9-3 電次元へ!砂塵に放てゼット・バースト!!

「ベルさんが、お前を必要と感じて送り込んだと」

「そうだよ! 僕もいきなりで何が何だか……」

「全くですわね。ベルさんかジャレさんでしたらまだしも」

「エクスだって別にいる必要がある訳ないじゃない! 僕を舐めるのもいい加減にしろ行き遅れ!」

「ま、また私の事を行き遅れと!!」


 シャルがブレストのコクピットに転移されたことについて、当の本人も状況を把握しておらず、ベルがいきなり行動に移したものらしい。ブレストが電次元ジャンプによって次元を超越しようとする最中でもエクスとシャルの口喧嘩が起こるのだが、


「俺もよく分からないが、この状況でもこいつらこうなのか……」

「そう……ですね……」

「あぁもう! とりあえずこの二人の事より、もうすぐ着くよ!」


 コクピットで起こる口喧嘩についてラディがリンに尋ねると、彼女も否定することはできない様子だ。とりあえず二人を仲裁するよりもこれから先の行動が大事だとニアは玲也に促す。転移した月面の空洞――バグロイヤーの前線本陣でも空洞の中はがらんどうの様子であり、足元には巨大な扉が足場のように固く閉ざされていた。


「ベルさんの送ってきたデータだと、おそらくこの扉が開いて電次元へつながるとの事だが……」

「でも玲也、あれどうやって開けるの?」

「……」


 レール・シーカーから送られた地形データにも、その扉を開く術までは触れられていなかった。ニアが管轄するサーモグラフィレーダーでは、その戸の下に強力なエネルギー反応があることは確認されてはいたのだが、


「こういう時ネクストなら、ハッキングを仕掛けて開けれたかもしれないけど」

「ごめんなさい、肝心な時に私が役立たずで……」

「ゴメン! そんなつもりはなかったけど……電次元フレアーとかで思いっきりこじ開けるとかしないと」

「……頭上にエネルギー反応来てるみたいよ!」


 電次元へつながる月面の空洞底部に備えられた堅牢な扉をこじ開ける方法を模索していた最中、頭上に別の機体のエネルギー反応が察知された。ニアが言うには瞬時に現れたのではなく、緩やかに出力が上がっていくような反応であり、自分たちを待ち伏せしていたかのようであった。


『このまま電次元に乗り込まれてしまう事だけは……ゼルガ様の為にも僕がこいつを!』


 真上のフロアから待ち伏せを図っていた黄色の機体――ゼルガのためにブレストを駆逐しようとする者はパインだ。彼女のフルーティーはすぐさまブレストめがけてトゥインクル・バズーカを構え、すかさずその大筒から弾頭を放つ。


「悪いがブレストも飛べるからな!」


 ブレストはすかさず飛び上がって弾頭を回避する。地面に打ち付けられた弾頭はブレストの目下で爆炎をあげていったのだが、肝心の足場には傷もつけられていない様子であった。


「何故待ち伏せしていたか知らないが、これで倒せるというのなら大間違いだ……」

「待って玲也! 何か扉が開いてる!!」

「何だと……!?」


 目の前のフルーティーを蹴散らそうとした時――底部に目立った損傷がないにも関わらず、扉は突如緩やかに開き始めたのだ。あのパイン機の攻撃による効果とは思えない所であったが、


『まさか内部が……ストローネさん、早く! ハードウェーザーも電次元の兵器となるなら突破されちゃうよ!!』

「やりましたわね! 敵が迂闊だったおかげで手間が省けましたわ」

「何か迂闊すぎて裏がある気もするが……」


 パイン機の誤射が結果的に電次元へつながる扉の壁を開いた。彼女がストローネへ慌てて問う様子からして、猶更アクシデントが発生したかのようだと。エクスはこれをラッキーとして捉える傍ら、ラディはあっけないと少し怪しんでおり、


