第164話 因幡の白ウサギ
「それで、本題というのはいったい?」
「式見優よ。勝手なことをされては困るのだよ」
「あっちの本名で呼ばれるのは久しぶりだ。で、なんだよ、勝手な本題って」
「いや、勝手なと本題を混ぜないでもらいたい。話にくくなるじゃろ」
「それはすまんことをした」
「実は、こいつらから領地を取り上げたのはワシなのだ」
「そうだったのか? オオクニたちはうっかりしていて、魔王に盗られたようなことを言っていたが」
「それもまあウソではない。こやつらはな、ある時期から突然まるで働かなくなったのだ。毎晩毎晩酒盛りばかりしおって。そのために民が困窮しているというのにほったらかしていたのじゃ」
「オオクニ、そうなのか?
「それはその。えへへへ?」
ダメだこいつら。滅ぼしたろか。
「そこまで物騒なことを言うでない。それを危惧したワシは、ちょうど魔王が発生したのを利用して、そいつらに領地をまかせるようにしたのじゃ」
「ふぅん。結果的にそれはうまくいったと」
「うむ、予想以上にうまくいっておる。そこのオウミを始め、どの魔王も民を喜ばせるような施策を一生懸命実施しておるわ」
それ、好素を食べたいがためにだよな。知ってるのかな?
「せっかくワシが丹精込めて作ったこの国とその人々を、こやつらはないがしろにしておる。領地を取り上げたのは、その罰じゃよ」
「そうだったのか。じゃあ、俺がこいつらを助けたりしたら」
「こやつらの性根が直るまでそれは止めてくれ。それがよけいなことなのじゃ」
「そうだったのか。じゃあ、止めよう」
「「ええっ、そんなぁぁ!」」
「こいつらにもう見込みがないなら、すべてを魔王に与えてしまおうかとも思っているのだ。ただ、魔王とてそうそう発生するものではなくてな」
「それがいま7人ってことか。魔王になるにはなにか条件でもあるのか?」
「魔王というのは魔物の王だ。最上位魔人だと言い替えてもいい。その中で特に魔力にも知力にも優れている必要がある。しかし、なによりも大切なことがあるのじゃ」
「オウミのどこに知力が?」
「また我をディッすっているノか?」
「やっと起きたんか。ひれ伏してなくていいのか? この人、お前を睨んでいるけど」
「はははぁぁノだ」
ひれ伏してはいないが、小さくなっとる。なんて可愛い生き物だ。しかしこの人、そんなに怖い存在なのか。
「オウミの場合は、確かに知力という点ではナンだがな。しかしオウミが魔王にふさわしかった理由は他にある」
「他になにが?」
「人間に人気がある、ということじゃ」
「人気かよ!? 能力じゃなくて?!」
「能力だけなら他に候補はいくらでもおる。しかし、人気のある魔人は少ないのじゃ」
「そういえば、人間から魔王になったのがいたな」
「クラークか。あれは大変珍しいケースじゃった。ホッカイ国に行ってまさしく人が変わったのだ。もともと才能のあるやつではあったが、少し歪んだ性根であった。あのままではとても魔王にはできん。だが、ホッカイ国へ言ってその土地に馴染むころには、なぜかとてもまっすぐな気質となり、しかも住民に愛される魔人になっておったわ」
「それで魔王にしたのか?」
「やつがなりたい、というのでな、ワシが承認したのじゃよ。そのときにホッカイの領地はワシが与えたのじゃ」
魔王ってのは、そうやってなるものだったのか。ある意味人気商売か。自分勝手に名乗っているわけじゃなかった……あれ? 承認した? ……なんかどこかで聞いたような、なんだっけかな?
