第15話 10月29日(3)
「……。……。……。……」
煙で、視界が曇っている。
「……。……ん」
あたしはふらりと起き上がる。
「んん……」
頭を押さえる。
「……ん?」
手が濡れる。見る。赤く染まっている。
「……」
頭が切れているようだ。
(……最悪……)
周りを見る。煙で何も見えない。
「メニー」
掠れた声を出す。
「メニー」
誰もいない。
「メニー」
足を掴まれる。
「っ」
振り向く。
「あ」
あたしの足から手を離した。
「ごめん。ニコラ」
ぼろぼろのアリスがあたしを見た。
「やだ。切れてるわよ」
アリスが泥で汚れたエプロンのポケットからキッドが描かれたハンカチを取り出し、あたしの額に押し当てた。
「大丈夫?」
「……痛い」
「他に痛いところは?」
「体中痛い」
「腕はもげてない? 足は折れてない?」
「どうかしら。分からない」
「私が見た感じ、おでこが切れてるだけよ」
アリスが微笑む。
「私はどう?」
「……ぼろぼろ」
「そうね。吹き飛ばされたから」
アリスが煙の中、笑みを浮かべたままあたしの顔を覗く。
「すごい風だったわね。すごい音だった」
「ん」
「ニコラがいて良かった」
アリスがハンカチをあたしの額から離す。雨があたし達に当たる。
「ここどこだろう」
「……分からない」
ぼうっとする。
「ニコラ、手、繋ごう」
「ん」
手を繋ぐ。
「すごい爆発だった。皆、大丈夫かしら」
「アリス、なんで笑ってるの?」
「え?」
アリスがきょとんとする。
「私、笑ってる?」
「すごい笑ってる」
「ごめんなさい。無意識よ」
アリスが肩をすくめた。
「パニックになると笑っちゃうのよ。口角が上がるの」
「……」
「ごめんね。これも癖よ。悪気はないの。……本当に」
アリスが口角を下げてあたしを見つめる。
「ニコラ」
「何?」
「……私、すごく怖い」
「ええ」
「ほらね、悪夢の方が怖くない。だって、夢だもん」
「……そうね」
「これは現実なんだって」
「そうよ」
「衝動が起こりそう」
「アリス」
「怖い」
アリスが周りを見る。
「でも、ニコラがいるから簡単にいけないわ」
アリスが立ち上がる。あたしの腕を引っ張る。
「ここから出ましょう。この煙の中は危ない気がする」
霧のような煙が景色を覆う。どこに何があるのか分からない。ボロボロになったあたしとアリスに雨が当たる。雨は降り続く。アリスがため息をついた。
「もう、こんな時に雨なんて最悪」
「慎重に行きましょう。また、どこかが爆発するかも」
「賛成。行こう。ニコラ」
アリスが歩き出す。あたしは少し足を引きずらせて歩く。アリスがふと、何かを見つける。
「あ、待って、ニコラ。それ取って」
「ん? どれ?」
「それ」
アリスが指を差す。何屋の建物だろうか。丸出しのナイフが置いてある。
「こういう時に不審者が現れるのよ」
アリスがあたしに微笑む。
「私が持つわ。取って」
あたしはナイフを取る。握り締める。
「……あたしが持ってる」
「駄目」
「なんで」
「危ないから」
アリスが手を差し出す。
「年上の私が持つわ。ほら、貸して」
聞こうとしないのを見て、大人しくアリスに渡す。
「ありがとう」
アリスがナイフを片手に歩き出す。
「大丈夫よ。別に刺して、ニコラのお刺身なんて作ったりしないから」
「……」
「笑えなかった? ……笑ってほしかったな」
アリスが凶器を持って歩く。
「大丈夫。すぐにここから出られるわ」
アリスが静かに雨が降る外を歩く。
「皆、きっと逃げたのね。人の気配を感じないもの。……奥さんも社長も大丈夫かしら」
アリスがあたしの手を引っ張る。
「カリンさん、……見た? 足、酷かったわね」