「確かにそうかもしれません。ですが電次元へ突入する方法が他にないのでしたら、罠とかしても乗るしかありません! 今電次元に向かう必要がありますからね!!」

『しまった……ゼルガ様、申し訳ありません。ブレストが電次元の方へと』


 扉が再度緩やかに閉ざされようとしている背後から、パイン機が脚部のポッドからミサイルを連射してブレストを撃ち落とそうとする。本来ならパイン機を仕留めようと玲也は思うのであったが、その余裕はないと真っ先に前方へと急いで。扉の先に存在する空間へ突入した。


『パイン、もう芝居する必要はないのだよ』

『はっ……ナナもありがとう。上手く扉が故障したと装ってくれて』

『いえいえ……最初から開けていましたら怪しんで入ってこないと思いましたのでよかったです』


 扉が閉ざされた時には既にブレストの姿がなかった――最もパインはゼルガに従ってブレストを電次元へ送り込むために芝居をしていたに過ぎない。コイとサンを電次元へ送り込んだことも、リンのタグを故障させたことも、全て電次元へ玲也達が向かう必要性を確立させるために彼が仕組んだ計画だった。


『マールがサン君を保護下に置く事は成功したのなら……羽鳥君達の事は頼みますよ』


 そこから先の次の手を打つには。電次元側の協力者に託す事が今のゼルガにできる術であった。その上で休戦条約が失効した時、電送マシン戦隊は彼らの救出のために月面へ乗り込んでくる可能性が高い。その月面での戦いをいかに立ち回るかを彼は模索しつつあった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「うぅ、気持ち悪い……」

「シャルちゃん、大丈夫?それに玲也さんも……」

「……まるで、立て続けに電次元ジャンプをしたような気分だが」


 月面から電次元へとブレストは遂に突入を果たした――先ほどの電次元ジャンプから間もない事もあり、シャルはグロッキー状態としてリンに介抱されている。彼女より正気を保っていたとはいえ、少し酔ったような気分を玲也は感じてもいる。


「けど、あんたが酔ってる場合じゃないわよ!」

「足元で何か戦っていますわね……」


 ただ、己の意志で行う電次元ジャンプと異なり、どこへ飛ばされるかは玲也が干渉する余地はない。酔いに苦しむ玲也にもリタは檄を飛ばさざるを得なかった――エクスが触れる通り、電次元での戦場では既に激突が繰り広げられていた。大気圏内でも飛行能力を持つブレスト故、地上の戦闘を俯瞰できるような状況でもあり、


「見慣れない奴らだが……どっちだ」

「あの犬なの、僕知ってるよ! バグロイヤーだよ……間違いなく!!」

「そうだ、あれは……させるか!」


 電装マシン戦隊以外の勢力と激突する様子に対し、ラディが戦況を把握しかねていたが――ダークグリーンのカラーリングで塗装された四本足の機体の姿は見覚えがある機体だとシャルが気付く。

 以前応戦したバグロイド・バグラッシュとほぼ同タイプであり、玲也も察しようとした矢先に自分めがけて背中からのミサイルが飛び交っていく事に気づいた。回避行動が間に合わない一部の弾頭を前に、両腕のカウンター・バズソーで受け流したのち、


「そうですわ! あれはデルタ・バックラーですわ!!」

「デルタ・バックラーって、僕聞いたことないよ!」


 そしてエクスが思い出すように、バグロイドと応戦する紅白の機体はデルタ・バックラーとの名を持つ――バグロイドと異なるエレクロイドについて、シャルが聞いたことないのだと、彼女の事もあって突っかかる様に聞くものの、


「シャルちゃん、嘘じゃないです……私も父さんから知らされてます」

「全くですわ! 士官学校で学びました私を甘く見ないでくださいまし、確かアージェスの」

「とにかく、あいつらを助ければいいんでしょ! 早く片付けるわよ!!」


 リンがフォローする通り、エレクロイドはバグロイドに対峙する存在である。バグロイヤーの侵攻に応戦する面々の存在を、地球でバグロイヤーと応戦する者たちはまだ把握していなかった。ニアが触れる通り彼らを護衛する為、ミサイルを回避しつつ、バズソーで弾頭を切り裂きつつ、切り込みをかけると、


