25-2 大西洋の重戦車、秘拳タウラッシュに挑め!

『い、一斉に撃て……! 被害をゼロに抑えるんだ!!』


 ――北大西洋上空。ウィナーストにより墜とされたガードベルは大気圏で完全に燃え尽きる事はなく、一部のデブリが大西洋上空へと落下しつつあった。このデブリを破砕して最小限の被害に抑えようと、フェニックスからはスザクランチャーを一斉に展開しつつ、デブリをより細かく砕いていく。


「その気になっているのは私としても嬉しいがな……艦長がびくつていては務まらないぞ!!」

『マ、マーベル君……今、君に構っている余裕は私に』

「分かっている! だから私も今は好き勝手に動いている!!」


 普段と異なり気骨ある一面を見せているガンボットを労いつつも、後に引けない勝負は自信と余裕を醸し出さなければ戦いの気迫に呑まれてしまうとマーベルは檄を飛ばす。普段の我が物顔で振舞うドイツ代表の面々がガンボットにとって悩みの種であり、彼女たちが勝手に動く事も少なからずあるのだが、


「メルもここまで腹ただしいは初めてかもしれないみゃー……」

「ガードベルトどころか、シンヤまでこうも手にかけるとは」

「それにソラさんもアクアさんもどこ行ったんでしょうねー」

「あいつらはまた事情が違う! 戻ってきたらどうしてやろうか!!」


 メルは普段よりも感情的なまなざしで、上空のバグロイドへ睨みを聞かせている。戦鬼軍団の戦力は三方に分散され、その一方が大西洋へと向かいつつあったが。ガードベルトのデブリを大気圏内へ落下させる混乱に乗じ、電装マシン戦隊を叩こうとしているのだ。


「こうも卑劣極まりないバグロイヤーは跡形もなく叩きのめす! わかっているだろうな!!」

「勿論ですマーベル隊長、この時の為にダブルストに手を加えた訳でして、このダブルゴーストも一回りも二回りもですね……あぁ、勿論私達も……」


 ルミカがアピールする通り、藍色の重戦車さながらのダブルストはダブルスト・ダウンバーストとして新たに強化された。ゴースト1が変形した左腕が長身の砲門へと変化し、ハウンド・ランチャーとして上空のデブリを軽々と貫き、


「これで少しは楽になる筈だ! バグロイドはこっちで片付けるからヘマは許さんぞ!!」

『……も、勿論だ! 私にだって司令としてやらなければならないと分かっているぞ!!』

「その意気なら……ルミカ、行ってやれ!」


 フェニックスに近づけさせてはならないと、バグロイドは自らが10機近くの相手に打って出る覚悟だった。フェニックスの護衛がてらに右腕を射出すると、瞬時に両足と両手が展開されゴースト2がその姿を露わにする。さらに言えばバックパックへジャイローターに代わる飛行ユニットが装着された事で、大気圏内を飛び回り、


「パワーアップしましたゴースト2は違うんですよ! ノーズフィアは鍔迫り合いをするだけが能ではない事を今から……」

「別に口まで動かす必要はないぞ! とっとと倒せ!!」


 ゴースト2が右手にしたノースフィアは、バグファイターのセイバーとつばぜり合いを繰り広げていたものの、セイバーを薙ぎ払うようにして鏃を向けると共にビームを発して大きく相手を弾き飛ばす。無防備な状態と化した相手へミサイルを立て続けに放って葬り去ると、


「こうして空から撃って攻めるとか、私はみみっちいことが嫌いな女だからな!」


 9機程のバグファイターは、レールガンで一斉にダブルストへと攻めかかる。この上空から砲撃を続ける彼らのやり方に、マーベルは辟易した感情と苛立ちと共に反撃に出る。右肩のジャイローターの向きを変えると共に、シュツルム・ストリームを叩きつける事でバグファイターの群れを巻き込み、


「私が引導を渡してやろう! シュバルツバルトの猛威を味合わせてやるから!!」

「ありがたく思うみゃー!!」


 その瞬間、上空へとミサイルを一斉に放つ事によって隙を晒したバグファイターへと追い打ちをかけ、ストリームの渦から外れた相手へは、レールガンを浴びせかかる。制空権を取られようともものともしない攻めを挑んでおり、


