第391話 最下位に指名権?
ここはイズモにある、とあるシキミラーメン店である。
「ずるずるずるずる」(うまいうまいうまい)
「ずるずる。すごいとは思わないか、アマテラス。このトンコツラーメンという食べ物」
「ずるずるずる、ずるるる」(それはもう、思いますわよ)
「ずるずる。やや太めのまっすぐな麺に、白く濁った深いコクのあるスープ。それに熟成とかいう処理を施したチェーシューという薄切り肉が3枚乗って、イズモ名物の焼き海苔の大判も3枚」
「ずるるるのずずるる、ずずずるるるずる」(焼き海苔だけじゃなくて、トッピングのネギやカマボコも地元のものを使ってるそうですわよ)
「イズモ国に気を使ってくれてるのが分かるな。最初はちょっとスープの獣臭さが気になったが、食べていると慣れてしまうものだな」
「ずるず、ずっずずずずずるる。ずずるんずるるんずるる」(こちらではもともと、食糧難から獣を獲って食べる習慣がありますからね。このぐらいどうってことないですわ)
「お主の返事は全部ラーメンすする音か!」
「ずるずる」
「食べるのに夢中だから、話しかけるな、か。まあ、分からんでもないがな」
「ずるるるるる」
「スセリ、お前もか」
「それにしても、ユウのやつ。よりによってこんなうまいものをイズモ名物に仕立ててくれたのじゃな。驚きもしたが感謝もし……あれ?」
「ずるる?」(どうしました?)
「ずるるる?」(オオクニならサバエ工務店ですわよ?)
「いや、なんかいま申請があったような……。ホッカイ国か。まあいいや承認しとこ、ずるずるずる」
「ずるる、ずるるる!?」(いいんですか、そんな適当で?!)
「ワシも食べるのに忙しいのじゃ、ずずずずるるぅぅぅごくん。ではお代わりをいただこうかの」
「ずるるんずるるん、ずーる、るーるる」(お気持ちは分かります、あ、私もお代わりを)
これがユウコの眷属として、トシ(デブルフ)が承認されたこちら側の顛末である。あとからそのことを知ったユウたちは、こんなことでこれからのニホンは大丈夫だろうかと、しばし悲嘆に暮れたのであった。
しかしいまさらだよな? という結論に達するのにたいして時間はかからなかったという。
「僕の話がそっちのけになっているナ」
「時を戻そう」
「わりと新し目のネタが出てきたヨ」
「うるさいよ。それでだ、ドア……じゃなくてデブルフがユウコの右の二の腕にしがみついていて、見た目がすごくキモいわけだが」
「まるで、ドアラのダッコちゃん人形ヨ」
「俺の隠し文字の意味はいったい……」
「まあ、私的には許容範囲かなって」
「ユウコがそう言うなら、まあいいが」
「「良かねぇのじゃだ!!!」」
とわめくのはサムライふたりである。
「わ、我らの頭領様をけけけけ眷属になど」
「されてたまるものか!」
「いや、もうなっちゃったものはどうしようもなくね?」
「なくね? で済ますつもりか!」
「「つもりだよですよ」」
最近、スクナと俺。息が合うことが多くなったな。
「そんなことになったら!!」
「そうだ、そんなことになったら……」
「「俺たちはどうなるんだ? ソウシ?」」
「自分では考えないのかよ!」
「こいつらはそういう連中ですよ。私は一部始終を見てましたが、デブルフが望んで眷属になられたということですので、私たちがとやかく言うことはできません」
(おい、ソウシまでもうデブルフって呼んでるぞ?)
(ってか、もう様さえつかなくなっているような)
「ただ」
「ただ?」
「これでエゾ家は断絶ということになるかと」
「「ふぁぁぁぁ!?」」
サムライふたりの絶叫である。いきなり主君を失ったのだから、当然の反応であろう。しかも当主自身が望んでのことだけに、救いがない。
「「お給料はどうなるんですか?!」」
うん、そうだよね。それが一番心配だよね?
