第2話 これ、誰?
次に目が覚めると、そこは応接室のようなところだった。そしてややこしい話が待っていた。
「やっと起きたか。ユウはこういうトラブルには強いと聞いた。困ってるんだ、助けてくれないか」
と、言われましても。あんた誰よ。それから俺も誰? それと、頭がぐらぐらするのを誰か止めてくれないか。
「まだ寝ぼけているのか。2,3発殴ってやろうか?」
物騒なことを言ったのは、俺をここに拉致してきた双子剣士の片割れである。
この子は俺のことをずっと昔から知っているというように話す。しかし俺には全く心当たりがない。誰なんだ、こいつは。そして俺は誰だ。なんでここに連れてこられた。トラブルとはなんのことだ。
頭痛はするが頭ははっきりしている。まずは、確認作業だ。
「ここはどこ?」
「ああ、寝ている間に連れ込んじゃったな。俺の工房の事務所だ。ホレ、冷たいお茶でも飲んで目を覚ませ」
そう言ったのはまだ20代前半ぐらいと思われる青年だ。言われて気がついた。ものすごく喉が渇いていたことに。差し出されたコップを手に取ると、俺は一気に飲み干した。
「あぁ、うまい! こんなにうまいお茶は飲んだことがない。お代わりもらえるか?」
そしたら怒鳴られた。青年の隣にいた爺さんだ。
「なんだそのしゃべり方は。子供のくせに、そんな言葉使いしやがって」
なんだよ子供って、誰が子供だよ。お茶をお代わりしたことが、そんなに怒鳴られるようなことか? そもそも子供がVSOPなんか飲まねぇっての。犯罪だぞ、それ。
それより誰だよこいつら。俺の二日酔いの頭でも分かるように説明してくれ。
「居酒屋で起こしたときから、なんかおかしいなとは思ってましたが。ユウ、私が分かるか?」
「エロっぽいねーちゃん?」
このやろぶん殴ってやる、と暴れ始めたのを隣にいた同じ顔の女の子が止めた。
「その年で酒なんか飲むからだよ。ヤマシタ工房ではそうとう苛められたようだな。その鬱憤晴らしか。やけ酒飲むのは良いが、ほどほどにしけおけよ」
「君は誰?」
「ちょ、おま。マジで言ってんのか?」
青年の顔が驚きに変わる。
「ワシのことは分かるのか?」
「じじいに興味ない」
このやろ、ぼけっ、と暴れるのを必死で止める青年。
俺は考える。もしかしたら俺は突発性の記憶障害とかにかかったのかもしれない。原因があるとすればあの一気飲みか。そんな疑惑が沸いてくる。
しかし、それにしては昨日以前の記憶がありありと残っているのが不思議……ああっ! そうだ、あのメールに返信しなきゃいけなかったんだ!!
「あ、そうだ。忘れていた。どこかにネットに繋がった端末はないか?」
「「……?」」
なんだろう。反応がおかしい。
「急ぐんだ、メールの返事だけでもさせて欲しい。プロバイダはどこでもかまわないから」
相手のメアドはネットで調べれば分かるだろう。とりあえず、グーグルにアカウントがあるからそこにアクセスすればメールが使える。返事だけでも早めにしておきたい。せっかく来たチャンスなのだ。
「「「………???」」」
返事がない? なんか言えよ、こっちは急いでんだぞ。
「これ、ほんとにユウか?」
「何を言っているのかさっぱりわからん」
「酒飲むには早すぎたんじゃないか」
「だけど、ウイルをたった1杯飲んだだけですよ?」
「ウイルだったのか。あんなもん酒のうちには入らんだろうに」
たくさん言いやがって。飲んだのはVSOPだっつーの。なんだよウイルって。聞いたことねぇよ、新種の病気か。
ここで、俺はふと真横にあった壁掛けの鏡を見た。そこには、ここにいる皆が映っている。しかし、俺だけがいない。
いない??
俺は慌てて席を立ち、鏡をのぞき込んだ。
そこには、青い瞳で短髪の見知らぬ少年が映っていた。中学生ぐらいだろうか。まるで二日酔いのような、青白く精気のない顔をしている。
俺は鏡を指さして、皆に聞いてみた。
「これ、誰?」
お前だよ!!!! って一斉にツッコみが来た。
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