29-4 激闘キャラントゥール山脈、影分身の謎を解け!
「ミュータントNo.7、標的はハードウェーザーの出来損ない」
「ミュータントNo.8、僕が食い止めてから」
「ミュータントNo.12、No,7と共に始末します」
ティービストは疾走を続けていた――現地の人々を巻き込ませないため、単身で囮として超常軍団をおびき寄せつつあった。実際自分を仕留めんと3人のミュータントが立ちはだかり、№.8とのコードナンバーを持つ短髪の少年は両手の指を突きつける。ティービストの両翼めがけて、テープ状のエネルギーを射出して拘束しようと試みるも、
「悪いが、貴様たちに手加減を加えるつもりはない!!」
「うわっ……!!」
すかさず機首からのドラゴランチャーを彼へとお見舞いする。全身に弾頭が直撃するとともに、彼は姿勢を崩し、うつ伏せる寸前に爆発へ巻き込まれた。
ただNo.7とNo.12はNo.8が戦死しようとも微動だにしない。ピンクの長髪を棚引かせるNo.7が背中に抱えた“く”の字状のブーメランを投げつける。迎え撃つティービストが両翼にマウントされた針状のニードル・シーカーを射出していくものの、二人に被弾した様子は見られない。
「どこを狙ってます……!!」
「それは俺が言いたい事だ!」
No.7の放つブーメランを足場として、No.12が飛び上がる。二刀流でティービストのキャノピーを目掛けて貫かんと試みるものの、彼もまた受けて立つ姿勢で自分からキャノピーを開く。右手にしたドラゴノ・サーベルを手にして彼女の太刀を受け止める。そして、打ち付けた剣を受け流した後、首元のタグめがけてすかさず、サーベルで貫いた瞬間No.12は電池が切れたようにその場で力なく落ちていった。
「No.7まで……!」
「後はセインちゃんが頑張るから、そう心配しなくていいのよ~」
「セイン様! この男は……」
挟み撃ちするようにセインが後方から迫りつつあった。彼女の援軍に心強く思えたのか、No.7の口元が緩むものの、彼女は後ろ首を針に貫かれ斃れる。No.7を討ち取ったニードル・シーカーはすぐさまティービストへと装着された――まるでオールレンジ兵器として、アタリストのコズミック・フィンファイヤーと似通う性質を持つ武器ともいえた。だが、アタリストと異なり、彼は何らか一人でシーカーをオールレンジ兵器を制御しているかの様子だ。
「あらあら~、どこを狙ってるのかしら~セインちゃんには当たらないんだけど~」
「流石というべきか!」
ただ相手が超常軍団の将軍である。残る5基のニードル・シーカーでセインを狙うものの、その彼女に動きを読まれていたからか、悉く当たる気配がない。笑いながら彼女が両掌を突き出すと同時に衝撃波が襲い掛かる。間一髪、飛び上がることでレクターが避けるものの、開閉したティービストのキャノピーを吹き飛ばすほどの威力の技を彼女は放つ。超常将軍として生身でハードウェーザーを相手にある程度戦えるだけの力を見せつけており、
「もしかして~ゼルガ・サータ、いや違うかしらね~?」
「何をブツブツ言ってる! 超常将軍だろうと生身なら……!!」
セインに向けてレクターが切り込む。両手にしたニードル・シーカーを携行した上で、メリケンの要領で殴りかかろうと見せかけ――左手のニードルを牽制がてらに投げ飛ばす。この攻撃をセインの右手を発光させ、手刀のように振り下ろして切り捨てる。彼女の隙を突くようにレクターは間合いを既に詰め、左手のニードルでで殴り飛ばそうと動くものの、
「生身なら~? それは貴方の事じゃないかしら?」
「うぐ……!!」
次の瞬間、セインの両眼が妖しげな光を放つ――虚ろ気な瞳の彼女の眼光を浴びた瞬間、レクターは振り上げた拳を下しただけでなく、右手で顔を必死に抑えながら、足も震えあがる。
「はーい、セインちゃん、奪いましたー! 確かに貴方の五感を奪いました~♪」
「俺の五感……そうか!」
「そうそう、もう立っているのも、喋るのも無理じゃな~い?」
サラリとセインが物騒な能力を口にした。彼女の眼光を直視した瞬間相手の五感を剥奪する能力があり、実質死にも等しいダメージを相手に与えていた。彼女の超能力としても特に最高峰の力であり、先ほどまでミュータント達を片付けてきたレクターの快進撃も歯止めがかかったかに見えた。目も耳も、さらに鼻も口も奪われた挙句、触覚まで奪い去られたのだから。
