第320話 第7章 イセシマ編 ラーメンの原料

「7章のタイトルが、まるっきりるるぶだヨ」

「そのためだけに、わざわざシマを入れたノか?」


 俺の中ではイセとシマはワンセットなのだ。むしろ熊野を入れるべきという意見には、耳を頭の中を臓器封鎖して回避するのである。


「まったく意味不明なのだゾヨ?」

「政治家が良くやる姑息な手法だよ。いきなりアラビア語を使って煙に巻くみたいな」

「危険なのでよすノだ」



 熊野勢(ヤタガラス含む)が攻めてくるのは、田植えという重労働をやった直後である。もともと食糧事情がそれほどよくない地域である。魔人なら転送も使えるであろうが、兵士は一般の農民だ。


 それが100kmの道のりを、重たい装備を身に付けて徒歩でやってくる。それらを迎え撃つ。それが今回の目的である。



「それでユウさん。麺は何人分くらい用意すればいいのでしょう?」

「そうだな。1日に3,000食ぐらいは確保したいものだが」


「ええっ。そんなにですか……。原料は大丈夫ですが、どうやって麺打ちをしようか。ちょっと計算させてください」


「ほい。麺はモナカにまかせたが、配合はこのメモを参考に。サンプルができたら見せてくれ。必要な人数はシキ研から出すから必要な人数を算出しておいてくれ。それから、ダシの材料はホッカイものが多いので、調達係はスクナでいいかな?」


「生産者と交渉して買い叩いてくればいいのよね。そういうのは得意」

「いやいやいや、適正値段で買えばいいからな?!」

「でも、あちこちに飛ばないといけないから、私ひとりじゃ不便ね。ユウさんの魔王をひとり貸してくれない?」


「ああ、いいぞ。ふたりいるが、どっちがいい?」

「我らは、レンタル家族なノか?」

「家族じゃねぇよ。松本健太郎さんか!!」

「誰?」

「レンタル家族の作者さんだよ。恥ずかしいから言わせんな」


 松本健太郎『レンタル家族』で検索すると出てきます。双葉文庫から絶賛発売中です。



「どっちがいいかな。大量の材料を運ぶ必要があるなら、ミノウのほうが対応可能だが」

「私はそれでいいけど、ミノウはいい?」

「あいヨ。我はときどきアズマやカンサイで運搬の仕事があるけど、それ以外のときならいいヨ」


 ミノウは運搬部長である。アズマにはマツマエがいて、そこには主にホッカイ国の商品(材木やエルフ薬など)を送っている。

 カンサイにいるのはグースで、そこにはイズモのソロバンを卸している。イズモからの鉄はここミノに運んでいる。


 それがいずれもミノウの仕事だ。


 あれ? こうしてみると意外と仕事量が多いな?


「毎日あるわけじゃないから、問題ないヨ」

「そうか。じゃあスクナ。ミノウを貸し出す。通常業務に支障がないように使ってやってくれ」

「うん、ありがとう。ネコウサが転送を覚えたら、必要なくなるんだけど。それまでミノウ、お願いね」


「そういやネコウサはどうしてる?」

「別に、なにもしてないモン。文句あるのかフンっ」

「どうしてるって聞いただけだろうが。まだ生意気なことを言ってやがるのかこのやろ。いっぺん締めてやろうか」


「やんのか、モン!」

「かかって来いやぁ!」


「こん! こん!」

「「痛い!! なぁモン」」

「はい、そこまで」


「なんかスクナのケンカを治める手順がこなれているノだ」

「レベルが上がっているヨ」

「そんな経験値ばかり増やすな!」


「ありがとう、ユウさん。じゃまずは煮干しを探しに行くことにするね。3,000人分っていうとかなりの量になるね」

「当面は寸胴1杯分でいい。そのあと量産可能かどうかも確かめてくれ。あ、スクナ。煮干しといえばカタクチイワシが有名だが、どこに行くつもりだ?」


「あれは瀬戸内海で獲れるものなので、カンサイかなって」

「良く知ってるな。それならついでに、トビウオも探してきてくれないか」

「ああ、あごだしね。トビウオを焼いて粉末にしたやつでしょ」


「お前すごいな。その通り! もうまかせて良さそうだ」

「ユウさんのメモがあるおかげよ」


 他にもグジョウでは地鶏を発注して。メイホウはハムが有名だけど叉焼もあるかな? どうやって豚を仕入れているのかそっちのほうに興味がある。それに香味野菜か。ネギや玉ねぎ生姜なんかは地元のを使おう。地産地消である。


「地産でも地消でもないようだヨ?」


(カツオ節は太平洋側にしかないはず。どこにしようかな。本場って土佐だよね。そういえばラーメンといえば胡椒……胡椒? あんなの日本にあったっけ?)


