第82話救援依頼

 やりすぎた。朝まで永遠と頑張ってしまった。止まる事など出来なかった。

 あれは封印しよう。全員を一度に相手にする事が出来るレベルだった。


 元気な人が飲むものじゃない。


 そうして、俺たちは四人が欠けた状態で食事を取る事となった。

 彼女達は今、生まれたての小鹿である。

 各々疲れがあるのか、ちらほら居ないものがいる。

 特に獣人の子達は一人も居ない。

 まあ、全て好きに使っていいことは伝えてあるし、数日は好きにしててって言っておいたから放置でいいだろ。


 そういえば、獣人の子達といえば、隷属解けるんだよな。

 早くペトラを開放してやらねば!

 

「そうだ、なぁペトラ。お前の隷属を説く方法が見つかったんだ。

 早速解いてやるからこっちおいで」


 ラーサやユミルが「本当か」と驚く中、ペトラに手招きをしたが、首を横に振って逃げ出した。


「……どういう事?」

「奴隷じゃなくなったら追い出されると不安になったんじゃない?」


 あっ、そういう事か。そんな訳無いのに。

 よし、捕まえてお話しなければ。


 おーい、ペトラぁ……そこかなぁ?

 待て待てぇ。うーん? どっちいったかなぁ?


「ケンヤ、遊んでないでちゃんとやる! これ、遊びじゃない!」


 いや、わかってるよ。けどペトラは気にしいだろ?

 まあ、でも確かにいつまでも遊んでる場合じゃないか。


 そう思ってさくっと捕まえて個室へと連れ込んだ。


「さて、二人でお話しようか。奴隷解いても一緒だよ?

 それでも解くのは嫌なの?」


 彼女は力強く首を縦に振る。理由がわからなくなってしまった。


「どうして? 納得させてくれないと俺は多分隷属解くよ?」

「ご主人様で居て欲しい……」


 ああ、何だそんなことか。


「わかったわかった。そんなの魔法が掛かってなくてもペトラと俺がそう思ってればいいだけだろ。買い物に出かける時、許しの証文持たせる手間もなくなるし。

 人から嫌な視線を向けられる事も殆ど無くなるだろ。関係は変わらないんだからいい事だけだぞ?」

「嘘じゃない?」

「ああ、俺が嘘をついた事あったか?」

「たまに」


 ……ペトラにはないだろぉぉ!

 むぅ、ここで笑うか。ペトラも強くなったな。


「まあ、取り合えず隷属解いてこの家の使用人筆頭にでもなってくれよ」

「なにそれ」


 俺はペトラに色々と教え込んだ。

 部下の育成をして仕事の割り振りしてご主人様に悪戯されて結構大変なんだぞと。

 懇切丁寧に俺のやってほしい事を家事からその枠外の事まで教え込んだ。

 多分聡い子だ。全部分かっているだろう。

 きっとそのうち頭叩かれて自業自得だなんて言われる気がする。


「わかった。じゃあそれする」

「よし、じゃあ解くぞ。『ディスペル』」


 パキンと音を立てると問題無く解除が出来た。

 これでペトラはやりたい事を好きにやれる。

 自由に外にも行けないなんて詰まらなすぎだからな。

 当分の間、後遺症でお外が怖いのは変わらないだろうが。


「よーし、ペトラお小遣いだ。好きに遊んできていいぞ。

 まあ、家に居てもいいけど。兎に角今日は休みにして自由にしていいからな」


 コクリと頷く。相変わらず殆ど喋らないが、聞き分けがいいんだよな。

 何頼んでも頷くから余り適当な事を……あ、さっき俺言ってたよ?