「さぁーて、セインちゃんグサっとトドメを刺してかーえ……!!」
セインの手からの光が刃へと形作られて引導を渡そうとした瞬間だった。レクターの左腕が瞬時に動き、ドラゴノガンを手にした。彼女のの首元へ備えられたタグ目掛けて容赦なく乱射した結果、紫色のタグは既に原型をとどめていない所まで破壊され、
「あれ、どうして……」
「……確かに五感は奪われた。だが予備の五感を持っていたとは考えてなかったようだな!」
ただ何が起こって逆転されたのか、当のセインは全く把握していないように呆然とした顔つきでただ仰向けに倒れたまま。彼女の超能力が決して通用しなかった訳ではない五感を奪った手ごたえを感じた時点で、彼女は既に勝ったと確信をしていたかもしれない。
けれどもレクターは改造されるにあたってサイボーグとしての、人工で作られた五感を別に備えていた。その為、本来の五感を失った瞬間すぐさまもう一つの五感を覚醒させる、ダメージから回復する事に成功した。脳は無事だった故に五感を復旧させる事に成功したのだ。
「超常将軍も死んだ……俺の五感を奪ったものの、いささかあっけない気がするが」
「ミ、ミュータントNo,2……」
超常将軍は死んだ――レクターもまた、一寸前までそう確信していた筈だった。つい先ほどまでセインだった彼女から、光と煙が激しく放出されており、今となってはNo.2とのコードナンバーを持つ人物。この手で仕留めた3人のミュータントの同類と思われる少女が横たわっているだけだった。
「まさか……影武者か」
「セイン様のいない超常軍団は捨て石同然、だがセイン様のいる超常軍団こそ……ふふふふ」
No.2はレクターに向けて吐き捨てた――先ほどまでセインだった自分ごときを倒しただけで超常軍団を推し量れると思うなと。彼女はセインの身代わりとして前線で散る結果となったものの、ただ自分にその役目を託したセインへ敬愛の念を寄せ、どこか恍惚したような表情でそのままこと切れた。
「まだ本部隊がいるが……先遣隊はもう総崩れも同然だ」
戦鬼、天空軍団と異なり、超常軍団はまるで主力をバグロイヤー本土に温存している脅威が残されている。だが先遣隊ですらレスリストを葬りさった精鋭部隊だった事もまた事実である。その先遣隊を早く潰さなければ、電装マシン戦隊が戦いに勝つことはない。その上でレクターは次に打つ手を考える最中、
「……超常軍団はガレリオ様を騙していた、天羽院様も騙されているのだろうか?」
レクターの感づかぬ上空から、ライトパープルの髪を棚引かせながらシーラもその戦いを見届けていた。超常軍団は自分たちを利用していたにすぎないどころか、本部隊が自分たちを逆に飲み込もうと暗躍しているのではないかと推測しながら。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『畜生! もうカラかよ!!』
――キャラントゥール山脈の頂へとザービストは追い詰められつつあった。今バズーガンの弾丸が底をついた。一撃で何機ものバグレフト、バグライトを葬り去ったものの、完全に駆逐しきれない事が戦局を泥沼させていたともいえた。逃げ切った機体から次々とジェミラージュで分裂、増殖するが為である。
最後の一発を打ち尽くした直後に、リニアッグのエネルギーでバズーカそのものを質量弾として打ち出す。両腰のジャッジメント・ガンを連射してバズーカそのものを爆発させてバグレフトを巻きこませるものの、一掃するまでには至れなかった。
『それだけじゃないね。ここまで逃げ回ってるとそうなるけど』
『もう2割かよ! 何も報いてないのによ!!』
さらにザービストの燃費が極端に悪い故に、引き寄せるために逃れ続けた結果エネルギーは底を尽こうとしていた。既に電次元ジャンプで逃げる事も出来ず、自力で逃れようとも、8機ものバグロイドに包囲された状況であり、
『ザービストの事だ、もう消耗してるだろうね』
『レスリストみたいに、やっつけられる訳ね!』