「玲也君! シーカーは僕が動かすから!!」

「よし、空から頼む、リンはニアのフォローに!」

「はい!」


 地上へ降り立とうとすると共に、バックパックからウィング・シーカーがパージされ、シャルの手によりブレストから離れて独自の行動をとる。バグラッシュの群れを相手に、最悪自分たちだけで立ち回る必要が生じた時、少しでも手数を増やして多方面から攻める必要性があると判断したためだ。ビームマシンガンを内蔵したバイト・クローを活かせると見た上で、


「俺はこのまま畳みかける……ブレストでのやり方でだ!」


 ハードウェーザー・ブレストが敵である――そう認識したうえでバグラッシュが真正面から攻め立てる。頭部から展開された湾曲した刃“ファング・メラン”を突き付けるようにして、闇雲構わずに突っ込んだ途端、すかさず右腕のカウンター・バズソーと共に正面へと突き出し、


『何……!?』

「あいにくこういう戦いならあたし達の方が得意なんだから!」


 バズソーの刃を右回転させた瞬間、ファング・メランが巻き込まれるようにして、バグラッシュの機体は横転していく――別方向から衝撃が走ると共に、バグラッシュが転倒の間際にミサイルを放つが、光の刃がむき出しとなった脇腹へ被弾して、爆炎を上げた。


「サザンクロス・ダガーでも十分有効打か……」

「感心してる暇ないわよ! 分かってるでしょうけど!!」


 ブレストの左手は腰のホルスターに収納された光の刃――サザンクロス・ダガーを瞬時にバグラッシュの腹部目掛け投げつけていた。小型故にエネルギー発振器としての持続時間が短いとの事だが、投げナイフのように駆使するうえで十分な威力を発していた。


『ハードウェーザーだからって……どこ狙ってやがる!!』

「アイブレッサーの威力なら……!」


 少し感心する玲也を他所に、ニアが指摘するようにバグラッシュがとびかかる。頭上めがけてデリトロス・クラッシュを突きささんとした瞬間に、サザンクロス・ダガーをあらぬ方向へと投げる。自分を狙ったにしては遅すぎると嘲笑った途端、ブレストの眼光が放たれた――。


『うあっ!』

「アイブレッサー・スプリット……シャルにあやからせてもらう!」


 アイブレッサーが見当違いの方向に放たれたかにみえたが――ひし形のフィールド状に展開したサザンクロス・ダガーにビームを当てて、拡散させてあらぬところから相手の不意を衝く戦法に踏み切った。彼が触れる通り、以前シャルがクロストで実践した戦法を再現しており、


「さっすが、玲也君! 僕だって……!」

『や、やめろ……ぐあっ!!』


 アイブレッサー・スプリットによる被弾して宙でひるむバグラッシュに向けて、ウィング・シーカーが左手を突き出す。一瞬機体を保持すれば内蔵されたビームマシンガンで滅多打ちにする。最後に右手で殴りつけるようにバグラッシュを宙で放した途端に爆散していった。


「シャルさん! 玲也様の獲物でして……」

「少しでも倒す事が出来れば構わん! 一気に攻め立てる!!」

「へへ、それでこそ玲也君だよ!」

 

 ウィング・シーカーを動かす立場で、シャルがバグロイドを仕留めた事にエクスはやはり快く思わない。だが、数だけに限れば自分たちが不利な事に変わりはない。相手を仕留める事が出来る隙に付け入り、一気に仕留める事が出来るなら構わないと玲也は容認しており、シャルも彼の姿勢に安心を覚える。


『あ、あんたは……』

『ハードウェーザーなのはで、確かブレスト……?』

「……そうです、同じバグロイヤーと戦う者ですから! 速やかに下がってください!」


 デルタ・バックラー3機からは通信が入る――彼女たちの声は自分たちを既に知っているかのような物言いだが、今彼がそこまで関心を持つ余裕はなかった。

 それよりも、左足からカウンター・メイスを手にした上で、角を突き出すように前のめりな姿勢でつきすすむ。間合いを詰めようと引き下がるバグラッシュだが、1機だけファング・メランで応戦するように迫ったので、


