第326話 ミノウ、眷属辞めるってよ

「……ということなのよ、てへっぺろ」


「てへっぺろ、じゃねぇよ。こら、ミノウ!


「な、なん、なんでそこで我が名指しなのだヨ。てへっぺろと言ったのはスクナなのに、我になんのきゅぅぅぅぅ」

「てめぇ。俺を騙して楽しんでいやがったな!」

「騙してはいないきゅぅヨ。我は本当のことしかきゅぅヨ、言ってないヨきゅぅぅ」


「やかましいわ! こうしてくれる」

「きゅぅきゃははははは、こらヨこらヨ、くすっぐたぎゃぁぁぁぁああははは、よ、よせヨ、よすのきゃはははは」


 まったく。ちょっと涙目になった俺の水分を返しやがれ、こちょこちょこちょちょ。


「きゃはははは。だって、スクナがきゃあぁぁぁはははは、そう言ったらユウが驚くってきゃはははは言うから乗ったひゃははははだけヨ」


「なに?! スクナがそう言っただと。許さん。こちょこちょこちょこちょこちょこちょ」


「ちょ、ちょと、ちょっと待つのだきゃはははははは。なんで我への責めが厳しくなるのヨきゃはははは。そこはスクナにきゃはははは向けるところできゃはははであろうぎゃぁぁぁぁ」


 俺がスクナに怒れるはずないだろうが!


「いや、それは自慢にはならんノだ」

「オウミ、お前もこうして欲しいか!?」

「ちょっとうらやましいノだ。あっ、ウソ、ウソなノだ。冗談なノだ。そんな真剣な目で見るでないノだ!! 八つ当たりするでないノだ」


 くっそ。ちょっと本気にしてしまったついさっきの自分を、なかったことにしたい。えぇいもう。


「こちょこちょこちょこちょこちょこちょ」

「ぎゃははははは、あはははわぁははは、や、止めてぎゃはははは、だんだんきつくなってきたヨぎゃははははは」


「ユウさん、もうその辺で許してあげて」

「ぐっ。ほれ」


「きゃはあ、はぁはぁはぁはぁ。もう、そんなに怒らなくてもいい……なんでユウが涙目なのヨ?」


「う、うるさいわっ。くそ。騙された自分が憎い」

「騙したわけじゃないってばヨ」


 顛末はこうである。


 スクナはミノウに転送させてニホン中のあちこちに飛び、ラーメンの素材集めと量産の可否を探っていた。素材があっただけではダメなのだ。ちゃんと商売になるレベルの品質と物量が保持できなれば、そこから買うことはできない。


 そのために、何度も同じ場所に行ったり、交渉したり。それはもう目が回るほどの忙しさであった。


 それにミノウはよく応えてくれた。そしていつしかふたりの間には愛情が芽生えて痛いっ!


「どうしてそこで、ギャグに走るのよ!!」

「少しはお色気も必要かと思っ……はい、すみませんデス」


 だが、ミノウは人を転送することができない。そのために、ネコウサを特訓して転送技術を身に付けさせたのだ。その間、27分であった。


「どんだけ短い特訓なノだ?!」

「それは僕が天才だからだモん」


「うそつきやがれ! このうさぎねこ!」

「うさぎねこ言うなモん! ウソなもんか! 現に転送できるようになったし、自転車の運転もできるモん!」


「そんなもの……簡単……じゃないのか?」

「我は自転車は乗れなかったヨ。それに転送そのものは簡単だけど、転送ポイントの設置はわりと時間かかるヨ。だけどこのネコウサは、どんな場所でも着くなり即ポイント設置ができていたヨ。あれはたいしたものヨ。それに物覚えの良さも半端なかったヨ」


