27-4 天空軍団の罠! アルプス山脈の大竜巻‼︎

「おい、何とか言えよ! アトラスが仕掛けたとかありえないだろ!!」

『い、今記録を洗い出してるから、待っててくれないかな……私もアトラス君じゃないと信じてるから』

「信じてるなら誰でもできるんだよ……おわっ!!」


 アルプス山脈上空にて、フェニックスは砲火に晒されつつあった。迎え撃つバンはコントローラーを手にしながら、ガンボットの対応が遅々としている事に苛立ちを感じつつある。落ち着きも少しない彼がコクピット周辺を見回すと、そこには3人の姿が――ザービストでは収まりきらないスペースであり、


「バン! わざわざ出てきたなら余計な感情は捨てろ!!」

「余計だと!? ムウの事を他人事みたいに済ますなよな!!」

「そういう問題ではないわ! 少しはフレイアを見習ったらどうだ!!」

「……私ですか?」


 フェニックスにダブルストが陣取り、ダブルゴーストが遊撃機として応戦しつつあった。ドイツ代表の得意戦法の筈だが――アズマリアとルミカの姿は見られず、代わりのサブプレイヤーとしてバンとフレイアが操縦を続けていた。

 ただ、バンとしてはゴースト2を操縦する経験がない事を別に、ムウが意識不明の重体であることから、強さを手に入れる事へ貪欲な彼ですら動揺が生じつつあった。その為集中しきれてないとマーベルに指摘されればギクシャクとした関係であり、第三者としてフレイアが淡々とゴースト1を操縦していた。ジャイローターを右腕で保持すると共に、アングラ・クローでバグファイターを突いては、シュツルム・ストリームを零距離で放って粉砕しているが、


「けっ! 所詮ロボットにはわかんないんだよ!!」

「……ロボット?」

「バン! 」

「ぶっ倒せばいいんだろ! 分かってる!!」


 パートナー不在の状態で応戦している状態は同じはずだが、今のバンからすれば感情を見せることなく、精密な機械のように動かしているフレイアはロボットだと嫌悪的な感情をぶつける。メルもまた少し声を張り上げて叱りつけると、バツが割る様子でノースフィアを展開して、バグファイターを突く。同時に胸部からのミサイルを一斉に打ち付けて、墜落させた後にスザクランチャーを前に蹴散らされたが――水色のバグロイドが群がる様にラピードガンとミサイルを叩きこんでいた。


「シャル! お前たちの手を借りる事は癪だが……!」

『そんな事言ってる場合じゃないよね! 僕その気だから!!』

「なら成果を出せ! 多少の無礼は大目に見てやる!!」


 フェニックスを上空から狙う水色のバグロイドはバグジェッター天空軍団の主力ながら、人型であるより、戦闘機としてコンパクトに収まった外観であり、運動性と物量を活かして、手にしたラピードガンとミサイルを駆使してフェニックスの面制圧を目論んでいた。

 彼らを相手にダブルストも、マーベルもまた必死に応戦する上部のレール・シーカーからミサイルとレールガンを同時に叩きこみ、本体の主砲となるハウンド・ガトリングで弾幕を張る。フェニックスの死角を補うように防戦一方の彼女は、シャル達の手を借りる必要があった。ヨーロッパ系のトップであるプライドが見えかくれしているものの、シャルは彼女と同等の立場で接するだけに留めて、天空軍団との相手を務めに入る。


『危ないよ! 巻き込んじゃうかもしれないから!!』

「おい! 何を前提にして!!」

「……エレクトロ・キャノンはハイドラ・ゾワールでビームの軌道を制御できます。仮に移動する標的の射線上に私たちがいましたら、計算上……」

「わかった! わかったから一々長ったらしいんだよ!!」


 ムウの件から猶更カリカリしてるバンは、フレイアの説明に対しても当たり散らしている。少しでも彼らを巻き込む可能性を減らす為か、それとも連携が取れていないダブルゴーストを危惧したのか。ヴィータストが彼らの前方を遮るよう現れ、