「ユウさん、胡椒なんてどうやって手に入れる?」

「胡椒? そんなもん俺のメモに書いてないだろ。不要だ」

「え? 必要ないの? 私、小さいころよくけひゃほひゃほ」

「なんだって?」


「ち、違うの。気にしないで。ラーメンに胡椒が必要って本を読んだことがあって」

「それは昔の話だな」

「昔って、どの世界のいつごろでどのくらい昔の話?」


「あれは肉の臭みを消すためのものだ。昔の動物系スープは、鮮度の問題や処理の未熟さがあって臭かったんだ。その匂いを消すための胡椒だが、俺はそんなヘマはしない。むしろ胡椒で繊細なラーメンの味が壊れてしまうのが嫌だ。だから使う予定はない」


「そ、そうなのね。了解っす。じゃあ行ってくるね。ミノウ。まずはカンサイまで。よろしく!」

「ひょいっヨ」


 よし。これでラーメンの3大要素である麺(モナカ)と、スープ(スクナ)の原料についての手配は済んだ。


 スープ作りはウエモンの仕事だ。それにあと1つ、大切なものがあるのだが。


「ユウ。寸胴が1個できた。これでいいか?」

「ふむ。思ってたほど大きくないな。直径50cmぐらいか? これにウエモンが入るか?」

「入れるぞ。キャンプのときに使えばお風呂になる」


「風呂にすんな。お前のダシは必要ない。これだと150リットルぐらいか。ラーメン1杯に300ミリリットル必要だとすると、500杯とれる計算だな。3,000食必要だから6個か」

「じゃあ、余裕を見て8個は作ってもらわないと」


「いやスープはな、3日間ほど煮込む必要があるんだ」

「ひゃぁぁっ!」

「ウエモン、それだけの設備がいるということになるな」

「そ、そこまでとは。じゃあ鍋だけじゃないぞ。釜に燃料となる薪もいる。場所もいる」


「燃料は炭を使ってくれ。そのほうが熱効率がいい」

「しかし、煮込んでいる間は誰が面倒を見る? 私ひとりじゃ無理だ」


「その通りだな。釜の火をキープするなどの交代要員は、シキ研のヒマなのを使おう。それは量産になってからの話だ。だけどもうひとりは専属のお手伝いがいる。おーい。ミヨシ」

「はーい。呼んだ、ユウ?」


「ミヨシ。ラーメンを作るから手伝って欲しいんだが」

「ラーメン? ってなに?」

「麺の細いうどんだと思ってくれ」


「別に普通の太さのうどんを作ればいいじゃないの?」

「いろいろあるんだよ、これが戦争抑止に役立つんだ」

「なにそれ?」


 それはあれこれくまぐまと、いつも通りの短縮説明で終了させる。


「ふぅん。そんなことできるのかしら。それで私はなにをすれば良いの?」

「ミヨシにはスープ作りのお手伝いをして欲しい。釜とか燃料になるものとか調理場所とか。いろいろ確保しないといけない」


「ウエモンが総責任者なのね。分かった。タケウチの料理はもう弟子たちにまかせておけるから、こちらを手伝うわ。でもユウ、3日も煮込むって沸騰させたままなの?」


「あ、そこまでは必要ない。弱火でトロトロという感じで3日だ。あく取りは定期的にやってくれ」

「とろ火でヨワヨワ。あく取りは定期的にと。めもめも。それに場所の確保っと」

「とろとヨワが逆なんですけど」


「場所はなんとかなるか?」

「このサイズが18個か。タケウチじゃ無理ね。シキ研も2階より下はもう一杯だし。あそこしかないわね」

「うむ。そこしかないな」


 どこのことですかね?


「ちょっとレクサスさんに話を付けてきましょう。ウエモン、一緒にいらっしゃい」

「うん、行く」


 いってらっしゃーいノシ。と言って気持ち良く送り出したのだが、俺はもうちょっと注意深くあるべきであったと、あとからものすごく後悔をすることになる。

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