「ちなみに、お主がオウミを眷属にするのを承認したのもワシじゃよ?」
「あぁぁぁぁっ、やっぱりそうか!! あの音。聞いたことがあると思ったんだ。あのとき、カウンターベルを鳴らしのはあんたか?!」
ち~ん。
「この音であろう?」
「そう、それそれ。あのちんちんはあんたがやっていたのか!?」
「そのちんちんは止めるのじゃ。違う意味で問題になりかねぬ。でもそうじゃ。お主がオウミやミノウを眷属にするときに、OKを出したのはワシじゃ」
「そういうことだったのか。それであのときオウミは……」
あのときの回想シーン。オウミのセリフ。
「うっそぉぉ!! 神よ! 風よ! 光よ! そんなご無体な!? 女神たる我がこんちくしょーもない男の眷属になど、なれるはずがないではありませんか。お考え直しください!!」 ち~ん。
回想終わり。それで神よ、って言ったのか。あ、思い出したらちょっと腹が立ってきた。
「誰がこんちくしょーもないだ! オウミめ、こうしてやるこちょこちょこちょ」
「きゃはきゃきゃ、よ、よせ、よすのだ。お主はときどきわけの分からん行動をきゃははははは。いまさらそんなことできゃははは、怒るのはきゃはははおかきゃははは」
「というわけだったのだ」
「なるほど。あんたが承認したからこいつもミノウも、俺の眷属になったわけだなこちょちょ」
「きゃはははは、よせってばきゃはやめきゃはは、今回はいつもより長いきゃははははは正月じゃないのきゃははははいつもより余分にくすぐぎゃはははは」
「なにげに自分を女神とかウソをついておったしな、最近は領地から離れてあちこちを遊び歩いているようだし、お仕置きの意味も込めて眷属にしてやったのじゃ」
「そんなの酷いノだ。我は遊び歩いていたわけではないノだきゃはは」
「好素を食べに来たんだろ?」
「うががごげごご」
「それから刀が欲しかったとも言っていたな?」
「すぴー」
「寝たふりすんな!」
「とはいっても、オウミはまだ最低限のことはしていたから罪は軽い。こいつらのように酒を飲んで我を忘れるようなことはなかったし、それに」
「それに?」
「あ、いや、なんでもない。ともかく魔と神のことについては、我が権限を握っておる。次の魔王が見つかり次第、こやつらからアズマも取り上げるつもりじゃ」
「「そんなご無体な!?」」
「それが嫌なら、ちゃんと働くだけのことじゃないの?」
「その通りじゃ。その姿勢をワシに見せよ。そしたら考えてやる」
「「そんなご無体な!?」」
「なんでご無体だよ!! やるべきことをやるだけのことだろが!」
「えっと、やるべきって。いったいなにをすれば良いのでしょう?」
オオクニの発言にがくがくがくがくと崩れ落ちた俺たちであった。こいつら、いままでなにもしていなかったのか? 酒飲んでいただけ? そんなまさか?
「我は戦ったぞ。この国を奪おうとする賊から守ったのだ!」
「賊って仏教のことか? 手下にされたんだろ?」
「うがーーーー」
「この国の管理をまかせされた最初のころは、ちゃんとやることをやっていたんだよな? しかし仏教と戦いの後、神は堕落したということか」
「そういうことに、なるようじゃの」
「仏教ってのはそんなに悪質な連中なのか?」
「いや、真面目なやつらだよ。シャカも立派な人じゃ。だからワシは放置しておった。ちなみに、ヤマト国の魔王・ヤマトはもともとアスカという釈迦如来じゃよ」
「ほぉ。つまりヤマトってやつは仏教側ということか。それを……あんた誰だっけ?」
「いまごろそれか?! ワシはアメノミナカヌシノミコトじゃよ。何度も言うがこの国を作った神じゃ」
「アニメの主で巫女とさん?」
「お主は一度耳をクラークに見てもらえ。いまでは良い薬があるぞ」
「名前が長いんだよ! もっと短い名前にしないと」
「しないと?」
「読者が覚えにくいじゃないか」
「さっきから、あめなめせみでいあにそ様に向かって、お主はあまりに失礼が過ぎるぞ!」
「お前だって最初の2文字しか言えてないじゃねぇか!」
「仕方ない。天之御中主神で覚えておくがよい」
「よけい覚えにくいわ! しかし漢字で書くとたった6文字なのに、読みは12文字もあるんだな」
「あ、12文字なら我の転写魔法が使えるノだ」
「転写してなんの意味があるんだよ!!!」
「それならお主の好きに呼ぶが良い」
「そか。じゃ、アマチャンで」
「おい、それはなにかとまずくはないノか?」
黙ってりゃ分かりゃしないドヤッ。
「創造神様の名前を短縮するなど失礼が過ぎるぞ!!」
「タケチャンの仲間だと思えば親しみも涌くやろ」
「名前ネタはもうそのぐらいでいいじゃろ。それで、なにか言いかけていたようじゃったな?」
「そうそう、ヤマトは仏教側の魔人で、そいつをアマチャンは魔王にしたと」
「その通りだ」
