第346話 ミノオウハルで剣舞
「うぐぐぐぐあうあぁうあうああうあ」
「日本語をしゃべれ」
「ユウぅぅぅぅぅぅ。刀がぁぁぁぁぁ。私のニホン刀がぁぁぁ」
「うん、お前がやったんだから、お前が弁償な」
「うがぁぁぁぁぁ」
「いい加減に原始人から復帰しろ!」
「ハルミ姉さんは新しいニホン刀をくれ、と言っているのよ」
「翻訳機・ミヨシ乙である」
そうだろうとは思ってたが、新しいのっていくらすると思ってんだよ。会社を赤字にするつもりか。
「あれだけの衝撃を受けても折れなかったとは。たいしたものだな、このニホン刀というものは」
「ハルミの剣技の切れも手伝っているとは思うけどな。だけど、あれは初期の作品なんだ。オヅヌのニホン刀はあれよりずっと強固だぞ」
「あれよりもか?! すごい刀を作ったものだな」
「うぅ、私にも最新版をくれ」
「貴重な1本をダメにしたやつが、それを言うか! オヅヌの1本だって、エースから取り上げるのに俺がどれだけ苦労したと思ってんだ」
ニホン刀は、エースが独占購入権を持っている。しかし、そのときの契約は、生産量は月に10本、1年間で120本という内容であった。
それがいまや月に35本作れるようになっている。だから120本分の契約は、半年でほぼ完了しているのである。
「待って待って。私は1年間って約束したんだぞ」
「エース。ニホン刀は生産量が増えて、最初に買うといった120本はすべて納品済みだ。これからは俺が自由にぐぇぇぇ」
「待ってくださいよ所長。売買契約は終わったとしても、その場合には継続の話し合いをするという一文が契約書には書いてあります」
「なんだそれ?」
「まだ、優先権は公爵様にあるということですよ」
レンチョンめ、また面倒くさい契約の話を持ち出してきやがって。スクナを連れてくるんだったなぁ。俺では良く分からん。
「じゃ、これから契約をしよう。これで専属契約は打ちぎゃぁぁぁ。殺す気か!!」
「ちょっと呼吸が止まったぐらいで人は死にません。いざとなれば、魔王様もいます」
「ノだ?」
「ちょっとでも呼吸を止めるな! レンチョンは俺を殺す気満々かよ。もう120本手に入ったんだから、いいだろうが。エースの部下全員に行き渡ったんだろ?」
「それはそうだが。それだけではないのだ、ユウ」
「どういうことだ?」
「あのニホン刀の独占購買権があるから、俺はシキ研にいられるんだよ」
「へぇ、知らんがな」
「冷たいやつだなっ!?」
俺には関係ないというか興味がないので知らん顔をしていたのだが、エースの立場というのは俺が思うほど安定したものではないらしい。
トヨタ家を強引に飛び出て、自分勝手なことをしている。エースを良く思わない連中はそう思っているらしい。ベータをここに連れてきたことも批判のネタにされているようだ。
それを黙らせているのがシキ研の商品であり、その筆頭が(本当はタケウチの商品だが)このニホン刀なのだそうだ。
「これを握っている限り、トヨタ家で俺に逆らえるやつはいない。だが、それがなくなってしまうと」
「ええ、オワリ国……特にミカワの剣士たちは、水晶やサツマ切子のような芸術品にはとんと興味がありません。でも、あのニホン刀1振りになら、家が傾いてでも買いたいという者がいくらでもいるのです」
「だから独占しておきたい、ということか」
「まあ、そういうことだ。もうしばらくの間でいいから、頼む」
「分かった。じゃあ、一振りだけ俺に渡してくれ。後はエースにまかせる」
「そうか。それで手を打とう」
「金はエースに請求させるからな。タケウチに払えよ」
「え?」
「じゃ、最新の一番いいやつをもらってく。じゃ、そゆことで。オウミ」
「ひょいっノだ」
「おい!! ユウ。全部こっち持ちはいくらなんでも……行っちゃった……レクサス?」
「はいはい。いいですよ、公爵様の個人貯金から支払いをしておきます」
「なんで、私の貯金からだ?!」
「どう考えてもこれは公爵様の個人の都合のようです」
「ああ、俺にもっとやさしい秘書が欲しい」
「ハルミさんなんかどうですか?」
「あの人は、そういうのには向いてないだろ」
「それもそうでしたね。頭脳というよりは、行動派ですものね」
「むしろ肉体派というか。それと、もうちょっとなんというか」
「あの開けっぴろげな性格をなんとか?」
「そう、そのなんとかだが」
「無理、でしょうねぇ」
「だよなぁ」
「ということで1本だけ取り上げたんだ。これ以上は俺でも無理だ」
「たいした苦労しているように思えないノだ?」
「私、なんだかいけない子になってない?」
「なってない、なってない」
「この後、私はウズメと剣舞をやるのだが、そのための刀がなくなってしまったのだ。まさか曲がった刀でやるわけには行くまい……」
「曲がった刀はなんとか治せないか、ゼンシンに相談してやるよ。それまで我慢しろ。しかし、今日の剣舞に使うものがないか」
「あの、オヅヌ様。私が剣舞をやる間だけでいいので、それを貸してもらうわけには」
「あ、弟子たちがワシを呼んでいる、ちょっと見て来る、さっ」
「逃げやがった!?」
「逃げた、わね」
「仕方がない。ちょっと短いが今回はミノオウハルを使え」
「いいの? これ、あまり表に出したくない刀でしょう」
「それなら壊れる心配はしなくていいいし、今回はなにかを斬ることもないから、魔刀であることがバレることはないだろう」
「そりゃそうだろうけど。分かった。今回はこれで行く」
「そうしてくれ。もうじき出番だよな」
「そうなのだが、なんかまたみんなに笑われそうで、出たくなくなっている……」
「そんなことで落ち込むなど、お前らしくないな。もう戦闘の必要はないんだ、習った剣舞を見せるだけだろ? ウズメも一緒だから心配はすることもないだろう」
「うぅ、それはそうなのだが」
むしろ戦闘があったほうが良い、とでも言いたそうな口ぶりだ。クマノ軍が途中で撤退してしまったために、ハルミの出番がなくなってしまったことが心残りのようだ。ラーメン作戦がうまく行きすぎたのだ。
「もともとお前の太刀筋は美しいと評判だったんだ。それを習った剣舞にあわせて観衆に見せつけてやればいい。1度や2度の失策なんかそれを上回る活躍で忘れさせてしまえ。これもリベンジだよ」
「そうか。そうだな。私の太刀筋は美しいのか。分かった、目一杯見せてくる」
なんで都合の良いことだけはすぐ覚えるんだろね。
このお祭り最後のエキシビションイベント。ハルミとウズメによる剣舞会である。
これは武芸の型を見せるだけのもので、戦いではない。だから、本来ならエロシーンなどになるはずはないのだ。しかしエロエロ度が常人離れしているふたりである。
なにも起こらないわけがないよな? 乞うご期待である。
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