29-6 勝利は誰の手に⁉︎ブレスト・ブル対バグセンター!!

『っと、一番囮に相応しいのは後ろからだけど……!』


 ブレストの到着まで、ヴィータストがバグセンターを引き付ける囮に徹していた――ポータル・シーカーに備えられたミサイルやエレクトロ・バズーカをもって相手をするものの、バグセンターを狙うにあたって、武装が施されていない背後がベターともいえた。とはいえ、弾丸を数打てども全身をバリアーで守られているが故決定打にはなりえず、


『しかし、このままだと弾が尽きるだけだが』

『そうだよね、何か良い決定打があればいいけど……っと!!』


 このまま攻撃の術も失うとなれば、囮としての役目が務まるかもわからない。そこで微かな隙が生じた瞬間、バグセンターが振り向きざまに右腕からデリトロス・ザンバーを展開させる。大きく袈裟懸けに振り下ろした瞬間ヴィータストが浮上し、空振りに終わった相手へとすかさず遠方からのビーム砲がバグセンターを撃つ。バリアーを展開しようとも多少は怯んでおり、


『思ってたより効いてるじゃん! 時間を稼ぐくらいなら出来るじゃん!』

『で、でも先輩! こっちを狙ってきますよ!!』


 バグセンターを引き付けん為に、ドラグーンのブレ・イレーザーが火を噴いた。最も今のヴィータスト以上の出力を誇れど、多少怯ませた程度に過ぎない。ブルートが言う通り、左腕の砲門を突き付けてきた為、


『まずいぞ! ドラグーンが落とされたら!!』

『ハイドラ・ゾワールで何とかなるかも!!』

『何のつもり、そんな事じゃ……って!?』


 一か八か、ハイドラ・ゾワールをデリトロス・キャノンの砲門目掛けて投げつけていく。先端のダガーが狙いを定めて銃口へと収まると共に、ワイヤーを電撃に伝わせた時にエネルギーを充填しようにも電撃が帯びていくと共に砲身が赤熱化しつつあった。彼女が慌てて右手のザンバーでワイヤーを強引に焼き切って暴発を回避した後、


『あぁ! もう少しで上手く行ったのに!!』

『上手く行かせる訳……!!』

「行かせてもらう!!」


 シャルが咄嗟にバグセンターの腕を封じようとした術は失敗に終わった。逆にバグセンターが腹部のデリトロ・スピリットを展開して迫りくる――バグライトの頃と異なり比べ物にならない出力を誇るが為、思わずヴィータストが観念して身構えた時だ。彼女の楯にならんとばかり飛行体が射出される。ちょうど上半身だけのヴィータストを覆い隠す状態となり、彼女の拡散ビーム砲を受け止めんとする。


『あれは確か、ウイング・シーカーなら!』

『玲也君だ! 才人っちもいるって事で……おわっ!!』


ウイング・シーカーが射出されて、自分たちの攻撃から身を守る盾として射出された。彼らの到着に安心を覚えると共に、念には念を入れてヴィータストも振り向いて、ポータル・シーカーを後ろへと射出する。防ぎきれなかったデリトロ・スプリットのエネルギーを抑え込むが、その衝撃はヴィータストを思わず海へ沈める程の威力を誇っており、


「あとは俺たちが何とかする! 一気に行くぞ!!」

「おぅ! ハイパー化してる奴に合体が負ける訳ないからよ!!」

「何か理屈は良くわからないですけど」

「ゴタゴタ言ってないで! バトルホーク行くよ!!」


 真打としてブレスト・ブルが参上した。彼は両手にバトルホーク・ウェートを握りしめ空中から豪快に振り下ろしていく。バグセンターが右腕のザンバーをバリアーへ転用して強引に食い止めようとするものの、受け止めた右手首からは火花が飛び散りつつあり、煙が上がりつつあった。同時に高出力のバリアーを前に斧の刃もまた焼けただれつつあり、


『腕を壊すつもりなら! こんちくしょう!!』

「来るぞ! ミラクルドリルだ!!」

「えっ!? こんないきなり言われてもちょっと」

「いいから早く! 避け切れなくなる!!」


 その隙を突かんとデリトロ・スプリットが再度射出させていく。密着している状況では致命傷になり得るとして咄嗟にブレストはバトルホークを捨てて姿を消す――電次元ジャンプで行方を晦ました直後に、置き土産のようにボタン・シーカーが飛んでは、バグセンターの顔をかすめ、


