第367話 第367話 ホシミヤダンジョンに!?

「ユウ、これが効くらしいノだ。食べるノだ」

「どう見ても毒キノコなのだが」

「毒と薬は紙一重なノだ」

「弱ってる俺を殺す気か!」


「ユウ、熱があるときは、これがいいと聞いたので持ってきた」

「カンキチか。氷枕じゃないか、これはありがたい。使わせてもらうけど、この季節に氷なんか手に入るのか?」

「ホッカイ国のリシリには万年雪があってな、そこから採取してきたんだ」

「そ、そんな遠いところから。わざわざすまんことをした」

「カントが毎日往復している。また持ってくるよ、じゃ早く元気になれよ」


「ネギが熱にいいと聞いたヨ」

「持ってくんな!」

「きゅぅ?」


 入れ替わり立ち替わりで、いろんなものを持っていろんなやつが現れた。


 ショウガをすりおろしたジュース、玉子酒(飲めるか!)、ダイコンおろし、梅コンブ茶、キャベツの葉を頭に乗せる、ネギのスープ、ネギを首に巻く、ネギを挿す……挿さねぇよ!!、ミカンの皮を煎じる、レモンの皮を煎じる、バナナの皮を煎じる、カボチャの種を煎じる……煎じてばっかだなおい。


「お前ら、病人がそんなにたくさん飲めるわけがないだろうが!!」


 腹がガボガボになったじゃねぇか。いくら水分補給が必要だからといって、そんなに水ばかりを飲んでいたら胃酸が薄まってますます食欲がなくなるっての。


 そして祈とう師だの怪しい宗教家だの、魔法師や忍者までやってきた。


「忍者とか、お前らアホなん?」

「「「だってー」」」


 結局、ある程度効いたのはオヅヌの持ってきた解熱剤だけであった。しかし、それも回数を重ねるごとにだんだん効き目がなくなり、5杯目のあとはもう飲むのを止めた。


 まずいからであ……対症療法に過ぎないからである。しかも効き目が薄くなっているのだから、激まずを我慢する理由がなくなったのだ。


 俺は最初、この病気をインフルエンザだろうと思っていた。それなら休んでいれば治る。

 あれは高齢者や栄養失調でさえなければ、死に直結するほどの病気じゃないのだ。しかし、高熱が2週間も続くインフルエンザなどあり得ない。考えを改めるしかなかった。


 これは俺の知らない病気であると。それに、魔王たちが調べてきた話を聞いても、こんなに長く発熱する病気はなかったそうだ。こちらでも珍しい病気なのだろう。となると、もうこれは。


「ユウ。まだ熱はひかんのか?」


 とやってきたのは


「眩しいっての! 俺は熱があるんだから、そういうのに弱いんだよ。抑えろって」

「おお、これはすまんことをした」

「いや、お見舞いには感謝するが……あ、いいところにきた、あまちゃん、頼みがある」


「やはり、そうか。なにか言いたいことがあるだろうとは思っていたが」

「察しがいいのは助かるよ。どうしても言っておかないといけないことがあってな。まず、イヅモ国の太守をオオクニに譲ることを承認してくれ」

「それはスクナから聞いておる。いいだろう」


「それと、オウミを俺の眷属から外してやってくれ」

「オウミをか? 良いのか?」

「ああ、もう自由にしてやっていいだろう。ミノウがいるからどのみちここには入り浸ることになるだろうが、やつをここにずっと引き留めておく理由はもうない」


「ふむ。それも致し方ないことだのう」

「俺からはそれだけだ。あまちゃんはどんな用事だった?」

「お主の病気のことだが」


「アメノミナカヌシノミコト様。なにか心当たりでもあるのですか?!」

「心当たりというほどではないのだが、ほれ、ナガタキという娘がおるだろ?」

「ええ、私の妹分です。彼女がなにか?」


「あの娘はもっと小さいころ、やはり熱病に冒されやすい子であったが、それがあのダンジョンで」

「「あああっ!!! そうか!」」


 みんなうるさいよ。俺はそのことには早くから気づいていた。しかし、ナガタキとは問題も原因も違う。あれはナガタキが魔法使いの素養があって、その魔力が修法と戦うことで発熱していたのだ。


