第33話 タダで使える

「こんな鉄の板など、あっという間に錆びさせて見せるノだ」

「やってみればー(ハナホジ)」


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」


 それ呪文なん?


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」


 ただ力んでいるようにしか見えん。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬんぬんんうぬ」


 呼吸が乱れてんぞ。


「ぐぬぬ、ぜぇぜぇぜぇぜぇはぁはぁ」


 まるで、呼吸をするように呪文を吐く?


「ぜぇぜぇ、おかしい、もう半年は進めたはずなのに」


 半年?


「もう半年も進めたのか。ほんの数分しか経ってないのに。オウミの能力パネェッす。それでも一向に錆びる様子はないようだが」


「おかしい、おかしい。そんなはずはおかしい。鉄ごときがおかしい。3日もやれば錆び始めるノにおかしい。お主、これになにかやっただろおかしいぞ」


「おかしいを連呼するなよ。それはもちろん。やったさ?」

「やったんかーい。そんなノはインチキだ! 契約は無効だ!」


 契約? そんなことしたっけ?


「いや、それはれっきとした鉄だぞ。インチキはしていない。多少手は加えたけど鉄は鉄だ。ところで契約ってなんだっけ?」

「確かに見た目は鉄だが……あ、契約なんか別にしてない、ですわよね、おほほ?」


「なんで口調がいきなり変わるんだよ! それで誤魔化そうとしていることがバレバレだろうが。契約って、もしかしてあの口約束のことか?」

「うげっごっがっ」


「何でも言うことを聞いてやろう、って偉そうに言っていたような」


 ぴゅぅ~。


「口笛吹いて誤魔化そうとすんな。あれって、契約とかいうそんな正式なものだったのか」

「当たり前……ほにゃほららんらん、そうでもないですわよ?」

「誤魔化す気満々じゃねぇか」


「そ、そもそもだな。これはインチキだから契約は無効なノだ。意味はないノだ。この世界の神々がそんなことを許すわけが」

「じゃ、お前は今日から俺の手下な」


 ち~ん。


 という音がした。何だ、今のは?


「うっそぉぉ!! 神よ! 風よ! 光よ! そんなご無体な!? 女神たる我がこんちくしょーもない男の眷属になど、なれるはずがないではありませんか。お考え直しください!!」


 ち~ん。


 お考え直しをしてもらっても、音は変わってないようだが? ってかこんちくしょーもない男で悪かったな。どういう悪口だよ、それ。


「うえぇぇぇぇん。そんなの、そんなの酷い。インチキなのに、こんなの絶対インチキに決まっているのに、ウソよ、ウソだと言って欲しいノだぁぁぁ」


「ところで、時間を進める魔法ってのは、半年が限界なのか? もっと10年とか進めることはできないのか?」


「わ、我がこんなに悲しんでいるのに、なんで勝手にそっちの話を進めようとしてるノだ!!」

「え? だって、俺はそういうこと気にならないタチだし」


「タチで済ますな!! せめて我をもっと労れ!!」

「そうか、よしよし。それでな、20年進めたらどうなるかも知りたいのだが」


「人の話を聞けぇぇぇぇぇぇ」

「ところでオウミ、さっきからキャラ壊れてんけど、それは良いのか?」

「あぁぁぁぁもう、あまりのことに忘れてたぁぁぁ」


 やっぱ作ってたんかい。


 なんか俺よりよっぽど人間っぽい女神様だこと。


「もういい? 時間を進める魔法のことなんだけど」

「お主みたいな薄情者なんかに仕えるのは嫌だぁぁ! ぜったいに嫌なノだぁぁぁ」

「あー、はいはい。で、魔法なんだが1年ならできるのか?」


「えぐえぐえぐ。お主はほんのこれっぽっちも歩み寄る気はないノだな」

「歩み寄るもなにも、オウミが俺の眷属になったのはすでに確定事項だ。終わったことにはもう興味ない。これからのことを考えるべきだろ?」


「そりゃ、そうなんだが。確かに正論なのだが。まったくもってその通りなノだが。なんて言えばいいノか、誰かこいつに説教をしてやってくれ」

「って言われましても誰もいないし」


「お主は、前の世界でもそんなん風だったノか?」

「そりゃ知識や性格はそのまま持ってきちゃったからな。ユウという少年がどうだったのかは知らないが」


 さもありなん、と大きくため息をつきながら、オウミはようやく俺の質問に答えてくれた。


 まったく面倒くさい女神だ。

 お主なノだよ!!