「流石ですマーベル隊長! おそらくあれが隊長機ですから一気に叩きのめしましょう!! 私たちがドイツの希望に変わりな……」

「何かエネルギー反応があるみゃー! 後ろに気をつけるホイ!!」


 半数近くを既に撃墜したダブルストが、もう1機のバグファイターへ引導を渡そうとした瞬間、隙を突くように電磁波が背後から襲い掛かる。サブモニターに移るバグロイドは8本ものサブアームをバックパックに備えた銀色の姿をしており、


『それで受け止められると思うなよ! タウラッシュはなぁ!!』

「ぐあっ……間合いを詰めてきたからって」

『まさかハルベルトがくたばっちまうとか思わなかったけどよ!』


 銀色のバグロイド“バグハンド”は8本の腕に電撃を帯びさせてダブルストのコクピットへもダメージを与えんとする。ハルベルト同様、戦鬼軍団の重鎮となるマービンが搭乗しており、


『俺だったら軽く片付けてやるぜ! どんなに有名だろうと!!』

「私を倒せるとは……随分過小評価されているようだな!!」

『そりゃそうだろ? ゼルガがその気ならやられちまってたとかだしよ!!』

「何……!!」


 バグハルバードがジーボストに撃墜された事が戦鬼軍団にとって番狂わせとなった。戦鬼軍団を流れを戻すにあたって、地球側の要となるハードウェーザーを早急に撃破する必要が生じた。古参の強豪のダブルストだろうとも、ガードベルトのデブリを駆逐することに追われる今なら、確実に仕留められると見た為だが――マービンは彼女がかつてゼルガに敗北を喫した事をちらつかせており、


『俺らはゼルガより強いってことだから、負けるはずないんだよな』

「マ、マーベル隊長! ちょっとちょっと全然通じてないみたいですよ!!」

「何……」


 自分がゼルガより強いと豪語するマービンへ、嫌悪感を覚えるマーベルだが――ルミカが指摘する通り、ビームガトリングとなるハウンド・ブレスターを至近距離で浴びせようとも、バグハンドには通用していない様子なのだ。


『マ、マーベル君……ソラ君がその……』

『……今それを言ってる場合か!!』

『け、けどアクア君がどこにいるかまで分からないから……』

『アズマリア構わん! 一思いにやれ!!』


 そんな最中、ガンボットからの通信はこの状況で空気を読んでいない内容である。オランダ代表の顛末を知らされると、彼女はキレた口ぶりと共にレール・シーカーをパージさせた後に、左腕からゴースト1へと姿を変えた。手にしたハウンド・ライフルがシーカーを直撃するや否や、組み付いたままのバグハンド迄巻き込まれる結果となり、


「私に張り合って勝手に出た事はとやかく言わん。だが……」

「勝手に逃げた挙句に死ぬ馬鹿がいたかみゃー」

「全くだ……曲がりなりにも部下となれば」


 ガンボットから知らされたソラの末路に対し、彼が自分へ張り合おうと躍起になっていた事も、ビジネスを立て続けに成功させたゆえに天狗となっていた為に過ぎなかった。シミュレーターなどで優秀な成績を収めようと、初の実戦で自分たちのように売り込む真似をしても、実力が伴わない挙句プレイヤーとしての義務を放棄して、惨めな最期を遂げた。この末路を手厳しく評価しつつも部下であると捉えていたが、


「た、大変ですよマーベル隊長! あの、その、シーカーを自爆させて巻き込んだはずですが、その」

「……ええい、モニターを見た方が早いわ!!」

「無傷だみゃー! 爆発に巻き込まれたはずだホイ!!」


 バグハンドを自爆に巻き込ませたと思いきや――冷静さを欠いているルミカに代わってメルがモニターを目にすれば、フィールドを展開しながら上空で悠然としたバグハンドの姿があり、


『という訳。だからお前らより強いんだぜ?』

「そ、そんなことある訳ありません! マーベル隊長が我々の、ドイツの希望の星だと貴方が知らないから……!!」


 バグハンドを少しでも早く片付けなければならない――ふてぶてしい様子のマービンに対し、ルミカが肉薄するようにノースフィアからのビームを次々と放つ。これらの攻撃にも彼は涼しい顔でタウラッシュによるフィールドで防御している様子を見れば、


「しかし不思議だホイ……ノースフィアのビーム砲はあくまでおまけの筈みゃー」

「……それを態々張っていると!!」

 ノースフィアはあくまでジャベリンのような白兵戦を想定した装備である――ビーム砲としての機能はジャベリンの延長線に過ぎず、相手を牽制する程度の威力しかない。その攻撃に対し、態々フィールドを展開してまで防御する必要があるかと、メルが漏らした時にマーベルの目が見開き、