 俺は魔法使いではないし修法などまったく知らない。だから戦っているはずはないのだ。


「ネコウサ! あのダンジョンにユウさんを入れてあげて」

「う、うん。だけどあのダンジョンを壊滅させたのはこのユ」

「しーー!!」


「あ、そうだったモん。みんなの説得は難しいと思うけど、スクナの頼みなら僕も手助けするモん。まずは妹を説得してみるモん」


 それなのに、みんな答えを見つけたとばかりにはしゃいでしまった。それを止めるような気力もない。もう2週間も高熱が続いて、体力も気力も限界まで削られていた。

 もうなにもかもどうでも良くなっていた。死ぬときってのはこんな感じなのだろうな。


 ミノウにこの世界に呼ばれてから、ちょうど1年になるか。ああ、いろんなおっぱいがあったなぁ。


「ちょっと! 思い出すのはおっぱいだけかよ!」

「大変幸せでありました、俺の指は」


「ユウさん!? アメノミナカヌシノミコト様。あなた様のお力でホシミヤのダンジョンに入れませんか?」

「ネコウサの説得を待っていたら間に合わぬな。分かった、ワシが連れて行こう。ひょいっ」

「「「我らも行くノだヨゾヨぞ!!」」」



「おぇぇぇ。俺は寝てるんだから加減しへくへぇ。この体勢は酔いやすいんだおぉぇおぇぇぉえぇおえぇ」

「ちょっとだけ我慢するのだ。ここが入り口か。それっ!」


 もう吐けるようなものが、胃の中に残っていなかったのは幸いではあったおぇおぇおぇ。


「あっ、なによあんたち、勝手に入ってきて」

「妹よ、僕だモん」

「あら、おにぃ? どうしたの?」

「ちょっと病人をここに入れて欲しいモん」


「でも人間を入れるのは、ここのルールに抵触するのよ」

「ねぇ、お願い!! 妹さん、この人だけでもいいから中に入れてあげて!」

「あんたはおにぃを眷属にした人ね。私にはイリメって名前があるの。そう呼んでちょうだい」


「え? ということは、お前も誰かの眷属になったモん?!」

「そうよ、イリヒメのね」

「名前からしてそうじゃないかとは思ったわ。イリメ、お願い中に入れて」


「……その人、かつてここで狼藉を働いた人じゃなかった?」

「うん、そうなの。だけど、この人が」


「イリメといったヨ。我からもお願いしたいヨ」

「え? ミ、ミノウ様?! どうしてあなた様が」

「我からも頼むノだ」

「まさか、オウミ様?!」

「ワシもお願いするゾヨ」

「イイイイ、イズナ様!?」


「そしてワシもおるのだ。イリメ、入れてやってくれ。こやつを治せるのはもうここしかないのだ」

「ア、ア、アマ、アマ、アメノミナカヌシノミコト様あぁぁぁぁ???!!!」


「ということで無事に入れたぞ、どうだユウ、気分は」

「おえぇぇぇ」

「まだ酔いが残っているようです」


 アメノミナカヌシノミコトはもちろん、魔王の3人はもともと入れるダンジョンである。しかし、人間は本来排除の対象なのだ。


 アメノミナカヌシノミコトと3魔王のごり押しによって、ユウとスクナのふたりだけが中に入ることを認められた。


「布団なノだ」

「これ、ホッカイ国からの氷枕ヨ」

「オヅヌの薬ももらってきた。しかし、最後の1服だそうゾヨ。もう原料が採れないらしいゾヨ」


「どうせそれ、効かないからいらないぃぃぃ、こら! 強引に飲ませようとすんな!」


「ナガタキ様はここで過ごすことで、暴走する魔力を身体に馴染ませることに成功したのです。ユウも同じことをすれば、きっと治るわ」

