3-6 玲也、プレイヤーとしての一歩を踏め!
「――失礼します」
「君が、あの羽鳥玲也君ですか」
ドラグーン・フォートレスのブリッジに玲也とリンが到着した。そのブリッジで真っ先に視界に入ったのはブレーンと会話を続けている紫髪の男。話しぶりの様子から彼と長い知り合いのようで玲也に興味を抱いて真っ先に近づく。
「あぁ、玲也君。彼は天羽院君といってわしの教え子じゃ。電次元から奇跡的に生還して今バーチュアスグループを束ねる男となってのぉ……」
「電次元から……ってもしかしたら!?」
ブレーンから天羽院を紹介されるが、どうやら経歴からして電次元の使節の一人だった男のようだ。その為秀斗と面識があるのではと彼は一瞬感じたものの、
「君が3機のハードウェーザーを持つプレイヤーです! 正直このような事態は初めてですが素晴らしいですね!!」
「え……えぇ。ありがとうございます」
「実際に3機も動かせるプレイヤーがいるとなりましたら、流石羽鳥秀斗の子供だけの事はありますね 今後のハードウェーザー界隈も明るく……!!」
「はぁ……」
天羽院の口ぶりからして、オンラインゲームの運営に携わっていた為自分の組んだハードウェーザーのデータを把握していたのだろうと感じた。しかしそれと別にハードウェーザーを3機動かすプレイヤーが前代未聞の事例として、彼は自分を売り込もうとする魂胆があるのではないだろうか――秀斗の息子と見なされる事を快く思わない点があるとはいえ、少し複雑そうな心境ではあった。
「それより天羽院さん、電次元の使節ということは……」
『あんた! プレイヤーで無断出撃は厳罰ものよ!!』
しかし玲也が肝心の聴きたい話に入ろうとした時、コイがすごい剣幕で通信越しに怒鳴りつけてきた。無断出撃の事は咎められてやむを得ないと玲也は何も言い返せないのだが、
「あ、あのコイさん……無断出撃は私が勝手に行った事でして玲也さんは悪くないです!」
『貴様か。まぁ、成果を出したから良しとするが、ハドロイドの手綱を握れないプレイヤーとはな……』
『な、何で私の顔を見てるのよ、あんたは!!』
リンが玲也を庇おうと自分の責任だと伝える。これにサンがリンの行動を止められなかったと玲也に非があるような冷ややかな目を向けるが……何故か自分のプレイヤーになるコイにも同じような視線を向けていた。
「間に合いましたわ!」
「着いた早々言うのもなんだけどあんたねぇ! もとはと言えばあんたがちょっかい出すから悪いんでしょ!!」
「そうだよー! コイもサンが悪いと思うならどうして玲也君を責めるんだよ!!」
遅れてニア達3人が到着するや、コイの叱責へ揃って苦言を交わした。サンはただ目を閉じながら腕を組んだまま何も言わないが、
『あのねぇ……そりゃ私もサンの事は謝るけど、だからといって訓練をほったらかして無断出撃していいの!!』
『そうさ! リンが無事だったからよかったけど僕は、僕は君が一緒じゃない事をこれほど辛いと思った事はなかったんだよ!』
『……アトラス、そいつ黙らせて。話が変な方向に飛ぶから』
『ご、ごめん。あ、ムウさんすみません……』
同じくフェニックス・フォートレスからも通信が入る。ただクレスローは叱責するとしてもコイと別の方向なのは間違いないと発言して早々その場から退場させられた。映像ではムウが彼を無理やり外に出している様子もかすかに見えた。
『ただ正直ネクストで出撃するのが初めての筈なのに凄いよ。僕は初めてだと出来ないかな……』
『あのねぇ、あんたは訓練ほっぽらかされて悔しくないの! あいつのせいで規律が乱れてるのよ!!』
『それはまぁ分からなくもないけど……ただ僕たちの所は寧ろ玲也を咎めるつもりがなくて』
『……確かに、あフェニックスが一番フリーダムなのはわかるけどさ』
アトラスは玲也の行動に対して、肯定できるものではなくともプレイヤーとしての腕を称賛したい心情だった。規律を重んじるコイに押し切られそうになるが、彼の所属するフェニックス・フォートレスの空気を察すると少し黙ってしまう。
