第59話火山で特訓③
俺達は、準備してきた野営セットで一晩の休息を挟み、再びレベリングに勤しんだ。
「あー、ブラックスカイドラゴンは今ので終わりにしとこうか」
「ええぇぇ。足りないよぅ。私途中参加だよ!? おかわり!!」
ああ、わかってるぞ。
当然これで終りじゃない。
「次は山の反対側に回ってランドドラゴンの生息地にいく。
今度は飛ばないからもっとやりやすいぞ。
と言っても、火力が高いからバフ無しだと厳しいんだけど」
ゲーム時代のソロの事を思い出す。
あの時は近接メインだったから、常時『シールド』が付いているなんてパーティーの時しかありえない事だった。
やっぱりドラゴンでしょ、とチラホラ来てたからここの痛さは身にしみている。
「マジっすか! やったぁ、やっと飛ばない魔物とやれる!」
皆大いに喜んでいる。
でも、わかっているのかな?
飛ばないで常にせっつかれるんだよ?
まあ、大きく動かないから、当てやすくはあるけど当りやすくもあるって事を忘れて……そうか。ダメージが無いからそう思えるのか。
これは、仮に時間が余っても属性竜に移行しないでバフ無しの戦闘を何度もさせないとマズイな……
あと二日程度じゃ時間が圧倒的に足りない。
まあ焦っても仕方ないか。また来ればいいし。
「んじゃ、取り合えず、ブルーランドドラゴンから始める。
様子を見て『シールド』無しの戦いも混ぜていくからそのつもりでいてね。
まあ、やるのはブレス無しのブルーだから大丈夫。頑張って」
「「「「えっ!?」」」」
いやいや、いつでもあるものじゃないからね?
おっ、ユミルとかラーサは当然だと頷いている。心構えがいいね。
「じゃあ、移動するよぉ」
カートに全員乗せて移動を開始した。
その際、俺は初めてカートに乗ると言う体験をした。
急勾配で助走をつけて道だけを作れば良い速度で進んだのだ。
皆と一緒に乗れてちょっと感動した。
そうしてやってきたのは山の反対側の麓。
遠目にのっしのっし歩くブルーランドドラゴンの姿が見える。
「どっちが強いんだい? スカイとランドは」
「同格だよ。
空と地ってのを抜かせばスカイが速度寄りでランドがパワー寄りなだけかな。
だから『パリィ』は決めやすくなるけど、一撃離脱をしない分ラッシュが厳しいから連続した対応が求められるようになる」
ラーサの問いに答えると皆が距離を詰めて「それでそれで」と続きを求める。
いや、それ以上は特に無いんだけど。
「まあ、やってみようよ。最初はバフつけるからさ。
そこから疑問に思った事を聞いてくれ」
バフありだと聞いて安堵を浮かべる面々。
うん、バフ無くても余裕だとか言い出す子が居なくて一安心だ。
そうして、連れて来たのは八匹のドラゴン。
ズンズンと中々に良い音を立てて大きな口をあけて迫ってくる。
正直かなり怖い……
スカイドラゴンもかなりな迫力だったが、ランドの方が何か怖い。
「よっし、来たね。今回は食らわないのをめざすよ」
「はい、ケンヤさんに良い所を見せましょう」
うん。うちの嫁は強いね。心が。
あ、でもユーカはかなりビビってる。
あーーーぺとらぁぁ。蹲って泣いちゃってる。
魔法参加させてるからさっきより近すぎた……
即効で押し付けて向かわねば。我が奴隷が泣いている!
「じゃあ、頑張って」
引き連れたまま通り抜け、ターゲットが変わったのを確認して後衛たちの元へと戻った。
「ペトラ、怖い思いさせてごめんな。よしよし、大丈夫だぞ」
「お兄さん、その子にめちゃくちゃ甘いよね……」
「いや、ランスさんは子供に元々甘いですよ。あの孤児院で見たじゃないですか」
おお、ハルよりも役に立つハルの彼女ルイズちゃん。
爪の垢を煎じて飲ませてやって。喜ぶだろうし。
「喜びません! 馬鹿にしないでください!」
あ、ごめんなさい。
「ざまぁ」
「あれ? カーチェ居たの?」
「おまっ、そういう事言うなよぉ……泣くぞ……」
いやいや、お前前衛に移ってたじゃん。
虐めで言ったわけじゃないよ?
