第100話魔戦武闘会①

 ストックが多少出来たので再開します。

 宜しくお願いします。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 必至に腕を掴み「いやいやいやいや、ちょーっとお待ちを……」と、うなるバードン氏。


「いやいや、じゃあ、こいつら全員首でいいの?

 そんな訳にはいかないでしょ?」


 もう面倒だから帰りたいと、中将以下を指差してこれどうするのと問う。


「いえ、この決定は最高機関で下されたものです。

 命令に従えないのであれば、全員退役でも致し方ありません。

 もう、こちらはクレイブ君たちで結果を見ていますから、この命令が正当な判断の元に下されていると確信しております。

 一週間見ていただけるだけでも、この体制を維持するよりも意義がありでしょうしね……」


 バードン氏が言葉を止めると同時に「ま、待って下さい。私は従います」とクレイブの話が出た時、目を見開いていた少佐の一人が声を上げた。


 二十代前半の美女といった外見だ。身長は高くも低くもない。

 日本で言えば若くて美人なOLさんと言った所だろうか。

 とは言え、肌の色は白く髪の色は青いので年齢的にだが。

 そんな彼女が立ち上がりこちらに向き直ると敬礼の姿勢を取り従う意思を見せる。


 その一言で『何っ!? 裏切ったな?』と彼女に非難の視線が殺到した。


 ……お前ら馬鹿じゃねぇの。


 と心底思いつつも、バードン氏は掴んだ腕を離してくれないし、話題の中心俺だしで、帰り辛い状況が続いていく。


「そもそも、それで退役だというのが強引過ぎるのではないか?」

「そうだ! 我らは盤上の駒ではないのだぞ!?」

「今までの功績を無とするなど、言語道断!

 それで何故人が付いてくると思うのか!」


 まあ、平時であればもっともな意見ではあるんだが……

 今は結界が破れて国がいつ滅びてもおかしくない状況なんだろ?

 しがみ付いて居てもそのまま真っ先に前線に行かなきゃならない立ち位置に居るってのに。

 いや、そうなったら大半は責任押し付けて逃げるんだろうな……

 なんにせよ、こいつらの保身に付き合う義理もない。

 別に全員じゃない方が楽だし、受け入れてくれた彼女と話しするか。


「えっと、キミの名前は?」

「ハッ! アリア・ヒューイット少佐でありますっ!」

「俺はランスロットだ。宜しく。

 早速だけど、キミの隊を率いて祭壇の間に来て欲しい。何人くらいになるかな?」

「ハッ! 私の部隊は総数三十三名、魔導兵二十二、剣兵十、槍兵一であります!」

「わかった。んじゃ、全員集合する様に宜しくね」


 シュビっと綺麗に敬礼をすると彼女は逃げるようにその場を後にした。


「さて、話し合いをしようか」

「き、貴様! 我らは認めておらんぞ! そんな状態で何が話し合いだ!」

「お前らじゃねぇよ。何もしねぇからちっと黙ってろよ。

 バードンさん、これどうしようか? このままだと俺に矛先向くよね?

 国一大事よりも国の決定よりも自分を優先する様な奴らだしさ」


 バードン氏は困った表情で胃を摩った。相当に参っている様だ。

 彼としては胃が痛いだろう。軍の最高機関の奴ら全員首でいいって言ったのだ。

 少なくとも俺が何か功績を上げてこの騒動は正しかったと回りに思わせなきゃ身の破滅に近い……と言うか恨まれる役だ。彼が下した命令じゃないのに。


 まあ俺が闇討ちされる分には別にいいんだけどね?

 いや、もう嫁達も強いしどうでもいいか……

 うん、そう考えたらそんなに面倒でもないかもな。

 北の魔物倒せれば良いだけだし。


 そう結論付けると他を無視してバードン氏との話し合いを詰めた。


「じゃあ、あの子の隊だけ育成するよ。他はこのまま通常運転してなよ。

 それで人数的には十分だからさ」

「そ、それで北の魔物を退けられると!?」

「いや、十分だよ? 人数なんて要らない。

 逆に千人全員を鍛えてなんて言われる方が困るよ……?

 って事で、お前らは好きにしろよ。

 退役する必要もないし戦えとも言わんから。

 流石に突っかかってきたら潰すけどね?