『彼らは大丈夫か……あの二人の方がまだ』

『過ぎた事はしょうがないよ。正規の僕たちが頑張らないと!』


 ウィンが危惧する様子をシャルは否定しきれず、彼らに代わって天空軍団を退けてこそとエレクトロ・キャノンを展開する。両手首からの閃光はハイドラ・ゾワールによって鞭のようにしなり、バグファイターを撃ち抜いていくもの――バグジェッターへと接触するかと思われれば、機首からのアンテナが展開されて、ビームの軌道に干渉しており、


『あいつ……ビームは効かないのか!!』

『それは分からないけど! あの水色の奴は近づいたほうがいいよ!!』

「バン、行ってこい! 多少の無茶はしてもかまわん!!」

「あんたに言われるのは癪だけど、ムシャクシャしてるからな!!」


 バグジェッターの相手として、遊撃機の中でも白兵戦へ対応したゴースト2が最適だとシャルは判断した。マーベルから命令される事は気に食わないと不平を述べつつ、ヴィータストに割り込むよう、ゴースト2が殴り込んだ。実際、両肩のハウンド・スクリューでのショルダータックルをぶちかました後、翼となるハウンド・シュナイダーで機体を両断していくなど、白兵戦を前にはビームの軌道を捻じ曲げたような術では対処できず、


『いくら無人でも何というか……』

『でも、ムウと同じようにウィンがなったら僕もそうだろうね……まともに戦えるか分からないよ』

『その為に博士が代わりに診ているが……何!?』


 バンの戦いが荒っぽい事に関して、シャルはパートナーの危篤を考えれば前線で渡り合えているだけでも、大分バンは無理をしていると見なしていた。本来ならメル共々ムウの容態を診なければならないはずだが、フェニックスでまともに戦えるハードウェーザーがダブルストしかいない現状がそれを許していない。

その為急遽ブレーンが出向している事から、彼に委ねようとするウィンであったが――フェニックスの船体が下からの力に揺さぶられている事に気づいた。


『ま、マーベル君……この様子だともしかして』

「もしかしなくても、地上にいるホイ! 死角だみゃー!!」

『でしたら私めが……宜しいですか?』

「なら、何としてもだ! こちらからはフレイアを回す!!」


 ガンボットが状況を把握する前にして、既にマーベル達は迎撃態勢に入っていた。目の前のアイボリー色の2機は、両肩と胸部に内蔵されたミサイルポッドを延々と見舞い続けながら、間合いを維持していたが――モスグリーンのフレームが生成されると共に、両肩からのライジング・ラッシャーが炸裂する。打突を受けて大きく相手がよろけた後に、


『このようなバグロイドですと、別にフォワードがいる事がセオリーですが……!!』


 陸戦を想定した戦力として、サンディストが電装された。トリケラのいでたちの彼はバックパックからのストリーム・キャノンを浴びせ、バグロイドのミサイルポッドを射抜いて誘爆を引き起こさせて仕留めて見せる。ただヒロとしては砲撃支援用に特化したバグロイドが、単身で姿を現している事へ裏があると疑っており、


『もしかすれば自爆兵器か、囮かもしれませぬぞ! マーベル様!!』

「右舷に舵を取れ! 巻き込まれるだけは避けろ!!」

『それが最善でしょう……若、どこへ!!』

『敵が逃げてくっぺ! やっつけるっぺよ!!』


 航空戦力が囮であり、地上からのフェニックスを落とす事が本命ではないかとヒロは判断して、すぐさまマーベルへと報告した。だが同時にバグロイドがフェニックスから逆に距離を置こうとしている事から、サンディストが彼を追いかけだす。


『なりませんぞ、若! これも敵の思うつぼですぞ!!』

『敵はオイラから逃げてるんじゃないっぺか、爺!?』

『離れられてるほど、敵は強いですし、近づけば爆発に巻き込まれますぞ。キャノンで狙うのが良いでしょう!』

『分かったっぺ……あれ、あれどうしたっぺ!!』


 直ぐヒロがラグレーを制止し、相手が自分たちをおびき寄せる囮であり、ショートレンジで仕留めてはならない相手だと諭す。その為歩みを止めてストリーム・キャノンを放とうとしたものの、彼がコントローラーで入力してもサンディストが急に動かなくもなり、