 つまり、最初はミノウがネコウサを連れて転送先に行く。そこにネコウサが転送ポイントを作ると、戻ってきて改めてスクナを連れて転送する。


 そんなことを延々と繰り返していたらしい。


 そうしているうちに、ミノウとネコウサとの間には愛情が芽生え……ませんよね、あはははは。


「ミノウ様に弟子入りしたモん」

「したんかい!」

「させたヨ。しかしそこで問題が起きたヨ」


「どんな問題だ?」

「いまは我とネコウサは、スクナの元にいるから一緒にいられるから良いが、この仕事が終わると、我はユウの眷属に戻ることになるヨ」


「そりゃそうだが、別に俺たち(俺とスクナ)はいつも一緒にいるではないか?」


「スクナにあちこち飛び回らせたのは誰ヨ」

「俺ヨ」

「微妙な口マネをするでないヨ。スクナにはウエモンとのコンビ仕事もあるし、これからもユウとは別々の活動をすることに多いだろうヨ。それは面倒だなってことになってヨ」


「ということは?」

「スクナの眷属に、我はなる!」


「どこのゴム人間だよ! だがそのためには、まず俺との契約を切らないといけないだろ」

「そうなのだヨ。だから相談なのだヨ」


「いや、相談じゃなかったから! 最初から辞めるって宣言してたから!」


 だから勘違いしちゃったじゃねぇか。このままどっかいっちゃうんじゃないかって、こんちくしお!


「なぁ、良いであろうヨ?」

「そういうことなら最初にそう言えよ。スクナはそれでいいのか?」


「うん、ネコウサがね、この1週間でものすごくレベルが上がっているのよ。転送だけじゃないの。治癒魔法も使えるようになったし、それにネコウサはともと識の魔法使いでしょ? そのうち、それも自在に使えるようになるってミノウが言うし」


「なに?! 識の魔法が使える……そういえばアマチャンが言ってたな。ネコウサは識の魔法使いだと。ただ、レベルが低いだけだとか。それをミノウの指導で上げたということか?!」


「うん、ミノウの指導のおかげらしいの。それならいつも一緒にいられたらもっと早くユウさんに必要な……なんだっけ、元素を操る? こともできるようになるかなって」


 そうか! ネコウサという手もあったんだ。それならスクナに急いで識の魔法使いになってもらう必要はなくなる。もっと大人になって自分の適性を見極めてからでいいわけだ。その代わりをネコウサにさせればいい。


 ネコウサへの識の魔法を伝授させることは可能かな? 無理矢理にでもさせればいいか。アマチャンのことだ、なんとかなるだろう。それに、いま気づいたことがある。この状況は利用できるぞ。よし! そうしよう!!


「そういうことなら、俺には反対する理由がない。いいだろう、ミノウ。たったいまを持ってお前との眷属契約を破棄する」

「おう! だヨ」


「……。で、どうすりゃいいんだ?」

「どどどど。知らんかったのかヨ!」

「眷属にする呪文だって、俺が知ったのは偶然だぞ?」

「そんな大リーグに行ったときの福留選手*の応援看板みたいに言われてもヨ」


*:メジャーリーグ(カブス)入りした福留選手への応援のつもりで言った「It's Gonna Happen(カブスの優勝がきっと来るぞという意味)」という言葉を、機械翻訳で日本語に翻訳したら「偶然だぞ」となり、それをプラカードにして球場のファンに配っていたことが原因である。

 なんjでしばらく流行した。


「だから解除する呪文を教えてくれ」

「もうやーめたっ、だヨ」


 どう考えても、この世界の呪文はおかしい定期。


「まあ、いいや、じゃあいくいぞ! もうやーめたっ」


 …………


 あれ? いつものち~んはないのか?


「もうやーめた もうやーめた もうやーめたもうやーめたもうやーめたもうやーめためためためた」

「そんなやけくそで言うものではないヨ。でも、どうしたのだろう?」


「呪文が間違ってないか?」

「合っているノだ。それで眷属契約が解除できないということは、なんらかの理由があるノだ」


 どんな理由が?!

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