14-5 アタリスト先手必勝! 驚異のオールレンジ兵器!!
「出来る事ならここでのやり取りは避けるべきだが……」
――その頃、レスト・ルームの個室には彼が閉じこもる姿があった。便座に腰を下ろしているものの、用を足す気配はなくスマホを取り出せば、ラインの通知画面に何件もの履歴が届いている。
『ご無事でして玲也様!? 私たちが一緒でないですから心配で心配で……』
『あたしは別に気にしてないけど、何か変わった事とかあったよね!?』
「エクスはともかく、ニアまで……むやみに連絡すれば怪しまれるのに」
ラインへの通知はニアとエクスが殆どを占めていた。電装マシン戦隊としてポリスターをゲンブで使ったならば、自分の居場所を相手に知らさせるものである。その為個人用のスマホでラインを利用したメッセージのやり取りを済ませているものの――外部への通信行為が、スパイとの疑いをかけるものであり、むやみに応対すべきではないと少し呆れつつも、
『俺は無事だ。出来る事なら少し大人しくしてくれ……』
エクスに向けては、自分への過保護めいた愛が重すぎると言いたげな返答を返す。ただニアが触れた“変わった事“に対して実際に思い当たる事があると、少し考えた上で、
『フォーマッツという巨大軍事衛星を打ち上げるらしい。将軍に伝えてくれ』
バーチュアスグループが、フォーマッツの打ち上げ計画を進めている――ゲンブの中でマジェスティック・コンバッツの活躍をアピールするPVと共に披露していた内容であり、この巨大軍事衛星をもってしてバグロイヤーの勢力を一掃するとの意図であった。玲也として衛星一つで戦局の大勢が決まる筈がないと冷ややかな目を見せていたものの、
『何それ!? まさかあたしたちの出番はもうないと……』
「だから後で話すと言ったが……」
早々にこの場での通信を切り上げようとした際、ニアがさらに踏み込んだことを聞いてきた。彼女としても、自分たちハードウェーザーの出番がなくなりかねないと危惧してのだろう。
そう察する心境も分からなくはないとしても、これ以上話を続ければ周囲に怪しまれると釘を刺そうとした瞬間だった。ポリスターからのサイレンが高鳴りだした。ポリスターをむやみに起動させては怪しまれるが、彼自身が起動させた覚えはなく、
『DEC……バグロイヤーか!?』
DEC(デンジャラス・エマージェンシー・コール)――ポリスターが一人でに警告音を発するシステムは、所有者の身を守るための装置。プレイヤーにとって害をなす環境と内蔵されたセンサーが反応しており、
「フェンタニル反応……毒性は低いが、ここにいては……おわっ」
ニア達の護衛がない状況にて、我が身を守るのは己自身――防毒用のマスクをリュックに仕込ませていた事から、彼なりに身の危険は想定をしていた。
最も、すぐさまマスクを取り出してレスト・ルームから抜け出そうとするも、個室の扉を上げれば白煙が立ちこんでいる状況である。
「やむを得ん、シャルかベルさんと合流する事をっ……」
既に非常事態だと玲也は判断して、ポリスターを展開する。ベルとシャル達と合流してハードウェーザーを電装する目途が立てば危機を脱せると見なし、同じポリスター反応のレーダーで居場所を突き止めていこうとするものの――視界が劣悪な事も含めて、催眠ガスを前に地に伏したままの相手につまずいて前のめりにすっころんだ。
「いかん、こうも前が見えないとなれば流石に……」
『もしかして玲也はんか!? ポリスターつこうてるやろ!?』
体勢を立て直して起き上がろうとしたと共に、ポリスターへとメッセージが届く。メルによってプレイヤーに渡されるポリスターの形式番号から、自分がこの場にいる事を相手が気付いたのだと思うが、その相手が誰かは玲也に心当たりがない。ただ関西弁らしい鉛の口調でメッセージを送っている様子から、少し察しがついた時、
『すみません、事情は後で話しますが!』