『裏を掻いたつもりだけど下手くそねっ ……!!』


 このミラクルドリルプレッシャーは、一発の大技の筈だが結果的には外れた。ブレストにとって起死回生の勝負が裏目に出たとディータがあざ笑っていながら、大きく軌道を外したボタン・シーカーを狙い撃つものの、彼女の後頭部へと先ほど外した相手からの一撃が飛んだ。


『手を飛ばしてどうするつもりなの!?』

「こうするつもりよ!!」


 たかがカウンター・フィストの一つや二つ等、致命的な一撃にはなりえない。彼女から挑発と受け取られてすぐさまブレスト本体へデリトロス・キャノンの照準を構えた瞬間だ。拳を飛ばしだ右手首からはカウンター・ウィッパーが既に射出され、大きく外したはずのボタン・シーカーへ連結させる事に成功した。再度制御されたシーカーの標的はデリトロス・キャノンの砲口。鋭利なドリルが抉り込むようにして食い込んでおり、


『は、離れろ! 右手が言う事効かないなんて!』

「玲也ちゃん、そういう目的があって飛ばせって!」

「あぁ、相手が挑発に乗ってくれた事も助かった」


 才人が感心していた通り、ミラクルドリルプレッシャーが1回こっきりの大技であると相手が認識していた盲点を玲也は逆手に取った。あくまで喪失しない限りはシーカーとして制御する事は可能であり、標的を外して不発とディータが誤認した事が命取りともいえた。念には念を入れて、カウンター・フィストを挑発としてバグセンターの気を引く術として駆使した点も玲也の作戦勝ちといえた。

 ついでに言えば、マッハ・シーカーがキャノンの砲身に食い込んだ状況ながら、バトルホーク・ウェートをまともに受けたばかりに、右腕が潰されていた為、取り除く術が皆無に等しい。焦るディータを他所に、ブレストは一気に距離を詰め始める。


「ま、まだ6割あるけど、もし外したらこっちが負けますよ!!」

「イチ、信じなさいよ! 玲也もだし才人はあんたのパートナーでしょ!」

「そういう事だ! 一気の勝負を決めるぞ!!」

「まずはマッハドリルプレッシャーだ……!!」


 イチが一抹の不安を抱えるものの、先輩としてニアが気を強く持てと激励する。二人のやり取りを背にして、玲也はバグセンターを仕留めんと最後の攻勢に出た。カウンター・ウィッパーを収納して距離を詰めつつ、ブレストの全身を接近させながら引っかかったバグセンターの左腕を思いっきり左へと引き寄せさせる。これも右手首とマッハ・シーカーの軌道を同軸へと置くためであり、


「……ミラクルドリルプレッシャーじゃないパチか?」

「それはそれ、これはこれ! 玲也ちゃんだから違うんだよっ!!」

『な、何言ってるか分からないわよ! 地球の下衆がさ!!』


 コンパチに突っ込まれていたものの、スフィンストの頭そのものを飛ばすミラクルドリルプレッシャーとは才人からすれば異なるとの事らしい。そんな二人のやり取りを他所に、ブレストの腕が接続されると共に、砲口にねじ込まれたドリルが回転を始めていく。砲身へと圧力がかけられると共に、軋む音が鈍くなり、いびつな形になりつつある状況で、


「別に知る必要はない……キラー・シザース!」

「アーンド・ハリケーンウェーブだ!!」


 密着した状態でブレストの角がクワガタのようにバグセンターの首根っこを挟んでは掻っ切って見せる。さらに両肩へとスフィンストの上半身から変形したサブアームがバグセンターの掴みかかり、至近距離で超音波を照射すれば、バリアーごと小刻みにバグセンターの体は震えだしていた。


