第16話「暴け!天羽院の正体」
16-1 暴かれた黒い秘密、バーチュアスへ潜入せよ!
「予定より10分オーバー、久しぶりかな?」
「俺の運転が遅いとか、言いたいのかよ?」
「まま、安全運転安全運転。手堅く勝つにも大事な事だよ」
ジェノバの郊外にて構えられた小さな配送所に、一台のトラックが停まる。予定より遅れて到着した事を突っ込まれて、バンが少しいら立つものの、ハードウェーザーのプレイヤーであることと異なり、この状況で安全運転が優先されるとやんわり宥めていた。二人が運転席から降り立つと共に、
「おかえりーな、思ったより遅かってんな」
「……お前ら、居候の身だってわかってるか?」
「昔からいいますけどな、商売の基本は迅速、丁寧にって……ちゃうねん!」
「……手伝いに来ました。アイラ様が言いますには一宿一飯の恩義……ですか」
アイラからも遅いと指摘されれば、猶更バンが怒気を発する。彼女たちポルトガル代表がシンヤの為に、居候している身となれば図々しいと彼は思わず言いたくなる。最も直ぐに口が過ぎたと詫びて二人とも手伝いに回るとの事だが、
「そういや、フレディはどこいった」
「紙が切れたとかで、買い物に行っとってなぁ。ウチらが留守番に大丈夫やからってな」
「ったくなぁ……他所のこいつらに仕事任せるなよ」
イタリア代表は平時の姿として、個人事業での運送業を営んでいる。バンの幼馴染であるフレディもまたこの経営に携わっているが、二人の本来の仕事を知った上で、カモフラージュの為に協力している人物である。
ただ、その彼女が所用で席を外している傍らで、現在匿っているポルトガル代表の面々に店の留守を任せている事は、バンとして信頼がおけないと突っ込まずにいられなかった。彼女たちがマジェスティック・コンバッツから離れている理由もまた、
「あの親父、まだ籠ってるのかよ」
「ウチがいると邪魔になるかもしれへんからな。オトンだって必死なんやで」
「とんでもない代物を扱ってるのは分かるけどな……こう居座られると俺達も危ないからよ」
シンヤがバーチュアスとバグロイヤーの繋がりを見つけた為だ。最もその証拠をどのように世間へ公表するかだが、現在のハードウェーザーの基盤を揺るがしかねないスキャンダルである他、情報の危険性からして、自分たちだけでなく、取り扱う側も危機に追いやられる恐れがあったからだ。慎重な対応を模索している事を認めつつも、シンヤ自身が現在取り扱うにあたって危険な人物だと言いたげであったが、
「……ムウさん?」
「ごめん、ちょっと手が滑ったし、君の手が優しいからね」
「……このまま触られますと、作業速度がおおよそ……」
「君としては、やはり離してほしいのかい?」
「「……」」
ハドロイドの身体能力を生かし、配送所へと荷物を置いていくフレイアだが、手が滑ったと称してムウが彼女の手甲へと自分の掌を寄せている。アンドロイドとして作業効率を優先する彼女が淡々と意見しようとするものの、彼氏として絡んでいるムウに対してはあまり効果がない。慣れていないのか彼女が口を紡いでいた中で、
「お前ら、いちゃつくなら他所でやれ!!」
「せやで! ウチもバンはんの言っとる事が正しいと思うわ!!」
「全くだ……って、お前はお前で何変な顔してる!!」
バンが呆れるように突っ込んでいたが、彼に同調しているアイラもまたアイラでいかがわしい事を考えているのは、自分に向けられた彼女の顔が赤い様子から明白なものだった。
「お前らもう大人しくしてろ! 俺一人でやるから」
「……待ってください、爆発します」
「お前らが爆発するなら他所で……って何!?」
自分が動いた方が仕事も早く終わる――バンが二人を退かせて荷物を運ぼうとした瞬間だった。フレイアが淡々と告げる警告の意味に思わず驚愕したが、