「キラー・シザース!!」

「待って! 本体の反応、停止してます!!」

「何……ぐっ!!」


 電熱を帯びた角キラー・シザースで焼き切ろうとした瞬間、バグラッシュは確かに接近したものの頭部そのものを打ち出しただけで、本体はむしろ後退していた事に気づく。彼はむしろ引き下がっている様子である。咄嗟の事で射出された頭部をキラー・シザースで焼き切るものの、攻勢に転じる間もなく弾頭が次々と放たれており、


「見た事もないバグロイドいるみたい! エクスみたいなの!!」

「……新手か!」

「私みたいなバグロイドですって!? 一緒にされたらたまりませんわ!!」


 山なりに飛ぶ弾頭がブレストを狙い続ける――ウィング・シーカー越しにとらえた映像では、こうほうから2機のバグロイドの姿があった。

 ブラウンのカラーリング下半身に無限軌道を備える“バグデグレー”は、鈍重ながらも砲撃戦による火力支援に特化しているなど、シャルがエクスのようにと例えていたが、所謂クロストのようなバグロイドでもある。白兵戦に適したブレストと相性が悪い故


「僕なら懐に入り込むことくらいお安い御用だよ! エクスのクロストを相手にすると思ったらね!!」

「ですから、シャルさん! 私に似ているなど言うのはやめてくださいま……きゃあ!!」


 ――バグデグレーをウィング・シーカーが、つまりシャルが相手を務めんとした瞬間だった。バグデグレーの砲弾をかいくぐるよう、すれ違いにバグラッシュが駆けていく。特に1機は深追いして、左腕めがけて食らいつく、全体重が集中して押し寄せれば流石のブレストも後方へとよろけていまい、


「ご、ごめん、玲也君! 無理みたい!!」

「気にするな! カウンター・クラッシュで……!!」

 

 もう1機に追従するバグラッシュを食い止めんと、ウィング・シーカーからバイト・クローがすれ違い様に展開されるものの――ブレストが後方によろける事でタイミングに狂いが生じた。万力が打突したのはバグラッシュの頭部だが、ファング・メランとしてパージすれば本体の活動に支障は生じない。

 あくまでバグデグレーの迎撃をシャルは任されており、後方で砲撃に徹する彼らを駆除する事も必要と捉え、彼女が仕留め損ねた事に玲也は責めもしない。咄嗟に右肩から鎖付きの鉄球――カウンター・クラッシュをお見舞いする。内蔵ブースターによって一人でに鉄球はバグラッシュめがけて飛ぶものの、


『無駄だと言っている……!!』

「のわぁ……!!」


 バグラッシュが兼ね備える敏捷性は、カウンター・クラッシュのワイヤーに飛び乗った上で、両足からのカイザー・スクラッシュの熱によって焼き切ってみせた。


「シャル、ラディさん! 早くシートに! ニア達も出来れば!!」

「ちょっとどうするの!? 左手がイカれるのよ!!」

「まず、バックパックは左だけ固定しろ……まとめて倒す!」


 ブースター付きの鉄球を高速で射出した反動も重なり、遂にブレストが仰向けに倒れ込もうとしていた。右肩にもバグラッシュが食らいついていた事もあり、2機分の重量を耐えうる事は流石のブレストでも無理と言えた。

 左腕に張り付いたバグロイドが、ブレストの左腕を捥ぎ取ろうとしており、ニアが警告している。さらにあと1機、一度後退したバグラッシュまで転身して攻勢に畳みかけている事もあり、追い詰められている状況だが、


「……釣り野伏を使ってきたか」

「釣り……野伏?」

「いや、あの砲台を早く……射程圏に入ったか!?」

「もうちょっとだけど……待って、何か追ってきてるみたい!!」


 少しいら立ちつつも、バグラッシュ3機によるフォーメーションを戦国時代の戦法に例えて評した。ニアが少し呆然とするのを他所にこの中でも彼は焦りの色は見せていない。

 ただウィング・シーカーが先行して攻めに入る必要性をシャルに伝えたところ、シーカー越しに深紅で塗りつぶされた機体が切り込みをかける――それもウィング・シーカーより勝る速度で距離を詰めており、


