契約、と思いきや

「これが不死鳥フェニックスさん……ちょっと可愛いかも」


 不死鳥ことフェニックスに対するティナの第一声がそれだった。

 でもちょっとわかる。すごくでかくて強そうなのを想像してたのに、ちっちゃくて肩の上に乗りそうだから。

 呆然とフェニックスを見上げていたロザリアも感想を口にする。


「家で飼えそうですわね」

「僕とロザリアが二人で住む家を建てたら迎え入れようじゃないか」

「ラッド様ったら……」


 頬に手を当てて幸せそうに身をよじるロザリア。

 ちなみに今ヘルハウンド親子は互いに寄り添って震えながらことの成り行きを見守っている。

 とりあえず相変わらずなラッドとロザリアは置いといて、俺は気になることを聞いてみた。


「おいお前今どこから、いや、どうやって出てきたんだ?」

『どうやって、とは? 普通に透明になっていたのを解除しただけだが』

「解除しただけだが、じゃねえよ。当たり前のことみたいに言ってるけど、透明になるスキルなんて存在しないだろ」

『そうなのか。ああ、だからこの山に住む生き物たちはみな透明にならないのか』


 本当に初めてそれを知ったかのように不死鳥はそう言った。

 どうやらこいつにとって透明化というのは当たり前に出来るものってことか。

 そこで立ち上がり、服についた草を払いながらティナが口を開く。


「隠れんぼの時にすごい有利ですね」

「いやこれは反則だろ。それに透明になれるやつと隠れんぼなんかしたくないぞ」

『では透明にならなければしてくれるのだな?』

「したいのかよ」


 考えてみれば誰もこいつの存在を知らなかったんだから、友達なんているわけもないな。

 今度は何か隠れんぼ以外ので遊んでやろうと考えていると、不死鳥はティナの方を見て何かに気付いたような表情をした。


『む、お主が今まで座っていたところの草が少し減っているな』


 そう言ってフェニックスがさっきまでティナの寝ていたところに向かって翼をはためかせると、その周辺で草のない部分には草が生え、元から生えていた草花は背が伸びた。どちらも一瞬の出来事だ。


「「「「…………」」」」


 あまりの不可思議な出来事に全員が揃って固まっていると、フェニックスは何でもなかったかのようにこちらに向き直って話を戻した。


『で、透明にさえならなければ隠れんぼには参加させてもらえるんだな?』

「いやいやどれだけ隠れんぼしたいんだよ。そうじゃなくて、今のはなんだ?」

『今の?』


 きょとんとした表情で返されてしまった。


「草が生えたり伸びたりしたやつ」

『なるほど、先ほどの会話の流れからすれば、あれもお前たちには出来ないということか』

「そういうことだ」


 そこにティナが、何かすごいことに気付いたようにハッと目を見開いてから会話に入ってくる。


「ねえねえ、今の魔法? を使えば、一年中お野菜とか採り放題なんじゃ」


 こんな時でも家庭的な発想のティナ……いいな。

 天才的な発想力に脱帽したのでとりあえず賛同しておこう。


「たしかに。さすがティナだぜ」

「だよねっ。よし、じゃあ今すぐに契約しちゃお」


 一つ決意のガッツポーズをとったティナは、みんなを見回して尋ねた。


「みんな、準備はいい?」

「おう」

「ふっ、何でもこいって感じだね」

「大丈夫ですわ」


 ここに来るまでにも度々話題にあがったことだけど、契約というからには何かしら試練のようなものがあるはず。まさか契約お願いします、はいいいよで済むわけはないだろう。

 俺たちはどんな試練が来てもいいように、アイテムなんかも多めに揃えて出来る限りの準備を整えてきた。


 全員からの返事を確認したティナは一つうなずいてからフェニックスの方に向き直り、少し気を張った面持ちで勢いよく言葉をぶつけていく。


「フェニックスさん、私と契約を交わしてください! そして、私たちを魔王城まで連れていってください!」




『……いいぞ……』




「そこを何とか! えっ?」

『いいぞ』

「え、いいんですか? やった~!」


 ぴょんと飛び跳ねて大喜びのティナ。その傍らでは俺が前のめりにこけそうになった一方で、他のメンバーが安堵の息をつく。


「いやあこんなにあっさり契約できるなんて拍子抜けではあるけれど、危ないこともなさそうでよかったよ」

「本当に。何事もなく済むのならそれが一番ですわ」


 平穏な毎日を喜ぶ村人のように語らうラッドとロザリア。

 そんなみんなの様子を見て、俺は思わず叫んでしまった。


「いやいや、そんなあっさりでいいのかよ! 何ていうかこういうのって、『私と契約をしたいのならこいつを倒してみせろ!』とか言ってでかいモンスターが出てくるとかそういうのじゃねえのか?」