神仏習合ってやつだな。えっと、話がややこしくなってきたのでちょっと話をまとめよう。
この国を作ったのはアマチャンで、国の管理をオオクニたちにまかせた。
しかしオオクニたちは仏教と戦った後は、毎晩酒をかっくらって飲んだくれるばかりの堕落神に成り果てた。民の疲弊など知ったことかと。
それに危機感を持った創造神・アマチャンは、魔王の出現をきっかけにその領地を魔王に与え、オオクニから取り上げた。
その魔王はいま7人になった。そのために、オオクニたちは収入が減って困窮していた。そのときちょうどトヨタ家からの申請書で俺のことを知り、なんとかしてもらおうと呼び出した。
で、金がないと訴えた。そのときの俺は気づいていなかったが、こいつらは民を豊かにして自分の収入を上げるなんていう発想させもないろくでなしであった。だがさすがにもう、飲んだくれている場合ではなくなっていたと。
「それは違う。こいつらはいまだに飲んだくれておる」
「はぁぁ?!」
「食べ物や着る物は買えなくなったが、酒は買って毎晩酒盛りはしているのだ」
「もう、お前らほんとにアホだろ?」
「め、めんぼくない……しかし、酒がないと手が震えるし、落ち着かないし変な汗をかくし幻覚を見ることも」
「アルコール中毒じゃねぇか!! 医者に診せろ、医者に!!」
「中国だと? また攻めてきたのか?」
「中毒だ! 幻聴も始まってんのか。もういい。アマチャン、ダメだ、こいつらどっかに放り出せ。もっとまともなのがいるだろ。イザナミとかイザナギとかどこ行った?」
「それを放り出すなんてとんでもない!」
「さっき引退させるとか言ってたじゃないか。これがニホンのトップじゃ国が保たないぞ。それなら治療が終わるまで幽閉して、誰か他のものにやらせろ」
「引退させるにも代わりを見つけてからじゃよ。それとも、お主がやるか?」
「よし分かった俺にまかせろ……って言うかぁぁ!! 俺は政治家なんかに向いてねぇよ」
なんか今回やたらと突っ込むことが多いなぜぇぜぇ。
「アマチャン様。代行を立てるというのは良い案だと思われます。親族などにそういう方は見えないのですか?」
そこでまたレンチョンの登場である。なんでポイントポイントでおいしとこを持っていくんですかね?
「そういうキャラなので。せっかくここまで連れてきてもらったのだから、少しは存在感を見せておかないと、ユウコさんのようになってしまいます」
「私? 私は別に。魔王様たちに頭をはたかれただけで出番はそれっきりだけどわぁぁぁぁん」
ユウコはどこかで泣かせておいてくれ。これ以上ややこしくすんな。
「代行者にあてはあるか?」
「そう言われてひとりだけ思い付いたものがおる。オオクニの嫁だ。いまは実家に帰っておるそうだが」
「オオクニに嫁がいたんだ。その実家って遠いのか?」
「隣の部屋じゃ」
「すぐに呼べよ!!」
なんで実家が隣の部屋だよ。せめて家って言えよ。
「そのぐらい大きな宮殿なのじゃよ。メンテをしてないから老朽化が激しいがの」
「メンテする金も、こいつらは全部酒にしちゃったんだな」
「いえ、そんなことはありません。肴にも使ってます」
「もっと悪いよ!! 自慢気に言うな!」
タケチャンがドアを開けて走っていった。呼びに行ったのだろう。
「その嫁って誰だ?」
「スセリというそれはそれは大変美しい……女性であるぞ」
「その……が気になるんだが。そんなキレイな嫁がいて、この体たらくか。オオクニなんかいっそ消しちゃわない?」
「それを消しちゃうなんてとんでもない!」
「またそれか。アマチャンはなんでこんなのに同情するんだ?」
「同情ではないのじゃ。こやつも本来は人情の厚い良いやつなのじゃよ」
「人が良いってのは、それだけで為政者としては失格だ。人情に流されて統治なんかできるものか」
「それはそれで正論ではあるがな。こやつは親切で気の毒なやつなのだよ。皮を剥かれたウサギを助けた話は知っておるであろう?」
「因幡の白ウサギのことか?」
「そうじゃ。そのウサギを治療していやったのがオオクニじゃ。しかしオオクニには悪い兄弟がおっての」
「あ、そういうのいらないから」
「兄弟はオオクニを一度殺し、それを母親が助けたの……いらないってなぜ??」
「あの、ここから我の良い話が始まるのだが」
「ここからいまの嫁を貰うところまで、大変面白い話がたくさんあるのじゃよ」
「そういうのもいらない」
「「しょぼーん」」
神がふたりして落ち込むな。
そしてスセリがやってくる。それはまた、次の波乱を……。
「呼んだノか?」
「さて、どうでしょう」
「ノープランですか!!」
なんで俺はレンチョンにまで突っ込まれてんですかね?
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