第19話 10月14日(1)


 10時。エターナル・ティー・パーティー。



 昨日言われた通り、アリスの家に再び訪問する。


「待ってたわよ! ニコラ!」


 アリスが赤いドレスと白いエプロンを身にまとって、待ち構えていた。


「どうしたの?」

「ふふふ! おいで!」


 アリスが扉を開けて、あたしを中に入れる。

 この時間だというのに、店の中には既に何人か客が帽子を選んでいた。


「ごめんね。早くから」

「大丈夫」

「すぐに終わるわ。ああ、でも、ニコラさえ良ければ、紅茶でも飲んでゆっくりして……」


 アリスがあたしを見ながら歩き、前にいた客にぶつかる。


「きゃっ!」

「……おや?」


 紫のしましまのスーツを着た紳士が、ぶつかったアリスを見下ろし、アリスだと認識すると、にんまりと微笑んだ。


「これは、アリスじゃないか」

「げっ」


 見上げたアリスが、見るからに嫌そうに顔を歪めた。紳士がくすっと笑う。


「アリス、会えて嬉しいよ。ちょうどあんたがいないか、カトレアに訊こうと思っていたんだ」

「……ガットさん、私は今忙しいんです。お友達と部屋で大事な話をしないと」

「お友達……」


 ガットと呼ばれた紳士があたしを見て、にこりと微笑む。


「初めまして。レディ」

「どうも」

「ニコラ」


 アリスがあたしに耳打ちした。


「この人よ。前に言った人。私をとんでもなくからかってくる人」

「……ああ」


 三月の兎喫茶で、そんなことを言っていた気がする。


(本当だ。確かに、ずっとアリスを見てにやにやしてる……)