アリスが声を震わせる。あたしの手を握りしめる。
「……ジョージさん、……大丈夫かしら……」
アリスが涙を浮かべる。あたしの手を強く握る。
「姉さんと父さんも……っ……無事だといいんだけど……」
アリスが涙を落とす。あたしと一緒に歩く。
「ダイアン兄さん、今日、イルミネーションの最後の仕上げって言ってたの。病み上がりなのに……」
アリスが鼻をすする。凶器を揺らす。
「でも、爆発したわよね。イルミネーション、おっきく……爆発した……」
アリスがゆっくり歩く。あたしと歩く。
「ねえ、ニコラ、大丈夫よね? ……ダイアン兄さん、……大丈夫よね……?」
アリスが本気で心配する。凶器はただのナイフとなる。
「……見えない……。……周りが見えない……。……ここ……どこ……?」
アリスが涙をこぼす。あたしの手を握る。
「……ニコラ……」
「……大丈夫」
アリスの手を強く握り返す。
「歩けば道は抜けられるものよ」
「そうよね。……うん。そうよね……」
アリスが涙を拭く。
「大丈夫。大丈夫」
アリスがリボンを揺らす。
「いこうと思えば、いつだっていける」
アリスが足を動かす。
「大丈夫。ニコラを連れていったりしないから」
アリスがナイフを揺らす。
「……ニコラだけでも助けなきゃ」
アリスが鼻をすすると、
「アリス!!!!!」
声がアリスを呼んだ。アリスがはっとする。
「兄さん?」
アリスが周りを見た。
「ダイアン兄さん?」
「アリス!!」
遠くに影が見える。煙の向こうから必死な顔をしてダイアンが駆けてきた。アリスが目を丸くさせる。
「兄さん……?」
「アリス! 無事だったか!」
「兄さんなの……?」
「ああ! そうだよ! 探しに来たんだ!」
「兄さん……、ああ、兄さん! 無事だったのね! ダイアン兄さん!」
アリスが感極まって涙を流す。そのまま、ダイアンに駆け出そうとして、
――その手を、あたしが引っ張った。
「……」
アリスがきょとんとして、動かないあたしに振り向く。アリスが涙を浮かべながら、ふふっ、と嬉しそうに微笑む。
「ニコラ、ダイアン兄さんよ。もう大丈夫」
あたしは目を凝らして、綺麗な作業服のダイアンを見る。
「良かった! ニコラちゃんもいるのか!」
ダイアンが笑って走ってくる。細かい瓦礫が、ダイアンの前に落ちた。
「うわっ!」
「兄さん!」
ダイアンが立ち止まる。瓦礫がちょっとした隔てになる。ダイアンが瓦礫の向こうから叫んだ。
「アリス! 大丈夫か!」
「大丈夫! ニコラも無事よ!」
あたしの記憶が頼りだ。
ここにはキノコはない。
あたしは思い出す。
一度目の世界を思い出す。
「二人とも、じっとしてろ!!」
爆発した街。
ぼろぼろになった広場。
城下町。
リオンが現れる前を思い出す。
あたしは集中する。
馬車で見る。窓から見る。人が倒れていた。人が死んでいた。ナイフに刺されて死んでいた。爆発に巻き込まれて死んでいた。瓦礫の下敷きになって死んでいた。ナイフに刺されていた。血が流れた。赤い景色。ぼろぼろの町。全てはアリーチェ・ラビッツ・クロックの仕業だと言われた。
今、あたしは見た。ダイアンの作業服を見た。とても綺麗な、土も泥もついていない作業服を。
「今、行くからな! 待ってろ!」
「兄さん、慎重に……!」
そもそも、なぜアリスは捕まったんだろう。どうしてアリスだったんだろう。
「少し時間がかかりそうだ! いいか! 二人とも、動くなよ!」
「うん!」
アリスは、昨日、何の買い物をしていたんだろう。
(見た)
ガットは拾わなかった。
(あれは)
袋だった。
(粉だった)
なんだっけ。
こう書いてなかったっけ?