 主にエッチな悪戯を受け入れねばならない的な……

 いやいや、大丈夫だろ? 昨日は俺が悪いくらいに言ってたしな。

 冗談はわかる筈。


 俺は居間に戻り皆に隷属の解除が出来た事を伝えた。

 取り合えずお小遣い渡して今日は自由にしていなと言った事も話しに出していく。


「へぇ、良かったじゃないかい。ペトラはいい子だからね。この中では珍しく……」

「ええ、そのお気持ちとてもよく分かります。いい子ですね。ペトラは……」

「な、なんなのだ!? ミラの事なのだよな? あっ、わかったエミリーなのだ!」

「なにおう! それは貴様だ!」


 こらこら、その全員だよ。だから大人しくしていなさい。


「そう言えば、俺が居ない時になんか変わったこと無かった?」

「いえ……そうですね。

 強いて上げるなら、ガイールさんに二つ名が付いた事くらいでしょうか」

「あれはうざかった」

「ああ、面倒だったね」

「一々狩りを止めてムカついたのだ!」


 え? ガイールが何したの? もしかしてディアの狩りの妨害とか?


「いえ、そうではないのですが……」

「まあ、最後の二日間は土下座のガイールって呼ばれていたね」

「違う、土下座野朗だった」

「プライドが無いのだ」


 ちょっと、やめたげて? 苛め良くない絶対。


「違いますよ! あの人必死すぎなんです。

 ディアさんに勝つぞってマジックポーションがぶ飲みしてレラさん怒らせて」

「うん。分ける事になった。それからも酷い。マジックポーションしか飲みたくないってユミルとかユーカとかミラに土下座して回復を強請った」

「今度は自分のマジックポーションがなくなったからって余裕ある奴に土下座しだしたのだ! プライドが無いのだ!」

「ああ、最後の方は休憩する度に敵を譲ってくれって煩かったね」


 なるほど……セーフともアウトとも言いがたいな。

 いや、迷惑掛けてる時点で完全にアウトだが、気持ちはわかってしまう……

 最愛の人と上手くいくかいかないかの瀬戸際だったのだから。

 俺もミラにお熱だった時で本人が居ないならそれくらいしたかもしれん。

 俺はチートがあるから簡単に乗り越えられるだけだもんな。

 一般人はあの苦しみの中、どうにか出し抜かなければならない。

 ので、一概に責め辛い。


「まあそう言われると、純愛な人とも言えるんでしょうけど。

 もう組みたくは無いですね」


 ユミルにここまで言わせるとは……

 あいつ相当必死だったんだな。


「それで、結局結果はどうだったんだ? ディアと試合したの?」

「ええ。最終日に。惨敗してましたね。

 ディアさんもう結構強いですよ。私たちに追いつくくらいに」


 そりゃ凄い。あー、でも育成方が違うからな。

 ディアは生粋の剣士仕様だ。おまけに剣術も学んでいる。

 皆は例えるなら魔法剣士型だからな。いや、どうなんだろ。皆Cランクくらいまでは前衛で上げてから参加してるんだよな。それに魔法で挙げさせたのはそこからAランクくらいまでだ。それからは前衛は『飛翔閃』使ってもらったんだし。

 魔力も多少は必要だから、これから先も近接でやって行けばバランス型として丁度良さそうだけど。


 あっ、噂をすれば本人のディアちゃん登場。遅かったね?

 昨日嬉しくて寝付けなかった? じゃあ、今日は添い寝してあげよう。

 と言うか、ガイールの話し出てたんだけど、そんなに酷かったの?


「うん。今まで組んでやってたのが恥ずかしくなるくらいには。

 ティファ殿下はそれ聞いて嬉しそうだったけど……

 そんな事より、ホントに? きょ、今日の夜一緒に寝てくれるの?」


 ガイールの話はもういいや。

 こちらからもお願いします。楽しみにしてる。


「それはそうと、これからどうするんだい?

 そんなこんなでマジックポーションが尽きて帰って来たんだけどさ。

 不完全燃焼な所もあるんだよね」

「あー、じゃあ皆でどこか行く? 今回からは俺も付き合うよ?」

「あっあっ! 行きたいっ! ラーサさんわかってるぅ」

「当然、私も行く」

「ウィンドランスさま試したいのだ!」

「そうですね。ディアさんに負けられませんし、行くなら私も」


 アンジェそれ気に入ったんだな。まあいいけど。

 それにしても何処にしようかね。

 ああ!


