11-6 歩み寄りは恩讐を越えて
『ラディ隊長、こう戦闘が長引くと流石にやばいっすよ……』
『馬鹿者。フラッグ隊の本分をはたすまでくたばる訳にはいかんよ!』
――電装艦同士の戦闘が長期化すると共に、フラッグ隊もまた消耗しつつあった。トムが思わず弱気を吐くが、彼を叱咤激励しつつラディ機がトム機の前方に現れて盾とならんとする。ローカライ・クローを前方に突き出すと共に、パイン機を牽制しつつ、さらに狙いを定めたパイン機の背後を取らんとルリー機が回るが、
『おっと、悪いけどそうはさせないよ!』
『きゃあぁっ!!』
『ルリー……うわぁっ!!』
しかし、ルリ機にめがけてベリー機が手にしたフローラ・シュナイダーが振り下ろされる。花びらを模したこの大型手裏剣がルリ機のコクピット付近へと突き刺さるや否や、左翼が切り落とされる。この事態にトムが思わず狼狽し、レールガンでの狙撃に失敗してしまう。ルリ機の撃墜に伴い、フラッグ隊の足並みが乱れつつあり、
『早く脱出しないと……でも!』
被弾箇所が炎上した状態の中、ルリーは脱出を試みようとした。しかしドラグーンが戦闘の真っただ中で他に手が空いている仲間もいない。このまま炎上する機体と運命を共にすることを覚悟した矢先だった。
「ルリさん……とりあえず今からコクピットを開けてください。こちらで何とか……!」
『その声は……無事だったのですね!!』
「こっちもエネルギーが少ないですが、少なからずそこより安全なはずです!」
『分かったわ……!』
墜落しつつあったスパイ・シーズからルリが飛び出した矢先、全速力で駆け付けたブレストから、命綱のワイヤーでコクピットから飛び出した玲也がポリスターを放つ。彼女に直撃して消えたスパイ・シーズが爆散した後、ブレストのコクピットにはルリが転移された。
「玲也、私だけでなくラディ隊長もトムも!」
「分かってます……カウンター・バズソーだ!!」
『うわぁ……ちょ、ちょっとまさかあれって!!』
『ブレスト……だよね!?』
今、ブレストのカウンター・バズソーがベリー機のフローラ・シュナイダーを斬りつけ、カウンター・ジャベリンが振るわれて立て続けに左腕が切り落とす。ドラグーンを攻め立てるベリーとパインだが、揃ってブレストの出現に狼狽するが、
「このまま、キラー・シザースを……!」
「ごめん! それは駄目みたい!」
「ここまで……いや、ここまで来れた事を喜ぶべきか!」
その矢先でコクピットに警告音が響き渡る――エネルギーが底を尽きかけているとの報せだ。ドラグーンに向かうところまでで今のブレストは限界であり、これ以上の戦闘を継続すると電装が解除されて自分たちの命が本当に危ぶまれる。目の前に敵がいながらも、ドラグーンのカタパルトへつながる底部へと向かわざるを得なかった。
『あれ……もう帰っちゃうの!?』
『ベリー、ちょっと流石にこっちも厳しくなってきたよ。メガージさん達に任せるよ』
『えー、せっかく盛り上がってきたのに!』
『ここからは突貫するぞ……ドラゴノ・クローでな! !』
ブレストがやむを得ず、玲也が別の機体に乗り換えようとしている矢先であり、パッション隊の二人は九死に一生を得たようなもの。だが。ベリーは武器類をほぼ喪失してもなお戦おうとする姿勢であり、パインが彼女を諭しつつ渋々諭したことで引き下がっていった。
そして、彼女たちパッション隊に変わる様に、真打としてオールの機首が前方へと突き出された時、ドラグーン同様龍を模した戦闘用の頭部が露わとなる。ドラグーンもすでにブレ・イレーザー用の頭部を展開した上で、熱線を浴びせようとすれば――ドラゴノ・クローとして設けられた万力がブレ・イレーザーの頭部を掴みにかかった。
「だめじゃん! 使い物にならないじゃん!!」
「――全員防御態勢を取るんだ!!」
『これで決まった……覚悟!!』
ワイ・イレーザーが潰されるや否や、ロメロは即刻で機首のブロックをパージする。砲撃手として迅速な判断を下したものの、既に至近距離でドラゴノ・クローの基点からエネルギーが充填されつつあった。キリン・フレイムをブリッジに浴びせて、あわよくば再起不能にドラグーンを追い込まんとするメガージだが――逆にクローそのものが衝撃に打ち付けられたように爆散しだした。
『エネルギー反応あり! ですがハードウェーザーが入り込める距離とはとても!!』
『この間合いだと……1機だけいる、うわっ!!』
ドラゴノ・クローが粉砕された原因は、ドラグーンとの間に電次元ジャンプで割り込んだ機体の仕業だとミカは感づく。それでも距離は数メートル程、ドラゴノ・クローにほぼ姿が隠れるほどの小柄かつ、それに見合わぬ馬鹿力を持つハードウェーザーとなれば1機しかいないとメガージが気付いたと共に、底部から衝撃が襲い掛かる。
『主役は遅れて登場するって感じかな、バン君』
『そういう話は興味ないけどな! こうも出てくるなら返り討ちだ!!』