「ってやかましいわ!! お前らサムライの格好をしているのなら、心身ともにサムライになりやがれ。主君への忠義を貫け」
「「いや、私たち、給料さえもらえればあとはべつにどうなっても」」
「そんなサムライやめてまえ!!」
「ここの兵が、こいつらも含めてあんなに弱かった理由がやっと理解できた」
「ハタ坊まで連れてくる必要はなかったようだなぁ」
「ああ、ここを落とすのに魔王4人、魔人3人というのはあまりに過剰な戦力だったな」
「魔王はそうだが、魔人ってふたりだろ?」
「ん? あたしにユウコ、それにハルミの3人だろ?」
「ああ、ハルミか。そう言われればそうかも知れない」
「私を人間枠から外さないで?!」
「なんにしても過剰戦力は確かだ。もうケリはついたことだし、何人か帰さなきゃ。これから先に必要なのは事後処理だけだろう」
「この章のタイトルを忘れてないかヨ?」
「作者が忘れているからいいんだよ。で、ミノウ。お前は戻らなくていいか?」
「それでいいのかヨ。我はあの石油の井戸をもっと深く掘って、量が貯まったらせーせーをやらないといけないヨ。そのためにまだしばらくここにいるヨ」
「あ、そうか。ミノ国が心配だが、時々帰ればいいか」
「どのみちミノ国でいろいろ調べないといけないし、作ってもらわないといけないものもあるしヨ。だからミノで災害が起きない程度には帰るつもりヨ」
「そうか。じゃ、まかせよう。イズナも同じだな」
「ワシはミノウのお手伝いじゃな」
「じゃ、頼む。それでオウミは俺の送迎部長として残しておきたいので、そのままな」
「了解ノだ」
「ハルミは護衛で必要だし、ミヨシは……もう台所を占領してなんか作ってる? そうか、ご飯を楽しみにしよう。それじゃあとは……」
「あ、あの。ユウ、さん?」
「なんだ、デブルフ?」
「できればでいいんだけどナ」
「なんだ、ユウコの眷属になったらえらく控えめキャラになったな」
「眷属になると主人の記憶の一部が見られるのナ。それで逆らっちゃいけない相手が何人かいるという情報を得ましてナ」
「なるほど。俺はその筆頭というわけか」
「いえ、筆頭はスクナさんで」
「そ、そうか。俺はその次ぐらいか」
「次はミヨシという人で、その後はウエモン、モナカ、ゼンシン、ネコウサ……」
「おい、ユウコ。お前の中で俺はそういう順番なわけだな!? てかネコウサ以下かよ!!」
「いや、あのその、そんなつもりは。だ、だって、ご飯をくれる人がどうしても上位になるのが、エルフの心意気」
「心意気じゃねぇよ! ……お前ネコウサからなんかもらってんのか?」
「うん。ときどきユウご飯とかポテチとか」
「お前にはプライドはないのか。許嫁から外すぞ!」
「あぁん、それだけは勘弁して。はい、おっぱい」
「いつもいつもそんな手に俺が乗るとでもにもにもにもにーー」
「いつもの予定調和だヨ」
「ということで、ユウさんは、アメノミナカヌシノミコト様の次になっておりますナ」
「アマちゃんの存在価値も結構低いなおい!」
「そ、それ、それでですね。ユウさんにお願いがあるのナ」
「ほとんど最下位の俺になんだ」
「そ、そんなに怒らないで欲しいナ。あの、僕の跡取りを指名しないといけないのナ」
「勝手にすればいいだろ? 誰にするんだ?」
「いや、いまの僕ではそれだけの権威も貫禄も心意気もなくて」
「心意気のことは忘れろよ。貫禄がないのは最初から分かってるが、なんだ権威って?」
「次世代頭領の指名権ナ」
「指名権? 頭領は指名すんのか。みんなで話し合って決めるんじゃなくて?」
「エゾ家には前の頭領……つまり僕ナ――が辞職した場合、その場にいた人の中で、序列最下位の人に次の頭領の指名権限が与えられる、という規則があるのナ」
「なんでそんな不思議な規……待て待て。この中で俺が最下位かよ!!」
「「「最下位でしょ?」」」
エゾ家側の連中が声を揃えて言いやがった。俺、シキ研の所長なのに。イズモ国の太守なのに。
「だって、態度がでかいだけでなにもしてないし」
「スクナ殿のようになにかの交渉するわけもなく」
「ハタ坊様のように戦闘に加わるわけでもない」
「いや、それは、その、なんだ。俺は机上の」
「「「最下位でしょ?」」」
「ぐぬぬぬぬぬ」
くっそ。これが話を転がす代償かよ。
「でもそれ、おかしいですよ」
と言ったのはスクナだった。お前だけが俺の味方……。
「どうして最下位の人が次の頭領を指名できるんですか。ソウシさん、説明してもらえるかしら」
俺のことは関係なかった!?
「それを聞いてどうするのですか。あなた方には関係のない話ですよ」
「なんかそこに、この問題だらけのエゾ家の原因があるような気がするんです」
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