『アズマリアはダブルストの護衛、ルミカは動き回りながらノースフィアだ!』

「やはりルミカが目立つような気がしますが~」

「で、ですがノースフィアはやはりセイバーやジャベリンのように使いませんと効果はいま一つです、マーベル隊長の案でしたら私は反対するつもりはさらさら……」

「なら、私に従え! 今に分かる!!」


 ダブルストの主武装となるレール・シーカーが失われ追い込まれたと思われたが、マーベルは直ぐにダブルゴーストに全てを委ねるように命じる。アズマリアが自分が控えめな立ち位置であると僅かながら思う所があったものの、太鼓持ち同然のルミカもこの作戦が理解しきれない、彼女でも違和感があるとして珍しく疑問を呈していた。それでもマーベルは今は従えと促した上で、


「お前のお陰でヒントが思いついた……それには応えるつもりだ!」

「少しは骨がある奴か……弔いにはその位の相手が出てきても良いがな」

『弔いが何か知らねぇけど、ハルベルトみたいに俺は軟じゃねぇ!』


 シャークナイフを砕かれ、微かな歯ごたえを感じつつガンナー・シーカーからのミサイルを次々と繰り出す。この弾幕をバグハンドのサブアームが殴打を連ねて次々と砕く。


「構わん! 刺し違えようとも弔いの為に貴様を葬ってやろう!!」

「刺し違えるとか隊長らしくないですがー、確かにこの場合は構いませんものねー」


 ただ、スターニングラッシュと呼ばれる電撃を帯びた8つの拳を一斉に浴びせるこの技を前にしながら、マーベルは清々しい顔つきで、己を犠牲にしようともバグハンドを葬ろうとする自信に満ち溢れていた。彼女らしからぬ腹を括る姿勢を横目に、アズマリアは彼女の目的が何か即座に理解を示した。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「これでどうにか……最低限の事だけは」


 ――その頃、南シナ海の深くにてアイボリーの機体が緩やかに進軍しつつあった。コクピットではキーボードを右手で入力しながら、コントローラーは左手で握りスティックを前に倒したまま。本来なら彼女の前に構えるプレイヤーがすべき操縦も兼ねており、


「ソラ様、まさかこうも簡単に捨てられるとは思いませんでした。こうなる事を分かっていましたら……いえ」


 バグハルバードの攻撃に遭いながらも、アクアが暫し意識を失いエンゲストごと海に沈んだままやり過ごす結果になっていた。九死に一生を得たといえるが、自分がソラに見捨てられた事実を受け止めた時は、流石に言葉を喪い、怒りが込みあがってもおかしくなかった。最も感情的な彼女がソラの裏切りで激昂しなかった訳だが、


「どうあろうとも、私がソラ様を止められず……死なせてしまいました事に変わりありませんからね」


 ソラから連絡が途絶えた事に加え、ハドロイドスーツ越しに生体反応が探知されないことからこの残酷な顛末にも直面した。彼が死へ至った事も、自分勝手に敵前逃亡した挙句事故に巻き込まれた為、アクアの責任が問われる事ではないが、


「お嬢様、私はメイドとしてもハドロイドとしても失格のようですね……」


 ハドロイドの身になったにもかかわらず、パートナーとなるソラを喪ったとなれば存在意義は失われるようなものである。ハドロイドとして自分も戦えるのだとエクスへ見せつけんとしていた事もあり、この結末に彼女も流石に堪えている様子であり、この場にいないエクスに対して自虐めいた笑いを浮かべ、


「せめて、処罰がどうあろうとも逃げる事は致しません……その為に帰りませんと、おや?」


 ソラの死は自分の監督が至らなかったのであると、ハドロイドとしての責任を果たさんとして残されたエネルギーでエンゲストはフォートレスへ引き返す必要があった。インド洋のビャッコが最も近いとの事から進路を定めようとした時、電装反応があった事に気づき、


「クロストですと……お嬢様! お嬢様が戦われていらっしゃるのですね!!」


 クロストが先頭へ突入したと知れば、真っ先に本来のメイドとして彼女の元へと進路を取る。その為ドラグーンが控える大西洋までのルートへと方向転換し、


「私はお嬢様へ詫びなければ、ただまだ力になれるのでしたら……」


 エクスへと自分の不始末を詫びようとする傍ら、彼女の為に汚名返上をせんと微かな焦りが生じつつあった。電次元ジャンプも封じられ、自力で海路を進むエンゲストだが、コクピットへはブザーが鳴り始めていた。

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