 ただ、スーツの生地を見る限り、どこかの富豪っぽいけど。


「アリス、少しでいいんだ。良かったら俺の帽子を選んでくれないかい?」

「……またですか?」

「あんたはセンスがいいからねえ」


 さあ、選んでおくれ。


 アリスがちらっとあたしを見た。あたしは頷く。


「先輩、良い接客見せて」

「……ぐぅ」


 アリスが唸り、うんざりしたようにガットの元へ近づく。腕を組み、にやにや自分を見てくるガットを見上げた。


「今日はどんなものをお探しですか?」

「そうだな。偉さがわかるようなものがいい」

「偉さ? だったらシルクハットとかいかがですか? 父さんのシルクハットは高級感満載。とってもいい出来ですわ」

「そのシルクハットに白い兎はついてるかい?」

「白い兎? そんなものついてませんけど」

「何がついてないって?」

「白い兎です」

「白い兎? はて? 何のことかな?」

「え?」

「え?」

「何ですか?」

「何が?」

「ちょっと、ガットさん! 嫌だなあ。もう」


 アリスが腕を組んだまま、むくれてぷいっとそっぽを向くと、ガットがくすくすと笑いだす。


「だからね、俺だったら、喋る白い兎を追いかけても取れない、偉さの違う帽子を求めるよ」


 だから本日は、


「こいつをいただこうかな」


 変わった生地で出来たシルクハットを手に取り、会計カウンターにいるアリスの父親のマッドの元へ、ガットが向かう。


「今日もアリスに選んでいただきました。あの子は実にセンスがいい」

「へえ。今日もありがとうございます」

「また頼むよ。アリス」


 くすっと笑うガットに、ぷうううう! とアリスがむくれて、あたしに振り向く。


「早く行きましょう! ニコラ! 私は、今! すごく! むかついてる!」


 むかついてる、と聞いたガットが、アリスに振り向く。


「むかついてるなんて、鉄分が足りてない証拠だ。アリス、鉄分って知ってるかい?」

「鉄分くらい知ってます!」

「何を知ってるって?」

「鉄分!」

「鉄分の何を知ってるって?」

「だから、鉄分……」

「鉄分って何のことだい?」

「え……?」

「え?」

「……ニコラ、鉄分って何?」

「栄養」


 答えると、アリスの目がぱっと輝き、ガットに振り向いた。


「栄養です!」

「んくくくくっ! また来るよ。アリス。あんたは面白いから好きなんだ」

「私は結構です!」

「これ、アリス!」


 マッドに叱られ、ガットに笑われ、むうううううっと更に頬を膨らませたアリスが、あたしの手を握って引っ張った。


「あー、嫌になる! 何なのよ! ニコラもそう思うでしょ!?」

「愛されてる証拠じゃない?」

「皆、私をからかって楽しんでるんだわ! ああ、もう嫌になる!」


 ぷんぷんしながら階段を上る。

 上り終わると、昨日見た廊下に進み、手前から二番目のアリスの部屋に入る。


「入って、ニコラ」

「ん」


 中に入ると、机の上が掃除する前に戻っていた。


「こらーー! アリスーーーー!」

「ぎゃっ!」

「机の上が元に戻ってるべさーーーー!!」

「だ、大丈夫よ! ニコラ!」


 アリスがお菓子の袋を捨てて、乱れたノートを拾い集め、ぱぱぱっと片付ける。


「ほらね! 昨日と同じ! ふふ!」

「……整理整頓は大事よ。アリス」

「ね。こう見ると本当にすごい。机ってこんなにスペースあったんだ……」


 アリスが呟き、クローゼットに歩く。扉を開いて、中から普段着ているようなピナフォアドレスを三着、ベッドに置く。


「さあ、ニコラ」


 アリスが微笑んで、あたしに振り向く。


「着てみて」

「ん?」

「もしも着れたら、私のお下がりだけど、これ、あげるわ」


 瞬き三回。


(えっ)


 ピナフォアドレスを見て、ドレスを見て、ドレスを見て、『ドレス』を見て、目を輝かせ、ごくりと生唾を飲み、一歩前に出る。


「でも、そんな」

「遠慮は不要よ! ニコラさえ良ければ、だけど」

「でも、悪いわ。アリス」


 ああ、足が勝手に動く。


「私はもう着ないから、どうせならニコラに着てほしいの。私のお下がりなら、ドリーム・キャンディで着て汚したって、問題ないでしょ?」

「そ、そんな……」


 あたしはよだれを拭って、また一歩進む。


「でも、アリスの着る服が、なくなっちゃうかも……!」

「ふふっ! ニコラったら。昨日見たじゃない。ドレスならいっぱいあるから大丈夫!」

「そ、そうなの?」

「ええ! だから」


 アリスが微笑んだ。


「このドレスはニコラが着ていいのよ!」

「……に、」


 あたしはごくりと、生唾を飲む。


「似合わない……かも……」

「そういうことは着てみてから言うの!」

「で、でも……」

「いいから!」

「ん、ん……」


 お下がりのドレスなんて、普段は着ないんだけど、貰わないんだけど、そんなはしたない真似、このテリーはしないわ。しないけど、今は、ニコラだもの。


(ドレス……! ドレス……!!)


 あーー。たいへーーん。おててが勝手にドレスを掴むわーー。


「こ、このドレスから、着てみていい?」

「ええ! 着てみて!」

「ん!!」


 青緑色のピナフォアドレスを着てみる。

 サイズには問題ない。少し胸の辺りががばがばだけど。


(……チッ)


