9-4 レジスタンスの正体、ゼルガの真意

「反バグロイヤーのレジスタンス、フレイム・ハート……」

「そうだ。お前たちハードウェーザーの情報も、抵抗運動をしていたら情報の一つ二つ……」


 マックス・リー”率いる反バグロイヤーのレジスタンス組織“フレイム・ハート”。その後玲也達は直ぐに彼らの保護下に置かれ、現在、彼らの移動拠点でもあるトレーラー“ブル・シューター”の中でブラハートへと向かっていた。


「最もゼルガから聞いてたからな、俺達の事を」

「ゼルガから……って、ええぇっ!?」

「ということは、あなたまさか私たちを騙していらっしゃるのでは!?」

「落ち着け……と言いたいが」


 ゼルガとかかわりがある――ニアも思わず反応するが、エクスはそれ以上に彼が実はバグロイヤーの回し者ではないかと疑いの目を向ける。マックスは早合点されると困ると言いたげだが、ここから先の話を言うとさらに誤解が広まりかねない。僅かにため息をついたうえで、


「そもそもゼルガは俺の弟だ」

「お、弟でしたらなおさらのことですわ! 玲也様、やはりこの殿方はバグロイヤー」

「待てエクス! 話をもっと詳しく聞かせてもらえないでしょうか」


 マックスはゼルガの兄だと自分の素性を明らかにした。猶更エクスが激昂するものの、玲也は諭しつつ、彼を敵と決めつけるのは早計だとのスタンスで接する――仮にバグロイヤーの回しもの、それもゼルガの兄という深いつながりのある人物ならば、わざわざ敵とみなされるような事を、自分からゼルガとのつながりを直ぐに明かさないとも見た為だが、


「大人しく聞いてくれるならありがたいが……お前があいつに思うところがあるのだな」

「俺は以前貴方の弟に負けて捕まりました。彼はこの戦いを望んでいないとか、話し合いのためにやむを得なかったと……」


 マックスは玲也の様子からしてうっすらと気づいた――敵のはずだろうとも、ゼルガへの興味がある事により、自分を一概に敵と決めつけない姿勢へ至らせたのだろうと。バグロイヤーに敗れただけなく捕らえられた屈辱が心に刻まれていたと共に、プレイヤーとしての実力へ敵味方を超えて認める物があった様子であり、


「ですが、玲也様! 話し合いだと言っておきながら、バグロイヤーは南極に……」

「確かにそうだが、何故先に攻撃を仕掛けたのは地球側、PARかが分からない」

「……バグロイヤーが休騙し討ちをしたと断言しきれない訳か」


 玲也は直接聞かされたゼルガの目的をマックスへと打ち明けるが、思っていた以上にペラペラ話していた。ゼルガへ敵意だけでない感情があると別に、休戦条約から地球側の動向にも不審な点があると感じていた故だったのかもしれなかった。


「お前がそう考えてるなら話は早いが……あいつはそもそもこの戦いを望んでない。前線司令官として君臨するのも苦渋の選択だ」

「く、苦渋の選択ってどういうことですの!? バグロイヤーの前に恐れをなして降参した事が正解ではなくて!?」

「あいつ一人だけなら、俺と同じようにバグロイヤーに立ち向かう。王として民を、領土を束ねていなければな……」

「国王……ゼルガがですか?」


 バグロイヤーの勢力は既にゲノムの半分以上を支配下に置いていた為、抵抗を続けることが国土や民を巻き込みかねない――ゼルガ自身の勝利の為に彼らを犠牲にさせる事はならなかった。王として判断した上で表向きバグロイヤーに屈する事を選んだのだという。


「最もあいつは血筋だけで王になったとかじゃない。戦う事以外の全てで、俺より弟のあいつが優れてたのは兄の俺が一番よく分かってた」

「兄より優れていた弟と……あれ、確かゼルガと兄弟のはずですが、ファミリーネームが違いますね」

「確かあのゼルガがサータで、この方はリーですものね」

「……立場上今の俺はお袋の籍を使ってるに過ぎない。ゼルガと俺の血は違う」


 マックスがゼルガの兄のはずながら、王とはならなかった。それもマックスは側室、ゼルガは正室との間に生まれた違いによるものだった。

 最も跡目として、庶子ながら長男にあたるマックスを擁する勢力も少なくなかった。この姉弟での対立を避けるため、マックスが身を引いてゼルガを立てた。その後弟の護衛として日陰で彼を支えるつもりであったが、