『律儀に説明しても、分かってくれへんで!』
「なっ……!」
同じプレイヤー同士なら、誤魔化しようがない――玲也は少し観念したように弁明へ入ろうとしたものの、その相手は聞く耳を持とうとせず、ただ彼に目掛けてポリスターの光を浴びせた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「……ということで、玲也さんが戻ってきたのですね」
「あぁ、一体誰が俺を送り返してくれたかだが、結果オーライだ」
転送された先はドラグーン・フォートレスであった――リンへこれまでの経緯を説明する玲也であったが、彼自身運が良かったと言いたげで、この流れを把握しかねていた。
けれども、結果的にラッキーだと評したのも、既にドラグーンへとバグロイドが迫りつつあったため。バグアッパーを中心とした編隊へと、フラッグ隊が繰り広げる戦域へと、ライトグリーンのフレームが生成される。直ぐ装甲が生成されると共に、バックパックからのアサルト・キャノンが火を噴いた。
『玲也さん、貴方どうやって……』
「後で説明したい所ですが、俺もまだよくわかってないです!」
『シャル君とベル君たちは大丈夫かのぉ……』
「ベルさんの反応はありました。シャルも無事と信じたいですが」
玲也が運よく難を逃れ、ネクストを電装させている。ドラグーンを死守せんとフラッグ隊の面々共々応戦するものの――催眠ガスが蔓延するゲンブ・フォートレスが無防備であり、特にシャルの安否で気がかりでもあった。このわずかな迷いを突くようにバグレラの1機がデリトロス・マシンガンの狙いを定めた瞬間、
『戦いに迷いを持ち込むな!馬鹿者!!』
ネクストをかいくぐる様に弾頭が放たれ、マシンガンを手にしたバグレラの右手を吹き飛ばす。さらに素早く機体そのものも懐に潜り込ませ、ローカライ・クローを目いっぱい振り回すように打ち付けて隙が生じたところに、ミサイルが何発もバグレラめがけて打ち込まれる。
「すみません、ラディさん!」
『お前がいようと、いなくとも俺達でドラグーンは守れる!』
『隊長、それは流石に少し言い過ぎじゃ……』
『俺たちはフラッグ隊だ。迷ってるお前に足を引っ張られたくはない!!』
ラディ機とルリー機の連携によって、ネクストの危機は脱した。最もラディはまだ現状を整理しきれていない玲也に対し、厳しい言葉を吹っ掛ける。生真面目なルリーですら、少し酷な言葉ではないかと窘めていたものの、
「そう……ですね。こうして今、戦っているならば」
「迷いは形のない怪物といいますからね」
『なら行動で示せ! プレイヤーなら猶更そうして当たり前だ!』
「は、はい!」
シャルやベル、あと才人を始めとする一般見学客を含めゲンブの現状を懸念してしまいたくもなっていた。だが人の事を心配する余裕は、己が戦う中では足かせになるのだとのラディの叱咤もまた一理あった。
ラディがフラッグ隊々長として厳格だろうとも、シャルやベルを見捨てるような冷酷な人物ではない――玲也自身彼のように目の前の障害を駆逐せんと、両頬を叩いて気合を入れなおす。
『ルリーは俺と同じく散開して迎撃だ! 無理はするな!!』
『は、はい! また堕とされる事だけは……!』
『そのつもりでいけ! トムは後方から援護!!』
『了解、了解!』
気を引き締めたネクストは、ジックレードルを右手にしており、頭部からのバルカンで牽制を加えながら、怯んだバグアッパーに鎌の刃で引き裂いていく。フラッグ隊としてフォートレスを守るだけでなく、バグロイドを蹴散らすべきと、ラディはルリー共々ネクストに追随していたが、
『ったく、俺はこういう時損な役回りだからな~』
ただ、トムとして同じフラッグ隊でも後方支援を回されている事に少々物足りなさを感じていた。リボルバーを備えるルリー機、ローカライ・クローを誇るラディ機に対し、自分の機体がレールガンを中心とした遠距離砲撃支援を想定したカスタム故に、前線に出る事は不向きである。
最もドラグーンがランギトト島から修理を経て飛び立ってから、フラッグ隊として最初のミッションが舞い降りる事となった。そこで華やかな活躍をしたいとトムの欲が頭をもたげていた。
『まっ、俺も上手くやっつけねぇと……おわっ!?』
それでも、得意のロングレンジで確実に仕留めていけばいい――トムが役割を果たす事と両立したスタンスで動こうとした瞬間だった。機首に備わったレールガンが逆に何者かの砲撃を受けて破損する。機首が炎上すると共に制御を喪いつつあり、
『トムったらこんな時に……!』
『俺が回収する、少しの間持たせてくれ!』
トム機が早々に被弾した――この顛末に、ラディが舌打ちしつつ、彼を戦域から離脱させる必要があった。ローカライ・クローをマニュピレーターとして駆使して押し込んでいくが、弾丸は彼らの元へも掠めていた。
このドラグーン含むネクストたちに対し、一方的に砲撃の雨が降り注ぐが、バグアッパーの面々がじりじりと後退すると共に、3機のバグレラがデリトロス・ナイプによる狙撃で動きを封じていた。
『チホ、私が切り込むまでは焦るな! 直ぐにその機会が来る!』
『了解……ですが、またあの手を!?』
『そうでもしなければ、私たちで倒せない! 私がどうなろうともだ!!』
『どうなろうとも……それだけは!』
2番隊のバグロイド部隊を指揮するバルゴは、チホらバグレラ達にネクストらを引き付けたのちに、自分たちが率いる別動隊が畳みかける機会を狙う。バグロイドとハードウェーザーでスペックに明確な差がある。その差を物量だけで圧倒しきる事にも限度があり――パイロットとしての技量と覚悟を持って挑まなければならなかった。
チホは狙撃部隊を指揮しながら、握りこぶしを震わせる。自分の上司に死ぬ気上等の覚悟を踏み切らせている事だけでなく、
『あのハードウェーザーがエリルをやった……あの鎌で!!』
ドラグーンを守るネクストこそ、チホからすればエリルの仇。愛しい相手が電次元サンダーによって動きを封じられ、ジックレードルで突かれて果てた最期は彼女も知らされている。仇を前にして本来なら、バルゴに代わり自分が切り込んで敵を討たんとすることを望んでいるが、バルゴとの作戦を信じるべきだと自分に言い聞かせる。
「拙いな……電次元サンダーかブレイザーウェーブに限られるが」
『ここは私だけでも何とかします! ドラグーンを何とかしないと!!』
「電次元ジャンプでなくても、避け切れます! 行きま……」
この一方的な砲撃による攻めに対し、クロストならは十分対応が出来たと玲也として自分の選択ミスを少し悔やむ。ただ、ドラグーンの守りをフラッグ隊が固めると触れる。ルリーからの後押しもあり、ネクストは持ち前の機動力でバグレラとの間合いを詰めようとしたが――右方からの弾丸の何発かがネクストへと着弾した。機動力の代償として装甲に難がある故に、コクピットへも振動が襲い掛かり、ネクストが怯んだ様子になると、
『でやぁぁぁぁぁぁっ!!』
――白銀のバグロックがデリトロス・ラピードガンを炸裂させながら間合いを詰めていく。残弾を討ち尽くすと共に、ラピードガンそのものを投棄し、今度は至近距離だろうと、両肩からのシューティング・レネードを投げつける。咆哮をあげるバルゴと共に、バグロックが鬼気迫る勢いで迫りくる。スペックでの差を技量と気迫で超えんとばかりに、
「また3機別に向かってます! ルリーさんのほうで……」
「俺迄引き寄せてフォートレスを……うっ!」
バグロックに率いられた別動隊の3機がドラグーンへと迫りつつある――ラディ機の到着まで彼女一人で持ちこたえられるか定かではない、この目の前のバグロックが捨て身同然の囮役に挑んでおり、彼としてまんまと引っかかってしまったと悔やむもの、
