第271話 ネコウサの仲間が

「我の羽根がお焦げになってしもたんヨヨヨヨ」

「我のシッポも少し焦げたのだしくしくゾヨ」

「我は別になんともないノだ。でも、疲れたノだ」


「「強いなオウミは!!」

「ユウの魔法と同じ光属性だからだノだ」


「あたしもなんともないけどな」

「ハタ坊は、どうして平気なのだヨ」

「私は神だからね。光の系統には強いのよ。これで2回目だしね」


「オウミ様。これはいったいどういうことなのでしょうか。ユウさんは魔法なんか使えませんよね?」

「使えないどころか、いまや国内でも有数の魔法使いなノだ。ただ使い方を知らないし、自分が魔法を使えることにも気づいているかどうか」


 こ、この国、有数?! ユウさんが?


 ユウが? あのユウが? 1時間も歩けないユウが? 俺のスクナって言った? すぐ寝ちゃうユウが? こんなちっこいくせに? 体力のなさを自慢するようなユウが? 俺のスクナってどうして? 腕立て伏せ2回もできないユウが? 腹筋は2回できるらしいけど?


「「「「「「ウソでしょっ!?!??」」」」」


「腹筋は2回できるようになったの?」

「いや、ウソだと言ったのは、そっちじゃない」


「このことは絶対秘密なノだ。忘れないようにな」

「本人にさえも言ってはならんヨ」

「むしろ、本人にこそ言ってはならんゾヨ」


「「「はい、分かりました」」」


 だけど、どうしてだろ?


「もごもご、狭いモん。出してモん。イズナ様? もごもご」

「ふがぁぁ、そうだった。危うく咬んじゃうところだったゾヨ。ほれっぽいっ」


「イズナ様、助けてくれてありがとう。でもいったいなにがあった……あぁぁぁぁ!!」


 そう言うやいなや、見事なダッシュでネコウサは駆け出した。


「ちょ、ちょっと待ってよ。ネコウサ! どこに行くの?」

「なんだか慌ててたゾヨ。このダンジョンから小物はいなくなったようだが、まだ危険な奴はいるかも知れないゾヨ」


「私も、私も行く。イズナも来て」

「分かったゾヨ」


 ネコウサったら、いったいどうしたのかしら。血相を変えていきなり走り出すなんて。。。ああっ、そうだ!! ネコウサの仲間たち!?


「イズナ?」

「うむ、気の毒だがおそらくは全滅だろうゾヨ。あれだけの魔法をくらっては、魔王クラスじゃないと生き残れそうにないゾヨ」

「ネ、ネコウサ……。まずは追いかけましょう」


 ネコウサにはかなわないけど、私だって走るのは得意なのだ。きっとネコウサは仲間を探している。だけど、きっと見つからない。そのとき、必要なのは私だ。ネコウサが咬んだ手を持つ私だ。私しかいない。


