第384話 ルーシ国編の参話

 エゾ家は元ホッカイ国の領主である。とはいっても、その支配地域はホッカイ国全体の1/10にも満たなかった。エゾ家は、内陸部の広大な土地にはまったく興味を持たなかったのだ。


 エゾ家が興味があったのは、湾岸沿いの集落だけである。そこではいろいろな海産物が獲れたからである。それらを船でかき集めては、ウスケシで積み替え出荷していたのであった。


 それによって膨大な利益を得ていたエゾ家であったが、さらに金肥作りの技術を確立したことによって、ニホンでも有数の裕福な家となったのである。


 しかしエゾ家はその金を再投資して経済の活性化を図ることもなく、インフラ整備をすることもなく、ただ自分たちが贅沢することに費やしていた。


 それでも初代が存命のころは拡大を続けたウスケシ経済であったが、跡継ぎに人を得ず、家業は衰えつつあった。そこにダメ押しをしそうなのが3代目としてもらった養子のデブである。


「デブで悪かったな! これは食べ物が良すぎるのが悪いんだい」

「摂生しやがれ! この国では食うや食わずの生活をしている人がどれだけいると思ってるんだ」


 怒鳴ったのはカンキチである。


 カンキチはこの国の魔王であるが、その支配地からこのウスケシだけが外されている。エゾ家の利権を奪うほどの技量がカンキチにはないと、その当時のオオクニが判断し、アメノミナカヌシノミコトにそう進言したからである。


 そのためにカンキチは、ウスケシ抜きでホッカイ国の財政の立て直しに奔走するハメになったのだ。ただっ広い領地。少ない現金収入。点在する村々。そして厳しい気候。そんな悪条件の揃った領地は他にはないだろう。


 まだクラーク時代のカンキチが、多忙のあまり人を滅ぼそうなどと考えたのも、元をたどればエゾ家という権益を貰い損ねたことが最大の理由である。


 ウスケシは、面積ではホッカイ国の0.8%に過ぎない。しかしGDPではほぼ80%を占めているのである。


「「「ふぁぁぁ??!!」」」


「カンキチ、なんでそんなおかしなことになったんだ?」

「それは当然のことである。首長様が僕らエゾ家の功績をお認めになって」

「デブは黙ってろ! ワイロじゃないかな?」

「ワイロだろうな」

「アマちゃんにワイロなんか通用するか?」


「いや渡したのはオオクニに、だろう」

「「ああ、それは効きそう」」


 飲んだくれていたころのオオクニなら、簡単に買収できそうだ。これはオオクニにも責任があるな。


「それでここだけ治外法権になったということか」

「そういうことだ。俺も魔王としてはまだまだ駆け出しだった。それが異常なのか通常なのかの判断もつかなかったから、アメノミナカヌシノミコト様に言われるがまま引き継いだのだ」


「それでは餓死者が出るわけだなぁ」

「去年は出てないぞ」


「なに? なんだと? どうしてだ? そんなはずはないだろ?」

「このカンキチが頑張ったからだよ。お前みたいに先祖の富を取り崩してして生きているわけじゃない。民のために働き、支配者としてやるべきことをやってるんだ」


「民など、勝手に増えて勝手に死んで行くものだろ。そんなものに施しするぐらいなら、エゾ家に寄付でもしろよ!」

「なんだとぉ、このや……」


 ろう、と言うまでもなかった。


「痛痛痛痛痛。なんで、なんで僕が女子に殴られないといけないの?!」

「めっちゃむかついたからよ!」


 大人しいユウコが怒った。ここにいる俺の関係者全員の怒りを代弁したゲンコツである。マツマエのときでも痛は3個だったのに、そのときより7割増しで怒ってるということだな。いいぞ、もっとやれ。


「痛痛痛痛痛。やめんかっ。僕は、痛いのは嫌い痛痛痛痛痛痛」


 なんか最後はひとつ多かったようだが?


「お嬢さん、そのぐらいで勘弁してあげてください。そんなんでもエゾ家の頭領なのです」


 そう言ったのは番頭のソウシである。この男は多少、話が分かるようだ。痛の連呼にならないように、話はこっちで付けよう。


「連呼すると文字数が稼げるノだ?」

(もう140万文字以上も書いたから、いまさらそんなこと気にしません……ほんとだよ?)


「ソウシと言ったな。このデブにここを治める価値を俺は認めない」

「いや、認めないとか、あなたはたかがイズモ公でしょう。うちとほぼ同格ではないですか。どこにそんな権限があるのですか?」


「イズモに帰って、オオクニにそう進言する」

「まあ、そのぐらいは自由ですが。こちらだってその手のことでは負けませんよ」


「アメノミナカヌシノミコトも俺の言うことを無視はできん。オオクニに至っては俺の部下だ」

「な、なんでまた。ウソでしょ? そんなことあるわけが」

「ここの利権を取り上げるぐらいのこと簡単だ。戻ったらすぐ手続きに入る」

「まじっすか?! うぎゃぎゃぎゃ」


「やかましいわ! だが、その前に聞いておきたいことがある」

「そんな殺生な……ってなんですか?」


「スクナをどうしてとっ捕まえた?」

「まだそこに、こだわってんですか?!」

「そこにしかこだわってねぇよ!」


「それはね、ここの物産の市場調査をしていたら、なんかとっ捕まって」

「いまココだモん」



「っていうね?」

「ね? じゃねぇよ。383話のコピペじゃねぇか、説明する気はなしかよ。お前が進言したって話だったじゃないか」


「それを言ったらオオクニ様に言いつけるのを、止めていただけますか?」

「交換条件には応じない。お前らは俺のスクナを拉致した。本来ならその時点でお家取り潰しに匹敵する罪だ」

「いや、拉致といっても、やってたのはぼったくられ商談……」


「なんですって?」

「あっ、いえ、なんでも、その、あの。えぇと」


 スクナ、いつも強い。何度目だっけか。


「まあいい、聞くだけは聞いてやろう。それでどうするかは、俺の胸先三寸だ」

「交渉の余地はなしですか」


「言わないのなら、今日でエゾ家は断絶することになる。すでに武装解除も終わってるんだ。抵抗できるような戦力はあるまい。あとはカンキチの管理下におくための事務手続きをするだけだ。そもそもホッカイ国の中で、ここだけ例外なんて形態は不自然だ」


「……分かりました。お話します。だから最後まで聞いてください」

「いいだろう、話せ」

「あと、トシ様をもう殴らないで」


「ユウコ。ということだ、しばらく我慢してくれ」

「ぐるるるるるるるる」

「も、もう、猛犬注意!?」


「ヘタなギャグ言ったら、噛みつかせるからな。覚悟しておけ。それじゃソウシ、話してくれ」

「ギャグぐらい良いのではないですか?」

「いや、そいつのギャグはなんかむかつくんだよ」


「酷いな、おい!」

「なんだ、文句あるのか、トシ」

「いや、僕にだって人権というか」

「ぐるるるるるるる」

「はい、すいませんっ」

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