「俺は腹違いの兄の立場もあり、表向きではゼルガ政権を打倒する事を掲げなくてな……」

「ゼルガの下で動けば、バグロイヤー側が猶更ゼルガを疑うからですね……」

「そうだ。それを承知でバグロイヤーにだけでなくあいつにも刃をあえて向ける事を選んだのは俺だけじゃないがな」


 バグロイヤーの侵攻はゼルガだけでなく、マックスの道も変える事になった。彼をはじめとする、ゼルガの部下たちによって旗揚げをされたフレイム・ハーツだが、表向きゼルガ政権の打倒を掲げる。アージェスを始めとする非戦闘員に疑惑の目を向けさせない事もあり、少数精鋭――それもあえて表向きゼルガと敵対する覚悟を持った者たちだけに限られていた。


「ブラハートでのハドロイド転送計画も俺たちの耳へ既に届いてる」

「ということは、コイさんやサンさんが同じフレイム・ハーツに……」

「そうだ。マールも似たような立場だが……よりによってサンを送るとはあいつも何というか……」


 コイとサンもまたフレイム・ハーツの面々の保護下に置かれていると知り、玲也たちは安心して胸をなでおろす。そしてマックスは別動隊を率いているマールという人物について語ろうとしており、


「そのマールさんとの方、あのサンさんとお知り合いなのかしら」

「俺の知ってる限りじゃ、マールとサンはサミー地方の……おっと」


 そのタイミングで、運転席の奥に備わる扉に青いランプがついた。ドライバーにスピードを少し落とすように伝えたうえで、扉の開閉ボタンを押す


「お待たせ。リンって子の修理大丈夫みたい」

「流石ブルーナだが……あいつ上手い所狙って壊したのもあったか」


 扉を開くと藤色のロングヘア―の女性の姿があった。ブルーナ・スウィーティーというこの女はある程度電子工学を嗜んでいる事もあってか、リンのタグを修理する事は比較的容易とみたようだった。


「すみません、わざわざリンの修理まで引き受けてくださって」

「俺たちがお前に助けられ、この後も付き合ってもらうからな……それくらいの事はしなきゃな」

「最も、第3世代のタグに合う部品をキープしてたのも大きいわね」

「部品……確かメルさんも部品がないから修理ができないと言ってたか」


 ブルーナが修理できたのは修理用の部品が手元にあったおかげも。裏を返せば部品がない地球側では、ハドロイドの設計にかかわったメルでもお手上げだったことを玲也は思い出した所、


「とりあえずラディって人に提供できる部品とか渡したわ。同じ事態がいつ起こるか分からないでしょ」

「またすみません……間違いなくこちらの役に立てると思います」

「まぁ、タグの修理さえできれば明日いざという時に対応できるし、あとちょっと……」


 ――第3世代用のタグの部品の補充にめどが立った。これにより一件落着した時にブルーナは彼女に随伴していたシャルへ視点を向けていた。


「シャルさん、あなたリンさんの修理を邪魔してまして!?」

「なんでそうなるんだよ! 僕のハードウェーザーが実現するかもしれないのにさ!!」

「シャルのハードウェーザー……何!?」

「ま、まさかあんたのデータまでいつの間に!?」


 シャルの口から出た言葉に、玲也とニアが揃って驚愕しているが、ブルーナが少し笑いながら否定しており、


「ブラハートで、エルトリカと話をつけたの」

「ハドロイドに僕のデータを反映できないかってね……!」


 ブルーナはシャルが構想するハードウェーザーの強化案を聞くや否や、実践の価値があると判断した。ハドロイドにハードウェーザーのデータを書き込む直前との事もあり、ブラハートを管轄するエルトリカとの人物に彼女が打診したとの事で、


「まさか、お前本当に……!」

「僕は本気だよ。玲也君の力になりたいって思ってるし、その為にベルが送り出してきたんだもん!」

「正直シャルさんがプレイヤーなのはどうかと思いますが……ベルさんの事を考えますとね」


 エルトリカからの返事がない限り、詳細は判明しない者の3機のうち1機がシャルのハードウェーザーになるという。

 彼女が正式にプレイヤーとなる事へ、玲也は少なからず驚きと戸惑いがあったものの、シャルの決心は固い。エクスが一見否定しているようだが、珍しく彼女を認めている様子もあった。