ほら、おいで。よしよし。
「さ、さわんじゃねぇよ!」
「よしよし」
「聞けよぉ~……」
また鬼畜とか言われてしまいそうだが、彼女の顔を良く見て欲しい。
この可愛く尖った口を。さり気なく寄せているこの体を。
なんてツンデレさんなのだろうか。そう言えばミラも……これは血筋!?
なんて高貴な血なんだ。後世に伝えていかねば……カッコ使命感。
「また、意味の分からない事を……それより、見てなくて良いんですか?
ハルの命が掛かってるんですけど……」
「いやいや、ちゃんと見てるよ! 嫁の命が掛かってるんだから」
うん。そこはふざけないので信用して欲しい。
今はまだ全員『シールド』が危なくなる程食らってない。余裕過ぎるほどに。
この調子なら最後まで掛けなおしはいらない。
宣言どおり、ラーサとユミルはノーダメージだ。
後はミレイちゃんもだな。攻撃よりも避けに徹している。良い傾向だね。
いや、アンジェもなんだけど、あれは技術じゃないからなぁ。
エリーゼに押し付けてる……酷い。
エリーゼが八発食らってしまっているが、二匹同時の相手だ。
距離を取るのをメインにしているとは言え、かなりせっつかれて可哀そうな事になっている。めっちゃ頑張ってるな。
エミリーは単体が相手だが二発貰ってしまっている。
あいつは元々突剣使ってたし、戦い方の系統が違うのだろう。
とは言え、『パリィ』からの鉄板コンボだからここは強制させるが。
ミレイちゃんほど天性の回避技能でもない限りは絶対だ。
「エリーゼ、エミリー、偉いぞ。その調子で頑張れっ! 後でご褒美あげるから」
あ、声掛けた所為で食らっちゃった。ごめんよぉ。
「本当にちゃんと見てたんですね。全員の食らった回数なんてよく見てられますね……因みにハルは?」
「あいつは一発だけだよ。あ、今2発め食らった」
あいつは武器防具共に竜特攻装備有りのイージーモードだからね。
見る価値もない。ああ違った、必要がない。
元々ハルを鍛えるから特攻装備でダメージが出るここを選んだのだし。
そう言えば、ラーサからタゲ奪ったりしてたのはタイミングもあったが特攻装備のおかげだな。予定変更し過ぎて忘れてたわ。
本人は今もそこら辺わかってなさそうだけど。
ハルは、チラチラと何度も此方に目をやっている。
「あぁ……私がランスさんと話してる所為ですね。ハルっ! 頑張ってぇ。
わ、私はハルだけだからぁぁぁ……
うっわ、これ恥ずかしい……なんでランスさん普通に言えるの……」
いやいや、ちゃんと見てご覧。あの男の表情を。
そして、無駄にカッコつけながらもきっちり『パリィ』を全て決める様を。
いや、ホント凄いな……あの無駄にうざったい体捌きで良く間に合わせる。
それに精度が目に見えて上がった。ルイズちゃんに褒め続けてもらうか?
「あ、ホントだ。カッコいい……」
「う、うん。まあ、そうだね?」
うむ。否定はしないよ。怒られそうだし。
けど、あの無駄なカッコつけはちょっとコメディ入ってないか?
「ユーカが大人しいなって思ったら、魔法の回数がかなり上がってるな。
ここで頑張るのもいいけど、ブラックで本気だそう?」
「どっちも頑張る。私やっぱり近接苦手みたいだし。
どうも、あれから苦手なんだ……」
あれから? ああ、ゴブリンに押さえつけられてしこたま殴られた時か。
くっそぉ、やっぱりゴブリンは殲滅だな。
「ああ、俺が傍に居れば……」
「違うよ! あの時は……ホントごめんね?」
っ!? 何か今キュンと来た。
よし。ルイズちゃんに対抗して、ここは山彦が起こる程に愛を叫ぼうではないか。
「ユーカ大好きぃぃ!」
あ、皆一撃くらった。
ご、ごめん……睨まないで……バフ掛けなおすから。
「あはは、私も大好きっ」
も、モミモミしていい? 今はだめ? あ、そう……
でも嬉しいな。ユーカが珍しくこんな事言ってくれるなんて。
いやぁーでもなんかあれだな。今が黄金期ってやつ?