 覚えて置けよ? 突っかかってきたら本当に潰すからな?」


 俺は、一応念のため二度言った。うちには頭おかしいのがいるのだ。

 あいつは敵と定めたらまず間違いなく何の躊躇も無く大量虐殺するだろう。

 ……攻城戦だぁヒャッハーとか言い出すに決まってる。

 本当に気にせず慈悲の無い大仏と成り下がるはずだ。

 出来ればそんな事態にはなって欲しくない。

 そう願いを込めながらの念押しだった。


 だが、そんな事を彼女らは知らないからか、屈辱に顔を歪めていた。

 中将や少将は俺の言葉に文句は無さそうに見える。

 自分達の立ち位置も脅かされないと話が着いたからか、怒った様子も無く「結果を楽しみさせて貰おう」などと余裕の笑みだ。


 問題は佐官クラスのおばさんたちだな。

 顔がもう既に『絶対に許さない、後で覚えていろ』と告げている。


「ハッ、あの状況からよく方向転換させたものだ。

 力を見せるのでは無かったのか?」


 ムカっ、いいだろう。立場というものを分からせてやる。


「おい……お前ら、それでも軍属か?

 確かに退役は撤回したし好きにしろとは言った。

 だが、俺は大将だぞ。誰が何を言おうと最高機関にてそう決まった。

 その通達を受けてなお、認めず態度も舐めたものだ。軍における命令の重さを知らないとは言わせないぞ?」


 大佐のおばさん二人に問い掛けた。

 一人はこの言葉の重さを理解している様子。歯噛みしつつも反論は出てこない。

 だが、先ほど鼻で笑ったもう一人の方の女性は違った。


「貴様こそ何を勘違いしている。官位とはそんなに緩いものではない。

 次の大将は中将殿がなるのが筋だ。そんな不正が認められるか!」

「馬鹿を言うな。上官の決定に従えないという方がおかしいだろ。

 お前らが必要な時に必要なほどの力を持っていないからこうなってんだよ?」

「お前に何がわかるというのだ! 身の程を弁えろ!」

「知らねぇよ……じゃあもう勝手に上申でも何でもしろよ。帰るわ」


 これ以上話しかけても意味無いなと思ってそろそろ帰る旨を告げ、バードン氏と共に会議室を後にした。


 そして、場所を変えてバードン氏との話し合いに移行する。


「もしかして、こうなるって知ってた?」

「あはは、もしかしたらこういう事もあるかもくらいですが……」


 などと申し訳なさそうにしながらも確信犯的な言葉を返された。

 ならなんで大将のポジションにしたのと突きつつもこれからどうするのかを尋ねたのだが……


「正直な所、軍事力を握っている彼らが一番力を持っているとも言える状況でして、望むのでしたら正式に退役させる事も出来ますが、反乱を起こす可能性が高いと思われます。

 その際の制圧もして頂く事になってしまうでしょうね」

「あー、そうなんだ。それであいつらは強気だったのね。

 もしかして、やって欲しいの?」

「いえ、己の権力のみに固執していて打開する為に動いていないので、状況は大変宜しくないのですが、そこまでして頂く訳にも……」


 ああ、こっちがそれを望むなら逆賊にするからやってもいいよって事ね。


「好きにやっていいって事かぁ。了解した。

 けど、どうしても解せない事があるんだけど聞いていい?」


 そう前置きをしてどうしてそこまで信用するのかを問い掛けたら――

 「実は、帝国と王国にも人を送っていまして失礼ながら貴方の事を調べさせて頂きました。その内容を聞き、信頼に値する人物だと判断致しました」

 ――と予想外な返事が帰ってきた。

 どうやら、俺が何をやってきたかを調べ上げたらしい。

 それでも随分と思い切り過ぎだろ……


「ここ百年、防壁を利用しての討伐を抜かせば、軍部に置ける北の魔物の討伐数は一匹だけですからね。それでも百近い死者が出ました。

 万全の状態でなおかつ全兵力で当たっても二匹が限度でしょうね」

「なるほど……」


 確かに全員がSランクのレベルな訳ないし、その程度で二百数十レベルを相手にすればいくら千人居ようが厳しいよな。

 まず前衛が即効で潰れる。

 前衛が潰れたら魔法もろくに当たらないだろう。


 そんな話が終わり、さて帰ろうかと部屋を出ると一人の女性に声を掛けられた。


「もしやアキホさんのお知り合いですか?」と、声を掛けて来たのは賛同せずに沈黙を守っていた少佐の一人だ。