 内心、舌打ち。


「あら、似合うじゃない!」


 アリスが微笑み、もう一着を手に取る。


「これは?」

「ん!!」


 次は薄い淡栗色のピナフォアドレスを着てみる。少しだけリトルルビィの髪の毛の色を思い出す。


「あら! これも似合うじゃない! ニコラ!」

「そ、そうかな……」

「素敵よ!」


 で、でへへ……。


 アリスがもう一着を手に取る。


「さて、こいつはどうかしら?」

「ん!!」


 薄い淡栗色のピナフォアドレスを脱いで、フリルがついた、少し濁ったような桃色のピナフォアドレスを着てみる。白いエプロンもつける。


「あら、これ、ニコラの髪の色と合うんじゃない?」

「……そうね。合ってるかも」

「ね、おさげ解いてみて」

「……おさげ?」


 三つ編みを外してみる。髪の毛がたらんと垂れる。アリスがあたしの髪の毛にブラシを通した。


「痛かったらごめんね。ニコラ」

「平気」


 あ、痛い。ブラシに髪の毛が引っかかる。


「ニコラの髪の毛ってさらさらね! 羨ましいわ!」

「……アリスもさらさらよ」

「嘘つき。ごわごわじゃない」

「さらさらよ」

「ふふっ。ありがとう。……ニコラ、こっち向いて」

「ん」

「ふふっ」


 アリスが桃色のリボンカチューシャをあたしにつける。


「わあ、素敵」


 アリスが微笑んだ。


「ほら、ニコラ、鏡見てみて」


 アリスに促されて鏡を見てみる。ピナフォアドレスを着るあたしがいる。


(あら。あたし、超可愛い)


 ピナフォアドレスってあまり着たことないのよね。8歳くらいまで着てたけど、子供っぽくて、そこからはあまり。


(でも、あたし、流石だわ。超可愛い。最高にべりーぐっどよ。どんなドレスでも着こなしてしまうなんて、ああ、これぞ才能だわ)

(今のあたしは)

(まるで)

(不思議の国の夢見る少女)


「それもあげるわ。カチューシャも沢山持ってるから」

「……いいの?」

「ニコラ、リボンが解けてる。こっち来て」


 アリスにリボンを結んでもらう。


「はい、可愛い」


 アリスが笑う。


「これでデートにも困らないわよ。ふふっ! 今度の三連休どこか出かけるの?」

「……あー」


 考えてなかった。


「部屋でごろごろしてると思う」

「駄目よ。ニコラ、若い子はお外で遊ぶか働くかしないと!」

「あたし、何もずっと寝てるわけじゃないのよ。アリス。あたしね、部屋で遊んでるの」

「あ、そっか。メニーとお兄さんがいるものね!」

「……そーなのー。だから家で遊ばないとー」


 視線を逸らして、頷く。


「アリスは?」

「まだ予定ないけど、多分出かけるんじゃないかしら。姉さんにもどこか行こうって言われてるの」

「へえ。いいわね」

「でも、私もニコラと同意見よ。部屋に引きこもって帽子の絵を描いていたいの」

「休みの日くらいはね……」

「部屋にいたいわよね……」

「分かる……」


 ドレスがひらひら。


(……)


 ……もしかして。


「ねえ、アリス」

「ん?」

「……昨日言ってた、キッド様のグッズよりも大切なものって、……ドレスのこと?」

「そうよ」


 アリスが笑う。


「女の子にとって、着るものは大切じゃない! ドレス、とっても似合ってるわよ。ニコラ」

「……ん」

「全然女の子らしくなった。素敵よ」

「……」


 アリスにとって、キッドのグッズは何よりも宝物のはずだ。


(それよりも、あたしにドレスを渡す方が大切だなんて)