『powder』
違う。
その前。全部の文字。
『gunpowder』
火薬。
ガットは空のバスケットだけを拾った。
火薬なんて危ないじゃない。
誰が買った。
アリスが買った。
なぜ買った。
理由がある。
『お使い』に行ったのだ。
「……」
ダイアンが瓦礫を上ってくる。アリスが待つ。あたしは見る。ダイアンを見る。ダイアンの肌を見る。肩を見る。ダイアンの服の中で、もぞもぞと動く筋肉を見る。一瞬だけ、膨らんで動いた筋肉を見た。その筋肉の動きには、どこかで見覚えがあった。
誘拐事件の紳士。
通り魔。
暴走したリトルルビィ。
凍り付いたニクスの父親。
飴を舐めたソフィア。
鬼のリオン。
呪いの飴。
「アリス」
あたしはアリスの手を引っ張る。
「駄目」
「え」
あたしはアリスの手を引っ張る。
「駄目!」
「え」
あたしはアリスを思いきり引っ張った。
「駄目!!」
「え?」
息を吸って、叫んだ。
「走って!!」
あたしはアリスの手を握って引っ張った。
「え」
アリスが引っ張られる。ダイアンが下りてきた。
「ニコラッ」
あたしは走る。全力で走る。
「ニコラ、ちょっと」
アリスは走る。あたしに引っ張られて走る。
「ちょっと、二人とも!」
ダイアンが走る。
「危ないよ! 一緒に行こう!」
「ニコラ、兄さんが」
あたしはアリスを引っ張って走る。
「ニコラ、どうしたの!?」
アリスが引っ張られる。あたしは走る。
「ニコラってば!」
「ドロシー!!」
あたしは叫ぶ。構わず叫ぶ。
「ドロシー!! どこなの!! ドロシー!!」
あたしは走る。叫ぶ。煙の中、走って、悲鳴をあげる。
「助けて!! ドロシー!! 助けて!! 助けて!!」
あたしは青ざめて叫ぶ。アリスを引っ張る。
「助けて!! 助けて!! 助けて!! 助けて!! 助けて!! 助けて!! 助けて!!」
あたしは逃げる。アリスと逃げる。
「ドロシィィィイイイイイイイイイ!!」
――目の前に、リンゴが転がった。
「っ」
その瞬間だけ、時がゆっくりになった気がした。あたしの視線が林檎を見る。前に顔を向く。
一筋の緑の光が見えた。
「っ」
時が動き出す。あたしの足がブレーキをかけ、水が溜まった道を滑りながら、道を曲がった。そのまま走り出す。緑の光を追う。
「ニコラ!」
アリスがあたしを呼ぶ。あたしはアリスを引っ張る。全力で走る。
「ニコラ、どこに……!」
あたしは走る。必死に走る。緑の光が導く。
「あれ、ニコラ、あっちに、明かりが……」
アリスが呟く。あたしは息を切らして走る。緑の光に向かって走る。雨が降る。髪が濡れる。あたしは走る。アリスを引っ張る。腕を振る。建物の間から抜ける。
煙から抜け出す。
町の中心の広場に、大勢の人々が避難していた。
「ニコラ!!」
座っていた奥さんが叫んだ。
「アリス!!」
サガンが叫んだ。
「テリー! アリス!!」
リトルルビィが叫んだ。
「お姉ちゃん!」
メニーが叫んだ。
「アリス!」
あたしは叫んだ。
「行って!!」
「え」
あたしはアリスの腕を振り投げた。
「きゃあっ!!」
アリスが投げ出された。アリスが濡れた地面に転がった。あたしは走った。走った、けれど、一歩踏んだところで、足首を掴まれた。
「っ」
地面に転ぶ。
「っ」
濡れた地面に倒れる。顎が柔らかくなった土にぶつかる。アリスがあたしに振り向き、その一瞬で、息を吸い、何かを見て、言葉を失った。
「っ」
「うわああああああああああああああ!!」
誰かが悲鳴をあげた。
「あれはなんだ!?」
あたしの後ろにいる何かを見て、人々がざわめいた。奥さんが眉をひそめた。社長が目を見開いた。サガンの顔が強張った。商店街の人々が後ずさった。
「ばけものだ!!」
あたしは振り向く。足を見る。ぶくぶくと揺れ動く皮膚があたしの足首を掴んでいる。あたしは見上げる。その皮膚を辿る。皮膚がぷっくり膨らんだ、風船のようなダイアンを見る。
「……兄さん……?」
アリスが呆然と呟く。あたしの体が引きずられる。
「あ」
あたしは掴むところを探す。
「あ」
何もない。
「や」
あたしは後ろに引きずられる。
「や」