 少し低めの身長で風に赤い髪を靡かせながらこちらを伺う。

 堅苦しい軍服の正装と日の光で赤く輝く髪が不思議とマッチしていてかわカッコいい感じの女性だ。


 本人の表情を見るに、確信は持っていない様子。

 だが何故お前が知っている……

 訝しげな表情を返しながらも「アキホは俺の嫁だけど?」と応えた。 


「そ、そうでありましたか!? これは大変失礼致しました。

 私はシャーロット・ライルストーン少佐であります。

 アキホさんには先の戦にて命を救われました。

 是非ともお礼を言いたいと思っておりまして……」


 ああ、この前の……そりゃそうか。

 よく考えてみれば、前回の防衛はアキホに全部任せてたから彼女を連れて来れば良かっただけじゃないかこれ……


「そうなんだ。当分は祭壇の間に居るから、暇な時にでも来るといいよ」

「ありがとうございます」


 これでやることは終わったと祭壇の間へと戻ることにした。

 結局普通に話せたのは二人だけではあったが、鍛える約束したアリアちゃんと仲違いしなければそれで十分だろ。

 と、取った宿に一度顔を出してから祭壇の間へと戻った。


「で、結局どうなったのぉ?」


 育成を共にやることになっているユーカは興味深々に問い掛ける。

 そこで俺は受けた仕打ちと決まった内容を皆に話した。


「えっと、アキホお姉ちゃんじゃないけどさ。見捨てちゃわない?

 流石にそれは無いでしょ! 依頼を受けて仕方なく行ってるのに!」

「そうです! 今から戦争しましょう! 泣いて謝るまで許さないスタイルで!」


 アホ! それやっちゃったらもう色々遅いからな。

 相手がごめんなさいしてくるならまだしも、きっと悪魔だの国の敵だのと騒ぎ立てられて面倒な思いするだけだよ。

 殺さずに戦うのってかなり面倒なんだぜ?


「……ケンケン、戦争は殺し合いですよ?」

「阿呆! 殺しちゃダメです! はぁ、何でお前は……

 はーい、皆良く聞いてぇ!」


 俺はパンパンと手を叩いて戦闘を止めさせて皆を集めた。

 この馬鹿の思想に染まってはいけないと、それだけは絶対にダメだと伝える為に。


 最初の面子ならば気にしなかった。

 だが、今はメンバーが変わってて、ユーカ、ミラ、エミリー、ミレイ、ラーサ、アキホなのだ。

 ラーサは大丈夫だが、他が心配すぎた。


「アキホは馬鹿なので、こいつの言う事を聞いちゃいけません。良いですね?」

「あのう、流石に戦争は冗談ですよ? メリット無いですし……」

「はい! 今の発言からわかると思います。

 メリットがあってもいけません! 良いですね? ここテストに出ます!」

「「「はーい」」」


 オリハルコンステッキを指揮棒に見立てて先生の真似事をしつつ教育を施す。


 突如やりだした授業形式にユーカとエミリーがノリノリでミラを強制参加させていて、ミレイちゃんが混ざろうかとキョロキョロタイミングを見計らっている。

 ラーサは「ああ、必要な事だね。国の未来が掛かっているよ。本当にね」と若干疲れた顔だ。


「アキホは罰として寝て起きたら魔石入れの刑だ。わかったな」

「睡眠管理までさり気なくしてくれるケンケン。流石私の旦那様。

 あ、あと本当に冗談ですよ? まだ今の所は人を殺した事ありませんし」

「……今の所とか言ってるのがアウトなんだよ。

 まあ、言いたい事はわかったからもう寝ろ」


 そこからパーティーに入れて貰って魔物の狩りを再開した。

 そして、暫くした頃、約束通りアリア・ヒューイット少佐が部下を連れて到着した。

 そのメンバーにはクレイブ、ケルラス、リムレンも居た。ならばあれも居るかなと逆切れ男も捜してみたが居ない様だ。

 少し、狩りを抜けさせて貰いクレイブたちと軽く挨拶を交わしてこれからの予定の話し合いをすることにした。


「あー、俺はランスロットと言うものだ。一応軍の総大将を任されたが、実質は短期の軍事顧問として採用されたようなものだな。

 今回結界が壊れて修復の見込みが立っていないのでこれからは自力で北の魔物とも戦わないければならないから鍛えて欲しいと依頼された形だ。

 今回はクレイブたちより優しく行こうと思う。宜しく頼む」


 ケルラスが「ちょ、ちょっとぉ、俺たちにも優しくしてくださいよぉ」と頼りない突込みを入れて苦笑が入った。

 ちょっと? 笑い取るならしっかりやって!