「ラーサ、ドラゴン肉って食えるの?」

「まあ、いけると聞いた事はあるけど、ホントかどうかわからないよ?」


 ほほう。食ってみたいな。

 ミノタウロスの肉がすっごい美味くてさ。それも皆で食べに行きたいな。


「お、主様わかっておるな。あれはわらわも好きじゃ」


 そんな話をしていたら、リアが居間へと入って来た。

 ちゃんと制服をきている。

 だが、他の服も作ってやらねばいかんな。やりたくなってしまう。


「おはよ。今日さ、ランドドラゴン狩りに行こうかと思うんだけど、構わないか?」

「ああ、もう家具はないのだろう? 別に構わぬぞ」


 んじゃ、もうちょっとゆっくりしたら行こうか。


「お兄さん! 私たち置いていくつもり!?」

「あれ? 復活してる!?」

「はい、朝になってからユーカさんに回復して貰ったらある程度直りましたわ」

「むぅ、余り使ってないから熟練度が違う」


 ああ、なるほど。全力疾走とかでもダルさは取れないけど痛さは取れたもんな。

 ほい、『エクスヒーリング』っと。


 などとほのぼの話している時だった。


「おーい、ケンヤ居るかぁ? ドアノッカーねぇのかよ……」


 外からガイールの声が響き、皆一様に顔を顰めた。

 来ただけでこれか。何と哀れな……

 いや、ティファが喜んでいたなら本人は今幸せなのか?


 取り合えず出なければと立ち上がり玄関を開けた。


「どうした? 朝っぱらから」

「おう、わりぃな。なんか王国から勇者が竜に乗って現れてよ。

 ケンヤに伝言頼みたいって頼んで帰っていったんだけどよ。

 なんか、王国がヤバイらしいんだ。

 この前の皇都ここみたくなってるらしい。リードって街らしいぜ」

「それで、ハル……勇者の伝言は?」

「リードに来て欲しい。助けてくれって。それだけ言って戻っていったらしいぞ」


 ハルが折り返して帰っていった。かなりなピンチだろう。

 あの町はSランクが二パーティ居たはず。ドラゴン、ハル、ルイズちゃんも居る。

 ……杞憂だといいが、嫌な予感がするな。


 どうする……出撃メンバーは……全員とか甘い事は言ってられない。

 少なくとも獣人メンバーはダメだ。別行動が出来なくなる。

 なら、人族メンバーをリアに乗せて送って貰おう。


「皆聞いてくれ! リードが魔物の襲撃を受けているらしい。

 これからすぐに出る。人族メンバーで俺の言う事を聞ける者達だけ連れて行く。

 言っておくがこの前みたいな事したら本気で怒るからな!」


 俺は装備を装着しながらまくし立てた。


「待って、マジックポーションが無いよ?」


 ユーカ、悪いけどポーションはいつでもある訳じゃないんだ。


「ああ、準備してたら間に合わないかも知れない。ゼロで挑むつもりで居てくれ。

 勿論、戦わせないで引き返させる可能性も考慮しておけよ」

「ちょっとちょっと、いきなりどうしたの!? 何があったの?