『まま、そういうことだね』
「ムウさん!」
『俺たちもさっきの事忘れてないからさ……ちょっと言わせてくれないかな?』
同じフォートレスの先輩になるバンとムウ、つまりイタリア代表の登場だ。玲也の方へ軽くムウがウインクした時と同時にバンが不機嫌そうながら口を開ける。
『ったく俺は正直さっきの借りは忘れてねぇ。腹が立って仕方がねぇが……まぁ実戦であてにならない規律にしがみついてるそいつらよりはな』
『バン! あんたもあんたで好き勝手やってるから私も腹が立ってんのよ!?』
『まま、うちは結構その辺り緩いからね、おたくのビャッコは優等生ばかりみたいだけど』
バンにとって噛みつく気にさせる相手の方が、吠えているだけの相手より価値があると認めているような様子はあった。それで納得がいかないコイに対してフォートレスの空気が違うからとやんわりと彼女を嗜める。
『コイ、正直お前もお前で見苦しい。一応結果を出したことは出したからな』
『あぁ、言っとくけどね……その優等生ってあんたの事も入ってるからね』
『く……』
サンは一応玲也達の成果自体は悪くないと態度を変えるが、彼に対してムウがどこか冷たくもあり痛烈な皮肉を浴びせた。これに押し黙るサンだが先程の余裕と自信にあふれた様子ではなく、歯がゆさを押し殺す様子でもあった。
「ったくよー、あたいらが出るつもりだったがなー、あいつらに今回先越されたんだよなー」
「よぉバン。おめぇ玲也に因縁付けるって事はライバル認定かー」
『馬鹿野郎! 俺が出し抜かれたからやり返すだけの相手! それだけだ!!』
『はいはいバン。君はこういう、場所で怒鳴り散らさなくてもいいからね』
そんなさなかいつの間にかアンドリューとリタもブリッジに現れた。アンドリューがバンを軽く茶化すと、彼は赤面して噛みつき返すがムウがフォローして黙らせている。最もアンドリュー達が突っかかられて怒号を飛ばす様子もなく、素直になれない故の日常茶飯事だと分かって慣れているような対応をしていた。
「まぁ、バンは腕も悪くないし、向上心も人一倍強い。素直になれねぇのが玉に瑕だが、まぁあいつに噛みつかれたら誇りに思っとけ」
「は、はぁ……バンさん、とりあえずお互い仲間として宜しくお願いします」
『……いっとくが世界各国代表って事は関係ない、俺はトップに上り詰めるためにだな』
『はいはい、わかったわかった。司令が来たから喧嘩売るのはやめようね、バン君』
ムウによってなりふり構わず相手にバンもまた退場させられた。それと同時にドラグーンのブリッジでもエスニックが会議を終えて到着しており、
「玲也君、フラッグ隊が無事なのも君が3機のハードウェーザーを見事動かしたことは褒めたいが……」
「ありが……いえ、覚悟はできています」
「いい心がけだね。0日間、ドラグーン・フォートレスへの出入りは禁止だ」
無断での出撃は罰さなくてはな」
「……はい」
咳ばらいをしてエスニックが神妙な顔つきで処罰を伝える。ラディたちを救うためとはいえ独断で動いたことは褒められることではない。たかが10日、されど10日。長い間シミュレーターにも触れることが出来なければ、まだ駆けだしたばかりなのに腕が直ぐ鈍ってしまうのではと不安がくすぶっていたものの、玲也は反発せず頭をうなだれて受容した。
「玲也さん……ごめんなさい、私の為に」
「いや、あの時俺もあぁしなければ仕方がなかったと思う」
「まぁまぁ玲也君。根を詰めるだけでなく休息は必要じゃよ。根を詰めすぎずこの10日間をゆっくりとな……」
「いや博士。玲也君に休ませるつもりはないですよ?」
「……なんじゃと!?」
ブレーンは内心この処罰に対して玲也の為だと安心している様子もあった。しかしその罰の真意が別にあるとエスニックは明かした途端、思わず彼が驚いてずっこける。
「ですが将軍、ドラグーンへの出入り禁止の間、何をすれば」
「それはビャッコ、フェニックスの元で特訓を受ける事になるな。3機のハードウェーザーを動かせるプレイヤーとしてな」