『そういうこと、僕らでも彼奴なら十分仕留められるしさ!!』
ジェミラージュを生かした分身戦法は、ザービストを疲弊させるには十分。二人ともレスリストと同じように消耗した隙を突いて一気に攻め立てるのが彼らのやり方である。パラオードの元バグレフトが左手首を折り曲げ、デリトロス・キャノンを一斉に構えてザービストを撃たんとした瞬間だ。頭上からのビームにバグレフトが薙ぎ払われていき、
『良かった! 間に合ったみたい』
『シャルなら、ヴィータスト……だよな?』
『フォールドしなくて済むのは助かるけど……凄い恰好かな』
上空からの援軍にパラオードが少し唖然としたが、救われたバンとムウもまた思わぬ援軍に対して、多少困惑したようなリアクションを飛ばしていた。それもカイト・シーカーのバックパックにヴィータストが連結され、本来前方に接続される部位にはスフィンストの上半身がポータル・シーカーを背負いながら接続されていた。所謂3体合体だが、コンバージョンとしてヴィータストか、スフィンストのどちらか形容しがたい外観をしており、
『だから、この姿は好きではないのだが……』
『とりあえずヴィータストにしといて! 僕が動かしてるんだから!!』
厳密にはヴィータスト・ヴィヴィッドとの事だが、スフィンスト・ストロンガーとも捉えかねないこの形態をウィンは苦々しい表情で恥じていた。玲也が発案したこの3体合体は、3機まとめて空輸するために思いついたバリエーションとの事だが、
『だが空中の敵はそなたに任せるぞ、いいか!?ぬかるでないぞ!!』
『は、はい! 当たり前かもですけど凄い剣幕ですね……』
『お、おぅ。アサルト・キャノンが使えたらいいけどよ』
『射角が干渉してるから無理パチ。シーカーはオレが制御するからわがまま言うなパチ!』
最も3機が同時合体している状況で、1機の制御下に置く事データの容量が不足する問題と直面する。その為スフィンストは才人の管轄で動かす事となるが、エレクトリック・ファイヤーが装着されてない関係で、アサルト・キャノンは封じられている。その為空中での守りはスフィンストに委ねられている事から、才人の責任も重大となる。思わず胸をさする彼へコンパチが一応フォローしていた。
「それよりザービストを救いましょう!」
「あぁ、ようやく本来の使い方が出来るな……!」
その最中、カイト・シーカーからネクストが発進する。急降下すると共に倍ほどのサイズへと全長は拡大し、手足が展開すると同時にバグライトの後ろ頭目掛けて豪快な飛び蹴りを浴びせた瞬間、前のめりに倒れ爆破四散しており、
「歯ごたえがないですね……分身かもしれないが」
「どこに本体が紛れているかだ。ブレイザー・ウェーブを使う訳にもいかないからな」
ジェミラージュによって生み出された分身化と思われるが、ネクストの飛び蹴りであっけなく敗れるバグライトに玲也達は違和感を覚える、ブレイザー・ウェーブでのジャミングなら本物をあぶりだす事が出来るのではと捉えたものの、この状況でザービストまで巻き込みかねない危惧があった。
その為ネクストがザービストを守る様に前方へ現れ、すかさず胸部からのアサルト・ブレスターを放ってバグロイド達の足止めに挑む。ザービストが彼の腰からカルドロッパーを拝借しており、
「このカルドロッパーを使ってください! 少しは足しになりますから!」
『お前らに助けられるのは癪だけどな』
『そんな事言ってる場合じゃないよね、3割なら儲けものかな』
カルドロッパーが本来活動時間の延長を図る予備のエネルギータンクであり、消耗したザービストを救う意味合いで託した。この状況にバグライトが迫りつつあり、四方に分散していき、
「ブレスターで限界があるなら……電次元サンダーもだ!!」
散らばる相手へ、前方へのブレスターで蹴散らすのも限度があった。両手を突出させ、すかさず電次元サンダーを発動した瞬間だ――1機だけがネクストの目の前から姿を消す。思わず振り向いた瞬間ネクストの頭上へと姿を現しており、
「電次元ジャンプか……しまった!!」
『まさかディータは一気に! 待って!!』
『待ってたら、倒せるのも倒せなくなるよね!? そんなの嫌!!』