『ハードウェーザー・ブレスト、俺たちへの協力を感謝するが……!』

「……やはり俺達の事を知っていると」

「協力……貴方たちはやはり味方ですか!?」

『詳しい事は後ほど……お前たち、手を休めるな!!』

『わ、わかりました! マックス隊長に続くよ!!』


 深紅のデルタ・バックラーには、マックス隊長との人物が乗り込んでいる。彼らは退避した部下に檄を飛ばしつつ、本人はウィング・シーカーを追い越して、


「僕の操縦より早いなんて……」

『伊達にレジスタンスやってない……!』

「すごい……」


 マックス機はデルタ・バックラーからのカスタム機であり、特にシールドとの兼用にて、バックパックにブースターが追加されていた。それがシャルの疑問に対する回答でもあり、遠隔ではなく、マックス自身が負担をものともせず操っており――近接防御用として、バグデグレーの胸部に設けられた、のデリトロス・リボルバーに被弾する様子もない。


「二人のお陰です、止みましたね……」

「あぁ……相手が慌てているようなら、一気に転じるぞ!」


 マックスとシャル達により、バグデグレーは砲撃支援にあたる余裕を失いしつつあった。後方からの援護が止むと共に、バグラッシュのスピードが速まってもいる――彼からすれば好機だと焦りを抑えるように一呼吸を置いたうえで、


「……カウンター・メイス、でやぁぁぁぁぁぁっ!!」

『ば、馬鹿な……』


 その瞬間、自分のコクピットをめがけるようにしてバグラッシュが飛びかかれば、ブレストは左ひざを素早く突き出し、先端の鏃を勢いよく打ち出す――装甲の薄い腹部へ、コクピットに目掛けて鏃が突き刺さると共に、


「このまま同士討ちだ……カウンター・クラッシュ!!」

「うわぁ……ちょっと! ジョイントが引っかかって飛べないのに!!」

「それでいい! このまま押し潰す!!」


 左肩のカウンター・クラッシュを敢えて真上へと突き出す。宙を切るような攻撃もまたブレスト自身の体を右に傾けることにより、メイスを刺されたバグラッシュの塊が地面へと――いや、右腕に食らいつくバグラッシュ目掛けて落下しようとしていた所で、


『ひっ……!!』

『お、おい! 持ち場を離れ……わぁぁぁ!!』


 機体の質量で押しつぶされる――玲也が挑んだ奇策に不意を突かれ、その恐怖に直面するようにして、右肩に食らいついたバグラッシュは持ち場から離脱する。左肩のバグラッシュが仲間の離脱行為に声を荒げるものの、


『何とか飛べたけど……早く!』

「足が無事でよかったよ、本当にな……!」


 バックパックのジョイントを解除したと共に、1機分のバグラッシュを左肩に抱えようとも、ブレストが辛うじて飛び上がる事に成功した。本来空中用ではない事もありバグラッシュのバランスは宙で失い、この隙を逃さまいと、右足から展開したカウンター・メイスを一思いに突き刺して無力化させる。


「いい感じじゃん、僕の方もね……って待って!」


 ブレストから離脱したバグラッシュもまた、デルタ・バックラーのライフルを前に撃ち抜かれる――シャルもまたどこか上機嫌だが、マックス機のフィクス・ソードガンがコクピットへと突き刺すと共に、ウィング・シーカーもまたバイト・クローでコクピットを掴み上げ、ビームマシンガンの零距離射撃で引導を渡していたが、


「シャルさん一体何が……」

「バグロイヤーの陸上戦艦か……!」

『退け! 十分に損害は与えた!!』


 かくしてバグロイドを一掃したと思われたが――バグデグレーを砲台のように駐機させながら陸上戦艦ジョウ級が進軍しつつあった。ブレストが参加するに伴い想像以上の抵抗を強いらされた事もあってか、前線へ投入した様子だが、