 もう、王都にはハル君たちが勝てない魔物は居ないって言ってたじゃない」


 焦りすぎたな。逆に皆を混乱させてしまった。


「ごめん。ただの俺の感だ。ハルがびびっただけかも知れない。

 あ、ガイール、勇者は一人で来たのか?」


 そうだ。ここが重要だ。


「ああ、一人だけだったらしいぞ?」


 マジかよ……あのハルがルイズちゃんと離れたって事は最悪もありえるな。


「訂正だ。かなりのピンチの可能性が高い。

 もしかしたらルイズちゃんはもうやられたか瀕死の可能性もある。

 全て可能性だが、詰まらない問答はしてられない。取り合えず俺は行く。

 リア、準備が整ったらラーサの判断で乗せられるだけ乗せて王国に飛んでくれ。

 場所は皆が知ってる。

 頼めるか?」

「うむ。しかと心得た。

 心置きなく行って来い。何かあってもわらわが守っておいてやるのじゃ」


 ああ、本当に助かる。


「ありがとう。

 皆は着いたら俺の指示があるまで待て。それまでは積極的な戦闘参加は控えろ。

 指示は以上だ。先に行ってる」


 一応全員に防御バフを掛けた。

 リードに着いたら、遠距離攻撃が居ない限りは一度大きく旋回してくれと伝えて家を飛び出した。


 全力疾走して嫌な予感が何でするのかを真剣に考える。

 そして、その原因が分かった。

 リードのおっさんも、マクレーンの奴らも皆言ってた。

 魔物が魔素を無視して攻めてくるって。そんな事は魔王が攻めてきた時以来だと。


 なるほど、そりゃ嫌な予感もするよな。

 けど、魔王と言っても勇者が倒せたのなら底まで怖がる必要はないだろう。

 レベルも上げた装備強化もした。重ね撃ちだって覚えた。

 ならば、一刻も早く行ってやれる事をやれるだけするだけだ。


 ああ、ハルがただびびっただけだといいな。

 リードのおっさんにも死んで欲しくないし。

 クソッ、転移があれば楽なのに。


 俺は、久々に支援バフを全て掛けて、更に『瞬動』も駆使して移動時間短縮に全てをかけた。

 そして、二時間かけて漸くたどり着いた。

 その時にはもうすでにリードの町は燃えていた。

『ソナー』で探れば町の中は赤い点で一杯だった。


 頭が真っ白になりそうだ。

 だが、それを何とか振り払う。

 これからここに嫁が来るのだ。

 マクレーンも中継地点の村もある。

 それに、まだハルたちがやられたと決まった訳では無い。


 走って外壁を乗り越えリードの街に入り、魔物を殲滅しながら『ソナー』で近くで戦闘が行われていないかを確認しようとした。

 だが街中でそんな様子は見受けられない。

 それよりも、リードの北側の様子がおかしい……これは、人か? 

 赤点が明らかに隊列を組んでいた。


 町の中に居る魔物の種類も変だ。

 何故、こんな所にブラックタイガーが居る。生息地は妖精の国の中ほどだ。

 アンジェを連れ出した時、ユミルとアンジェの二人にそれで服を作ってやったくらいだから間違いない。

 だとすると、イベントか?

 だが、こんなイベントは知らない。不確定事項に焦りと苛立ちが募った。

 取り合えず確認だと北の外壁を目指す。


 その先にある開いた門の先に見えたのは、隊列を組んだ、更に居るはずのない魔物の混成だった。

 その数、二百程度だが、どう考えてもおかしい。ブラックタイガーの上位種であるブラックサーベルタイガーがいる。

 確かに上位種だが色を全て飛び越えてブラックなのだから普通は有り得ない。

 いや、それだけじゃない。色々な種類の上位種がいる。


 やはりイベントだろうと思うがどうしても記憶に無い。流石に十年以上も続いたゲームだ。全てのイベントは覚えていないし。やってないのもある。

 考えても仕方が無いだろと無理やり思考を止めた。


 ブラックタイガーを蹴散らし門を潜り抜ける。

 その瞬間、思わず足が止まり声が漏れた。


 ミノタウルスや十王の森にいたラミアまでいる。レベルも種族もばらばらだ。

 そいつらは問題無く倒せるからいい。

 大問題なのはその奥に居る大きすぎた存在。


 レイドボス、アダマンタイン


 有り得ない。アダマンタインを守るかのように雑魚が隊列を組み、その場で止まっている。

 まるで、指示を待っている兵士の様に。


 俺は即座に撤退を決めた。

 これほどMPを消費した状態で挑む相手では無い。移動で『瞬動』を使いすぎた。

 それに、もうこの町で戦っているものは居ないのだ。

 これほどに燃え広がっているんだ。恐らくもう生きている人も居ないだろう。


 だからここで頑張った所で意味は無い。

 そう言い聞かせて、帝国方面へと走った。


 まずはリアと合流しなければならない。

 こんな中、闇竜で突っ込んで暴れようものなら、絶対にアダマンタインの広範囲特殊スキルが飛んでくる。ゲームと同等の火力なら一撃は『マジックシールド』で耐えてくれるが、二撃めで壊れる。そして、その情報を彼女達は知らない。大丈夫だと周りをうろちょろしただけで終りが確定してしまう。

