第26話「ウクライナ壊滅!超常軍団の大謀略!!」

26-1 鳴り響く正午の鐘! 怪僧ムドーの挑戦!!

「次を予測しましたら、アンドリーイ、ソフィア、ウラジーミルと思いますがー……」

「その中でもソフィアの教会が最も歴史があります。最初に調べてみる価値はあると思いますね」


 ルミカとアズマリアはウクライナの首都・キエフに足を運んでいた。彼女たちが異国、それも教会に足を運んでいるには理由がある。アズマリアはともかく、何時もやたらテンションが高く、様延々と長話をするルミカでさえ、今は珍しく落ち着いた顔つきをしており、


「ワルシャワ、ミンスクが餌食になった次はキエフが危ないでしょう。ライトウェーザーが暴走して、これ以上被害を拡大させては……」

「勿論ですよー、その為に私たちが調査に出ていますよー」


 一昨日のポーランド、昨日のベラルーシで、各軍事基地に駐留したライトウェーザーが同士討ちを引き起こす奇怪な事件が相次いで発生した。PARの同士討ちに近辺の住民が巻き込まれる形で70人近い死傷者が発生している惨事は、民衆の不安を煽る事は言うまでもない。さらにその不穏が電装マシン戦隊へも及び、この騒乱に乗じてバグロイヤーが隙を突くこともありうる為、


「既に配備されているライトウェーザーを調べましても、特に異変があったとは私には思えません。イシュカが私たちに話した事も信じられるかどうか怪しいですが」

「12時の鐘が聞こえる前触れにバグロイドが現れてー、撃って出た皆さんがおかしくなった事ですねー。イシュカさんもまだ回復しきっていないのですがー」


 名前が挙がったイシュカという人物は、アズマリア、ルミカと同じ士官学校を卒業した同期の人物だ。PARのヨーロッパ支部隊員として、ワルシャワの陸軍基地に駐留していたものの、


「……何が何かわからず同士討ちをはじめ、自分も誰が敵なのか分からなくなっていたですからねー」

「立て続けにヨーロッパ……私たちの管轄で同じような事件が起こってますからね!顔を既に知られている私たちが、バグロイヤーの陰謀を暴いてやろうじゃないですか! !」


 引き起こされた同士討ちは、ライトウェーザーのパイロットだけでなく、非戦闘員まで巻き込んで多くの血を流した。イシュカは辛うじて一命はとりとめたものの、共に戦う同胞や守るべき民衆に手をかけた罪の意識に苛まれるであろう。

これが何者かに操られるようにして犯した事が猶更理不尽極まりない――同期の屈辱を晴らさんと、ルミカは苛立って声を荒げた。常にテンションが高いだけの彼女ではないのだ。


「ウクライナが標的になってほしいですねー、こう言ってしまいますと不謹慎ですが―」

「そうですね。ポーランド、ベラルーシの流れからウクライナにバグロイヤーが狙い定めませんと私達が動く意味がなくなってしまいます」


 そして、ウクライナへと足を踏み出した理由とは――敢えて自分達ドイツチームが世間に顔を知られているプレイヤーとして、バグロイヤーをおびき寄せては叩く為であった。キエフの軍事基地にもライトウェーザー部隊が配備されており、ダブルストを電装させて対処しようとする他、


「プラムとマウアーの話ですと12時に鐘がなる教会はその3つですからー」

「私達が足を運べばバグロイヤーの注意を引き寄せるかもしれません。私達がプレイヤーのはしくれだと奴らも分かっているでしょうからね」


 プラムとマウアーという名前の人物もまた二人と同じ士官学校の出になる後輩だ。その二人がウクライナに駐留していた事もあり、二人から聞いたイシュカの憶測を信じて行動に移しており、


「メルさんが嫌ってませんでしたら、もう少し有力な情報を得られるかもしれないですがねー」

「ですから、実際に足を運んで試すに越したことはありません。ソフィアの後は私がアンドリーイ、アズマリアがウラジーミルの様子を……」


 教会の鐘がライトウェーザーのパイロットを操るとの憶測に対し、メルからすればオカルトじみた非現実的な事は信じられないと嫌悪感を示した。それ故に協力へ消極的だった彼女に対し、アズマリアとルミカの二人が前もって証拠を突き止める必要があった。自分たちが替えが効くサブプレイヤーとの立ち位置から調査に出ていたものの、


