照れ恥ずかしい様子で微笑みつつ、フルーティーを見上げた後、
「とにかく早く帰ってこい! 俺も子守よりさっさと殴り込みてぇからな!!」
「私もその気でいるのだよ……生きて帰るためにこの格好ではいけないのだよ」
出撃への時間が迫る中、アンドリューに少し急かされつつゼルガ自身も身支度を、ハードウェーザーを駆るにあたって必要とされなかったパイロットスーツに袖を通さんと個室に駆け込んだ。
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