 まずはなんとしても見つけ出して撤退させなければならない。


 幸い、『ソナー』でテイムした魔物は居場所をつかめるようになっている。

 パーティメンバーと同じで緑点がつく。


 そして、数十分走ればその緑点を補足する事が出来た。

 大きく息を吐いて安堵してその場へと走り、魔法で存在を知らせ無事に合流する事が出来た。

 嫁達にリードが落ちた事を伝え、その先に何故か隊列を組んだ魔物がアダマンタインを守っていた事も全て伝えた。


「お前たちは悪いがそのまま撤退してくれ。俺は王都に走ってマジックポーションを作り、魔力が回復し次第討伐に出る」

「待ってよ。それって単体でギリギリ倒せるか倒せないかって言ってなかった?」

「それは前の俺だろ。あれから俺も強くなってる。

 あー、だが、悪い。精神の指輪と妖精の杖貸してくれるか?

 それがあればほぼ確実にいけると思うんだ」


 幸い、人族メンバーは全員が来ていたため、その装備を借りれたはいいのだが。


「一緒に王国に行きます。ちゃんと言う事を聞いて前には出ません。

 だけど、近くには居させてください。その為にケンヤさんに鍛えて貰ったのですから。私はこんな状態で待っているなんてもう嫌です。

 お父さん達の時も、アルールのオークの時も、大図書館ダンジョンの時も……

 あんな思いをするくらいなら、一緒に居たいです。

 それに、ケンヤさんが負けた時は終わりなんでしょう?」


 ……確かに、ユミルの言う通りかも他に相手ができそうな奴は知らない。 

 この意味が分からん事態だ。俺としてもすぐ合流出来る場所に居たい。


 リアが居るのだから、王国なら大丈夫か?

 そうだな。もしもの時を想定してリアに指示を出しておけばいい。


「……分かった。

 前に出ない約束を守るなら連れてく。リア、悪いが王都へと飛んで欲しい」

「うむ。方角だけ言うが良い」


 リアが飛び上がり、指示した方向へと速度を上げて進む。


「誰か、ポーション持ってないか? 空でも何でもいい」

「ある。マジックじゃなければ一杯ある。念のためで千本持って来た」


 ミラの差し出した箱からごっそりと取って五十本ほど中身を捨てた。


「そこに一度降りてくれ。魔力草の群生地だ。皆は降り次第採取して俺の元へ」


 彼女たちが持ってくる魔力草をマジックポーションに変えて飲めるだけ飲んでから五十本補充した。

 それほど収納はできないので、急遽クリエイトレザーで収納できるポーチを作り腰に巻いた。

 十本以上は飲んだが、全然足りなく感じる。はっきりと数字では出ないが半分くらいだろうか?

 いや、精神の指輪で上がってるからもっとあるのか?

 駄目だ、感覚的なものだから正直かなり大雑把にしか分からん。

 出来ればこの指輪をつけたままひと眠りして、このマジックポーションを持って望みたい。

 それだけ時間があればいいけど……


「リア、王都に着いたらミラたちを降ろして次は北へ向かう。

 まずは偵察だ。結構飛ばせる事になるが済まない、宜しく頼むな」

「かっかっか、これほどに焦っていてもわらわを気遣うか。

 重量がこの程度なら幾らでも飛べるわ! 

 一大事なのじゃろ? 気にせんで良い」


 ほんと、助かるよ。移動力が他にもあるってでかいな。

 まず王都に着いたらどうする?