『私を前に迷ってるな……怖気つくとどうなるか分かってるな!!』
デリトロス・ブレイカーにより、バグロックの拳は鋭利な切れ味も兼ね備える。頭部からのバルカンを受けでひるみつつも、頭部目掛けて右手のブレイカーの刃を突き刺す。破損したメインカメラから、サブカメラへと移行する隙を突いたうえで、左手のブレイカーでサブアームに収納されたジックレードルを引き抜いており、
「まさか奪われる所迄は……!」
「一旦間合いを取ったほうがいいです! こちらに撃ってこなくなったようですし!」
「なら、一纏めにして……ブレイザーウェーブを使うべきか」
バグロックがジックレードルを振りかざした途端、間一髪ネクストもまたジックレードルを打ち付けあう。同じハードウェーザーの武器が奪われている事が半ば想定外であり、それと別にショートレンジでの白兵戦にて、装甲の脆いネクストの場合分が悪かった。
シホ達バグレラ部隊の砲撃が止んだこともあり、一度後退すべきとリンが提案する。一理あると彼は見なした上で、ブレイザーウェーブによるジャミングにより、バグレラの接近を少しでも遅らせようとした所、
『待ってーや、ウチの狙いが外れてまうねん!!』
「……その声はアイラ!」
「ドラグーン近辺へとエネルギー急速接近! まさかと思いますが」
『まぁ、後でたっぷり名乗ってやるさかい。いっちょいったるでー!!』
――ドラグーンへと菫色のロケットが到着した瞬間、円錐状の機首が勢いよく打ち出されていった。一撃必殺と言わんばかりの巨大な弾頭が高速で射出した後、バグレラ1機へ掠めたと同時に大規模な爆発を巻き起こす。バルゴの部下として率いた3機を豪快に巻き込んでおり、
「あ、あれほどあっさりと……」
『アポロ・スパルタンは先手必勝や、こっからやで!!』
機首から撃ちだされたアポロ・スパルタン――まるで打ち上げ花火のように豪快に撃ちだされて、いくつものバグロイドを巻き込んだ花火を巻き起こす威力を示した。玲也が少し呆然としたものの、アイラからすれば“出会いがしらの一発”に過ぎない。
『……コンバージョン、アタ……』
『もっと気合い入れんかい! コンバージョン・アタリストッ!』
気合を入れてモチベーションを上げる事に関しては、フレイアとして今一つノリがよろしくない。彼女に代わりアイラがテンション高く叫ぶと共に、スタートとセレクトを同時に推す。
ロケットの機首はがずれ、トレーラーのような形状で、月面探査車としてローバー形態から変形が開始されようとしていた。車両前部から“く”の字状から起き上がると共に、人としての姿を形成しつつある。そしてキャノン砲とサブアームを左右に備えた後部がペルナス・シーカー及び、バックパックとして背中へ連結された瞬間、紫電色のアイリストは漆黒の宙域にその姿をお披露目した。
「やはり……ポルトガル代表の!?」
『まぁ、訳あって今はあんさんらの所にいれへんけどな。バグロイヤーと戦う事は変わらへんで』
『アイラさん! 君が勝手に出撃していいと思うのですか!! あなたはユーストを差し置いているのでして……』
『じゃかましい!今誰優先だとか関係あらへんから、ガタガタいわんといてや!!』
ポルトガル代表のアタリストは、マジェスティック・コンバッツへと籍を置いている。しかしアイラは玲也達の足を引っ張る事も、自分が抜け駆けしようと動く気配はない。それどころかユーストを差し置いて電装した事に苦言を呈すロスティを一喝して黙らせている。
『せや玲也はん。あんさんをドラグーンへ送ったのはウチのオトンやで』
「アイラの父さんが……あの関西弁は誰かと思えば!」
『まぁ、謝礼とか、駄賃とかって言うとる訳やあらへんで、ちょっと後ろで何とかさせてーな!』
アイラ曰く、自分のポリスターを父のシンヤに託した事で、彼が玲也を見つけ次第ドラグーンへと送った経緯だった。この経緯によってこうして自分が今電装しているのだと玲也が納得した時、アタリストはドラグーンの後方へとじりじりと後退しつつあり、
「……てっきり前に出ると思ったが」
『……アタリストは殲滅戦に重点を置いたハードウェーザーです。裏を返せば前線には向いていないです』
『せや。まぁウチのアタリストが目立ってもな、お上は喜びもせぇへんのや』
「確かに私たちのピンチを救ってくれましたが」
フレイアとアイラ曰く、アタリストは前線での小回りは今一つとの事で白兵戦は今一つと明かす。その為に後衛での活動を得意のだと、早い話前線を玲也達に任せると頼みかけていた。マジェスティック・コンバッツからの協力者が、メノスのような前例もあった為かリンは不安を微かに募らせていたものの、
「分かった。ちょうど俺もバックスが欲しかった所だ!」
『話が早いとウチも助かるさかい。フォワードは頼みまっせ!』
けれども、この状況で協力者の手を借りたいと玲也はすんなり承諾した。ジックレードルでバグロックとの打ち合いを繰り広げるネクストは、相手を引き込まんと、左手のアサルト・フィストを電次元サンダーの力を借りて撃ちだす。レールガンのように電磁気によって高速で撃ちだされた左手がバグロックの腹部へと突き飛ばしていく。後方へとよろめくバグロックの右方に後方からの弾頭が掠めると、
『ま、まだバルゴ隊長の指示が下されてない!』
『ですが! ハードウェーザーが2機も現れてます!!』
『少しでも動きを止めて倒さないと!!』
シホ率いるバグレラの狙撃部隊が、デリトロス・ナイプによる長距離砲撃を再開した――が、シホが収拾しようとしても効果があるとはいいがたい。ハードウェーザーがもう1機現れた事により、半ば捨て身で挑んでいた自分たちとして、勝機が遠のいたと狙撃部隊に動揺が走っていたのだ。
『……準備開始、疑似人格シャットダウン入ります』
『コズミック・フィンファイヤー……ガタガタにどついたるでぇ!!』
「な、何だ……シーカーとかで、狙うつもりか!!」
フレイアの瞳から、微かに帯びていた光が消えて意識が閉ざしていくが、彼女の人格が一時消失していく代わりに、頭部に備えられた増設メモリーが紫色に点灯した。そしてアイラがコントローラーのL2とR2、2つのボタンを同時押しした時、アタリストの両肩から射出口が展開し、8基ほどの棒状のパーツ“コズミック・フィンファイヤー”が次々と打ち出された。
この棒状のパーツからは次々と紫色の光線が飛び交っていた。1基からの攻撃をバグレラが回避すれば、もう1基が別の方向から同じ攻撃を撃ち出していき、空振りに終わった1基も何事もなかったかのように、まるで一人でに動き攻撃を再開する。シホはデリトロス・ナイプを左腰に収めて、デリトロス・マシンガンによる撃ち落としを試みるものの、まるで自我が宿っているかのような不規則な軌道で避け続けていた。
「玲也さん……いくら何でもカイト・シーカーをあそこまで私でも動かすことは流石に」
「まるで相手の動きを手に取るように……オールレンジ兵器か!!」
接点も、面識もない相手の行動パターンから癖を見透かしたように、次々と攻撃を繰り出し、急速に相手の神経をすり減らしていく――殲滅戦を得意とアイラが豪語するアタリストの秘密が遂に明かされた。彼女のようにシーカーを動かす事に限界があるとリンが触れると、玲也も少し驚きを隠せないものの、アタリストに対して自分の推測を口にしていた。
「オールレンジ兵器……ハードウェーザーで聞いたことがなかったですが」
「それも無理はない。実装される予告はあったが、音沙汰がないまま……幻の武器だ」
玲也曰く、オンラインゲームでのハードウェーザーには存在していないカテゴリーの武器――それがオールレンジ兵器だった。プレイヤーが思い描くとおりに動かして攻撃する、まるで空想上のような概念の武器は、自由にプログラムを組み替えて、臨機応変の攻撃を繰り出す形で実装を検討されていたが、