小柄さに反し、プレイヤー共々荒々しいバトルスタイルを得意とするハードウェーザーこそザービス他ならない。ビャッコ、フェニックスもまた足止めを余儀なくされていた中でフェニックスに留まったイタリア代表が、ようやくバグロイドの包囲をこじ開ける事に成功して、ドラグーンへと到着したのだ。
『どうするバン君? 腕の方がもうガタガタだけど』
『こいつが壊れるまでぶっ放してやりたいけどな! やはり物足りないな!!』
ザービストの馬鹿力は両腕に内蔵されたリニアッグによって生み出される。ザービストはすかさずジャッジメント・スクリューをドラゴノ・クローの基点目掛けて撃ちだして粉砕した。
その後、ドラグーンの危機を救うだけでなく、直ぐにジャッジメント・フィストを装着して艦の底部を何度も殴りつける。リニアッグと連動するオプションの中で最も取り回しに難があろうとも、的が大きい事から然程の問題点でもなかった。
『まま、バン君……これ以上ハイリスクだと釣り合いがなくなるしね』
『ちっ、仕方ねぇ……うわぁぁっ!!』
「バン君、大丈夫か……!」
「敵フォートレスにハードウェーザー反応あり! リキャストです!!」
それ以上にリニアッグを駆使する燃費の問題からして、ザービスト1機で電装艦を沈める事は困難であった。ムウからの意見をしぶしぶバンが聞き入れ離脱せんとした所で衝撃波が浴びせられていった――クリスが触れる通りオールの元へ引き返したリキャストの姿が存在して檻、連結させた電次元ソニックでザービストを弾き飛ばしていったのだ。
『メガージ君、もう十分だ。ドラグーンに十分なダメージは与えたはずだよ』
『もう少し攻めたい気持ちがあるかもしれませんが……すみません』
『……はっ。攻めるより退くことが難しいですから、無理を承知で申し訳ないですが』
『構わないのだよ……それがプレイヤーとして当然の事だよ』
ゼルガが退却を命じる事も、本来の作戦目的を果たしただけでなく、ユカが疲弊している状態にも関係があった。彼女のタグがジャレコフと同じように光をともしており、その様子にメガージは承諾した。ただ電装艦で肉薄した状態から退くにあたって、無防備な状態を避けるべきとリキャストに殿を命じる事に罪悪感があったものの、ゼルガ達は苦とも思っていない様子だった。
『最も仕留めずに墜とすことは大変ですね……』
『けれども、一応彼の面目を保つ事は果たしたのだよ。後ろ盾のない彼の元ならしばらくはやりやすくなりそうだからね』
『すみません、やはりインターバルを置かないと体に堪えますね』
『謝るのは私の方だよ……いつも迷惑をかけてばかりだよ』
ザービストによって思わぬ損傷を受けた事は、少し予想外と思いつつ、人的な被害は軽微であり、どのみちドラグーンの戦闘継続を困難に追い込むまでの目的をゼルガは果たした。
ただ電装マシン戦隊に休む間も与えずに攻めるにあたって、一番無理をしていたのはユカになる。自分は大事までに至っていないと、彼女は健気にアピールしていたものの、妻に負担を強いている事にゼルガはいを隠さない。電装マシン戦隊が追撃に動かない事を判断した時、リキャストも帰艦行動に入った。
『わりぃな……背中をやられてなかったら貸し作らなかったけどよ』
『ラディに回収させてるから少し待ってくれよなー』
『ったく、あんたらでも手を焼くとか……本当とんでもない奴だな!』
アンドリュー達がザービストを案じていたが、彼のボックストの救援が果たせなかったのも、カリドスバーンを背中に直撃した事により、電次元ジャンプが封じられた事にあった。
ザービストが彼らに代わって救援に向かった訳だが、自分もまた窮地に追い込まれた事からか、バンはアンドリューへも減らず口を叩く、ただ棘のある言い方ながらも、自分たちを窮地に追い込んだリキャストが脅威だと認めざるを得ない様子はあった。
『本当首の皮一枚だからラッキーだけどね……相手が降りてくれたから勝った感じかな』
『……ボロボロになる前にザービストならやられてたのでは』
『おい! やられてたってのはなぁ……!!』
『まま、ジャレの言う通りかもしれないよ。打ち所が悪かったらバースト、俺達の負けだよ』
ザービストが全身に衝撃波を浴びせられる形で大破に近いダメージを負っていた。だが拡散性の高い衝撃波は破壊力に優れていても貫通力には欠ける。まるでゼルガが望んでいるように相手の戦闘能力を喪失させることが目的で、手加減をされていた――ムウはその気になれば自分たちが撃墜されていたと捉えていた。
『ったくあの野郎、何考えてやがる……』
『分からないことほど恐いことはないですからね……それより彼らには俺もウカウカしてられませんね』
『まぁありがとよ……あいつらも一歩一歩強くなってからよ!』
『それは認めてやるけどな……簡単に追い越されると思うなよ!』