「分かりましたが……何故ビャッコ、フェニックスです? 俺はまだ全然3機とも使いこなせていないですよ」
10日間プレイヤーとして特訓を受けるとの事に玲也は内心飛び上がりたいような気分だった。この内容に一応理解しようとはしていた所、
『アンドリュー、貴様にこの面白い坊やが独り占めされるってのは納得がいかないんでな』
「おめぇらに玲也を任せるのかよ……」
「あー、がきっちょどうなるかだなー、それはそれであたい楽しみだなー」
『私もボウズには興味がある。サンが起こした問題でもあるから、私が責任をもって穏便に解決するとなれば……だろ?』
マーベルとカプリアが揃って玲也を鍛える事に興味がある、アンドリューだけに独占させたくはないと意見が揃っていた。彼が頭を押さえるも口元ではこの二人にも玲也が認められたことへの喜びが隠せなかった。
「おぉ、そうですよ将軍! この次代を担うプレイヤー、羽鳥秀斗の息子の玲也君を飼い殺しにしてはいけないですよ!! ここはですね……」
「……天羽院さん、その話についてはこちらで」
玲也の腕を活かすことについて天羽院もまた喜んでいたが、彼の場合スポンサーとして別の目論見があるのだろう。ここからスポンサーからの意向などを自分が上手く制御しなければならないとエスニックは司令室へ天羽院を連れて話を続けることにした。
「しかし10日間となると……玲也君、君の春休みが丸々と」
「博士、俺はむしろこの機会にもっと腕を磨かないとこの先どうなるか分からないですからね。丁度いいと考えてます」
「おっ、いうじゃねーか、がきっちょー」
ブレーンの心配も、玲也にとってはプレイヤーとしての道が開けていく事への喜びを噛みしめる前に些細なものだったようだ。そんな向上心の強い彼の様子にアンドリューが目を細めながら見守っていた所、
「……っとラディ、トムの方はいいのかよ」
「まぁな……あいつはお前よりカプリアやマーベルに預けておいた方がちょうどいいからな」
「おいおめぇ、カプリアはまだしもマーベルの方が俺よりマシだって言いてぇのかよ」
「お前が教えたあいつは無断で出撃したろ……またやらかした時無事で済むかわからん」
「まぁな……そういう意味なら認めてやらぁ」
ラディは口が悪いながらも、自分たちを救おうとして無断出撃した玲也については肯定するスタンスだった。彼が今後必要なのは、その状況の中でも生き延びる事の出来る力が必要と捉えており、アンドリューもその点で意見が一致していた。
「まぁ、よかったじゃん玲也。無断出撃でどうなるかって思ったけど」
「そうですわね玲也様。私達ハドロイド3人は玲也様と一緒ですが、シャル……貴方はどうか知らね?」
「むぅー! 僕を舐めるなーこの行き遅れが―!!」
「おいおい、ここで喧嘩は……」
エクスとシャルがまた口喧嘩を始めたのを背に、ニアなりにねぎらわれて玲也も会釈してかえす。だがその折に自分の腹の音が鳴った事に彼は気づきリンの方を向いた。
「リン、夕飯の準備は出来そうか? お前の好きにしてくれて問題ない」
「……良いのですか、もし良いのでしたら!!」
「今度は文句つけずに平らげるからな。楽しみにしてるぞ」
「……はい!」
これから玲也達が自宅へ戻って夕飯にありつくだろう。明日から始まる特訓の前の晩餐を頼まれたリンは満面の笑みを浮かべて快諾したのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
次回予告
「俺はメルさんが発明したポリスターという光線銃を貰った。指定した場所にターゲットを転送する凄い代物だが……そんな折に漂流していたハドロイドのカプセルを発見した。だがバグロイヤーがカプセルを狙って襲い掛かる。次回、ハードウェーザー「破れ二面戦法、切り札はポリスター」にクロスト・マトリクサー・ゴー!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます