作戦会議

 作戦会議を終えてゆっくりとしていると、不意にローズがただの話題の一環といった様子で尋ねた。


「それで、勇者には勝てそうなのかしら?」

「正直に言って厳しいか、とも思っています」


 魔王はそう言って渋い表情をする。ローズは興味がわいたようで、口の端を少しばかり吊り上げた。


「あら、弱気なのね。それはどうして?」

「勇者と魔王とは得てしてそういうものなのかもしれませんが……スキルや装備の相性が悪すぎます。勇者以外には無敵の『運命の保護』も勇者には意味がありませんし……『じごくのけっかい』もゆうしゃ装備一式に不死鳥がいればやつには何ということもないでしょう。冷静に考えて勝てる要因がない」

「そうなのかしらねえ」


 ローズはどういった経緯で勇者と魔王の専用スキルが生み出されたかを知らないから、こういった曖昧な態度をとっている。

 もっと言えば、もしゼウスが意図的にそれらのスキルを作ったのなら、たしかに女勇者に有利になるようにしている可能性はあると考えていた。ゼウスは「黒髪を結った美少女」が大好きなのを知っているからだ。

 逆に言えば、そうでないのなら。ゼウス以外の神等の「別の何か」がスキルを付与したのなら……どちらかに有利にはならず、魔王にもそれなりに勇者に対抗する手段があるはずだと考えていた。

 もっともその「別の何か」が何なのかは、ただのお手伝いであるローズには見当もつかないのだが。


 ローズは真剣な表情で探りを入れていく。


「他にあなたが使えるスキルにはどんなものがあるの?」


 口調が微妙に変わっているあたりから真剣味を嗅ぎ取ったのか、魔王も至って真面目に考え、返答していく。

 顎に手を当てて宙に視線を漂わせながら口を開いた。


「専用ではないですが、強力な攻撃魔法は一通り。後は……」


 しばしの間しかめっ面で考え込み、唸り声をあげる魔王。不意に、何かを思い出したような表情になって言う。


「そうだ、役に立ちそうにないので忘れていましたが……『ぜつぼうのひかり』とかいうのがありましたね」

「それはどんなスキルなのかわかる?」

「興味をなくしてしまって、説明の途中からおやつのことを考えていたのでわかりませんが……たしか名前そのままに相手を絶望させる、とかそのようなものだった気がします。まあ、特に使いどころのないスキルですよ」

「ふうん? そんなことを言わずに、スキルの詳細はちゃんと把握しておいた方がいいと思うのだけれど……あなたがそう言うのなら無理強いはしないわ」


 ソフィアから説明を受ける以前のティナのように、魔王もまた自分のスキルを把握しきれていない。そして、それが勇者のものとなればなおさらである。

 この後も魔王がスキルの詳細を把握しようとすることはなかった。


 ☆ ☆ ☆


「結局、国庫から支出することはなかったわね」


 高い位置にある太陽に照らされたミツメ城の屋上で、フェニックスから下りたばかりのエリスがそう言った。

 ひとまずエリスを家に帰す為に戻ってきたものの、今日明日で準備を一通り済ませたら明後日には魔王城のあるラスト大陸へ向けて旅立つつもりだ。


「じゃあ私は父さんに色々と報告をしてくるから」


 そう言ってエリスが城の中へと続く階段通路の扉を開けたと同時に、もう一度こちらを振り向いた。


「この後は買い出しに行くんでしょ? 私も行くから、それまでちょっと部屋で待ってなさい」

「エリスちゃん、いいの? 何日も留守にしてたのにまたすぐ出歩いたりして」


 ティナの問いに対して、エリスは呆れたようにため息をつく。


「あのねえ、この前も言ったけど一応国王は父さんなのよ? 私がいなくったって大丈夫に決まってるじゃない。 というか、逆に私がいない方がちゃんと仕事するわよ」

「それもそうかも……」


 エリスがいない方がエリスちゃんの独占がどうのこうのと騒ぐ余地がないから、という意味だろう。

 苦笑するティナの横で、ロザリアがみんなを見渡しながら言う。


「では、地図も入手出来たことですし、私たちは部屋で作戦会議でもしていましょうか」

「それがいいね」


 寝起きのラッドが賛同した。寝起きなのは帰りにフェニックスの上で俺にイチャイチャ話を自慢していたけど、結局、途中で諦めて寝ていたからだ。


 それから各自が部屋に荷物を置いた後、俺の部屋に集合する。

 フェニックスが早々にベッドの上で置物みたいになり、時計周りでティナ、俺、ラッド、ロザリアの順にテーブルについて地図を広げた。

 それを眺めながらティナが驚きの声をあげる。


「一本道になってる!」

「本当だねえ」

「本当ですわね」

「逆に脇道に入ったりすると複雑になってんだな」


 白々しくそう言いながら、俺も地図を眺めてみた。

 一階の端から端までを一本の大きな通路が走っていて、そこから階段を昇ってまた端から端まで大きな通路を進むと、突き当りの何やら横に細長い部屋の奥に大きな部屋がある。恐らくはこれが魔王のいる場所ってことだろう。


 なるほど、たしかに一本道だけど少しだけ工夫が凝らしてあるな。自分でも言った通り、脇道にそれていくと複雑になっていく作りで、その先にはいくつかの部屋がある。これらは幹部たちの部屋とかなんだろうか。


「まあ、この様子だとまず道に迷うってことはないだろうね。魔王のいそうなこの大きな部屋にたどりつくまで、魔王軍の幹部とか呼ばれているモンスターたちと戦っていくことになるのかな」


 ラッドが珍しく真面目な表情で語る。ちなみに魔王軍幹部たちは魔王城に住まう魔王直属の手下として、人間の間でもその存在を知られていた。


「でも、こうも一本道だと罠が仕掛けられていそうですわね」

「だろうな。まあ、相手の懐に飛び込むんだからある程度はそう言ったものがあることも覚悟の上で行くべきだろ。準備は万全にしとかないとな」


 ロザリアの意見に同意しつつそう言うと、難しい顔をして考え込んでいたティナが口を開く。


「ねえ、思ったんだけど……これ、ぴーちゃんにお願いして屋上から忍びこんでみるっていうのはどうかな?」


 一瞬その場にいた全員が固まった。フェニックスの『いいぞ……』という声が響いて来たけど、それには誰一人として応じない。

 俺としてはティナの発想があまりにも天才過ぎて固まったんだけど、他二人はそうでもないらしい。意識を取り戻したラッドがどうにか声を発する。


「いや、たしかに屋上から行けば正面から行くよりも罠がある可能性は低いかもしれないけれど……道のりがかなり複雑みたいだし、結局大きな通路を通らないといけないことにも変わりはないじゃないか」


 屋上から魔王のいる部屋に進む場合、簡潔に言えば脇道を通って大きな通路に合流する形になる。ラッドが言っているのはそういうことだ。

 ロザリアが困ったような表情で片手を頬に当てながら考えを口にする。


「でも、罠などにかかって一斉に襲い掛かられるより、先に各個撃破した方が結果的には安全という可能性もありますわ」


 たしかにロザリアの言い分は一理あると思う。それに何より、ティナの意見には極力賛成してあげたいし、ラッドもロザリアの意見には反対しにくいだろう。

 俺は少し考えた末に顔をあげて口を開いた。


「じゃあとりあえず屋上から行ってみるってことで。幹部たちに気付かれて囲まれそうになったら引き返せばいいだろ」

「だねっ」


 ティナの元気な返事に全員がうなずく。

 というわけで、魔王城には屋上から侵入することになった。結界とかがあって出来なかったら笑えるけど、その時は普通に引き返せばいいしな。

 話がまとまってゆっくりしていると、やがて部屋の扉が叩かれたと気付いた瞬間に勢いよく開き、エリスが入って来た。外行きの格好をしたちびっこ王女は俺たちを人差し指でずびしっと差しながら言う。


「待たせたわね! 行くわよ!」

「ご機嫌だね、エリスちゃん」


 屈託のない笑みを見せるティナに、勝気な笑みで答えるエリス。


「こんなに遊べるのも久しぶりだからね。さっ、行くわよ」

「おいおい遊びにいくんじゃねえんだぞ。攻略の準備だ準備」

「わっ、わかってるわよ!」


 注意をすると、慌てたように顔を赤らめてずんずんと部屋を出ていくエリス。


「全くジンはこれだから……」

「なんだよ」


 肩をすくめてやれやれとため息をつくラッドを睨みつけると、ティナとロザリアもつられたように苦笑をこぼす。

 その後、まるでいつもの日常と変わりのない穏やかな買い物を済ませると、次の日も体力の回復につとめ、翌々日、遂に魔王城への出発の日を迎えた。

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