「いない。いないモん。いつもなら、いつもここに10匹はたむろしていたのに。じゃあ、あっちは?」


 あぁ、また走り出した。


「待って! 止まってよ、ネコウサ!!!」


 ダメだ聞こえていない。私はただ全力で追いかけるだけだ。ネコウサはあちこちを探りながら走っているから、なんとか見失わないで済んでいる。

 しかし、走り続けるのはけっこう辛い。ネコウサ、待ってよ。止まって。


「だ、ダメだ。ここにも誰もいないモん。みんな消えちゃったのか、そんな、そんなことって」


 ネコウサーー! 遠くからそんな声が聞こえた。あれはスクナの声だ。いまでは自分のご主人様だ。しかし、スクナが来るのを待ってはいられなかった。


「あっ、そうだ。あそこなら? イッコウが大きな魔物に襲われたときに、いつも隠れるあの場所なら? もしかして逃げ込めたかも知れないモん」


 あぁぁぁ、また走り出した。どこに行くのよ。ちょっと、あんたは私の眷属でしょ。待ちなさいってはぁはぁはぁ。


「スクナ、ワシが捕まえて大人しくさせる。後からついて来い」

「わ、わ、分かった。お願い」


「あそこへの入り口はどこだっけ。あぁ、なんかダンジョンの風景まで変わってしまった。確かあの岩と岩の間にきゅぅぅぅぅ」

「捕まえたゾヨ。ご主人様に呼ばれたら飛んで行くのが眷属の務めだゾヨ」


「イ、イズナ様。でも、それどころではないモん。ボクの、ボクの仲間たちが、ひとりも」

「ネコウサ―ーーーーーーー!!」


 追いついた私はネコウサを抱きしめた。


「スクナ、ごめんだモん。だけど仲間を探すモん」

「ネコウサ、落ち着いて。私もはぁはぁ、私も一緒に探すから、ね? そんなに、はぁはぁ慌てて走ると、危険かも知れないって」


「だけど、だけど、モん。スクナ。だけどモん。仲間が、ボクの手下たちが、友達が、兄弟が、いないモん」


「分かったから。私とイズナと一緒に行こう? 一緒に探そう、ね?」

「ネコウサ。残念だが、このフロアには魔物はもういないゾヨ」

「イ、イズナ!?」

「事実は早く言ったほうがキズが浅いゾヨ」


「えっ!? ウソ。ウソだモん。いつも一緒にここで遊んでいたモん。いないはずないモん。隠れているだけだモん」

「ネコウサっ」


 私はその身体をぎゅっと抱きしめた。ネコウサの悲しみが伝わってきた。ますます手に力が入った。ネコウサの体温が身体に染みこむようだった。


 こんな小さな身体で、仲間を必死で探すネコウサを見ているのは辛かった。だけど、私が目を背けてはいけないのだ。この子に無条件で味方になれるのは私だけだ。目からこぼれ落ちた涙が、連なってネコウサの上に落ちた。


「スクナ? なんで泣いてるモん?」

「ぐずっぐずっ。だって、だってネコウサが、友達がぐずずず」

「泣きたいのはボクのほうだモん。スクナが先に泣くのはずるいモん」


「だって、だって、わぁぁぁぁぁぁ」

「スクナ、泣くなよわぁぁぁぁぁぁ」


 こんなとき、私はなにも言えなかった。一緒に泣いてあげることしかできなかった。抱きしめてあげることしかできなかった。自分の無力さが憎い。


 あのとき、私が止めていればよかったのだ。ユウさんは私が襲われたと勘違いした。だからこの子に向かって攻撃をした。


 ユウさんは責められない。私のためにしてくれたことだもの。だから、ネコウサの悲しみは、私の責任だ。私が、私が、私が。私がきっとこれからこの子の心を癒す。それが私の仕事だ。義務だ。私がこの子のご主人様なのだ。


「ネコウサ。私がずっと一緒にいる。ネコウサの友達の代わりにはなれないけど、私がずっと側にいるから。ね、だから、泣かないでわぁぁぁぁ」

「ス、スクナ、わぁぁぁぁぁぁぁ」


 結局、ふたりして泣いているだけなのだけど。


 そうしているうちに、皆が集まってきた。最初に声をかけてくれたのはハタ坊だった。


「ネコウサ、だったな。このダンジョンをスキャンしたところ、まだ地下に1部屋あるようだな。知ってたか?」

「ああ! そうだ。ボクはそこに行こうとしてたモん!! そこにまだいるかも知れないモん!!」


 ハタ坊はスキャンとかできるのね。さすがダンジョンの経営者だわ。でも、そこだってきっと……。


「そこは分厚い岩盤の下だ。もしかすると、助かった仲間がいるかも知れない。行ってみよう」


 え? 助かっている可能性があるの? 


「ネコウサ!」

「スクナ!」

「「すぐに行こう!!」


「ちょっと待て、急ぐな。そこには上級魔物だっているかも知れないんだ。まずは私たちが入って調べる。入り方を教えてくれ。場所は分かるがどうやって入るのかが分からん」

「そうだ、それは我らにまかせるノだ」

「仲間がいたら必ず助け出すから、我らを信用するのだヨ」


「モん? だ、だ、誰だモん?」

「我はニオノウミの魔王・オウミであるノだ」

「ま、ま、ま、魔王ッ!! 様ぁぁぁ!?」


「我はミノの魔王・ミノウであるヨ」

「ま、ま、ま、魔王ッ!! 様ぁぁぁ!?」


「「驚き方がワンパターンなノだヨ」」

「そこにツッコまないであげて」


「まさかイズナ様? ハタ坊様? も魔王様モん?」

「まさか、私は違うよ。だけど、古い神だ。アイヅのな」

「我はエチ国の魔王ゾヨ」


「ま、ま、ま、魔王ッ!! 様ぁぁぁ!?」

「また同じだゾヨ」


「神ぐらいじゃ驚いてくれないのか。あたしだって能力だけならこいつらにだって負けないのになぁ」

「なんだとこら。アイヅの田舎ものが威張るでないノだ」

「そうだそうだ。我らの足下にも及ばないくせにヨ」

「ほぉ、やるってのか? ダンジョン内だったら私は無敵だぞ?」


「「あれ? そうだっけノだヨ?」」

「お主ら、相手を見てケンカ売れよ。ダンジョン内ならハタ坊はオオクニ以上だゾヨ」

「「そ、それはすまんかったノだヨ」」

「分かりゃいいんだよ」


「はいはい。それはいいから、その地下室というところへ行きましょう。ネコウサ、場所を教えてあげて。私たちは後ろからついていきましょう」


「モん!」

「ノだ」

「ヨ」

「ゾヨ」

「えっと、あたしだけそういうのがないんだよなぁ チラッ」


 か、か、考えておきます。ってか、眷属にそういうの(言葉のクセ)が必要という風潮、どうしよう?

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