「ですが、リアルタイムで世界中、プログラムを書き換えるなり増やすなりをすれば……」
「それだけの規模のプログラムは流石に無理があるとも言われてな……一体どうやって実装した!?」
リンが触れる通り、オールレンジ兵器のプログラムは、ゲーム上の要領を著しく圧迫するもの――自分たちのシーカーがハドロイドの手によって動かされる事により、疑似的にオールレンジ兵器を再現しているとも言えなくもないが、コズミック・フィンファイヤーはシーカーをはるかに上回る精密さを誇っている。思わず玲也が疑問を口にしてしまった所、
『フィンファイヤーはオトンが組んだんや。あらゆる行動パターンを組んで、フレイアが制御するんや!』
『……私の頭がフィンファイヤーと連動しています。計算してプログラム制御しただけです』
『フレイアだから出来るんや。ウチのフィンファイヤーを制御する事が!』
シンヤが組んだオールレンジ兵器のプログラムは、対象者をアイラ一人に絞っている。それによりデータ容量をある程度削減させたものの、それでもなお、1機分のハードウェーザーのデータへ収まりきる訳ではなかった。
その為、フレイア自身が補助メモリとしてフィンファイヤーの制御をこなしている。ヘビータイプとして、一から開発されたアンドロイドとして彼女は誕生しており、人間的な感情に乏しい事と引き換え、情報処理、演算能力などにも特化されている故に出来る術であった。
『まぁ、これやるとウチもあまり動けへん……人前でやったらウチがオダブツや』
最も、フレイアの助けを借りてもフィンファイヤーを展開させている間、アタリスト自身はまともに制御が効かないデメリットを内包している。護身用に2基のフィンファイヤーを近辺に侍らせていたものの、それだけで身を守れるわけではないとアイラも自覚していた故に後衛に着いた。
ただフィンファイヤーを射出させる直前に、バックパックに連結させたオリオン・ライフルを左腰付近へと動かしていた。殲滅戦を得意とするアタリストの隠し玉がまだ残されており、
『ようやく撃ち落とせたが……動けるか!?』
『駄目です! 電子系がいかれてます!!』
『この状況で……あれ以上動き回られたら私まで同じ目に遭ってたが』
フィンファイヤーにバグレラ3機が襲われていたものの、シホ機の手によって4基を撃ち落とすことまでは成功し、2基は戦域から離脱していった。バグレラ本体そのものへ致命的なダメージは負わされていなかったものの、自分以外の2機の電子系統が潰されており、砲撃支援に支障を及ぼしかねないものだった。最もシホとしてマシンガンやミサイルが急に当たる様になったと、少し疑問があったものの、
『わかった! 私が誘導するから、今度こそその通りに……』
部下の2機を自ら誘導しようとした後に、目の前の閃光が串刺しにしていった――視界が失われた直後に爆散する彼らを前に、シホが思わず呆然とした所、
『これがシューティング・シードスターや! 役満といかなかったけどな……』
『……申し訳ないです』
『構わへん、構わへん。フィンファイヤー切った後、どうにかせぇへんといかんけどな』
アタリストの右脇には、己自身に匹敵するであろう全長を誇るビーム砲“シューティング・シードスター”が抱え込まれていた。バックパックにマウントされていたオリオン・ライフルへと、アポロ・スパルタンの柄が変形したオリオン・ジャベリンをロングバレルとして連結させると共に、バグレラ2機の胸を立て続けに貫通させる威力を見せつけた。
最も高出力のビームを炸裂にあたって、内部からの熱と衝撃に耐えきれずロングバレルとしての役割を果たすジャベリンは既に爛れている。一発しか使えない状況下でフレイアの制御が不十分だったとアイラへと詫びる。彼女は気に病むなと労いつつ、オールレンジ兵器の制御から別の動作へ移行するにあたって負荷が大きいと認めざるを得なかった。