「でも、何でアリアちゃんはあんな視線を浴びてまでこっち側に付いたの?」

「ちゃんって付けられる歳じゃないんですけど……

 いえ、我らはこの苦境とあなた方の強さを理解しているからであります!

 我らは兵数が他に比べ、極端に少なくあります。何故だがご存知でしょうか?」


 いや、知る訳ないし。ってまさかあれか……?

 死地に行かされる貧乏くじポジションで他は全員死んだとか?


「ええ。奴らの殆どは立場を利用して危険がある場所には行きません。

 貴方がリムレンたちを鍛えてくれなければ、先のブラック集団で救援に来ていただく前に死んでいたでしょう」

「なるほど。

 厳しい所にピンポイントで手を差し伸べられたようで良かったよ。

 ああ、皆座って話そう。

 床が汚くて嫌だって奴は言ってくれ。椅子を用意するから」


 と、気を使いつつ床に座ってみれば他の者もそれに習った。

 椅子使いたい人は居ないのか、と数個作ってみたが「皮肉じゃなかったんですね……」と意外そうな目で見られてしまった。

 誰も使わないそうなので壁際に観戦席として並べつつ話を再開する。


「まあ町の中の雑用もライスストーン隊か私達ですから、ピンポイントというより必然ですね。

 今回、他の隊がこの話を蹴ってくれたのは正直俺たちにとっては行幸です」


 と、ケルラスが少し嬉しそうに言う。

 そこにクレイブとリムレンも乗っかった。


「そうです。大会も近いですからね。

 やっと強さの違いって奴を見せ付けてやれますよ。

 いい加減自分も雑用で政務課とかに飛ばされたくないですし……」

「私はせめて民衆には知って欲しいですね。

 今まで私たちの隊が命を散らして守ってきたのだと……

 その為には見せる必要があるので私も出ようと思っています」

「お、おう。重たいな……

 まあ俺が顧問で付いたんだからこれからはそう簡単には死者を出させないから。

 勿論舐めてかからなければ死なないプランを用意するから真剣に頼むな?」


 と問い掛ければ、真剣な面持ちで頷いた。


「総大将閣下、これから私達はどうしていれば良いでしょうか?」

「アリアちゃん、普通にランスって呼んでいいよ?

 一先ずは、ここに皆寝泊りして貰うから、買出しかな。金はほいこれ」


 と、アリアちゃんに金貨四十枚ほど渡して取り合えず二週間を見越して野営道具や飯を好き勝手買ってきてと頼んだ。


「こ、こんなに……ですか?」

「いやいや、この人数だし、必要でしょ?

 ああ、国に請求するから使い時だと思って自由に使って。

 この国予算に厳しいんでしょ?」

「そ、そうなんですっ!! 助かります!

 これで野営具新調できます……ヒック……ウック……」


 ええ、泣いちゃうの!?

 何で命を散らしてなんて話をしてた時より深刻なんだよ!

