第26話
「せ、先生……、南の都で良い男を探すのは全然構わないんですが……、魔王討伐はどうするんですか?」
不安がぬぐえないシェルドがリリスに問う。
「……そうね……。先にそっちを終わらせましょうか……」
そう言うと、リリスは魔法の詠唱を始める……。シェルドはリリスが普段魔法を使う時は無詠唱であるため、詠唱する姿を始めて見る……。シェルドはアルカに質問した。
「先生は何の魔法を使おうとしているんですか?」
「おそらく、転移魔法です。南の魔王国に転移するつもりなんでしょう」
「南の魔王国に転移!? そんなことができるんですか!?」
「ええ。私が北の魔王……牛魔王を倒した時も転移魔法で北の魔王城に飛んだんです!」
「す、すごい……。さすが、先生!」
アルカとシェルドはリリスが南の魔王国に転移できることに疑問を持つことはなかった。冷静に考えれば、おかしな話なのだが……、既に常識を超えたリリスの力を目の当たりにしている二人は感覚がマヒしていた。リリスなら何をやれても不思議ではないという感覚に陥っていたのだ……。しばらくすると、転移魔法の準備が終わったようだ。空間に入口ができ、向こう側にジャングルが見える。
「あ、先に二人に言っておくことがあるわ……。私は魔王討伐はするけど、殺すつもりはないからね!」
アルカとシェルドは「えっ?」と声をあわせる。
「アルカちゃんには前にも言ったけど、ただ魔族ってだけで殺されるのは魔族だって納得いかないわよ。アルカちゃんもシェルドくんも人間ってだけで、魔族に殺されるのはイヤでしょ? ちょっとお灸を据えに行くだけよ!」
「で、でも師匠……。今、南の魔王国周辺の国では魔族の殺人、略奪が増えているそうです……。お灸を据えに行くだけというわけには……」
リリスはシェルドの言葉に驚きを隠せない……。
「南の魔王国周辺もそんなことになってるの!? どいつもこいつも……。最近は協定を守らないことが流行ってるのかしら……! 南の魔王はクソガキだものね……! 早くいきましょう。とっちめてやらなくちゃ……!」
「ま、待って下さい! 先生!」
リリスはシェルドの質問にきちんと答えずに、先に転移魔法の入り口に入ってしまった。アルカとシェルドも慌ててリリスの後を追う……。入口を抜ければもう、南の魔王国だ……。シェルドは初めての空間転移魔法での移動だった。瞬間的に自分の周りの景色が変わる体験は奇妙な感じだった。
「先生……。ここが南の魔王国なんですか?」
周囲がジャングルで覆われている光景を見たシェルドが口を開く……。
「師匠! この前みたいに魔王城にひとっ飛びできなかったんですか?」
アルカが疑問を口にする。二人から同時に質問されたリリスだったが、呆然としてしまっていた。リリスの異変に気付き、アルカは声をかける。
「師匠、どうしたんですか? 深刻そうな表情で……」
「魔王城が無くなってる……。ここにあったはずの南の魔王城が……」
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