迷わずアリスが起き上がった。腕を伸ばし、濡れるあたしの手を握った。あたしもアリスの手を握った。アリスの手が強まる。あたしをしっかり掴む。
「アリス」
「んっ」
アリスが片手でナイフを投げた。
「ん!」
アリスが膨らんだ皮膚にめがけて、ナイフを飛ばす。しかし、見た目よりも皮膚が硬く、簡単にナイフが弾き飛ばされた。
「……」
アリスが黙って、あたしの手を握って、引っ張った。
「アリス」
「ん」
アリスが引っ張った。けれど、あたしは後ろに引っ張られる。
「アリス」
「誰か」
堪えるアリスが呟いた。
「手伝って」
リトルルビィが走ってきた。あたしの手首を掴んだ。
「手伝って」
サガンが走ってきた。あたしの腕を掴んだ。
「手伝って」
社長が走ってきた。あたしの体を抱き上げた。
「手伝って」
メニーが走ってきた。あたしの手を掴む。
「てつだ」
アリスが言う前に、あたしの足がダイアンに引っ張られる。皆が引きずられる。
「んっ」
大勢が押さえ、あたしを引っ張る。しかし、後ろに引っ張られる。
「駄目」
アリスが呟く。
「んん」
アリスが唸った。
「駄目」
アリスがあたしを引っ張った。
「ニコラ、取らないで」
アリスが呟いた。
「私の親友、取らないで」
アリスが呟いた。
「やめて、兄さん」
アリスが言った。
「やめて、兄さん!」
アリスが叫んだ。
「離してよ!!!!」
ダイアンがあたしを引っ張った。皆の手が簡単に離れた。引き剥がされた。あたしは地面に倒れた。そのまま勢いよく後ろに引きずられた。土と泥があたしにつく。土が小指に溜まって、王冠の指輪が取れた。指輪がどこかに転がった。引っ張られる。ダイアンがあたしを引きずる。足元に来たあたしの体を抱き上げ、無理矢理地面に座らせた。
「くく」
ダイアンが笑った。
「ぐぐぐぐぐぐぐ」
ダイアンだったものが笑った。
「げげげげげげけけけけけげげげけけけけけ」
呪われたダイアンが笑った。
「よおおおおおおおおおおおおく聞けえええええええええええええ!!!!!」
目をきらきら輝かせたダイアンが叫んだ。
「この町は、既に俺がいただいた!!」
ダイアンがハイテンションで叫んだ。
「俺がジャックした!!」
ぞっとした目で皆がダイアンを見た。
「俺のものだ!!!!!!」
ダイアンが胸を張った。
「この町は、城下町は、この商店街は、この広場は、俺のものだ! 誰の指図も受けないぞ!」
ダイアンが笑った。
「ぐぐふうううう! ふうううう!! 俺のものだああああああ!!」
ダイアンが喜んだ。
「やった! やった! 万歳! 万歳!!」
子供のように喜んだ。
「なあなあ、ニコラちゃん、俺の話を聞いてくれるかい?」
ダイアンがあたしの頬に、頬をこすりつけた。
「酷い話だぜ! ああ! 全く酷い話だぜ!!」
ダイアンは年齢を重ねて、大人になった。カトレアに恋をした。
「恋をしたら、人は結婚するんだ! ……でもさあ、結婚したその先にはどんな未来が待ってると思う?」
俺は不安だぜ!
とってもとっても不安だぜ!!
「遊び足りない!!」
「冒険がまだ待ってるんだ!!」
「悪いな! カトレア! 愛してるよ!!」
でもさあ、まだまだ出来ることがあると思うんだ!! 俺は冒険がしたいんだ!! もっと色んなものを見たいんだ! この先ももっともっと楽しんで夢を追いかけて行きたい!
でも、カトレアのことも愛してる!!
でもでも! 夢も! 追いかけたい!!
大冒険がしたいんだ!!
そんなことを思ってる時に、現れたってのさ!!
「この飴を舐めなさい」
最高の救世主が現れたってのさ!
「幸せになれるでしょう」
最高の救世主が俺を助けたのさ!
「きっと、素晴らしい答えが見つかるでしょう」
俺は飴を舐めた。幸せになった。もっと幸せになるために、どうしたらいいか考えてたら、頭の中で、ひらめいたのさ!
「そうだ。街を破壊しよう。自分にしか出来ない、イルミネーションの爆弾を作ろう」
どんどんどんどん爆発するだろ?
ばんばんばんばん爆発するだろ?
「皆に見てもらおう」
最高の爆発を。
「最高の大冒険だ」
最高の破壊を。
「でもさあ、俺はカトレアと結婚したいんだよ」
カトレア、愛してるよ!!
