トチュウノ町へ
その後、テントに入ってからもラッドとの攻防は続いた。というかどちらかと言えば俺が色々と問いただす感じで一方的に攻めた形だ。
結論から言えばあいつらは俺とティナよりは進んでいて、かと言って大人の階段は昇っていない……的な感じらしい。
それでも具体的にどこまでいっているのか言うのを恥ずかしがるあたり、ラッドも俺のことを言えない程度にはウブだと思う。
ロザリアはティナに色々と赤裸々な話をしてそうだな。
以前セイラから、ちょっと過激な話になると女の子の会話の内容はかなり具体的だと聞いたことがある。
いちいち恥ずかしがっている俺たちとは大違いだ。
やはり女に比べれば、男というのはいつまでたっても子供なんだな。
とにかくそんな感じで夜遅くまでラッドとの幼い死闘を繰り広げた翌朝、野営セットを片付けながらのことだ。
「おっす……」
「ふっ、最高の朝だね……」
「ふ、二人共大丈夫? 夜にモンスターでも出たの?」
前を歩くティナが俺たちの顔を心配そうに眺めている。
結局話に夢中であまり睡眠がとれず、モンスターと戦った後なんかよりもよっぽどひどい有様になっていた。
ラッドを見れば目の下にクマが出来ていて足取りは重く、とにかく全体的に覇気が感じられない。
多分だけど、俺も同じようになっているのだろう。
それでもティナに心配をかけるわけにはいかないので、深呼吸をして背筋を伸ばしてから口を開いた。
「全然大丈夫だぜ、何つうかある意味モンスターよりも強いものと戦ってたんだけど、もう勝ったから」
「ええっ、そんなことがあったんだ。気づけなくてごめんね」
「ティナが謝ることじゃねえよ。俺たちの問題だ」
「俺たちの……?」
言葉の意味がわからずに首を傾げるティナ。
その姿を見ただけで身体が少し軽くなったような気がしてくる。
「二人が仲良くなってくれて、私も嬉しいですわ」
ロザリアは俺の言葉の真意がわかっているのかいないのか、いつもの上品な笑顔を浮かべながらそう言った。
ティナもその隣でうんうんと頷いている。
まあ親睦が深まったのは事実だし、訂正する必要もないか。
野営セットを片付け終わると、俺は死にそうなラッドを置き去りにしてすたすたと歩き、みんなの前に出てから振り返った。
「それじゃあ急ぐか。今日中には着きたいしな」
「うんっ」「ですわね」
「…………」
そうして気持ち昨日よりも足早にトチュウノ町を目指して歩き始めた。
道中何度かモンスターに遭遇するも、昨日のドクドクキノコ事件がよっぽど堪えたのかティナはものすごく慎重にモンスターと戦っている。
またもドクドクキノコに遭遇した時のこと。
「えいっ!」
ティナははがねのつるぎを振り下ろしてダメージを与えると、バックステップを踏んで少し様子を見た。
最初にはがねのつるぎを振り下ろす前も慎重に、相手がどんな行動をしてくるのか窺いながらという感じだ。
ステータスだけじゃなくて、こういった戦闘技術的な面でもティナは日々成長している。ティナは色んな意味で最強であり最高なのだ。
「やあっ!」
俺の心の賞賛の声を浴びながらティナは相手の攻撃を待ち、それを盾でしっかりと受け止めてから反撃に転じた。
はがねのつるぎを受けたドクドクキノコの身体は光の粒子へと変化し、風に溶けていく。
それを見ると剣と盾を構えていた両腕から力を抜き、盾を通した腕の拳を小さく握ってガッツポーズを取るティナ。
前は「見た見た!?」とか「やった~!」とかやってたのに少しだけ寂しい。
ミツメ周辺に比べれば随分と起伏に富んだ大地の中を歩いていると、やがて遠くに町が見えてきた。
俺はいつ死んでもおかしくないラッドの方を振り返って呼びかけてみる。
「おいラッド、あと少しだから根性見せろよ。あれがトチュウノ町なんだろ」
「うむ……というかどうして君はそんなに元気なんだい……」
いつものラッドなら「ふっ、そう。あれが愛と勇気の町、トチュウノだ!」とか言い出しそうなもんなのに、どうやら本当に限界が近いらしい。