ゼルガが何を考えているかアンドリュー達の間でも疑念が生じていたが――同時にムウはブレスト・ブースターの存在には関心を寄せていた。バンにとってブレストがどうパワーアップしようともこちらが追い越されるわけにはいかない対抗心が漂っており、ムウは彼をいつものように宥めていたのだが。
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「ご心配をおかけしました。それに……」
「お前が無事なら問題はない……ルリーと別に俺からも礼を言う」
「ありがとうございます。ただ俺もまたウィンさんに助けられたことは確かです」
「……私は好きで貴様を助けたのではない。シャルの事もあってだな」
――ドラグーンのアラート・ルームにて、ラディからルリーを救出した事で玲也は礼を述べた。彼は少し謙遜するようにウィンのお陰だと触れるも、やはり彼からの称賛には素直に喜べない様子のようだが、
「なら同じ電送マシン戦隊の一員として俺からも礼を言わせてもらう」
「……すまない」
「まぁ何はともあれ、ウィンは俺たちと共に戦おうと動いたって訳だ。新しい仲間って奴かな」
「ア、アンドリューさん……私はその仲間として認められてよいかまだ分からないですが」
するとラディはウィンに手を差し伸べ、玲也と違い少し戸惑いながらも握手に応えた時、アンドリューは彼女を新しい仲間だと受け入れて、また頭をなでる。彼の称賛に照れながらも、今度は自分たちが仲間としてふさわしいのかと謙遜していたが、玲也もまた彼女に手を差し伸べた所、
「……私が電装マシン戦隊の一員なら、貴様も仲間だとは認めてやる! 貴様の事を赦したわけじゃないがな!!」
「ちょ、ちょっと! まだ玲也を仇だと!」
「ポーの仇はバグロイヤーだ! 二度と戻れぬこの身体でバグロイヤーを滅ぼさないと気が済まん!!」
「じゃ、じゃあ! どうして玲也君の事を赦してないの!?」
ウィンは玲也の顔を直視してはいなかったが、少なからず仲間としての握手には応えた。彼を仇としてみる事はやめたそうだが、許していないとの口ぶりにニアとシャルが疑問を感じていると。
「アステルという奴がポーをあぁしたからな……そのアステルを姉の私でなく、貴様が討った事が気に食わんだけだ」
「……何か、それはそれで逆恨みのような気がするけど」
「いや、仇として憎まれるよりはまだ……改めて宜しくお願いします」
玲也が先に妹の敵を討った事へ姉として、どこか嫉妬している様子も未だ彼を赦しきれていない理由になるらしい。ただ、本気で殺されるような事態は回避された事もあり、今はそれで良しとしたいと玲也は受け止める事とした。
「シャルが折角私を戦わせてくれている事もある……貴様を一応は様子見してからでも遅くないだろう」
「……何かシャルに対して甘いな」
「妹のように重ねるとしても、シャルとポーは結構違う気するけど」
それと別に、先程からウィンがやたらシャルのパートナーであると自分を強調している。ジャレコフは彼女が姉の立場の人間である故と捉えていたが、流石にそれはないとニアは少し懐疑的な所もあった。
「激しい戦いだったが……色々と乗り越えたと思いませんか博士?」
「そうじゃのぅ。正直ここの所玲也君の成長が著しく感じるようになってのぉ」
「おいおい、今のあっしからすれば今が一番乗り越える時ですよ」
「はは、ならジーロ君には今こそ頑張ってもらわないとな」
そんなアラート・ルームでのやり取りにエスニックとブレーンは共に目を細め、玲也の成長を始めとする変化を称賛しつつあった。最もドラグーンの補修を指揮するジーロは冗談交じりに突っ込むが、二人の話については共に笑いながら認めていた。
「ともかく将軍、ドラグーンも一度腰を据えて修理しなきゃ次が危ないでっせ」
「それは最もだ。この場合はアメリカの……」
「将軍、もしよろしければちょっと……」
ドラグーンの修理について、一同大気圏内に戻らなければならないとエスニックは見解を示した。今後を懸念する彼の元にベルがエスニックへつてがある事を密かに伝えていたようだが、
「何れにせよ……これでわしも少しは安心できるぞい。玲也君たちにもいい加減休ませなければな」
少し緊張の糸が切れたようにブレーンが安心していた時であったが……その直後、アラートルームへあわただしく駆けていく様子で迫っていた――。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
次回予告
「ウィンさんの問題が一応片付いた……と思いきや、エクスだけは納得がいかない様子。それも俺と付き合う云々を賭けた対決の必要性がなくなったからだ。最も色々あった結果、俺とシャルはシミュレーターで対決を挑むことになるのだが……?次回、ハードウェーザー「譲れない戦い?玲也対シャル!」にクロスト・マトリクサー・ゴー!」
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