「フレイア、いつの間にそんな言葉覚えたんや!? ウチはまだ認めとらへんと」
「……私とムウさんが物理的に爆発する確率は0に等しいです。この荷物が物理的に爆発する確率は88.8%です、ただ」
「その勘違いも大概だけどなぁ、何、お前も冷静になってるんだよ!!」
「まま、彼女今必死だからここは信じてよ」
爆発する意味を明らかに勘違いしているアイラもだが、淡々と現状を報告するフレイアも悠長だと、バンの目には見えた。ただムウが彼女を擁護しているのは、恋人としての観点ではなく、彼女のタグが点滅しながら爆発物らしき荷物を凝視している為であり、
「……起爆装置を停止させました。大丈夫です」
「ありがと、さてこんな荷物預かった覚えがないんだけどね」
フレイアが時限爆弾らしき小荷物へと、ハッキングを仕掛けた。彼女の口ぶりから簡単に起爆装置を止める事が出来たとの事であり、手渡された荷物の包装をムウは解きながらぼやく。特に宛先も送り主もない荷物など依頼先を回る中で預かった記憶がないのだから。
「ったく、とんでもない事だぜ。悪戯としても限度が」
「俺達のこと知ってて狙ったに違いないね。誰かの悪戯どころじゃないよ本当」
「……バンさんも、ムウさんもですし、私たちも当てはまるかもしれないです。勿論……」
「お、おんどれはあん時の……バグロイヤーの回し者やな!!」
自分たちを爆殺せんと時限爆弾を送り込む――ザービストを駆るイタリア代表だとは世間へ公表しておらず、ハードウェーザー関係で面識がある者しかそのような手を使わないだろう。ムウと同じように自分達ポルトガル代表にも当てはまるのだと。その最中2階から驚愕と悲鳴の声が渡るや否や、
「オトン!? 何があったんやオトン!!」
「マジかよ! 場所を知ってるとしてもどうやって……」
「……心当たりがあります。テレポート迄ここまで来たに違いないです」
「とにかく急ごう。手遅れかもしれないけど……」
――シンヤもまたバーチュアスの機密を知った者として狙われている可能性が高かった。とはいえ2階に身を潜めていた彼がバン達の目を欺いてまで、刺客が乗り込んでくるとはバン達は想定していなかった。ただフレイアだけ、心当たりがあるとの事で直ぐに2階への階段を駆けた途端、
「おんどれは、カプリアはんらを襲った……」
「……確かビトロですね」
「ビトロか、ニトロか知らへんが、オトンを朝まで拉致ってロック……やない、何晒すんじゃ、ボケェ!!」
「おっと、動くとどうなるか分かってるよなぁ!?」
2階の個室にて、入り込んだ証拠も残さずにビトロの姿があった。彼は気絶させたシンヤを米俵のように肩に担がせており、もう片方の手では銃をこめかみへと突き付けていた。その為アイラでも迂闊に飛び出す事が出来ない状況へ追いやられており、
「っと、この前腕折られたからな! とっととずらかるぜぇ!!」
フレイアに視線を向けながらも、この場に留まる事が自分にとって不利だとビトロは悟っていた。その為に直ぐにシンヤごと姿をくらませてしまい、
「オトン! どないしたらえぇんやこれ!!」
「……アイラ様、直ぐGPSを起動させます。シンヤさんの生態認証も登録しました為」
「なら、居所が分かる訳ね。大体検討がつきそうだけど」
目の前で父が行方をくらませた事に、アイラが思わず崩れ落ちそうになり、自分にできる術がないのかと狼狽を見せる。最もフレイアとして有事を想定して、シンヤの位置情報を特定できる事を触れており、最悪の事態とまではいかないが、
「それもだけど、ここはもう俺達だけでどうにかなりそうにないかな」
「けど、マーベルの奴に知らせてねぇし、司令に話しても動いてくれるかって話だぜ?」
「まま、俺らの所より、話が通しやすいとなったら決まってるね」
