第359話 なるじゃん?

「あ、そうか! 孵すと返すがごっちゃになっていたというネタだったノだ!!」

「今ごろ気づいたんかーい」

「ちょっと苦しいところもあったノだ?」

「そこは気づくな!」



 目が覚めたらすっかりそういう話ができあがっていて。


「ねぇ、あなた。ご飯よ」

「やかましい! そういうことを言うのはこの口かこの口か!」

「ふがふが、すひはへん、ひょっとしたひゃめっけひゃめっけ」


「茶目っ気じゃ、ねぇよ。こういう微妙な問題を茶目っ気で済ませるな」

「ふぁぁい。で、でも、この子たちのことはマジでお願いします」


「それは分かってるよ。シキ研で奨学金制度を作らせるつもりだ。その適用第1号……から14号までだ。12才になったらシキ研工場のどこかで働いてもらって、給料から毎月少しずつ返してもらうという制度だ」


「うんうん、それは嬉しい。生まれてすぐ就職先が決まっているなんて、なんて幸せな子供たちなのでしょう」

「俺の感覚では、そんな小さい頃から働かないといけないのは、不幸なんだけどな。むしろ児童福祉法違反だ」


「だって働かないと餓死しちゃうんだもん」

「分かった分かった。エルフの窮状は理解しているつもりだ。だが、お前の子をそんな目に合わせるものか。仕事はいくらでもある。これからもっと増えるからそういう心配はするな。エルフの里でも年内に工場を建てるつもりだ」


「えぇっ、そうなの!! ありがとうユウさん。これで私も安心してミノ国に帰れるわ。またユウさんの第2秘書と第2護衛になっていいよね?」

「あ、ああ。それでいい。あとおっぱい係も」

「それはモナカに強く止められてるけど」

「くっそ、あの麺打ち名人め!」


 シキ研ラーメンの麺は、モナカが打ってミヨシが切るという形が定着している。この麺がないと、ラーメン事業が成り立たないという状況にある。麺打ちの職人募集中である。

 しかし、切るのはミヨシ以外には無理のようである。ウエモンに切らせたら角材ができちゃったという報告が上がっている。縦に自立するそうだ。食えるかい。


 ちなみに、エルフは卵から生まれた時点で、人間なら10才程度の体格がある。また、知能や言葉、生活行動基準などだいたいのことは、親の遺伝子から直接引き継げるそうである。


 つまり、生まれるやいなや、しゃべって食べて走り回るのである。小さいユウコが14人いきなり誕生したようなものだ。


 体力には自信のあるユウコでも、さすがにこいつら全部の面倒を見るのは不可能と判断したようだ。全員をホッカイ国のエルフの里送りにした。


「そんな島送りみたいに言わないで。あちらは人手が多いので、手分けして面倒を見てもらうのです。それでも14人には驚いてましたけど」

「村全体で育ててくれるなら安心だな」

「あの子たちは、ユウの子でもあるからね」


「俺、それについて、まったく心当たりがないんだけど」

「でも、できちゃったもん」

「できちゃったもん、じゃねぇよ! 俺は作った……というかヤッた記憶さえないのに」


「じゃ、いまからする?」

「え? いいの?」

「もちろん私は良いよ? そこにいるスクナさんさえ、良ければだけど」


 どわぁぁぁぁぁっ!!! スススススススクナさん!?