「おいロザリア、こいつに何か励ましの言葉をかけてやってくれ」
「えっ。もうジン君ったら、二人がいる前でそんな恥ずかしいことできませんわ」
俺がふると、ロザリアは薄く朱に染まる頬に両手を当ててそんなことを言い出した。何が恥ずかしいのか全然わからん。
「あはは、ロザリアちゃん可愛い~」
そう言って笑うティナの方が……ってのはベタ過ぎてだめだな。うん。
結局のところ放置されているラッドを少し気にしながら歩いていると、やがてトチュウノ町に到着した。
この時点で時間帯としてはすでに昼過ぎ。街中には早めに仕事を切り上げた冒険者もちらほら見られる。
まだ日が暮れるまで時間はあるものの、ひとまず宿を確保することにした。
そんなにのんびりしているわけにもいかないけど、かと言って急がないといけない理由もない。
俺たちは二、三日ほどこの町で過ごす予定を立てている。
宿を探して街中を歩いていると、ボロ過ぎず高級過ぎずなどこかで見たことのあるような店が目についた。
俺はラッドとロザリアの方を振り返って尋ねる。
「この店でもいいか?」
「構いませんわ」「もうどこでもいい……」
返事を聞いてからティナと目を合わせて頷くと、扉を開けて中へ。
カウンターの方にはやはりあの人、いやあの人たちの姉がいた。
「いらっしゃいませ」
「お姉さん、こんにちは。ジンです」
「あら、お茶へのお誘いかしら」
「へ~ジン君ってそういう人だったんだ」
あまり聞いたことのない若干低い声に振り向くと、ティナが半目でこちらを睨みつけてきていた。
「いやいやティナだってわかってるだろ。そりゃあ間違えていきなり知ってる人みたいに振る舞ったのは俺のミスだけどさ」
ティナの表情に動揺してどこか言い訳がましくなってしまう。
するとティナは少しの間を置いてからいつもの顔に戻ってぷっと吹き出した。
「ふふっ、わかってる。冗談だよ」
お、おお……何かいいな今の。もう一回やって欲しい。
気を取り直してお姉さんに事情を説明した。
俺たちがミツメやツギノ町の宿屋で働いている自分の姉妹の知り合いだとわかると、お姉さんはにっこりと微笑んで、
「ようこそ旅人の宿屋へ。今日はこちらにお泊りかしら?」
そういつもの台詞を言ってくれたのだった。
とりあえずはラッドの体力を回復させるのが急務なので、全員それぞれの部屋で思い思いに過ごすことに。
ベッドに寝転んでごろごろしていると、何とエアから通信が入った。
(聞こえるか)
(エアか? すげえな、後からついて来てたのか?)
(まあそんなところだ)
(なるほどな)
今まであまり気にしていなかったけど、こいつ徒歩でついて来てたのか。
よくよく考えれば俺たちを監視するという役目を負っているんだから、エアはダンサーズの転移魔法や天界のワープゲートは使えない。
常に俺たちを「マップ」の射程距離内に収めていなければいけないからだ。
つまりエアさんお疲れ様ですということだ。本当にお疲れ様です。
心の中で労いの言葉を述べていると、エアはさっさと本題に入った。
(お前に伝えるべきことがあってな。伝説の武器の入手はグランドクエストになっているそうだ)
(なに? ってことは、今回俺は手出しができねえのか)
(いや。伝説の武器は迷宮の守護者に守られていてな、その戦闘でティナをサポートする分にはある程度なら問題ないそうだ)
(迷宮の守護者?)
(その辺りはエルフの里につけば担当のエルフから説明があるだろう。俺から先に聞くより、それをティナと一緒に聞いた方がいいと思うのだが)
(そうだな、そっちの方が楽しい)
(ああ。今回の連絡はそれだけだ、うまくやれよ)
(おう。ありがとな)
そこで通信は途切れた。もう一度お疲れ様ですと心の中で労う。
さて、ティナのところに遊びに行こうかとも思ったけど、俺も疲れてるし寝ておくことにしよう。
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