 ど、どうしよ……これ以上何かしてやるのもへんな話しだし。頭でも撫で撫でしておくか。


「ああ~~泣かせてるっ!! お兄さんっ! 何してるんだよぉ!」

「えっ!? いや、俺は悪くないっ! 悪くない……よね?」

「はっ、はい! 申し訳ございませんっ!」


 そんな一幕を挟み、今日の所は買出しして食事とって休んでくれと伝え、嫁達との共闘へと戻った。

 残っている兵達には一先ずは観戦して貰っている。

 ミラとエミリーが嫉妬してもうあっち行っちゃダメとか訳の分からない事を言い出したりして居たので、今日は休めと指示して置いたのは正解だった。


 そのまま彼らを観戦させたまま時は流れ、パーティーメンバーも変更した。

 今度はアキホ、ルル、ミィ、アンジェ、エリーゼ、俺だ。




 暫くして嫁達のレベリングが一周した頃、兵士達の育成に着手し始めた。

 先ずは、と彼らに合わせてミスリル装備を作り配布する。

 その際、アリアちゃんが「こんな高価な物は拙いですよ!」とあわあわしていたが、製作に掛かった原価を伝えたら納得してくれた様子。

 いや、放心していたようにも見えたが……


「じゃ、パーティを四つ作ろうか。近接で一番強い四人をリーダーにして組んでね」

「それほどの大人数で掛かるのですか?」


 と、可愛く首をかしげているアリアちゃんの頭を撫でて取り合えずやってみようと告げる。

 パーティーリーダーの四人を出現位置に立たせて魔石を一つ投入。

 今回は帝国からの持込なので魔石が小さい。

 というかユミルたちが量をこなしたいと簡単に数が手に入る小さな魔石を選んだのだ。


 出現する魔物はゴブリンのロード。

 出てきた瞬間に全員で攻撃させて即殺させる。

 それをひたすら急ピッチで続けた。三十分おきくらいに前衛を交代させる。

 その間後衛はただ見てるだけだ。

 ユミルがこれでもかと買い込んだお陰で魔石は大量にある。

 全員に『シールド』を掛けたからもう放置したままでもいいくらいの状況となっていた。


 時間で測り、残りの半数と交代して続きをさせている時、嫁から「暇だ」とブーイングを喰らったので、狩りに行かせることとした。

 こっちもパーティを三つに分けて全員で出動させ、アキホが付いていれば大丈夫なので彼女の指示で好きにやって来いと送り出す。

 一緒にやるはずのユーカすらも出て行ってしまい、祭壇の間には俺と兵士達だけ。

 ユーカは「これは訓練じゃなくてただの作業だよ」と興味を失っていたので行かせてしまった。

 うん。レベリングとはそんなもんだ。


 特に問題はないと傍から近接戦闘のアドバイスを入れつつ、後衛の皆と雑談を続ける。


「え? バークレイ大佐にそんな事言っちゃったんですか……!?」

「うん、言ったな。突っかかってきたら潰すから来るなら覚悟しろよって」


 アリアちゃんが余りに驚いた反応を示したので、雑談に丁度いいと少し深く話を聞いてみることにした。

 彼女曰く、もう一人の大佐は元より彼女の下に付いていたのでバークレイ大佐が全権を握ってるに等しいらしい。

 なので軍では如何に大佐に気に入られるかが肝なのだとか。

 賄賂に次ぐ賄賂で彼女の家は馬鹿みたいに潤っているだろうという話しだ。


「うーむ。そういう話聞いちゃうとこのまま助けてやるのが馬鹿らしいな。

 自分達で何とか出来るって言ってたし、救援の話が出ても知らん振りしてみるか」

「えっ!? そ、それだとライルストーン隊が全滅してしまいます……」


 あー、そっか。大佐たちは死んじゃうから自分達では行かないだろうから、結局何しても他のやつが死ぬだけか。


「よし! 軍を乗っ取ろう! アリアちゃん総司令官やりなよ!」

「ふふふ、そう出来たら面白いですねぇ……」

「わかった。その方向で行くぞ」

「えっ……!? いやいや、冗談ですよね?」


 そんな話をしている時「こんにちわぁ」と他から声を掛けられた。

 その相手はシャーロットちゃんだ。そう言えば、アキホ狩り行っちゃってるな……

 来れば居ると言って置きながら、忘れて送り出してしまった。


「ごめん。アキホ狩りに行かせちゃった……」

「え? いえいえ、問題ありませんよ。それより、ここが噂の祭壇ですか……」

「シャーロットちゃん達もくれば?