 エプロンの裾をぎゅっと握りしめる。


「……ありがとう。アリス」

「とんでもないわ。むしろ、お下がりでごめんね」

「ううん」


 首を振る。


「アリスのお下がり、すごく可愛いから、いっぱい着るわ」

「ふふっ。そう?」

「いっぱい着るから」

「ええ! いっぱい着てね!」


 一度目の世界では、あたしは牢屋に入った。こんな可愛いドレス、着たくても絶対着れなかった。


 この世界では、こんなにも可愛いピナフォアドレスを、アリスがくれた。


「……アリス、……本当にありがとう」

「ちょっと、ニコラったらなんて顔してるの? ふふっ。そんなに喜んでもらえてとっても嬉しいわ。そうだ。リボンもいくつか持って行けば? ほら、これとかどう?」

「リボンはいいわよ。……ちょっと、何するのよ!」

「こーか! これがいいかー!」

「も、アリス! うふふっ!」

「ふふふっ! ほらほら、ニコラを可愛くしちゃうわよ! ふふ!」

「ちょっと、アリス! ふふっ!」


 襲い掛かってくるアリスに笑いながら抵抗する。ああ、大変。アリスに可愛いリボンをつけられてしまった。


「三つ編みだって、リボンをつければ可愛くなるわ」


 リボンがつけられる。


「ほら、もっと可愛くなった」


 アリスが笑う。


「ちょっと遅れたけど、誕生日プレゼント代わり。貰ってくれる?」

「……アリス」

「ん?」

「すごく嬉しい」


 アリスの手を握る。


「……ありがとう」

「ふふっ! 素直なニコラはさらに可愛い!」


 ぎゅっと抱きしめられる。


「親友のニコラが喜んでくれて、私もとっても嬉しいわ!」

「……アリス、大切に着るから」

「汚したって平気よ。どうせ私のお古なんだから」


 私もアリスを抱きしめ返し、背中を撫でる。大切になでなで。アリスがぱっと離れた。


「さ、ニコラ、ドレスを畳んで、バッグに詰めなきゃ!」


 アリスが大きいエコバッグを棚の引き出しから取り出し、見せびらかす。


「これ、キッド殿下の販売グッズ会場のやつ。あげるわ。結構入るのよ」

「……」


(……キッドのイラストが描かれてる……)


 にこりと微笑む。


「……ねえ、アリス、別のバッグはないの? これを見て、嫉妬して怒り出すレディがいたら、あたし殺されてしまうわ」

「大丈夫よ。そういう時は、キッド殿下万歳って言えばお友達になれるから!」


 やったんかい。


「ニコラがそんなに喜ぶなんて思わなかったわ」


 アリスが嬉しそうに微笑む。


「汚したって平気よ。毎日だって着てね」


 アリスがバッグを開き、服を丁寧に入れ始めた。




(*'ω'*)



――中央区域。




(わーーーーーーーーい!)


 ショーウィンドウに映るあたしを見て、スキップして、また見て、スキップして、またまた見て、やっぱりスキップする。桃色のピナフォアドレスに身を包むあたしを見て、うっとりする。


(ドレスだわ! ドレスだわ! るんるん! ドレスだわ!)


 スカートがひらひら。白いエプロンもひらひら。


(はあ! 可愛い! あたし、超可愛い!)


 また通りかかった店の窓に映るあたしを見て、うっとりする。


(あたし、やっぱり何を着ても可愛いわ。うん。最高。素晴らしい女だわ。あたし。本当、罪な女とはこのことよ)


 大絶賛。


(アリスに感謝しないと)


 親友のニコラが喜んでくれて、私もとっても嬉しいわ!


(……でへへ)


 ホップステップジャンピング。


(あたしとアリスは親友)


 親友。友達以上の友達。アリスと親友。


「らんらんらん♪」


 あたしは歌まで歌う。


「らんらんらん♪」


 スキップしてバッグを肩に下げる。


「らんらんらん♪」


 アリスとあたしは親友なの。これは親友の証のドレスなの。


「らんらんらん♪」

「……。……テリー?」

「っ」


 ぴたっと止まる。

 振り向くと、フランスパンが突き出た茶色の紙袋を腕に持つソフィアが、目を見開いてあたしを凝視していた。あたしは黙る。ソフィアとあたしの間に、風が吹いた。


「……」

「……」


 ゆっくりと体を向ける。ソフィアが凝視する。あたしは固唾を呑んだ。


「……」

「……」


 戦慄が走る。


「何よ」


 睨む。


「あたしを引き止めたんだから、それなりの用があったんでしょうね。いいわ」


 腕を組む。


「あたし、今とっても気分がいいから、お前とお喋りしてあげてもよくってよ。ほら、言え。何よ」


 ソフィアが紙袋を地面に落とす。


「あ、袋……」

「テリー」


 ソフィアが近づいてくる。


「え」

「テリー」

「ちょ」

「くすす」

「あの」

「くすすすす」


 一歩二歩三歩四歩五歩下がって、一歩二歩三歩四歩五歩進む。


「ソフィア、袋! ソフィア!」

「くすすすすすすすす!!」

「ひい! 何よ! 何なのよ!」


 両手をにぎっ! と握られ、ぐいっ! と引っ張られ、むぎゅっ! と抱きしめられる。ソフィアの胸に顔を埋められる。


「うぎゅ!」


(な、何よ!? あたしをおっぱいで潰そうっての!?)