『動かないっぺ、何かおかしいっぺかー!?』

『お待ちください、何やら強力なフィールドが生成され……のわっ』

『サンディストが浮いてる……ってええっ!?』


 サンディストに襲い掛かる突然の不調に対し、ラグレーはヒロへと尋ねるが――原因が判明するまでに、サンディストの身体が宙へふわりと浮き上がった。

重量級のサンディストが軽々と浮くような事態はあり得ない――シャルは、目の前の光景に思わず目をこするが、浮き上がるサンディストを包み込むように、赤色の渦が形成され、まるでサンディストがミキサーに放り込まれたように激しい回転に飲み込まれており、


『ぐるぐるだっぺよー! シャル姉ちゃん、ウィン姉ちゃん!!』

『ぐるぐる……お、おいどうした! 何か言え、何があった!!』

『本当想像力がないんですねぇ~貴方たちは!!』


 ぐるぐるとのラグレーの言い回しに対し、どういう状況かウィンが把握する間もなく、通信が途切れてしまう。さらに巻き起こる竜巻と共に、地表が放射線状に零れ落ちていき群青色の巨体が露わとなる。まるで饅頭の四方から足が生えたような奇抜な外見のバグロイドがアルプス山脈に姿を現していった、


「この野郎! 出てきたからはどうなるか!!」

『おっと、手を出したらどうなりますか、貴方も少しは想像してくださいよ』

『わ、若ぁ大丈夫ですか!?』

『じ、じぃー、ぐるぐるだべ! 気持ち悪……っぺ』


 真っ先にバンが応戦しようとするものの、自分には人質がいると言わんばかりに、生成した竜巻の速度を上げていく。慇懃無礼な態度に加え、やたらと自分の想像力の高さに固執してバンを挑発するこの男はノーベル。蛙のような面構えに、重力に押しつぶされ横幅が広い男こそ天空軍団の幹部であり、


『バグストームのキャンタイフーン、その気になりましたらもっと速く回せます。つまりここから想像すれば僕が何を言いたいのかわかりますよね!?』

「……何が目的だ!!」


 バグロイド・バグストームの織りなすキャンタイフーンは、電磁波を帯びた強力な竜巻を機体の頭上へと巻き起こす技だ。その性質上バグストームは地中に潜んだうえで、2機の子機を駆使して地上で相手をおびき寄せる必要があった。運悪くサンディストがおびき寄せられる形でキャンタイフーンの餌食となってしまったのだ。ラグレーの身に危険が及ぶこともあり、マーベルはやむを得ず要求を聞かんとすると、


『想像ですよ、もっと想像してくださいよ~僕が何を求めてるかくらいはさ!!』


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


『……と、まぁ僕の想像を一言で言ってしまいますと~羽鳥玲也というプレイヤーの身柄が欲しいんですよ』

「俺の事をどうして……」

「あんたって人もまた玲也かよ! 少しは俺に関心でも持ったら……」

『貴方が誰かいちいち気にしてたら、想像なんてできませんよ!』

「……」


 ドラグーンへ向けて、ノーベルは玲也の身柄を明け渡すようにと要求した。何故かシーンがしゃしゃり出るものの、彼からすれば想像する価値もないと一蹴された。今彼がアラート・ルームの隅っこでいじけて座り込み、床を何度もたたいている様子をステファーに眺められていようが、彼だけでなく玲也達からも全く関係がない事であり、


『そうだ、僕が何故玲也の事が分かってるかくらい想像して……』

『その顔を見たら、天羽院から聞いて、早くしないとサンディストが危ないと脅す気だね』

『は、話が早くて助かりますが、楽しいのはこれからですよ。そのちっぽけな想像力を働かせて考えてくださいよ』


 ノーベルが自分の想像に固執し、もったいぶる言動に対しエスニックはその内容を推察してみせる。実際彼が少し取り乱している様子からして図星に近いであろう。捨て台詞を吐くようにして通信が切られると共に、