「イリヒメまで呼び出してすまんな。だが、これで俺が治ることはない。そもそも……くてっ」


 イリヒメはラスボス・イリメの主人権限で入室可能なのである。


「「「あああっ、また落ちた?!」」」

「ま、まだ、大丈夫なノだ。いろいろ動かしたので疲れて眠っただけなノだ」


「ナガタキがここに入ったのは、もっと小さいときであったな?」

「はい、アメノミナカヌシノミコト様。ここの大気――いまでは好素と分かっていますが――を吸うことで、魔力を制御することができるようになったのです。それで発熱が止まりました」


「ユウもそうなると良いのじゃがのう」

「しかし、どうして急に発症したのでしょう?」

「それはもしかすると、クラスチェンジが原因であったかも知ぬ」


「クラスチェンジをしたのですか。ユウが?!」

「このオウミのアホがいらんことを教えるものだから、ユウはこの世界で最強の光攻撃魔法を覚えてしまったのじゃよ。それは壁や床を楽々通り越えて、あらゆる魔物を葬ってしまうほどの出力があったのだ。それで一気にレベルが上がって、抑えきれないほどのステータスとなっていた」


「それでクラスチェンジを」

「それで一時はステータスを下げたのじゃよ。しかし、ワシが浅はかであった。この世界での経験値は魔物退治だけで得られるものではないのじゃ」


「ええ、それは知っています。この世界に住む人のためになることをする……あっ!? まさか、ユウのいろんなカイゼンが?!」


「その通りじゃ。こやつは自分のステータスを見ないようだから、詳細は分かっておらんのだろうが、結果としてユウのやったことは多くの人の命を救い楽しませた。魔人や魔王を含めてな。それで多くの経験値を得たのであろう」


「そうなノだ。ユウは口は悪いが、我らにはとても良くしてくれたノだ」

「ニホン刀も作ってくれたし、イテコマシで楽しませてくれたしヨ」

「ワシのとこなんか、小麦栽培で貧困から脱することができそうなのだゾヨ。どれだけ感謝しても足りないぐらいゾヨ」


「私の祖国・ホッカイ国も、ユウさんのおかげで餓死者もなく年を越せました」

「ミノ国の税収も大幅に上がっているヨ。ユウのおかげヨ」

「イセ国もサツマ国もヒダ国もアイヅ国も。みんな感謝しています」


「経験値が貯まるわけだのう。それで増えた魔力が体力の上限を超えて暴走しているのだと、ワシは思ったのじゃが」

「ええ、その可能性は高いと思います。それならここで好素を吸わせれば」


「治るのでしょうか?!」

「そこまでは分からん。ナガタキのときとは条件が違うからの」

「ナガタキ様はまだ幼かった。それにここ。もう少しすっきりしたダンジョンだったのですけど」

「なんだか、ぎったぎたじゃの」


(ああ、それはハルミさんが……まあ、それは黙っておこう)


 そこに。


「なんだか騒がしいと思ったら、千客万来だな」

「おや、お主は?」

「俺は仏師・カネマルだ。ここに住んでいる。お主こそ誰だ?」

「そうだったか、邪魔しておる。ワシはアメノミナカヌシノミコトといものじゃ」


「アメノミナカヌシノミコト? まさか、この国の創造神様か?!」

「ああ、そうじゃ」

「そんなお方がどうしてこんな……あれ、ユウ? ユウではないのか?」


「ユウとは知り合いか。それなら話は早い。しばらくここで治療させてやってくれ」

「いや、ここは俺のテリトリーじゃないから、許可ならネコウサ族の長に……って、ここまで入って来られたのだから、もう許可はもらったんだよな。で、ユウはどうしたんだ?」


