第327話 これで6名に

「どういうことだ? なにか知っているのか、オウミ」

「それを説明するのは難しいノだが、ひとつ確認する方法があるノだ」


「お前がなにを言っているのか分からんのだが」

「ミノウ。ユウと眷属契約を破棄する理由は、ネコウサの教育のためと言ったノだ?」


「え?」

「言ったノだ!」

「言ったな」

「そうだモん?」

「そ、そうだったヨ。言ったヨ。多分」


「多分ではないノだ。なら、そのことをミノウ紙に書いてみるノだ」

「いや、それは、その。我は文字を書くのが苦手で」


「なるほどな。ミノウ、書いてみろ」

「あ、いや、それはそのあの」

「なんで書けないんだ?」

「我が書くことを想定していないというか、なんというかヨヨ」


 なんでヨがふたつになってんだ。動揺しているってことは、なにかを隠しているということだが。


 それと、ミノウ紙ってのは、ミノウ本人にも有効なのか?


「しかしミノウ。このままではお主はいつまでもスクナの眷属になれないノだ。ユウと解約する理由を書くノだ」

「分かったヨ。自分で書いたことがないからなんか緊張するヨ」


「そんなことぐらいで緊張すんな。ほれ、俺のペンを貸してやる」

「うぅぅぅ。緊張するヨ。ネコウサににににっ」


 ぽーんとという音をたててペンがふっとんだ。ミノウでも、ミノウ紙の機能からは逃れられないようだ。恐るべしはミノウ紙である。


「ふっとんだのは布団じゃないノか」

「こんなときにくだらねぇこと言ってんじゃねぇ!」


「ほほぉ。ネコウサと書こうとした途端にそれか」

「つまり、ユウとの眷属契約を解除した理由に、ネコウサは関係ないということになるノだ」


 細かいルールがあるんだな。お互いが了承するだけじゃダメなのか。さて。


「ミ ノ ウ ?」

「きゅぅ」

「ネコウサが関係ないとすると、本当の理由はなんだ?」


 そのとき、スクナが不意に声を上げた。


「あああっ!! ミノウ。あんたはまさかアッチが本命だったの!?」


 アッチ? 本命だったの? 


 本当の理由は、スクナも気がついてなかったということか。


「スクナ、そのアッチとは?」

「自転車よ。ミノウからもらった」

「自転車がどうした?」


「あれね。すごい楽なのよ。とくにホッカイ国で使うことを考えると大変貴重な交通手段なの」

「たしか少しだけ浮くんだったよな」

「そうなの。登りでも楽々だし、下りでも速度が出すぎることはないし。それに未確認だけど、きっと雪の上でも普通に乗れると思う」


「おおっ、そうか、それはすごいことだ。下りならスキーはいい手段だが、その自転車なら登りもできるわけだな。スリップの心配もなく使える移動手段か。雪国には得がたい乗り物だ」


「それをどうしてもミノウが返して欲しいって言うものだから、それなら私の眷属になってネコウサを指導してよ。という話になったの」


「つまりは、そっちがメインだったんだな、ミノウ」

「きゅ」

「返事が短い!!」

「きゅぅぅぅぅヨ。その通りヨ」


「お前、そんな貴重なアイテムを返してもらって……そうか、あのふわふわにするつもりだったのか!?」

「きゅぅぅ」

「それが言いだしにくいから、ネコウサをダシにしたのか」


「ダシはカツオ節のほうが良いノだ」

「お前は黙ってろ!」


「あんなに魔力を注いで作った自転車を、スクナにやってしまったことで後悔してたヨ。でも、スクナは喜んで使っているので、とても言えなかったヨ」


「だけど言ったんだろ、返せって」

「それはスクナがネコウサの成長を見て、ずっと面倒を見て欲しいって言うものだから、それなら交換条件でってことヨ」


 スクナの希望はネコウサへの教育だった。ミノウの希望は自転車の返却だった。それでふたりの思惑は一致したわけだ。


「つまり、ネコウサの教育をするためというのはスクナの希望であって、ミノウが俺の眷属を辞めるという理由ではない、ということだな」

「そうなのヨ」


「だから契約解除できなかったのか」

「そういうことなノだ。だから、今度はちゃんと正しい理由で解除を」


「待て待て。ミノウが自転車を返して欲しいから、なんて理由で俺は納得しないといけないのか。どこかの小学生か」

「ダメなノか?」

「ダメじゃないよ?」


「どどどど。そそそ、それなら良いではないかヨ」

「だから俺が納得するために、いくつか条件を付けさせてもらう。ミノウの個人的理由なら、そのぐらい飲めるだろ?」

「一応、聞くヨ。できることとできないことがあるけど、前向きに検討してみるヨ」


「そもそもミノウは俺に借りがあったよな。427個ぐらいだっけ?」

「ないないないないないヨ。増やすな!! どこかの店舗ではないないヨ。借りは3つだヨ」


「そうか。ちょっと勘違いしちゃった。その貸しをひとつ増やして4つにする」

「勘違いのレベルではないヨ。でも分かったヨ。それでいいヨ」


「それと、もうひとつ」

「なにヨ」

「スクナとミノウの眷属契約は、スクナが俺の部下である限り有効とする」


「それがどうしたノだ?」

「別に我はかまわんヨ? それが条件になる理由が分からんヨ」


「分からなくていい。そのふたつの条件を飲んでくれれば、それでいい」

「分かった。それで文句はないヨ。では、解除を頼むヨ」

「よし。それでは改めて。もうやーめたっ」


 ち~ん。


「おおっ。うまく行ったヨ! ありがとうユウ」

「次はスクナの番だ。眷属契約を結んでくれ」


「う、うん。ありがとうユウさん。じゃあ、ミノウ」

「ヨヨヨ」

「あんたは私の手下よ」


 ち~ん。


 儀式は終わった。ミノウは俺からスクナの眷属へとジョブチェンジを果たした。


「ジョブは変わってないと思うけど。じゃあ、ネコウサともども、よろしくね、ミノウ」

「ミノウ様。僕もうれしいモん」

「こちらこそヨロなのだヨ」


 よし! これでいい。すべてが丸く収まった。すべてが、な。


 俺は心でガッツポーズをしていた。丸く収まっただけではないのだ。


 これで俺が自由に使えるアイテムは。


「アイテム言うな!」 ハタ坊

「誰がアイテムなノだ?」 オウミ

「なんかワシも見られている気がするゾヨ?」 イズナ

「俺もアイテム扱いなのかよ!」 カンキチ

「あれ? 我はもう違うヨ?」 ミノウ

「なんで私まで?!」 スクナ


 以上、6名となったのである。


「なんだかユウの様子がおかしい。なにが起こったんヨ?」

「それはミノウが悪いノだ?」

「いや、それは違うと思うゾヨ」


「「「じゃあ、いったいなにがどうしたノだヨゾヨ???」」」

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