 取り合えず王宮に乗り込み状況説明を貰いたい。

 流石に勇者ハルの話はもう回っているみたいだし、このまま乗り込んでもそこまで……違うな。

 今はそのパニックを気にしてる場合じゃない。

 あれが動き出したら何の抵抗もできない。馬の足で逃げ切れるほど遅くはない。

 うん。取り敢えずはまた強行突破してでも王に話を聞こう。

 

「ランス……はい、勝利のキス。やっと楽しくなったんだから、死なないで。

 私の命でもあるんだから」

「あ、ああ。大丈夫だ。大分混乱しているがやってみせる」


 まずはハルとルイズちゃんの安否を知りたい。ブラックタイガー程度に後れは取らないから、無事なはず。多分アダマンタインはまだリードに範囲攻撃を撃ってない。

 撃ってれば多分外壁もめちゃくちゃだろうからな。

 うん。そう考えたら落ち着いてきた。


「ランス様、少し落ち着いたみたいですね。

 じゃあ、私からも勝利の祈願をしておきますね。はい、どうぞ」

「エリーゼ、ありがとな。俺に何があっても皆が暴走しない様に、頼むな?」

「縁起でも無い事、言わないで下さ……んっ、ちゅぱっ……んもうっ」


 ふう。やっぱり嫁が居ないと俺はダメだな。

 うん。元気出てきた。

 っと、着いたのか。よし、このまま飛び降りて突入してこようと思ったら、外にいるな。兵士が整列してる。


「あそこに降ろしてくれ。俺は先に降りて説明してくる。

 誰が来たかも分からないで攻撃されても嫌だからな」


 ざわざわと混乱し始めた兵士達と演説を行う国王との間に地を揺らしつつも着地した。


「演説中申し訳ない。Sランク冒険者ランスロットだ。

 心配は要らない。あの竜も俺の魔物だ。

 国王陛下、勇者から救援依頼を受けた。今すぐに今回の一件の説明を貰いたい」

「おお、来てくれたか! 勿論だ。今すぐにであればここで良いな?」


 それに頷き続きを急いた。

 すると、宰相クロードが前に出て説明を始める。


「事態を知ったのは一昨日。リードの先、ホールディからの救援だった。

 時を同じくして既にリードに居た勇者からも全てがブラックの有り得ない群れで、もう既にホールディは落ちていたとその様な報告を受けた。

 移動速度の差、程度で落ちたのであろうな……

 その対策に動いて居るが、リードが今どうなっているかもわからぬ」


 なるほど、確かにまだ火がついていたくらいだ。

 こっちまでは伝わっていないか。


「そこは見てきた。焼け野原だった。

 その先に山ほどにでかい魔物アダマンタインが居た。

 あれが来れば、どんな町でも一瞬で落ちる。

 範囲攻撃が凄まじいからな。広さも威力も」


 ……相変わらず表情が動かないな。

 ここもそうだとわかっているのか不安になってくる。

 いや、どっちでも変わらないか。

 王都から住民逃がして何処に行くんだって話しだもんな。


「おぬしでも倒せぬか?」

「ああ、そんな大物なんて知らなかったから救援と聞いて皇都から二時間で飛んできたもんで、魔力を使いすぎた。

 流石に今すぐは無理だ。休息を取って魔力が回復したら多分だがやれるはず」

「なっ、にじか……いや、わかった。

 我らはどう動けば良いかおぬしの考えを聞かせて貰えるか?」 

「少なくとも、北には向かわない事だな。

 何の意味もなさない。真面目な話し、ここだろうが一撃で落ちるからな。

 どうにか討伐を成功させるから、パニックでも抑えて置いてくれ。

 王都の人間全てを連れて南に非難出来る場所なんてないだろ?」


 一時でもアルールは当然の事、ルーフェンでも受け入れられないだろ。

 って今更動揺してるけど、どうしたんだ?


「それは、加護を抜けるという事か?」

「今更そこかよ……普通に抜けるよ。いや、覚えておいてくれ。

 レッドスカイドラゴンですら抜けらるんだ。

 町を吹き飛ばせるレベルの魔物は全て抜けてこれる」


 もうこれ以上情報はなさそうだな。


「一度、偵察に出る。マクレーンも見ておきたいからな。

 嫁達を預かっておいてくれ。リア、さっき言ったとおり、北へ向かう」


 背に飛び乗り、指示を出せばまるで戦闘時の様に走りながら急いで飛び上がった。

 一番リアが冷静でやるべき事をわかっている気がしてきた。

 

