第362話 増産は無理

「ということで、ウルシは売ってもらえることになった」


 どだどだどだだだだだだっ。


「みんな、どうしたの?」

「どうしたの? じゃないでしょ! あたしたちまで連れて行った結果をたった1行ですますなよ!」

「だから魔王をコケさすでないとあれほど言ったノだ!」


 仕方ない。解説しよう。ジョウボウジ側は、最初は無理だと言ったのだ。現在でもニホン中から増産要求があり、それに応えるために必死なのだと。


「せっかくオウミ様に来ていただきましたが、なにしろ成長に時間のかかる木ですので、そんな急には増やせないのです」


「どのくらいなら出荷可能だろうか?」

「そうですね。現在の在庫から2Kgぐらいなら融通できますが」


「茶碗で100個分か。それだけでもありがたい。売ってくれ」

「じゃあ、用意させます」


 対応してくれたのは、ジョウボウジの豪族・ハタヤマであった。40才ぐらいの落ち着いた男性である。


「それにしても、このウルシの森はすごいな」

「もう何10年も植林を続けてますからね。でも最近は採取した分を植えるのに精一杯で、ウルシの森を大きくするのは難しいのです」


「育つのに15年ほどかかると聞いたが」

「早いもので15年ですね。中には20年ぐらいかかる木もあります。下草刈りなどの手入れも必要ですし、あまり密集させると育ちが悪くなります。山の斜面が水はけも日当たりも良いのですが、そういう場所はおのずと限度がありまして」


「そうか。急に増産と言われても困っちゃうわけだな」

「ええ、長くご愛顧いただいているお客様を優先しなければなりませんし」

「いっそ、ニオノウミに送る分を全部こっちに」


「ごらぁ!! そんなことをしてはダメなノだ! プンプンなノだ!」

「冗談だよ、オウミ。そんな怒るな。仕方ない、2Kgでできるだけ作るしかないか」


「あ、あの。オウミ様とユウ様はどのようなお関係で?」

「ん? あ、こいつは俺の眷属。シキ研の送迎課長を務めている」


「そ、送迎……。魔王様を? 眷属? そして会社の社員に?!?!?!」


「まあ、普通はそういう反応になるよな。だけど読者ももう飽きてるので、そういうものだと思っていてくれ」

「そ、そ、そういうものですか。はい、そうしますが。それにしても、イズモ公がそんなおエラい方であったとは」


「エライというわけではないので、普通に接してくれ」

「たしかこの間まで、イズモ公はオオクニ様が兼任されていたと伺ってましたが」


「ああ、オオクニはちょっと問題起こしてな、いまは俺の部下だ」

「はぁ!?」

「嫁のスセリも一緒に」

「はぁぁぁ!!?」


「ふたりとも、シキ研の子会社「サバエ工務店」の社員をやらせている。オオクニは一応社長だが」

「オオオ、オオクニ様を社員に?! いったいあなた様はどういう?」

「ユウ・シキミだよ?」


「説明になってないぞ、それ」

「それ以外にどう説明しろというのだ、じゃあハタ坊がしてくれよ」

「こいつはな……ユウ・シキミだ」

「1文字も変わってねぇぞ!!」


「こちらの方は現在、ホッカイ国のカンキチ様。ミノ国のミノウ様。エチ国のイズナ様。それにこのオウミ様。計4名の魔王様を従えています。さらにアイヅ国の魔人・ハタ坊様やホッカイ国の魔人エルフ数名も傘下に収めております」


 ちょっと盛ったな。俺の眷属で魔王はオウミだけだからな。従えてるという意味では間違ってないが。


「そ、それ、どこの伝説の人の話ですか?」


「ここにいる現代人ですよ。それだけではありません。オワリ国のトヨタ家、サツマ国のシマヅ家、ヒダ国のハクサン家。それにイズモ国のすべてがこの方の身内です」


「あややや。ほややややや」

「さらに!」

「ま、まだあるんですか!?」

「イセの魔王・イセ様、カンサイの魔王・マイド様、ヤマトの魔王・ヤマト様もこのユウには頭が上がらないのです」


「でででは、このニホンで一番エライ人ではないですか!?」

「だから、エライとかそういうのは止めてくれ。テレクサイ」


「しかし、かつてそんなに権力を握ったお方は、この国にはいらっしゃいませんよ?」

「スクナが大げさに言っただけだ。権力なんか俺は握ってない。そのつもりもない」


「そ、そんなお方であったとは。こんなむさ苦しいところで、失礼いたしました」

「だから普通にしてくれと……、おい、スクナ。ちょっと言い過ぎだぞ」

「私もたまには自慢したいもの、てへっ」


「ただいま、お茶を入れますので、もうちょっとだけお待ちください」

「あ、いや。ウルシの用意ができたら俺たちは帰る……行っちゃった」

「まあ、お茶はいただいていくノだ」


「お前はお茶好きだな」

「お茶しているというのんびり感が好きなノだ。あっ!! しまった。もうポテチが在庫切れだったノだ」


「ポテチがないなら、爆裂コーンを食べればいいじゃない」

「それも食べきってしまったノだ。しまったノだ。我としたことが一生の不覚なノだ」


「1,400年も生きてる魔王の一生の不覚がお菓子かよ」

「うぅぅ。いまからとってくるノきゅぅぅ」

「それほどのことじゃねぇよ。お茶を呼ばれたら帰るからそれまで待ってろ」


「ナツメで良ければあたしが持っているけどな」

「ナツメにお茶はちょっと合わないノだ。だけど、食べるノだ」

「合わなくても食べるんかい」


 たしかに果物にお茶はちょっと合わないが。。。待てよ、果物? ……お茶に合わない果物?


「ハタ坊。そのナツメはどうしたんだ?」

「ああ、これはミノウからもらったナツメの木をアイヅに植えたんだ。そこからとれたやつ。ユウも食べるか。まだ木が若いので少し酸味が少ないが、これはこれでうまいぞ」


「そういえば、ミノウからもらってたな。魔木のナツメ……魔木? 魔木でも食べられる実がなるんだよな。


「ああああっ!!!!!」

「「「わぁぁお。驚いた。どうしたの?」」」


「オウミ! ちょっとミノ国に戻れ。戻ってミノウを連れてこい」

「分かったノだ。ついでに爆裂も補給してくるノきゅぅ」

「そんなことしてないで、すぐに戻って来い! 大急ぎだ!!」

「わか、分かったノだ。そんなにきつく言うでないノだ。すぐ戻ってくるノだ」 ホキュウシタラナ


「なんだって?」

「ぴゅーーー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る