『わ、私が圧されてるの!? 私は、ママの、パラオードの……』

「あんた達! あいつ撃ってくる気だから早く撃ちなさい!!」

「おぅ! 玲也ちゃん、アトラスさんの分と……」

「クレスローさんの仇だ! 行くぞ!!」


ニアが示す通り、バグセンターの腹部から射出口が展開されており、デリトロ・スプリットを見舞おうとしていた。才人と玲也が軽く示し合わせた後、



「「電次元フレアァァァァァァァァッ!!」」

『お、お兄ちゃ……あぁぁぁぁぁっっ!!』

 


 ブレストが宙で馬乗りになる体制と共に、腹部からの射出口が解放された。電次元兵器がバグセンターへ照射されたと共に、瞬く間にバウセンターの体は本来のバイオレットピンク以上に眩い赤に包まれていた。同じくしてブレストのコクピットからもエネルギーが2割を切り警告音のブザーと共に、赤く点滅した状態であり、


「最後にドリル・シュートだ!!」


 最後の一撃として、ブレストの左手へ備えられていたスクリューが発射された――これも、爆破四散しようとするバグセンターを引き離す術であり、ケルト海へと沈むと共に、激しい波を巻き起こすキノコ雲が天へと積乱雲を作りつつあった。


「やった! やったよ、俺ら勝ったんだよな!!」

「……アトラスさん、クレスローさん。仇はこの手で討ちましたよ」


 ――アイルランドの地に、超常軍団壊滅す。高ぶる感情と共にはしゃぐ才人に対し、玲也は顔を真上にあげながら、静かに言葉を漏らす。アトラスの仇を討つ弔いの戦いに幕を閉じたと共に、フェニックス・フォートレスがアイルランドへの上陸を目指さんと自分たちを横切り、


『これをもって、アイルランド解放に私たちは勝利した! バグロイヤーの残存勢力を駆逐すると共に、捕虜の救出にあたれ!!』

「何かリーダーのようにふるまってるけど……玲也の方が戦ってたじゃない」

「元々俺達は助っ人の立ち位置だ。それにマーベルさんの方があの場は相応しい」


 ガンボットに代わってマーベルが檄を飛ばしており、フェニックスからブレイヴ・バディが降下しつつあり解放したアイルランドの治安維持を目的として送り込まれていった。

だが、彼女以上に玲也がアイリッシュ海、キャラントゥール山脈、ケルト海と3機を乗り換えて転戦している――それもあり、ニアは彼女がこの戦線を仕切っている事を不服だったものの、玲也は自分よりカリスマと人気を兼ね備える彼女の方がこの場を仕切る事は相応しいとあまり執着を見せておらず、


『やれやれ、一時はどうなるかと思ったんじゃがみんな無事そうで何より』

『あとはマーベル君たちに任せて構わないよ。それより分かってると思うけどけど……』

「レクターさんの事ですね。これ以上ここにいるのも危険ですしね」


 ブレーンとエスニックから労われつつ、自分に対して重要な話があるとの事ですぐさまブレストはドラグーンへと帰艦する。エネルギーが1割を既に切っている状況もありその点では少し足を急いでいた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「当然ながら貴殿らも無事であったようだな……余も任された務めは当然果たし終えてな」

「その割にユーストが助けに来てたらしいけど? その所どうなの、ねぇ?」

「まぁ、あいつが勝手に来た気がする気がするけど、実際危なかったからなぁ」

「そ、それはそうだが、任されたなら逃げる訳にはいかんだろう!」


 アラート・ルームにて帰還した玲也達へロディは声をかける。一応彼らを案じつつも尊大な態度が見え隠れしているので、実際ユーストがいないと危なかったのだとリズは揶揄う。アグリカは敢えてどちらの味方でもない立ち位置ですっとぼけていたものの、逃げ出す事せずやり遂げた彼へは暖かい目を向けていた。


「リズ、あまり揶揄わんほうがえぇぜよ。よぉ働いてくれたからのぉ」

「左様でございます。ラル様が仰られた通り皆さまが一丸になって戦われた結果でございますぞ」

「でも、玲也の兄ちゃん凄かったっぺー! かっこよかったっぺよ!!」

「ありがとう。でもラルさんやヒロさんが言う通りだ……みんなのお陰だぞ」


 ラルとヒロがリズを窘めている傍ら、ラグレーは獅子奮迅の活躍を目にしたことでより一層玲也を慕って飛びついてきた。彼の頭を撫でながらも当の本人は皆の力だと言い聞かせてる傍ら、