 必死にソフィアの胸から抜け出し、何とか顔を上げ、黄金の目を睨む。


「はっ!!」


 あたしは気付いた。


(なんてこと!)


 ソフィアが黙ってあたしを見つめる。その目の奥で、熱く燃えているものがある。


(この女、頭の中でブンブン言ってやがる!!)


 黄金の瞳の奥で、ソフィアが道路でぶんぶん暴走している。後ろからは警察や兵士に追われている。さらば! とっつぁん! 待てー! パストリルー! この妄想の現象の名は、脳内妄想暴走族現象! 略して言えばむっつり野郎!


「……テリー……」


 ソフィアの腕の力が強くなり、再びソフィアの胸に埋められる。


「むぎゅ!」


 ソフィアが黙る。


「……。……。……」


 あたしの呼吸が止まる。


「……。……。……」


 くたりと、あたしの体が脱力した。ソフィアが我に返った。


「……おや、一瞬意識が飛んでいた。……あれ、テリー、私の胸の中で何をしているの?」

「ぶはっ!!」


 あたしはソフィアの豊満な胸から解放される。へなへなと座り込む。


「はあ……はあ……! おっぱいで窒息して死ぬかと思った……!」

「こんにちは。テリー。ご機嫌いかが?」

「ご機嫌もクソもあるか。さようなら」

「ちょっと待った」


 ソフィアに手を掴まれる。振り向いて睨む。


「何よ」

「どうしたの? その恰好」


 ピナフォアドレス。


「珍しいね。君がそんなピナフォアを着るなんて」


 エプロンがふわふわ。リボンがふわふわ。あたしがふわふわ。


「……」


 ソフィアがにこりと微笑んだ。


「あ、そうだ」

「ん」

「テリー、ランチは?」

「……今から帰って取るの」

「そうなんだ。じゃあ、ちょうどいい」


 ソフィアがくすす、と笑った。


「私、今から帰ってランチを作ろうと思ってたんだ。良ければテリーも一緒にどう?」

「……ランチ?」

「うん」


 ソフィアが笑顔で頷く。


「美味しいのを作るよ。どうかな?」

「……」


 ソフィアを睨む。


「……何もしない?」

「何も、って、何のこと?」

「変なことしない?」

「変なこと?」

「くどい。前みたいなことしないでしょうね?」

「……前みたいなことって、何だろう?」


 くすす。


「忘れちゃった」

「けっ!」


 腕を振る。ソフィアの手が離れない。


「離してよ。そういうことするなら帰る」

「一緒に食べようよ」

「嫌」

「くすす」


 ソフィアがあたしの顔を覗いた。


「一緒に食べようよ」


(あ)


 黄金の瞳がきらりと光った。


(うっ!)


 くらりと目眩。ソフィアがあたしの体を支え、持ち上げた。


「大変。大丈夫?」


 子供のように抱っこされる。あたしは上からソフィアを睨む。ソフィアが下からあたしを見上げて、微笑んだ。


「……ね、食べようよ。一緒に」

「……食べるだけよ」

「うん。ご馳走を作るからね。恋しい君」


 ソフィアが満足そうに微笑んで、あたしをぎゅっと抱きしめた。


「んっ」

「さあ、私の部屋に行こうか」

「……ソフィア、その前に、落とした袋を拾わないと……」

「ああ、それなら大丈夫だよ」

「は?」

「あのっ!」


 ソフィアの後ろに、紙袋を持ち、何かの運命を感じている赤面の紳士が立っていた。


「落としましたよ!!」

「ね?」

「……」


(……お前、悪い女ね)


 黄金の目が、にこりと笑った。


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