第34話 間の悪い人たち
時間を進めたり遡ったりする魔法、というものがあることを知った。
タケウチで作った製品が経時劣化する過程を、そのまま観察することができるという恐ろしい魔法だ。超級魔法のひとつで、時間統制魔法というそうだ。進めることもできるが遡らせることもできる。
今までなら、金めっきがどの程度の強度や耐候性を持っているのか、それは「使ってみなければ分からない」という世界であった。
これでは売る方が安心できない。品質保証をせずに販売しているようなものだ。
客の多くが貴族なだけに、市場クレームが来たら補償問題で済むかどうかも分からない。命に関わる可能性さえある。
しかし、この試験で信頼性を把握しておけば、最初から「このぐらいは持ちます」と、仕様にうたうことができる。
例えば金めっき品質が3年持つということが確認できたら、2年保証を付けて売ることができるわけだ。
これは大きい。
元の世界で経時劣化試験をやろうと思ったら、高湿度・高温などの環境を一定にする試験装置を作る(買う)必要があった。
その環境で30日間持つのなら、通常環境なら1年は持つだろう。というような理屈だ。
実際の試験は、そこまで単純ではない。自然環境にはもっといろいろな条件(空気、汚染物質、紫外線、電荷など)があるから、それに合わせて様々な条件が用意されている。
だが、いつも同じ条件で試験をすることによって、以前のものと比較することは可能だ。それでだいたいの目安も分かる。
市場クレームに対応するための貴重なデータになるのだ。
それを30日という時間さえも使わず、ほんのちょいちょいっと魔法かけるだけで試験ができるなんて、ああ、これも前の世界に持って帰りてぇぇ。
「あのぉ、ちょいちょい、ではないノだぞ」
これはいいものを手に入れた。ぜひ大いに活用しよう。超級魔法とやらパネェっす。
「あのぉ、時間統制魔法法というのはだな、そんなことのために使うものではないノだぞ」
「そういえば、本来は何に使われる魔法なんだ? あまり聞かない魔法だな」
「超レア魔法だからな」
「使い道がないから誰も気にとめないのだろ?」
「やかましいわ。あれを開発したのは医者なノだ」
「医者?」
「大ケガをした人にこの魔法をかけて、治ったように見せかけたノだ」
「ああ、なるほど。ケガする前の段階に戻せば治るわけだ」
「しかし、治るわけではなくてな」
「ダメなのか?」
「遡った時間が経つと、やはりその者はそのケガは復活してしまうのだ」
「ありゃりゃ」
「それを避けるには魔法をかけ続けるる必要があった。だが、そんなことを万人にしてやれるはずはない。その内それがバレて迫害を受け、その医者は魔道に落ちた」
「この物語はだな、なるべく怖い話はなしにしようという作者の意向があるのだぞ?」
「何の話だ? ともかく、その男はやがて魔王となって、今では北の大地の覇者になっている」
「ほぉ。そんな遠くならこちらには関係はないな」←またフラグ?
「まあ、そうだな。ちなみにその医者は我の元眷属だ。この魔法はそいつに教えてもらったノだ」
「女神が眷属を持てるのか!?」
「当たり前だろ。そんな関係はそこいら中にあるではないか。人と神、魔王とカエル、アシャラノウタと硯、魔王と魔王というのもある」
「なんか少し気になる単語もあったが、そんなありふれたものなのか」
「お主らの世界でもあるではないか。社員は社長の眷属だろ?」
「え? そんなこと考えたことなかったが」
「社長がこうと決めたらそれに従うのが社員であろう?」
タケウチの場合はそうでもないような。しかし
「言われて見ればその通りか。会社に入るということは、その経営者の眷属になる、という意味でもあるな」
「だろ? そのぐらいよくある話なノだよ」
「だけど、会社なら辞めるという選択肢があるぞ?」
「眷属だってあるぞ? 双方が納得すれば良いのであろう?」
それもそうか。
元の世界では、社員はこちらよりは強い権利を持っていたが、それでも会社に従わないといけない論理は、主従のものと本質は同じだ。
「それって」
「ん?」
「いつでも俺の眷属を辞められるのだぞ、っていうアピールだったりしないか?」
ぴゅ~。
「口笛吹いて誤魔化すんじゃないの。俺たちの関係はそんな簡単じゃないだろ!!」
そこにいきなり登場したのがいつも間の悪いミヨシである。
「え? 俺たちの関係? 簡単なものじゃない?? ユウったら、もうそんな相手を見つけてしまったのね。……アチラでしょ? そうよね? それしかないわよね? どこにいるの? 隠れてないで出てきなさいよアチラ。黙っててあげるから」
ああ、もうまたややこしい奴が出てきやがった。
「ミヨシ、お前はいつもこういう勘違いを」
「ミヨシさん、呼びました?」
アチラもこんなタイミングで出てくんな!!!
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