『お、お騒がせいたしました。バグロイヤーからステーションに指一本触れさせることなく、見事マジェスティック・コンバッツのアタリストが撃墜しています。ユーストも言うまでもありませんが……』
『なんや、こう無理して取り繕ってもなぁ……』
ゲンブ・フォートレスからはアタリストの活躍を称えるアナウンスがされていた。観客の混乱を抑えつつ、マジェスティック・コンバッツへの注目に気を逸らさせるようにロスティは触れたのだろう。最もアイラからすれば少し面白くない心境だったのだが、
『予想以上に被害が……早く退け!』
『まだスナイプの弾はあります! あのハードウェーザーだけは!!』
『既に、圧倒できる状況ではない……ぐっ!』
アタリストが電装された事により、バルゴとして決死の猛攻で勝利を捥ぎ取る事も難しいと捉えざるを得なくなった。チホとしてネクストを目の前にしている状況故引き下がる事を良しとしていない。上司として彼女を黙らせようとした所、自分の元にも弾頭が飛び交い、肉薄する機影が存在していた事に気づく。
『ハードウェーザーだけが、電装マシン戦隊じゃないですよ!』
『小癪な……!!』
トム機に代わり、ラディ機がレールガンでの支援へ復帰すると共に、ルリー機が再度肉薄していく。ラピードガンを投棄した故、今のバグロックは砲撃戦に対応していない。
とはいえ、ルリー機がショート・ミドルレンジに重点を置いた機体故、間合いが決して届かない相手ではない。ハードウェーザーどころか、バグロイドより格下の相手へ一方的にやられる状況を良しとしない故、ジックレードルでルリー機のキャノピーを突きささんとした瞬間――彼の右腕が全身から弾き飛ばされた。
「私たちがいる事を忘れては困ります……!」
「電次元サンダーで終わりだ!!」
『しまった……ぐはぁぁっ!!』
アサルト・キャノンでバグロックの右腕を弾き飛ばすと共に、ネクスト自身が零距離で肉薄する。左手を射出しようとも左手首に電次元サンダーの発生装置が搭載されている。すかさずコクピットが存在する胸部をめがけて電次元兵器としての高圧電流を直に流し込む。瞬く間にバグロックの全身が白光しつつあり、
『た、隊長……!!』
『今は……やめ……』
自分を案じるチホへ、隊長として最後の言葉を送ろうとした所ネクストの手で引導を渡された――ジックレードルが念には念を入れんと、コクピットを突いて完全に沈黙する。追い打ちとばかりにアサルト・キャノンで跡形もなく爆散した途端、
『エリルだけでなく、隊長まで……よくも!』
ネクストの手により二人目の犠牲者が出た――デリトロス・ナイプへ再度手を取り、激情に駆られる彼女が最後の一発を即座に放った。精神的に余裕がないに等しい彼女だったが、バグロックを殺めた直後のネクストに隙が生じていたのか、照準を定める事が出来たものの、
『反応がない、そんな……きゃああっ!!』
チホが定めたはずの標的は、弾頭が接触したにもかかわらずダメージを受けた痕跡が見られない。狼狽する彼女を落ち着かせる間もなく、ストリングスのような電磁波を叩きつけられてバグレラが大きく弾き飛ばされていった。
「やはり見誤ったか……アサルト・キャノン!」
『電装マシン戦隊に告げる……と言おうかなぁ!!』
ネクストがデリトロス・ナイプを避け切ったのも、ブレイザーウェーブを展開させてバグレラのセンサー系統に狂いを生じさせていた為である。ネクストが既にバグレラへ向かうにもかかわらず、バグロックを堕としてその場で隙を生じさせているようにチホを誤認させており、裏を返せば彼女にやはり余裕が生じていなかった故墓穴を掘ったともいえた。
電次元サンダーを右手の指から放つ事により、電磁波の鞭のように振るってバグレラを弾き飛ばす。これによって無防備な状態をさらけ出した相手へと、アサルト・キャノンを確実に仕留めようとした時、一方的に別の機体からの通信が映像を含めて入り込んできた。