元々個人的にポルトガル代表と彼らは接触していた――その為、一度フェニックスを袖にしたことでマーベル達が黙って認める可能性は低く、かといってガンボットが他のフォートレスの司令と違い有事で宛になる男ではない。よって二人がどう動くかは既に決まっており
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「そんな……ここ最近私たちが戦ってたバグロイドは」
「バグロイヤーではなく、バーチュアスが送り込まれていたとかでしたら」
「何なの!? あたし達を馬鹿にしてるような話じゃないの!!」
――ドラグーン・フォートレスのブリーフィング・ルームにて。シンヤが記録していた映像や写真の類が公開されており、バーチュアスの地下室へ潜ませていたバグロイドの面々を指していた。
大気圏内でバグロイドが出没するようになったことは、休戦条約下で単身降下してきたバグリーズを除き、不可解なものになっていた。その背景がようやく露わになった事で……ニア達はバーチュアスにここ最近利用されていた事へ、憤りを隠せずにはいられなかった。
『まま、この地上でのバグロイドはそうだと言えるけど、それ以外はどうかは』
『そういう問題じゃないだろ。俺でさえ腹が立って仕方ないからよ!!』
「ハードウェーザーを世間のヒーローにしたいといっても……」
「こんな事の為に俺たちは戦ってない! スポンサーでもやっていい事ではないですよ!!」
仮に全てのバグロイヤーがバーチュアスによるマッチポンプでないにしても、玲也やシャルもまた憤慨の感情を隠し切れない。自分たちが戦いに投じるのは、明確な目標があっての事であり、ヒーローごっこのつもりなどではない。
スポンサーの彼らから、自分たちの信念が土足で踏みにじられている事からくる歯がゆさや憤りを、アンドリューは彼らの心情を汲むように憂いの表情を微かに見せていた。
「つまり桑畑君は、バーチュアスの秘密を掴むために……」、
『アイラの奴も、それであの親父に協力しててな……今、また逆戻りだ!』
「となるとおめぇら、マジェスティックのあいつらを助けたいって事だろ?」
『……はぁ!?』
ブレーンとして、教え子の真意を知ると少し胸の内が棘が抜けたように安堵の感情を示す。だが彼が人質になるや否や、再度バーチュアス側からポルトガル代表が管轄下に置かれている。既に天羽院がバグロイヤーとのつながりを彼らを前には隠し通そうとしておらず、シンヤも人質として手元に置いているために、彼らに反逆できない状況下に置かれているようなもの。
バーチュアスの横暴に、バンは悔し気に述べる所、アンドリューは彼の真意を見据えて彼の本心を言い当てて見せた。思わず素っ頓狂な声をあげる彼だが、
『俺よりムウのことだからよ、あいつ、フレイアとなんだ、その……』
『俺達も勝手に手を組んでたのは謝ります……裏切りになるのでしたら、責任は果たすつもりです』
『フェニックスに話を通さなかった事かな……そうだね……』
ムウをパートナーとして心配してやっている――バンがそのように触れていたが、明らかに挙動不審な様子をさらけ出している。彼に代わりムウは単刀直入に自分たちがポルトガル代表と密かに手を組んでいた事を謝罪する。場合によっては内通の疑いをかけられる恐れがあると彼は既に想定しており、その上でポルトガル代表の為に、シンヤを救出、保護する必要性がある事も知っての事であり、
『よし、君たちは一時的に私の指揮下。それで動いた事にしようか』
すぐさま、エスニックはポルトガル代表との接触行為は、自分が彼らへ命じた行為であるとの体裁で話を進める姿勢であった。国家間の問題にもなりかねない事例だが、その決断はあまりにも迅速であり、
「あ、あの将軍……そういう話で簡単に済んで」
『何事も臨機応変に動かないと、いけないからね……バーチュアスから独立するにあたって利害が一致したと話を進めるつもりだよ』