「後手後手じゃな。じゃが、動かないで整列する魔物なぞ聞いた事が無い。

 あれは人が操っているのではないか?」

「……確かに、そう考えると一番しっくりくるな。

 だがその推察には一つ問題がある。

 隷属魔法でアダマンタインを縛るならそれ以上の強さが必要だ。

 人の至れる強さでは無理なんだ」


 そう、255レベルじゃ、幾ら装備を頑張っても、300レベルを隷属はできない。その前にボスって事でテイム不可なんだけど。この世界はその縛りはない。

 重ねるというゲームには無かった要素があるくらいだし、絶対とは言い切れないが。


「む、あそこの人が居る場所か?」

「いや、あそこは違う。だが一応寄ってくれ」


 中継地点の大きな村だ。人が普通にいた。

 ドラゴンで乗り付けたから、逃げ惑う人と武器を向けてくる奴が……ってライルたちじゃん。


「おーい、俺だ! ランスロットだ」

「なっ!? マジかよ……ドラゴンはやってんのか?」


 良かった。攻撃される前に気がついてくれた。

 アーミラさんとサシャちゃんも居るな。

 一応二人に軽く会釈だけはしたが、今は挨拶している場合じゃない。

 ああ、ライルが居るなら丁度いい。マクレーンの様子を聞こう。


「そんな事より、マクレーンは無事か?」

「ああ、一応昨日広範囲の索敵を行ったが、脅威は見当たらなかった。

 それで俺たちはリード伯の依頼に応えて向かっている所だ」


 そっか。良かった。なら、上手くいけばここまでで被害が止められる。


「なら、今すぐ帰れ。

 一撃で辺り一面が破壊尽くされる攻撃をしてくるイカレタ魔物が出た。

 対応はこっちでやるからマクレーン守っててくれ。

 できれば、二日程度でいいからここの村人も避難させておいて欲しい」

「二日か。なら食料も持参させれば何とかなるな……

 取り合えず相談してそれはこっちでやっておく。情報感謝する」


 よし、ならもう王都に戻って休もう。

 一刻も早くあれを何とかしないと、話にならない。

 ハルたちも心配だが、王都にも一杯いるんだ。守りたい人が。


 子供達、学校の皆、ライエルたち、レーベン商会の人たち、もうどうでもいいとは思えない程に関わってしまった。

 早々に魔力回復しなくてはと王都へととんぼ返りして、着いて早々城のソファーで勝手に眠りについた。

 と言っても寝れはしないから仮眠だが。


 リアにはアダマンタインが動き出したら教えて欲しいともう一度リードに偵察に出てもらった、

 時計で時間を測る。適当な感覚的計算だが、一応六時間休む事に決めて目を瞑る。

 色々な不安が過ぎる。もう子供達はリードで仕事をしていたのではないだろうか?

 ハルとルイズちゃんはもうとっくに死んでしまっているのではないだろうか?

 今考えても答えのでない意味の無い思考が止まらない。


 これは仮眠と言えるのか? それほどに心が休まらない。

 落ち着かず、すぐに目を開いた。

 そこには、顔を覗き込む嫁達の姿があった。


「ちょ、何見てんの?」


「仕方が無いね。ほら、膝を貸してやるから」

 ラーサが頭を持ち上げて、膝枕をしてくれた。


「お兄さん、つらい時はね、こうして手を握るといいんだよ」

 ユーカが両手で優しく手を包んでくれた。


「お前がそんなキリっとしてんのは似合わねぇんだよ」

 カーチェが眉間に指を当てて揉み解す。


「ふはは、これはサービスなのだ。ちょっとだけなのだ」

 アンジェが何故か上に乗っかってきた。


 他の皆も、残った足や手を思い思いに弄る。

 こんなの……寝れるわけがない。

 ちょっとミラ、何処触ってんの!

 え? あぶれた? けどそこは止めて!


「皆、ありがとう。けど、これ休めないよ?」

「ああ、やっと笑った」

「そうよ、それそれ。ランス様はそうじゃないとね?」


 うむ、どうも一人になると不安で駄目らしい。

 じゃあ、取り合えず、一緒に居て? あ、ラーサはこのままね?

 なんて言いながら、俺は再び目を閉じた。

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