「私はそんな長い名前じゃない定期」

「どどど、どうした。どうしてアイヅまで来たんだ?」


 その枯れ葉の下で冬眠するケシケシンを見るような目は止めて。


「ケシケシンは冬眠しませんよ。私はこちらに緊急な用件があってやってきました。ユウさんも渉外の私を置いて勝手に行っちゃうから、ついでに追いかけようかなって」

「僕が送ってきたモん」


 そうだった。スクナにはいまや転送できる眷属がいるのだ。それを指導したのがミノウだから、俺が行ったことのある場所はたいがい来られるのだった。


 で、緊急な用件ってなんだろ? でもそれより、スクナには重大な質問がある。さりげなく聞かなければ。


「そうだったのか。えー、一緒にミカワに行ったベータはどうした?」

「どの辺がさりげなかったノだ?」

「お前は黙ってろ!」


「ベータさんはもうシキ研に帰っているよ。一緒にと行ってもネコウサの転送能力が欲しかっただけだから、ベータさんをトヨタ家に送ったらすぐ私は小麦農家に行ったけどね」


 そうだったのか。そういえばベータには転送させられる眷属はいない。移動に使えるのは馬車ぐらいだろう。


 そうか、別々だったのか。


 良かった良かった。


「ベータさんね、自作のタレを使ったトンコツラーメンを、一族の人たちに振る舞ったんだって。そしたら大受けだったって」


「そうか。それは良かったな。ベータの作品1号だ。あの味だから大受けも当然だろう。トンコツラーメンに慣れている俺だってあれはうまかったからな」


「こっちのユウの舌なノだけど」

「それもそうか。だけど、スクナも食べたんだろ?」


「うん、食べたよ。あれはすごかったね。まさしく絶品……それより、ユウさん」

「な、なんでしょうかどぎまぎ」


「なんでもお父さんになられたそうで」

「ほにゃほにゃひにゃや、俺はにはさっぱり事情が分からんのだけど」

「なったんでしょ?」


「いや、それは、その、なんていうか」

「あなた、それは酷いわ。私のこと、遊びだったのね!」

「やかましい!! ユウコは話をややこしくするな。仕事だっての!」


「てへっ。スクナさん心配しないで。あの子たちは私の子よ。エルフは無性生殖だもの。ユウさんはその生活の支援をしてくれるだけの人よ」


 それはそれでなんか寂しいものがある。俺は金を出すだけかよ。


「うん、知ってる」

「ふぁ?!」


「ホッカイ国で、マッツさんにエルフのことを聞いたことがあるの。でも14人なんてすごいよね。ユウコさん、良くがんばったね」

「卵だからぽいぽい産んじゃったけどねあははは」


 ゴキブリじゃないんだから、ぽいぽい産むなよ。それにしても、スクナめ。知っててわざと俺を追い詰めようとしたな。


 ……可愛いから許しちゃうけど。


「ところでスクナ。俺はずっと忘れていたユウコを引き取って帰るだけのつもりだったから、なんの準備もせずにやってきたんだ」

「アポさえとっていなかったノだ」

「ずっと忘れてたって。酷いわ、あなた」

「ユウコはそのボケ止めろ! 心臓に悪いだろうが!」


「それがどうかしたの?」

「だからもう帰るつもりなのだが、お前の緊急の用件ってなんだ? ユウコは帰してもらったから、俺はミノ国に戻るつもりなのだが」


 もう卵を孵したりなんかしないんだからね!


「ユウ。そこのことで、ちょっと頼みたいことがあるんだ」

「なんだ、ハタ坊も一緒か。そういえば、お前のダンジョンもそろそろ再稼働できそうか?」


「それどころではないんだ。アイヅはいま、すごいピンチなんだよ。ユウ、助けてやってくれないか」


「ピンチなのか? アイヅが? どうして?」

「詳しい話はハニツ公から聞いてくれ。あたしが案内する」


 分かった、と言ってスクナとユウコを連れて後ろをついて行くと、以前にも来た会見場である。

 あのときは、剣士がずらりと並んでいたが、今回は。


 ずらりと並んでるじゃねえか!!


「だから俺たちは剣の試合をしに来たわぁお、なんでハルミまでいるんだ?」

「私も呼ばれたんだ。ぜひ、一手ご教授願いたいって」


「だからなんでもかんでも、剣技でケリをつける風潮やめーや」


「おお、イズモ公。わざわざご足労いただきありがとございます」

「ハニツか。かしこまった挨拶はいい。用件を聞こうか」

「まずは、一勝負」


「それはもういいっての!」

「分かった。それなら私が代わりにふにゃにゃにゃ」

「お前はでしゃばるな!」


「というのは後にして、イズモ公に正式にお願いがあるのだ。それでオオクニ宛てに手紙を出したのだが、どうも行き違いがあったようでな」


「スクナ、それが緊急の用件ということか?」

「はい、そうです。まだ詳しい内容はうかがっておりませんのでハニツ様、ご説明をお願い致します」


「じつは大変困ったことになったのだ」

「困った困ったこまどり姉妹?」

「それはしまった、ではないノか」


「ユウさん、真面目な話ですよ」


 あらそう。こういう真面目っぽい流れのときって、この話では必ずギャグになるじゃん?

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