「おーなんだ? おめぇらそんなにあいつらの事嫌いか?」
「い、いえ……そのような事は一切ないのですが」
生真面目さゆえかウィンがこのように話が決まる事に対して思わず戸惑っていた。エスニックとして、マジェスティック・コンバッツとの不毛な争いで、バグロイヤーを前に双方が疲弊する事へ危惧していた事もあった。電装マシン戦隊の一員として引き込むことで戦局をより優位に持ち込める。そのような合理的な点も踏まえてエスニックはイタリア代表を容認する態度を取った。彼の狙いを知っての上でアンドリューがウィンを納得させた後に、
「ったく、将軍だから丸く収まるんだぞー、ネイラだったら洒落にならないぞー」
『おいおい、それじゃあ私がまるで甘いようじゃないか。私も罰を与えるつもりだよ』
「あ……やっぱり。何かちょっと気が引けるんだけど」
『まま、俺達のしたこともギリギリだからね。ペナルティは甘んじて受けますよ』
エスニックの判断が穏便だったことでイタリア代表は助けられた――そのようにリタが彼らへ少し茶化した時、エスニックが席を立って罰を言い渡そうとする。内通だと取られてもおかしくない行動を起こしたとしてムウも受け入れる姿勢だった所、
『シンヤ君の救出計画に参加してもらうよ。私の指揮下で動いていた証拠を残したいからね』
「あ、あぁ……ってそれだけか!?」
『それだけで済む話じゃないよ。君のザービストでないと、バーチュアスに乗り込めないからね』
自分が主導でシンヤの救出作戦を発動した上で、イタリア代表を作戦の要として駆使する方針を明らかにした。最も小柄かつスポーツカーに変形する・ザービストこそ、潜入工作で最も相手を欺くことが容易だと判断したためであり、
『最も、オーストラリアの支社ビルにいると分かっても、詳細を突き止めないといけないから……』
「詳細を探りますと、もしかして……」
『玲也君もバン君たちを協力する形でお願いできないかな? ネクストも問題ないと思うからね』
「つまり、私たちでシンヤさんの場所を突き止める必要がありますね」
エスニックが玲也へ作戦参加への話を振られれば、すぐさま自分たちの役割を理解した。ネクストのカイト・シーカーによるジャミングでシンヤの居場所を突き止めた後に、バン達が実行に移せるよう後を託すことだと。
『ったく、お前の助けを借りる事になるとはな……』
「貴方! 自分たちが何されたのかお分かりになられて!? 玲也様が助けてくださってますのに」
『まま、俺たちが命令に文句言ってどうするの。俺は構わないから……頼むよ』
バンとして元々群れる事を望まない故か、後発の玲也の協力を仰ぐことに対し少なからずの抵抗はあった。エクスがやはり真っ先に反発する中で、ムウが仲裁するようにバンを嗜めた。自分たちが救出を真っ先に志願した身であり、内通疑惑で処罰される可能性もあったのだから、自分たちが主張してよい場ではないと弁えていたのだから。
「勿論です、俺も正直シンヤさんという人はどうかと思いますけどね……」
「そのシンヤって人が、アイラを戦わせてるからでしょ? 自分の復讐とかの為に」
「あぁ……ただ、アイラにとって大切なら、俺もとやかく言える立場ではないな」
“自分たちの戦いが利益の為に利用されていた――その真相を知らされようとも、彼らは己に誓った信念の為に戦いへ歩みを止める事はない。この戦いの中でもがきながらも、私利私欲に走る者たちを暴いて戦う男の姿があった。たとえそれが我が娘をささげて迄復讐せんとする姿勢だろうとも。この物語は若き獅子・羽鳥玲也が父へ追いつき追い越すとの誓いを果たさんと、抗いつつも一途に突き進む闘いの記録である”
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