「ジンこそ何を言っているんだい? 何もなく簡単に済んだんだからそれでいいじゃないか」


 ラッドが抗議の声をあげるとそれにティナも眉をひそめながら続く。


「そうだよ、もしフェニックスさんの気が変わっちゃったらどうするの?」


 すると、フェニックスは何かを思案するような顔になって言った。


「ふむ。でかいモンスターが出てくる、か。それも悪くないな。ではそうしてみるとするか」


 次の瞬間、大地が鳴動した。

 立っているのもままならない程の揺れにティナがこちらによろけたので、それを支えたら俺まで地面に倒れ込んでしまう。

 まるでティナが俺を押し倒したような姿勢で、少しの間見つめ合った。


 吐息すらかかってしまうような距離に鼓動が跳ねる。

 ティナの潤んだ瞳と紅潮した頬は艶やかで、おまけにその、なんていうか……何か俺の身体に柔らかな二つの感触が……。

 

 地面がめっちゃ揺れて危機感を促してくれているおかげで何とか理性を保っているものの、これ以上このままの姿勢だとやはり危ない。

 そしてこの間に鳥は憩いの場にしていた梢から飛び立ち、森に住むモンスターたちからは悲鳴が響き渡っていた。


 周囲の状況をみてみると、ラッドとロザリアも立ったまま抱きあって似たようなことをしている。

 それを確認した俺は思い切ってティナの背中に両腕を回してみた。ティナの瞳が驚きに見開かれ、艶めいた薄い唇がわずかに開いたかと思うと、そのまま俺の胸に顔を埋めて来た。これはどういうあれなんだ!?

 顔が熱い。地面めっちゃ揺れててそれどころじゃないのに何してんだ俺ら。いや違う、これはティナを安心させるために仕方なくだな……ウホホッ。

 

 と、高揚のあまり渦を巻く思考を何とか整理しようともがいていると。


 轟音。


 俺の正面でありティナの背後から巨大なミミズに似たモンスターが三体ほど地面を突き破って顔を出してきた。

 ミミズたちはこちらに気付くと、首をこちらに傾けて鋭利な牙を覗かせながら雄叫びをあげる。


「おおおおい! 本当に何かすげえの出てきたじゃねえか!」

 

 ティナも背後を確認してそれに気付くと、慌てて俺から身体を離して勢いよく立ち上がった。

 正直名残惜しいけどそれどころじゃないので俺も立ち上がる。

 ミミズたちが出て来て揺れが収まったからか、いつの間にか俺の隣に来ていたラッドが非難の言葉を浴びせてきた。


「ジン、どうするんだい! 完全に君のせいじゃないか!」

「おっ、俺!?」

「そうだよもー、ジン君のばか!」


 ティナはさっきの余波なのか、顔を耳まで赤くしている。


「ティナまで!?」

「ジン君、どさくさに紛れてあんなことをするなんて……」

「ロザリアも! ていうかその話は今はやめろ!」


 くそっ、やっぱばれてんのか。後で死ぬほどからかわれるな。

 その時傍らにいたヘルハウンド親子の存在を思い出したティナが、子犬の方を抱きあげて移動しながら口を開いた。


「わんちゃんたちは危ないからこっち!」


 そのまま二匹を端の方へ移動させる。飛び道具でもない限りは恐らくミミズの攻撃が届かないっぽい位置だ。

 親ハウンドはそれに従順についていく。すっかり犬扱いに慣れてしまったようで何よりだと思った。


 避難誘導を終えたティナがこちらに戻ってきて戦闘態勢をとると、フェニックスが説明を始める。


『よし、ようやく準備ができたようだな。先ほどのイチャイチャについては後で詳しく聞かせてもらうぞ……くっくっく……』

「うるせえよ!」


 ラッドとロザリアどころかフェニックスにまでばれてた。


(ジンさん、後で私にも聞かせてください!)

(お前もうるせえよ!)


 逆に気付いてないやつがいない始末。顔が熱くなるのを感じながらティナの方を見ると、またも耳まで赤く染まっていた。

 フェニックスが一つせき払いをしてから説明を再開する。


『まあ、実際のところこいつを倒すとかそういうのは全く必要ないのだが……そこのジンとやらの要望に応えて、このヒュドラワームというモンスターを倒せたら契約ということにしておこう』

「はい、もう何かすいません」


 さっさと終わらせて帰って一人になりたいのでとりあえず謝っておく。

 全員が戦闘態勢に入った。

 剣と盾を構えたラッドがヒュドラワームを見据えながら口を開く。


「ふっ、僕の魔法剣があればこの程度の敵、朝の歯磨き程度にもならないね」

「よしっ、みんないこう!」


 比較の基準がよくわからないラッドの台詞を無視して放たれたティナの言葉を合図にして、俺たちは一斉にヒュドラワームを目掛けて駆け出した。

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