 戦闘に駆り出されるポジションなら強くなって置いた方がいいよ?」


 彼女は「え? 良いんですか?」と目を剥いた。

 当然構わないと彼女も雑談の輪に引き入れて早速兵士達を呼んで貰った。


 その間にまた装備を作成しておこうかな。

 少なくとも無詠唱で魔法使えないと話しにならないからな。


 丁度近くの兵舎で朝礼をしている頃だからと彼女は兵士達を呼びに走った。

 彼女の隊は総勢五十名程。

 少し人数が多くなりすぎたからやり方を考えなきゃなと色々変更点を伝える。


「取り合えず全員パーティーを組んでくれ。

 あと皆には『ブリザード』と『ヘルフレイム』を覚えてもらう」


 面倒だが、一度ダンジョンから出て人の居ない場所へと移動した。

 彼女達の案内でやってきた広場にて魔法を見せて急遽習得させる。

 ここは軍が使っている訓練場だ。


「これが『ヘルフレイム』だ!」


 兵士の訓練場その端の方から出来るだけ遠めに撃ち、魔法を見せる。


「熱っ……こ、これが一発の魔法ですか……?」

「うっ……やはり、この方も次元が違うのですね……」


 両隣に居るアリアちゃんとシャーロットちゃんが熱さで顔を歪めた。

 即座に『ブリザード』を打ち込み鎮火させる。


 それから真似させて魔法を覚えさせた。

 だが、全員がすぐに覚えると言う訳にはいかなかった。

 どちらか片方だけでも使える様になったのが二十六名ほど。

 他はダメそうだな。総勢八十名強だから三分の一程度か。

 そう考えると俺の嫁達は優秀だな。難易度低い所から始めて何度も見せたからかもだけど。


 まあ、この練習は一人でも覚えさせてしまえば俺が付いている必要はないし、祭壇の間へと戻ろう。そこら辺は後から各自でやって貰えばいいだろ。


 それにしても威力の差が酷いなぁ……

 魔力チート無しで、バッシブスキルも無いし付与チートも無い。その上ステータス自動振りじゃそりゃダメージで無いのは仕方ないか。


 そう言えば……もう一つのチートは未だに分からないんだよな。

 明らかにストレングスやアジリティではない事はわかるが……

 あの女神の事だからどうせあれだろ? ラックとか余り意味が無いものを……

 いや意味はあるんだけど、魔法じゃクリティカル出ないから相乗効果が薄い。


 あ、デクスタリティの可能性はあるな。魔法に対して相乗効果が薄いのは一緒だ。

 本来はめっちゃ関係するんだけど、主に詠唱速度関係だもんな。無詠唱でクールタイム無視出来る世界じゃあんまし関係ないな。

 

 いや、バイタリティかな?

 ……気になりだすと止まらないな。

 折角だから調べてしまおうと、祭壇の間に戻って早々に弓と矢を作り威力の程を試した。

 弓は攻撃力がデクスタリティ依存だからチート貰ってればすぐわかるだろうと試してみたが、ステータスが倍になったと思えるほどの程の威力は出ない。

 じゃあ、ラックかなと運依存のスキルを使ってみたが、それも違った。


 そして、消去法で判明した。

 多分バイタリティだ。一番意味がなさそうだ。

 だってこの世界だと普通に腕千切れ飛んだりするもの……

 HP一杯あっても首飛んだら終わりでしょ?

 あまり防御力が仕事してない感じするし……


 っと、長い時間止めさせてるのも悪いし、再開させるか。


「じゃ、今度は範囲魔法を覚えた人がリーダーになって貰って、前衛が受け持てるギリギリまで敵を出して一気に範囲で殲滅だ。

 上手くやればやるほど稼げるから頑張って」


 範囲魔法を覚えた人材と前衛を均等に分けて全員パーティーを組んでもらう。

 まるでレイドボス戦でもやるのかって人数だから結構なパーティー数になったな。


 攻撃はほぼ全て範囲魔法にて行う形を取る。

 もっと少人数なら魔石が大きくなるまでクレイブたち三人を分けて組ませてひたすら叩かせるんだけど、この人数じゃそれをさせるのはちょっと大変そうだしな。

 前衛は後々交代させるがどちらにしても一先ずはクレイブたち三人に頑張って貰おう。


 やる事を伝えて、壁際に座り込んで二人との雑談を再開する。


「ねぇ、ちょっと俺の腕切ってみてくれない?」

「……はい?」


 貰ったチートがバイタリティでいいのかを確認したくて頼んだ。

 だがいきなりの問い掛けにアリアちゃんは疑問に首を傾げ、シャーロットちゃんは少し身を引いている。


「いや、ちょっと能力の程を試したいんだよ。変な趣向は無いよ?」


 と、主にシャーロットちゃんの方に弁解すると、アリアちゃんが手をパンと叩いて何か閃いた様子。


「えっと……

 あっ! 『シールド』性能チェックですね?」


 うーん。違うんだけど……

 まあ、訂正しなくてもいいかなと腕を出してスキル無しで軽く切りつけて貰う。


「行きますね。ハッ!」


 カキン!


 怖いもんは怖いが、アダマンタインのお陰で慣れたもんだ。

 何とか逃げずに居られた。


 それはいいのだが……


「ねぇ、今変な音しなかった?」

「確かに、切った感触がいつもの『シールド』のものじゃないですね」


 いや、うん。そこじゃなくてね。カキンっておかしくない?

 だってさ……触ればぷにぷにしてるよ?

 まあ、もうバイタリティで確定したのがわかったから良いんだけど。


 予想外だがこれはありがたい事だな。もうあんな痛い思いしたくないし。

 てか、暇だなぁ……


 んっ? 俺、ここに居る必要なくない?

 

「ええと、俺の出切る事終わったし、もう任せちゃっていいかな?」

「あ、そうですね。大丈夫です」


 二人も特に問題なさそうだったので、緊急用にポーションを置いてぶらりと散策でもする事にした。

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