1機だけ電次元ジャンプで奇襲を仕掛けんとするバグライトこそ、ヴィータが乗る本物であった。ザービストの補給が完了したなら、倒せる相手も倒し損ねると彼女が判断しての行動だが、自分から本物をさらけ出す術にパラオードが流石に動揺した。電次元サンダーですぐさま仕留めんとするネクストだったものの、バグレフト達がまるで彼女たちを守る様に身代わりに徹しており、
『デリトロ・スプリットで死ねぇ!!』
『やべぇ……!!』
「ば、馬鹿! 勝手に分離しては」
『だめぇ! 才人っち逃げて!!』
バグレフトに守られるようにして、本物のバグライトが腹部からのデリトロ・スプリットを一斉に浴びせかけようとした瞬間だった。才人の操縦によってヴィータストからスフィンストが咄嗟にパージされる。すかさずザービストを狙う彼女の射程圏内へと滑り込んだ瞬間、胸の内の閃光から串刺しにするように浴びせられ、
『がぁぁぁぁぁぁぁ……って、あれ?』
『あれ、被弾した筈ですのに、これなら全然では……?』
『駄目だ!ママ、僕たちのトリックが……ママ、ママ!?』
かくしてレスリスト同様、スフィンストが餌食になると思われたが――背中でザービストの楯となったスフィンストには傷一つつかず、被弾と同時にパージする予定だったポータル・シーカーですらかすり傷がついた程度である。この予想外にも程がある軽微な損傷に才人とイチがキョトンとしており、逆にパラオードがジェミラージュの穴を見抜かれたと狼狽えている。
「確か延々と分身すると言ってました。その分身が弱い事ならわかりますが……」
「……まさか!!」
『まさかって玲也君、何か分かったの!?』
「俺の仮説かもしれないが……分身どころか本物も弱いぞ、多分!!」
玲也が察したジェミラージュの盲点――それは半永久的にと実体のある分身を生成する事だが、その代償として本体の性能も著しく低く抑える必要があった。バグレフトとバグライトがレスリストを仕留めた事は、エネルギーが1割を切って消耗しつつあったレスリストを狙ったからこそ通用したのであり、ザービストに対して極端に燃費が悪く装甲も脆いとの点から、消耗状態に追い込めば十分仕留められると見てジェミラージュを延々と展開していたのであり、
『なるほどね……こんな簡単なトリックに引っかかってたのね』
『てめぇぇぇぇぇぇっ!!』
『ディータ……逃げて、逃げるんだ!!』
玲也の推測にムウが頷くと共に、ザービストが被弾すれば致命傷になり得るとの点から、避け続けざるを得ない。その中で強烈な一撃で葬り去ろうとする自分のバトルスタイルに対して、個々が脆くとも延々と増殖し続ける相手へ完全な消耗戦に陥っていたのである。
自分の不甲斐なさにムウが少し苦笑した後、バンは今までの鬱憤を晴らすために鬼気迫る勢いで飛び出していく。右腕のリニアッグにジャンバードを接続し、高出力のザンバーを展開して構えた途端、
『うああああっ……!!』
『嘘……お兄ちゃん、お兄ちゃん!?』
『早く逃げて、直ぐに後を追うから……』
ジャンバードが突き刺した標的はバグレフト――パラオードの叫びが響きわたった様子から彼自らが妹を庇わんと盾になって果てようとしていた。咄嗟に腹部からのデリトロ・スプリットを浴びせかければ、右手のデリトロス・セイバーを振るいあげた途端、左腕を切り落とされ、ザービストの体は後方へと吹き飛ぶ。致命傷は免れようともザービストの装甲が脆い事には変わりなく、弾き飛ばされたザービストへセーフ・シャッターが展開されていた。彼が体制を立て直した際は直ぐにバグライトが姿を消し、腹をも貫かれたはずのバグレフトもまた妹の後を追うように行方を晦ませ、
『まさか……逃げたのか!?』
『まま、仕方ない……じゃ割り切れないかな、これは』
『も、もしかして俺が勝手に飛び出したから』
「いや、それは関係ないと思うが……レクターさんからか」
ディータはまだしも、パラオードに深手を負わせながらも仕留め損ねた事で、バン達は一杯食わされたような心境へ陥っていた。玲也もまた釈然としない胸の内だった所、レクターからの通信が彼の元へ届いていた。
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