「時間を進める魔法は、1年がほぼ限界だ。それ以上はさすがの我も魔力が持たない」

「そうか。その魔力ってのは、すぐに回復するものなのか?」


「我ほどになれば、一晩寝ればだいたいは……まて、お主何を考えているノだ?」

「いや、一日でできないのなら、続きを2日でも3日でもかかってやってもらおうと思ってだな。それは積算できるだろ?」


「……鬼だな」

「それをしてくれたら、年に10日ぐらい有給をやるからさ」

「ゆうきゅう、って何なノだ?」

「休んでも良いよって日」

「よし、それで手を打とうなノだ」


 まじか?! 眷属、そんなことで良いのか?!


 冗談で言ったのにマジになってしまった。周知の事実とは思うが、有給とは有給休暇である。つまり休んでも給料は減らないよ(査定はともかく)という制度である。


 だから、もともと給料という概念の外にある眷属というシステムに、有休という制度が適用できるはずはないのだ。


 ギャグを通したために道理を引っ込めてしまった。この世界では今後、有給とは眷属にも休みを与える日として認識されることであろう。知らんけど。


「じゃあそゆことで。今からさっそく続きをやってもらおう」

「そんなことできるわけないだろが! もうすでにどんだけ魔力を消費したと思ってるノだ!」


「なんだ今日はもうダメか。まあ、半年は持つということが分かっただけでも良いが……あ、そうだ。あと1週間ぐらいだったらいけるか?」


「まあ、そのぐらいなら、なんとか。それにしても、いきなりこき使う奴だなぁ」

「まあ、そう言わずに。これは一番初めに金めっきをかけたブロード・ソードなのだが」


「おおっ、美しい剣ではないか。我もこういうのが欲しいノだ」

「そうなのか。こんなでかいのが良いのか?」


「いや、持ち歩けるサイズのが欲しいノだ。こちらに遊びに来た理由も半分はそれなノだよ」

「金めっきが?」

「いや、金めっきができるとは知らなかった。こちらは昔から良い鉄が出るし、優秀な刀工も多いと聞いていたので一振り作ってもらおうかと思ったノだ」


「ふむ。オウミは自分が持てるぐらいの大きさの剣が欲しかったと」

「そうそう、そういうのが良いな。金めっきがしてあればなお良いなぁ」


 なんでうっとりしてんだよ。お前もハルミ達の仲間か。


「分かった。作ってやるよ。眷属への初回限定サービスだ。それもこんなのではなく、もっと純金レベルの金めっきをつけてやろう」


「お主」

「ん?」

「お主、お主、お主ってやつは、お主ってやつで、お主ってやつみたいな、お主ってやつだな」

「何を言ってんだ、落ち着け」

「おっぉぉぉぉぉ。お主は良い奴だなぁぁぁぁぁぁ」


 と言いながら抱きついてきた。俺の耳に。


 耳はよせ! くすぐったほにゃららほひゃひゃひゃ、だろうが!!


 そういうのは止めてくれよ。表面積が小さいから暑苦しくはないけど、でっかいピアスしたみたいでなんだかうっとうしい。ぶるんぶるん。


 どうしてここらの奴は、刃物にこんなに弱いんだ?


「そそそそそそんな剣を作ってくれるのなら、我はお主の生涯にわたって付きまとってやるぞ」


 付きまとうんじゃねぇよ、ストーカーか。付き従えよ。


「ところで、いつまでも呼び名が『お主』ではちょっとなんだから、これからはユウって呼んでくれ」

「そ、そうか。分かった、ユウ、我の剣を頼んだぞ」


「ああ、作ってやるとも。まだ鉄の配合も決まっていないし、順番待ちもいるから、少し待っていてくれ」

「ああ、かまわぬ。そもそも我には時間はいくらでもある」


「そうだったな。それとテストをいろいろしないといけないから、手伝ってくれよ?」

「おう、任された!」


 ということになって、金めっき第1号の加速劣化試験をさせたところ、わずか5日で変色し始めることがわかった。


 ……これを1万で売らなくて、ほんとによかった。



 てなことがあって、俺はタダで使える加速劣化試験アイテムを手に入れたのである。


「待てコラ。アイテムじゃないノだ。お友達だろ?」


 ………


 タダで使える眷属を手に入れたのだ


「その『タダで使える』ってのは、どうしても入れないとダメなノか?」

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