「あ、あぁ……!」
「シャルに……才人まで!? 何で」
『こいつがプレイヤーだってことは俺も知ってるぜぇ? 余計な奴が一人いるけどなぁ』
リンが声にならない戸惑いを現しており、玲也もまたその場で気を喪って仰向けに寝転がっている才人と、後ろで腕を掴まれて身動きを封じられているシャルの姿があった。この機体のプレイヤーとして君臨していると思われるビトロが高笑いしているのも、この二人を人質に取っているからであり、
『シャルが人質だと……何とかできないのか!?』
『ネクストでまだ潜り込めるかもしれないが……リン?』
「間違いない……顔が隠れても分かるから、そんな……」
ウィンからパートナーのシャルの無事を催促された事もあり、玲也としてビーグル形態とブレイザーウェーブを利用しての潜入を試みようと模索していたが――リンの方を振り向けば、彼女がただその場で崩れ落ちるように、目の前の現実へ項垂れている。彼女が指さしているのはビトロたちの後方に位置するハドロイドの少年――バイザーで素顔が隠されていたのだが、
『もし手出しをしたらあのフォートレスを攻撃するぜぇ? このスフィンストがよ!!』
「スフィンスト……まさかと思うが!」
『ヴィータスト、ファンボストと同じだ! シャルが組んだとなれば』
「イチか、イチが乗っているのか!!」
――本来ならウィンと同じ彼も自分たちと共に戦っていただろう。けれども彼は今奪いとった張本人の元でハードウェーザー・スフィンストを電装させていた。バグロイヤーの手先として現れた相手に対し、リンはただ残酷な現実を呪うように項垂れる。イチ・テンドウを姉としてリンが一時も忘れる事はなかったのだから。
『アイラさん、あのスフィンストを撃墜しなさい! シャルはヴィータストのプレイヤーですから関係ありませんよ!』
『アホか! 世間の見てる中で人質もろともやったらどうなるか、あんさんがよぉ分かっとるやろ!』
『……撃墜は出来なくもないですが』
『フレイア、しゃーないかもしれへんけどな、そう物事は簡単にいかへんのや。あの二人何とか出来たらええんやがな……』
この事態に関わらず、ロスティから人質ごとスフィンストを撃墜して構わないとの指示が下るが、アイラは人として悖る行為だと拒んだ。一応異なる組織のライバルであろうとも、何とか救わなければいけないとのスタンスは損得なしで考えているようであり。
「リ、リンさん……あのバイザーで顔を隠されています方ですと、別の替え玉かもしれま……」
『ここで冗談を言うのはやめてください! 私がたった一人の弟を間違える訳がないです!!』
「も、申し訳ありません……玲也様、もしかしますと……」
素顔が隠されているからイチは別人、バグロイヤーが自分たちを騙している――エクスは一応リンを案じたつもりで咄嗟に触れた。ただ彼女なりの気遣いは見事裏目にでており、普段からおっとりとしたリンとは思えないほど彼女は激昂しており、
『玲也、あたいらが何とかする! お前らは下がれ!!』
「そ、そんな! こうしてる時に下がれだなんて一体何を……!!」
『まともに考えられねぇと、タダじゃ済まなくならぁ! いいな!!』
「……分かりました。どうにか無事だと!」
シャル達の救出に向かう中で、弟が敵として立ちはだかっている状況下のリンがまともに動ける保証はない。控えていたリタが自ら向かう事を言い放っており、それでも彼女が食い下がる様子に敢えてアンドリューが厳しく叱りつける。
玲也としても自分がこの場へ向かうべきと捉えていたものの、彼女だけでなく自分も冷静さを欠いている薄々自覚しており、不本意ながら電次元ジャンプで戦線を離脱した。
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