「サンディストに早く手を加えていたら、こうもならなかったが……あだっ」

「今更言ったってどうしようもないでしょ! どうするか考えないと!!」


 サンディストが窮地に追い込まれている事は、アグリカから手渡された強化案のデータを反映させていれば対処できたのではないかと玲也の顔に後悔の念が走る。リーダーとして一人多忙であったゆえか、或いは彼女への硬直的な態度を取っていた故に柔軟な判断を下せなかったか――そんな彼に対して、ニアが背中をバシっと叩いて喝を入れると、


「ニアの言う通りぜよ、早速助けに行っちゃる」

「って言いたいけど……本当神様は意地悪ね!」


 ナイスフォローとニアを称しつつ、サンディストの救出へ向かわんとラルが意気込むも、リズが指摘する通り自分たちが帰還後のインターバルを終えていないが為、今すぐとはいかなかった。これはオーストラリア代表にも当てはまるが故、手が空いているとなれば、


「俺が行きます……いい手が、ごほっ、ごほっ!」

『玲也君大丈夫か!? 才人君もだが君もここで無理されては……』

「俺しか今、出れないですし、直ぐに終わらせて帰りますから、ここは……けほっ、けほっ」


 結局のところ玲也自身が前線に出なければならないと分かってはいた。悪化しつつある体調へエスニックが案じるものの、他に動ける面々が限られていたことは事実であり、


「全く……せめてロディさんが出てくださいましたら少しは」

「いや、クロストさえあればどうにかなるかもしれない。ここは信じてくれ」

「れ、玲也様……私の想像でもここは私と思いましたが」

「気を抜かないでくれ……本当直ぐに勝負をつけるためにも」


 この場にいなく、最前線でも戦おうとしないエジプト代表へエクスが苦言を呈すものの、クロストで電装すると打ち明ければ、すぐさま彼女は高揚した様子となっていた。彼女はその気にさせた方が上手く動いてくれるが、


「それと将軍、コンパチをよこしてください。流石に俺だけでは厳しいですから」

『わかった。直ぐ君の元へ送るが……君の為にも道草だけはしないでくれ』

「将軍の言う通りじゃ……延長戦は負けぜよ!』

「そうですね……だからこの勝負に賭けますよ!!」


 才人とイチは、ゲルチャイムの後遺症を懸念され、フェニックスのメディカル・ルームで検査の為動けずにいた。その為にコンパチも随伴していたものの、エスニックは直ぐ彼だけでも連れ戻し、ラル共々早々に蹴りをつける必要があると念には念をと述べた時、彼は口元を緩ませ、サムアップをした後にシューターへ身を投じる。


『ありがと、あんた達にも無理言って……え、えぇ!?』

『ニア君とリン君は万が一に備え……クリス君、どうした、私が代わった方がいいか』


 フェニックスからコンパチを送られたとの事を聞けば、ひと段落と思いきや――クリスが何やら狼狽を表しており、直ぐにエスニックの顔つきが引き締まる。彼女から通話を転送されるや否や、


『やばいっすよ将軍! 何かイギリスがバグロイヤーに襲われたとかで!!』

『スコットランドの軍事基地が乗っ取られて、ミサイルの制御が奪われたみたいなんです!!』

『……ガンボットは何故……他に分かる事はないか!』


 検査の合間に用を足しに、メディカル・ルームから出た矢先で隊員たちの話を才人が耳に挟んだとの事であった。イチが情報の真偽を確かめる為に集めた他の情報を耳にしていくにつれて、エスニックの表情が険しくなり、


『アトラス君が早まった事を……フェニックスに乗り込んでも引き止めるんだ!!』


 ――バグロイヤーの真の狙いはイギリスの軍事施設であり、アルプス山脈のバグストームですら囮だと知らされると、エスニックでも頭を抱えざるを得なかった。さらにイギリスで発生した事態故にアトラスたちの身に危機が迫り、彼が死に急ぎかねない状況へと今、追い込まれようとしていた。

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