「そうそう、俺達がいなかったら勝てなかったかもしれないんだしさ。玲也一人の力じゃ……」

「その上で玲也の力量も十分だった……俺はそう見えたな」

「そうそう……ってあんたって人は確か!」


 結局のところ玲也がちやほやされている状況に、シーンは対抗心からぼやいていた。全員の勝利だと主張する彼へ、玲也がその全員をけん引する力量があると黒ずくめの彼が評しながら参上し、


「今更だが、この間の無礼を詫びさせてほしい。済まなかった」

「この間……まさかネクストを動かした事で」

「あの時は状況が切羽詰まっていてな。お前のポストを奪うつもりはなかったが」

「いえ、貴方が頭を下げる事はないですよ。あの時は貴方がいなければ」


 レクターがすかさず手を差し伸べ、握手を交わすと同時にネクストの一件で頭を下げる。彼の丁重な一面が少々予想外だったものの、玲也はあの時は彼に救われた事をフォローしており、


「ちょうどお前の腕も見極める機会があったが……やはり、ゼルガを下しただけの腕はある」

「当然ですわよ! 玲也様がゼルガさんに負けることなど……」

「いやあの時は無我夢中で……ゼルガに勝てたのは一寸の差です」

「わざわざ謙遜する必要はない……その上でお前に託せると俺は確信した」


 このアイルランド解放戦を前にして、レクターは今の玲也の力量を見極める良い機会だと評する。彼が一人のプレイヤーとしてだけでなく、リーダーとしての才覚が開きつつある姿から、ゼルガを上回っているとも認めていた。例えエクスがゼルガを貶めようとも、玲也が謙遜しようとも彼の考えが変わる事もなく、本題に話を移し、


ブレストの元へと飛び立つティービストの姿が見えた。彼は苦戦に追い込まれた事もあったと漏らしつつ、玲也たちの腕を素直に称賛した上で


「もしかして、玲也君に出来るようになるって言ってた奴じゃ?」

「そうだ……ニアにも手伝ってもらいたいが』

「一体あたしと玲也に何をさせる気なの? さっさから勿体ぶっちゃってさ!!」

「そうです……レクターさん、もうそろそろ教えてください』

 仮面の男として正体が定かでないレクターに対し、今一つ信用できないとニアが少し突っかかる。、リンもレクターを案じるように彼女の意見を肯定しており、彼が少し無言を貫いていた後、


「俺はお前と手合わせをしたいと思っている。シミュレーターも既に手を加え終わったそうだからな」

「つまり、俺とシミュレーターで勝負をしたいとの事ですが」

「それは急ぐべき話でして? 玲也さんとニアさんでないと意味がないのでしょうか?」

「悪いがニアがちょうど良くてな」

「何かあたし相手にあんたが勝てると言いたいようね……」


 レクターは玲也とニア、つまりブレストを相手にシミュレーターでの勝負を挑もうとしていた――ただニアが不機嫌そうな姿勢に変わりはない。ブレストを相手に、ハードウェーザーとはいえ、ヴィータストやスフィンスト以上に非力と思われるティービストで勝てる。そのように甘く見られているのだから。


『最もエクスやリンにも手伝ってもらう。そうでもしなければお前に授ける術が伝わらないからな』

「その術を俺が身に着けるべきとの事ですか……」

『何、どうするかはまず戦ってみればわかる。少なくとも今のお前たちに無茶をさせるつもりは俺にもないから信じてほしい』


 戦いを終えたばかりの自分たちへ無理強いはしないとレクターがフォローするものの、玲也の顔色は必ずしも晴れやかなものではなかった。彼が自分へと授けようとする力が如何なるものか察しがついており、その力へ抵抗感が依然とあったからだ。


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次回予告

「戦いを終えた間もなく、レクターは俺への試練を与えた。マルチブル・コントロールと呼ばれる力を身に着ける事がバグロイヤーとの決戦を前に必要となる。その力を今一つ信用できない俺だったが、ゼルガはその力を身につけている。その彼が地球と電次元の為に戦いを繰り広げている事を、レクターから俺は知らされる。次回、ハードウェーザー「会得せよ! マルチブル・コントロール」にブレスト・マトリクサー・ゴー!」

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