帝国に一人ぼっちで居た頃の俺に教えてやりたいよ。
大天使ユミルンのおかげで復活したけど。
「あ、倒せたみたいだぞ。ほら、次もってこいよ」
カーチェがさっさと働けと顎で指図してきた。
「わかってるし、次は移動ですぅ!」
ラーサとユミルが倒し終わってる。ミラも今終わったか。
三人が、未だ戦っている者達の援護に入り、バタバタと倒されていく。
最後はやっぱりエリーゼか。二匹受け持ってたら当然だな。
その分技能の上がりは他より良いはず。
一番指導が必要なのは、エミリーか。
大差は無いけど、こういうの本人は気にするもんな。
次回の練習は傍に付くか。
何にしても、予定通り移動だな。
「次はブラックいくぞぉ」
もう何の説明も無しにカートに乗り込む面々。
俺も先を急いでいるのでそのまま全力で移動する。
「じゃあ、同じように準備しとくように」
ポーションと心構えの準備だ。
幸い、ペトラも落ち着いた様なのでさっきから面倒を見てくれてるユーカに任せて釣りに行く。
ここからは、皆が吐き気を催すまで、単調な狩りが続いた。
前回のスカイドラゴンと同じように、グリーン、イエローと難易度を上げていき、慣れてきた頃、とうとうバフ無しタイムに入る。
当然ブルーランドドラゴンが相手だ。
「もっと早く『シールド』無しでやると思ってましたけど、ランス様はやっぱりお優しいですわ」
「うん。ランスはこれがデフォルト」
「甘えないようにするのが難しいんですよね……ケンヤさん本当に素でこんな人だから」
いやいや、そんな聖人みたく言わないで?
嫁を何人迎えた男だと思っているの?
その分頑張ってるだけだから。
「っと、時間無いんだった。
じゃあ、始めよう。
ここからは下手をしたら大怪我をする戦いになる。
わかっていると思うけど、攻撃を当てる事よりも回避と弾く事に専念して戦って。
殆どの攻撃を後衛に任せるつもりでも良い。
その場合後衛にターゲットが行かない様『威圧』で固定する事を忘れないように。
結果的に、後衛に敵を向かわせないで自分が無事ならば問題は無いからその範囲で好きにやってみて。
じゃあ、四人一組で行こう。最初はラーサ、ユミル、ミレイ、ミラだ」
説明が終わるとどういう基準で選んだのかという話になった。
「成績順だな。次の組には俺が入る。
攻撃には参加しないけど、実際に混ざって指導する」
不満が出るかと思ったが、思いの他最初に選ばれた四人は満足げだ。
エリーゼ、エミリーも安心した様子を見せた。
アンジェはどうでも良さそうだ。早く突きたいとか言ってる。
ハルが少し首を傾げていたので、嫁補正が入ってるから気にするなと告げる。
ダメージ関連で言えば竜装備特攻があるハルが一番だし。
それに本当は『パリィ』に関してならミラよりはハルの方が少しだけ上手くこなせている。
回避や間合いの取り方なんかはミラのが上だけど。
あー、装備無しで考えれば総合的にはミラのが上だな。流石俺の嫁。
「今回は後衛も遊び心無しだ。実際に前衛の命が掛かってる。
全力で援護をしてくれ」
「……どうやって?」
そこで、後衛組みにまだそこら辺の事を細かく指導していない事を思い出した。
「前衛の練習にならなくなると思って説明後回しにしてたから忘れる所だった……
攻撃魔法の他に『アースバインド』や『スワンプ』を混ぜる。
ウォール系も使えるけど、慣れるまでは前衛の阻害をしかねないから、バフありの時に練習しよう。
後で、特定の種族によって凄い効果の高い魔法とかも教えるから。覚えておいて」
特にユーカ。
後衛で唯一の回復魔法使いだ。
『サンクチュアリ』など正直無詠唱で出せればかなり有効な魔法。
何が凄いって、ボスや一定の魔物を抜かした敵の入れない結界が作れる事だ。
本来、詠唱でありえないほどの時間が掛かるみたいだし。
やろうと思えば、俺と同じようにアンデットでチートレベリングが出来る。
マジックポーションをガン積みで行かないと無理だけど。
「タイミングは?」
「そこは、自分で考えてくれ。
前衛と敵をしっかり見て、危なくなりそうだと思ったら『アースバインド』使って援護してみたり、敵が攻撃に動き出す瞬間に『スワンプ』使って時間に余裕作ってみたりね」
「自分で考えろって言ったのに、説明してくれるんですね……」
いやいや、定番なところをだけね?