「正確なことは分かりません。熱が下がらないのです」

「スクナではないか。お前は良く入れたな。それより、ユウは病気なのか。それなのにこんなとこまで動かしていいのか」


「もう2週間になります。もしかしたら、ここで好素を吸わせることで良くなるかも知れないと聞いて」

「だから布団ごと持ってきたのか。しかし、ダンジョンで布団を敷いて寝る人間なんて、後にも先にもユウだけだろうな」


 あははは。控えめな笑いが起こる。


「ところで、その熱というのはどのくらいだ?」

「高いときは40度近いと思われます」

「それは高いな。ん? 高いときは、ということは低いときもあるのか?」

「はい、だいたい1日高熱が出ると、次の日は少し下がって38度くらいになるようです。そして次の日はまた高熱になって、の繰り返しです」


「そうなのだ。高熱が続くわけではないのでユウはまだ保っているのだ。40度が続いたら健康な人間でも5日と保たん」

「そうか、それはもしかすると」


「え? カネマル様、なにか、なにか心当たりがあるのですか?!」

「スクナ。俺は医者ではないから診断がつくわけではない。だがその不思議な症状は、以前に聞いたことのある病気に似ている気がする」


「それは、どんな病気ですか!?」

「確か、マラリアとかいったような気がする」


 マラリア?! それなら私は知っている。蚊が媒介する病気……というより寄生虫だ。ユウさんがそれに? だけどそれはおかしい。


「カネマル様。ニホンにその病気はありません。どこでその名を聞かれたのですか?」

「スクナは良く知っているな。確かにあれはニホンの病気ではない。ヤマトで仏像を作っているときに、アジアから渡ってきた渡来人が職人として参加していた。そやつが教えてくれたのだ。とても恐ろしい病気だと」


 マラリアだなんて。あり得ない。あり得ないけど確かに症状は似ている。1日置きに発熱するなんて滅多にない病気だ。でも、マラリアならその症状に合致する。いったい、どこで感染したの? どこで蚊に刺されたの?


 確か、キニーネという特効薬があったはずだけど……ここで手に入るわけはない。どうすればいいだろう?


「その病気だとして、治療方法はあるのか」

「特効薬があると言っていたが、それがどんなものかは聞いていない」

「その人、いまはどこにいますか? 会えませんか?」

「もうなん百年も前の話だ。そやつは人間だ。とっくに亡くなっている」


 手がかりはもうないのか。


「なるほど、そういうことだったのか」

「ユウさん? 起きたの?!」

「いまのカネマルの言葉で目が覚めた。スクナ、識の魔法使いの出番だと、アチラに伝えてくれ。それと、イオウとリンを用意しろと言ってくれ。そしたら くてっ」


「また落ちた?! イオウとリンってそれをどうするの? アチラさんに言えば分かるの?! ユウさん!!」

「ユウ、はい。おっぱいなノだ」


 …… ……。


「我ではダメのようなノだ」

「「「「そりゃそうだろ!!」」」


 あぁ、もうこんなときにボケを挟まないで。でも、ユウさんはなにかに気づいたようだった。キニーネとかいう薬の作り方を知っているのかも知れない。私には分からない。だけど、材料なら用意はできる。でも、イオウとリン? そんなものを使う薬なんてあったかしら? むしろ爆薬の原料に似ているような。


「ミノウ、ユウさんを元の部屋に運んで。それと、アチラさんにずっとユウに付いているように言って。ユウさんが目を覚ましたら、なにをするのかすぐ聞けるように。大急ぎ!」

「分かったのだヨ。スクナはどうするヨ?」


「オウミ。私を……イオウなら火山のあるとこ、温泉もあるかも知れない。有名なところならきっとたくさん……よし! 箱根に行きましょう。転送して!」

「箱根なら行ったことがあるからすぐ行けるノだ、ひょいっ」


「あの、ワシら置いて行かれたようゾヨ」

「ふむ。どうやら、魔力とか関係なかったようじゃ。カネマル、イリメ、邪魔したの」


「いえ、とんでもありません。いつでもいらしてください。ここには好素ぐらいしかありませんけど」


 そして風雲急を告げる次回を待て?!




「風雲を告げるノか?」

「そういっておけば、次も読もうという気になるだろ?」

「発熱しててもぶれないノな」

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