 マックスからすれば、戦艦まで動いてくる状況にまで被害を与える予定ではなかった――これ以上深追いすれば、レジスタンス側の被害が大きくなると想定し、退却の指示を出そうとしたが、


「待ってください! ブレストなら一撃で仕留めれると思います!!」

『何だと……!?』

「できれば、あの戦艦の注意を引き付けてもらえませんか!? 直ぐにとどめを刺します!!」

「ちょっと本気なの!? もう4割切ってるのわかってるわよね!?」


 ジョウ級へ向けて飛び上がるブレストだが――ニアが触れる通り、燃費が悪いブレストは既に6割ほどのエネルギーを消耗しつつある。彼女が無謀だと意見するのも、既に半分以下のエネルギーしかない事だが、


「確かに電次元フレアーは使えない。ただ一つの方法を除いてだ」

「それってもしかしたら……ゼット・バースト!」

「待て! 下手したらブレストが……!!」


 玲也が咄嗟に思いついた一計は――第3世代としてブレストに備えられたゼット・バーストを発動させる事にあった。残されたエネルギーを一斉に解き放つ仕様であり、エネルギーの残量が尽きた時も電装を維持させるための非常用のエネルギーも解放の対象となる。ラディが危惧する通り――


「そうです。最悪ブレストの電装が解除されてしまう恐れもありますから、いつでも脱出ができるようにお願いします!」

「わかった、シャルは俺が脱出させるから早くしろ!」

「待って! 早くいかないといけないんでしょ!!」


 よって万が一ブレストが途中で消滅する危険性がある――シャル、ラディにその危険性を告げると共に、二人はコクピットのシートから立ち上がり、コクピットの上方へと脱出する準備に入った。 

 ただ、シャルからすれば、コントロール権を玲也の元に移譲する必要があるとの事で、ウィング・シーカーを直ぐブレストの背中へ連結させる役割は果たした。


「早くゼット・バーストを発動して! 彼持たないわよ」

「わかっている……あの人の為にも!」


 ニアに催促される通り、ジョウ級及びバグデグレーの攻撃がブレストへ及ばせないため、マックス機が単身で囮を引き受けていた。バックパックに連結した“ステブラスター“による高機動力で、炸裂するビームをも、弾頭をも避けつつ、フィクス・ライフルを発砲して牽制の務めを果たしていた――ハードウェーザーより性能で一回り劣るエレクロイドだろうとも、囮役を果たし続けるマックスの腕に感心しつつ、猶更彼を死なせる訳にはいかない。


「今だ……電次元フレアー!!」


 L1、L2、R1、R2に加え左右のスティックの同時押し――ゼット・バーストの発動を示すメッセージがサブモニターへ表示されると共に、急降下するブレストのツインアイは血走るように赤く光りだす。

 同時に滑走するようにブレストが降下しつつ、腹部のシャッターが解放されていく。射程距離すれすれの位置にて、電次元フレアーが縦一文字に照射されていけば、ジョウ級の装甲が赤くただれていき、既にバグデグレーは爆散して跡形もない。


「やった……あそこに着地するぞ!!」

「玲也様、私は最後までおそばにいまして……」

「……って、あんたも早く脱出しなさいよ!!」


 抵抗も途絶え、沈黙を迎えていった矢先にジョウ級は爆散して甲板から煙を上げていった。コクピットの中で既にブザーが鳴り響く中、グライダーのようにブレストが砂塵へと胴体着陸を試みようとしていた。この状況でエクスだけ玲也と共にする覚悟が出来ていたが、この状況では場違いな覚悟だと直ぐニアに突っ込まれていた。


『あれがブレスト……聞いていた以上にやるな』


 マックスが静かにブレストの、玲也達を評する言葉を送った。今、ブレストの表面装甲の色が失われていくとともに砂地に胸部が、腹部がこすれて音をあげる。そんな彼が胴体着陸す元に向かって、一台のトレーラーが接近しつつあった。

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