「俺がこんなすごいイベントを街で起こしたなんて知られたら、いかれた奴らに牢屋にぶちこまれちまう!」
ああ、そうだ! ちょうどいい捨て駒がいた!!
「アリスがきちんとお使いしてくれたら、指紋も残せたのに」
アリスが目を見開いた。
「一ヶ月かけて爆弾の材料を買った証拠も残せたのに」
アリスが呆然とした。
「最後の仕上げだったのに」
ダイアンがアリスを睨んだ。
「役立たず」
ダイアンが言った。
「役立たずの死にたがり」
ダイアンがあたしの肩を掴んだ。
「合流して、この子を殺して、俺が逃げて、この事件を全部、アリスのせいに出来たのに!!」
あああああああああああああ!! 残念!! 姿を見られてしまった!! 残念残念残念だ!!
「でも冒険には危険はつきものだ! こうでなくっちゃ!!」
ダイアンが興奮したように笑った。
「さあさあ! この中で俺に立ち向かう悪い奴は出てこい! 俺がぶっ殺してやる!」
「……ダイアン……」
サガンが顔を引き攣らせ、ダイアンを見つめる。
「お前、気が触れたのか……?」
「お前か! 勇者の前に立ち向かう魔王の手先はお前か!」
「ダイアン、落ち着け。一体さっきから、お前は何の話をしてるんだ? その子は、お前の恋人の、大切な妹の友人だぞ?」
「俺は勇者だ! ずっと憧れていた勇者だ! 冒険する勇者だ!」
周りの皆は魔王の手先、勇者の俺がぶっ殺してやる!
「男の憧れだ!」
勇者はきらきら目を光らせる。
「ぶっ殺してやる!」
サガンが後ずさった。人々が怯える。一歩下がる。リトルルビィが硬直する。メニーが呆然とする。アリスが呆然とする。皆がパニックになる。頭が白くなる。ダイアンは皆を見て、笑う。
「来ないのか!? 誰も来ないのか!? 恐れをなしてこないのか!?」
よーし! じゃあ魔王をぶっ殺すぞ!
「俺の計画の邪魔をした魔王をぶっ殺すぞ」
「え」
ダイアンがあたしの腕を掴んだ。
「え」
あたしの腕を捻った。
「え」
あたしの腕をもいだ。
「っ」
痛い。
あたしが目を見開くと、もう片方の腕が潰された。
「っ」
痛い。
あたしが息を吸うと、ダイアンがあたしの足をとんがった皮膚で刺した。
「っ」
痛い。
あたしが声を出そうとすると、ダイアンがあたしの足を折った。
「っ」
待って、痛い。
あたしの手足を取る。
「あ」
あたしの両足をもぎ取る。
「っ」
痛い。
痛い。
痛い。
あたしの体から血が飛び出た。
「はははははははははは!!!!」
ダイアンがあたしを切り裂く。
「あはははははは! 楽しいな! 冒険楽しいな!!」
あたしを切り裂く。赤にまみれる。痛い。
「ははははははは! 楽しいな! 魔王を倒すぞ!!」
あたしを切り裂く。あたしは白目を剥く。痛みが引かない。
「ははははははははは!! はははははははは!!」
笑う。笑う。笑う。元凶が笑う。痛い。
「あははははははははは!! はははははははは!!」
笑う。笑う。笑う。占拠される。痛みにジャックされる。
「あははははははははは!! はははははははは!!」
あたしの体が痙攣する。血が飛び出す。痛い。痛い。痛い。
「はは」
アリスが笑う。
「ははははは」
アリスが笑う。
「ニコラが死んじゃう」
アリスが笑った。
「あはは、大変だ。あはは」
ダイアンが笑う。
「あははははははははは!!」
アリスが笑う。
「あははははははははは」
赤に染まっていく。
「あははははははははは!!」
赤に染まる。
「あははははははははは!!」
赤。
「あははははははははは!!」
赤しか見えない。
「はははははははは」
赤が、溢れる。
痛い。助けて。声は届かない。
誰も助けに来ない。
痛い、助けて。助けて。
あははははははははは!!
助けて。
あははははははははは!!
助けて。
あはははははははははははははははははは!!
助けて。
あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!
誰か、あたしを助けて。
ぎゃはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!
誰も来ない。
赤に染まる。
あたしが、赤に染まる。
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