「もしかして、ハードウェーザーのプレイヤーじゃないですか? テレビで見ましたけど」


 聖ソフィア大聖堂へと到着を目前として、背後から突如声をかけられた事に気づく。玲也と同じくらいの年頃の外見の彼がテレビで見たと口にしていたものの、既にニュースや新聞などでもマーベル共々報道されている自分達である。他国の子供が知っていたとしても無理はないと判断したものの、


「あー、実際の所確かに私達と似た人たちが有名になっていますが、格好良いですよねー」

「確か……ルミカさんとアズマリアさんですよね?」

「え、えぇ、私は……その」

「……私はアズマリアで、アズマリアとルミカですね~」


 アズマリアがあくまで他人の空似だと誤魔化そうとしていた所、自分たちの名前を尋ねられるとルミカが思わず返事をしそうになった。アズマリアが少し慌てて彼女の首を絞めて沈黙させようとしていたものの――何故か彼女があっけなく肯定していた。


「ソフィアの教会でしたら、僕が知ってますから案内しますよ」

「……はい~」

「……そうですね、私たちがそもそもソフィアに行かなければ始まらないですしね」


 その少年へ案内されるようにして、二人が彼の後をついていくが、揃って瞳が虚ろなまま。まるで彼の思惑通りに動かされてもいた。実際二人を後ろに引き連れながらほくそ笑んでおり、

 

「ふふふ、これで一先ず及第点ではないでしょうか?」

「及第点? まぁ確かにミュータントとしてはまだ使えるかもしれないけどねー」


 大聖堂の頂から微かに浮遊しながら、、アズマリアとルミカを操る少年を眺める二人の姿もあった。薄い紫色の頭髪を棚引かせる気障ったらしいこの男“ムドー”が語る相手こそセインクロス――超常軍団を率いる七大将軍の一角だ。


「セインちゃんはあくまでかわいいお人形さんが欲しいのよ? 私に従わないお人形さんなら別にポイしちゃっていいの」

「左様ですか……戦力としては十分な腕を持つまでに至っている筈ですが」

「そんなのいくらでもいるじゃない。セインちゃんは―私の言う事をすなおーに聞いてくれる、可愛いお人形さんが欲しいのよん_」

「は、はぁ……私はセイン様に従順なつもりで動いてまして」


 彼は強化改造が施された一種のミュータントだとムドーは明かすものの――ただ十分な能力を持つ駒よりも、セインは自分に従順なお人形であることを望んでいた。その為ムドーによって手を施された彼を自別に好んでいないと、セインは相手にしていないとばかりにあしらう。この時、彼ではなくムドーが何故か、自分に二心はないと弁明をしていたが、彼女が耳を傾けたかどうかは定かではない。


「でしたら彼は私の駒として使わせてください。セイン様の為にこの作戦を成功させてみますから」

「それなら別に構わないわーん、まぁセインちゃんは新しいお人形を探す事が目的だしー」

「左様ですか……でしたら、ゆっくり高見の見物でもしてください」


 彼を従えた上で、ムドー自らが指揮を執る作戦をセインへと提案する。彼女自身はまるでバグロイヤー閉じて地球を支配下に置く事へあまり興味を示しておらず、まるで後をムドーへ丸投げするような姿勢で承諾する。このお墨付きに“しめた“とムドーがほくそ笑んだ事を知っていたかどうか分からないが、セインはテレポートするようにその場から瞬時に姿を消し、


「心忘れたエスパーには、栄光求める夢もない……お人形たちに世界を収める術はないと怪僧ムドーが教えてあげますよ!」


 “超常軍団の二番手にあたるムドーは、同じミュータントの子供達を従える者としてセインとソリが合うわけではなかった。彼女の後釜を虎視眈々と狙わんとする彼は、自分の功績を認めさせてやらんと非情の作戦が今繰り出そうとしていた。この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である“

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