「まぁ、エクスにどうかと言われたくないけどさ」

「ちょっと! 結局私をコケにするのでして!?」

「今回は大目に見てあげるよ。それよりリンちゃんに大切な話があるんだよ」

「えっと、シャルちゃんだけでなく……私にもですか?」


 半分エクスに突っかかりつつ、どこか感謝していた様子のシャルだが、彼女以上にリンの事で重要な話があるとの事――わざわざ玲也達がいる場所で彼女は公にするつもりなのも、


「ハドロイドがイチって名前なんだよ! イチ・テンドウだから!!」

「イチ・テンドウ……」

「もしかしてリンの弟って!?」

「嘘……イチが……イチがいたって」


 イチ・テンドウ――リンと同じファミリーネームを持つ彼こそ、探し求めており彼女自身が戦う動機となっていた弟その人であった。この話を聞くや否や、リンの体から一気に力が抜け落ち、全身が震えあがりだしており、


「……リン、よかったじゃん! ここで弟がいたなんて!!」

「は、はい……何かとても不安で恐ろしくもあるのですが」

「どうしてですの? 弟さんと再会できるのでしたら、嬉しい筈では?」

「そうですよね、おかしい筈ですよね……喜ばないといけないのに」


 リンにとって悲願が成し遂げられようとしており、ニアもエクスもそろって祝福の言葉を送る。二人以上にリン本人が最も喜ぶべきだが――彼女の震えはまるで第六感が自分へと訴えかけている様子でもあり、


「今高ぶってどうする。明日が正念場だからそろそろ休め」

「そんな、私と玲也様が二人っきりの場がここにありますのに……って」

「気持ちはわかるが、早く落ち着いた方がいい。帰ってきたらみんなでお祝いだ」

「は、はい……ごめんなさい、私が高ぶってしまっているようで」

「……」


 イチをめぐる話で、周囲が盛り上がるものの、作戦前日にテンションが高くなっては、当日まで持たないのだとマックスが休息をとる様に促す。

彼がもっともな事を口にしているものの、エクスは玲也と二人きりの場で一緒にいたいと少し拗ねる。だが当の本人はリンの興奮した精神状態を落ち着かせようと、二人で先に仮眠を取りに向かっていた為、


「あら、二人きりって玲也と寝るんじゃなかったのかしら?」

「ニアちゃん、僕たちも早く寝ようよ。明日あるしね」

「……もう! 二人とも待ってくださいまし!!」

「ほらあんた達、マックスさんとブルーナさんも忙しいと思うしさ!」


 一人呆然としたエクスだが、ニア、シャルの二人に自分の思い込みと目論見があっさり頓挫した事を揶揄われている所で我に返り、二人の後を追う。

なお、エクスに急げと促すニアの視線は何故かマックスの元に向けられていた。マックスとブルーナが互いに手を重ねあっている様子からも察していた様子もあり、ドアが閉まった後彼女は苦笑しつつ


「あの子、分かってたみたいかしら」

「いや、いつもすまん。お前にもあいつの傍で過ごせばこう苦労をかける事もないが」

「私は苦労とか思ってませんよ。ゼルガ様の元でもベリーたちが苦労してると思うし、同じ苦労するなら貴方の元がね……」


 マックスが苦労を掛けているブルーナを労うが、彼女は別に苦しく思ってはいないと気丈な様子を示す。彼女にとってマックスからそう案じられる事は慣れている様子だ。


「あいつは二手三手読んで手を打っている。休戦条約から踏まえた和睦への道が頓挫した時に備えて、俺たちの存在を地球に知らせる事が和睦への新たな糸口になると見てな……」

「玲也という子、まだ子供かもしれないけどしっかりしてそうじゃない。貴方の弟は人を見る目をちゃんと持ってると

「おい、俺がそれだと人を見る目がないとかじゃないか……」


 玲也の立ち振る舞いについてブルーナが評し、彼を電次元へ送り込もうとして手を打ったゼルガも称賛する。そんな彼女に対して兄の立場がないと言いたげなマックスだが、その突っ込みも苦笑交じりの穏やかなものであった。


「ゼルガはゼルガ、マックスはマックスじゃない。今弟さんが出来ない事をお兄さんの貴方が果たすって考えればよいのよ」

「弟を助けるのが兄の務めか……お前はお姉さんだからな」

「ベリーは……どうかしら? 可愛い妹なのは確かだけどね」


 そんな苦笑交じりに自虐するマックスに対し、やんわりとながら確かにブルーナが兄としての心がけを彼女が説く。姉としての経験と自信があるだけに彼女はごく自然に説いており作戦を明朝に控えたマックスの心を和らげていた。

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