どっちも効果時間がそんなに無いから使いどころを考えてってこと。
敵の攻撃全てに使ってたら魔力持たないからね。
「なるほど。使い所ですか」
ユーカもルイズちゃんも顎に手を当てて真剣に考えている。
カーチェは腰に手を当てて空を見上げて黄昏ていた。
何をしているのだろう……カーチェはホント何してても絵になるなぁ。
「はぁっ? ちゃんと聞いてるっての。何見てんだよっ!!」
ああ、何かこいつ悪態ついてるのに癒されるな。
「さて、やるか」
先行組み全員を見渡して覚悟を窺う。
自信気の表情で良い感じの空気になっている。
俺はそのままブルーランドドラゴン一体を連れて来て取り合えず、一番安定したラーサに持たせる。
「一体だけ?」
ミラは何で? と言いたげに問いかけた。
「実戦舐めちゃダメだよ。一発誰かが食らえばわかる」
その一言だけ告げて離脱した。
だが、ミラもその一言で何かを思い出したように頷き、視線も食いつくようにランドドラゴンだけを見ている。
出だしは順調だ。
ラーサが受け持ち、ユミルとミレイがサイドから援護を送る。
ミラは後方からスキル連打だ。
だが、ラーサが反対側に回っているというのに、こうなると後衛の攻撃魔法は撃てない。せめて後方を空けてやらないと……
「お兄さん、これじゃ攻撃出来ないんだけど……」
「うん。多分ラーサさんかミレイちゃんが気がつくんじゃないかな?
行動阻害だけしてもうちょっと待とう」
「そっか。私達だけの実戦を想定してるんだもんね。わかった」
でも、ユーカから何か言う分にはいいよ?
そう伝えたが、彼女ももうちょっと様子を見るみたいだ。
真剣に見据えて『アースバインド』を上手く使う。
「むぅ、お兄さんのみたく動き止める程にならないからタイミングが難しいよ……」
「そうですね。『スワンプ』の方がまだ有効かもしれません」
パワータイプの格上だからねぇ。
スピードが乗る前のタイミングで使ってゼロコンマ何秒といったレベルの行動阻害だ。
上手く使えばあると無しじゃ全然違うけどね。
特に回避時は効果絶大だ。後ちょっとでノーダメージだったという時は結構ある。
『パリィ』の時はタイミングか変わっちゃうから妨害になりかねないしね。
「一体なんだし、タイミング合わせましょうか。少し時間が伸びると思います」
「あー、なら重ねるのはどうかな?」
「二人とも良い着眼点だね。でも今回は重ねるのは無しだ。タイミングの練習でもあるから。交互に撃つ方で試してみて」
確かに重ねれば時間が大幅に伸びる。だけど消費効率はかなり悪い。
元々の効果時間自体がもの凄く短いのだ。
実戦でも重ねるのはどうしてもの時以外は避けたほうが良い。
「何か後衛って責任重大ですね……」
「うん。でもどっちもどっちかな。
格上相手で前衛が後衛に敵流したら大抵終わるし」
「終わる……それって全員死ぬって事だよね……」
……そう言われると、俺自身認識が甘いと思い知らされるな。
そんなの考えただけで背筋が凍る。
「お前馬鹿じゃねぇの? だから今こんなに手間掛けてこんな熱いところ来てんだろ! しゃんとしろっての」
おおう。お馬鹿に慰められてしまった。
なのにすっごく嬉しいよ。カーチェは凄いね。
とその時、ミラが尻尾による攻撃で吹き飛ばされた。
「『エクスヒーリング』ミラっ!」
即座に『瞬動』でミラを拾い後衛に戻る。
「か、過保護すぎっ! 離して、今すぐ戻る!」
「いやいや、ミラさん。お兄さんが居なきゃ今動けてないからね?」
はぁ、無事で良かった。
わかってても心臓に悪いなぁ……
「よし。今度は喰らうなよ」
「当然。行ってくる!」
うーん。今まで全てに自信無さ気だった反動かな?
何をするにも自信過剰な気がする……
街中での生活でなら良いんだけど。実戦だとこれは怖いなぁ。
「あ、でももう倒したよ」
「あぁ! ランスが引き止めるから!」
「それは流石に理不尽ですよ……」
「うん。理不尽だね」
「ち、違う。ご、ごめんなさい……」
ルイズちゃんとユーカに言われて思い直したミラはショボーンとしてしまった。
そして、一発も食らわなかった面々も少し申し訳なさそうに戻ってきた。
「どうにも連携ってのは人数が多いほど難しいね。
もう少し上手くやれると思ったんだけどねぇ」
「そうね。でも皆、動き自体は良かったわよね?」
ミレイちゃんに問いかけられて頷く。
確かに、個人としての動きは凄い速度で良くなっていってる。
「この中で一番合わせられていたのはユミルかな。良く頑張った。
前衛はああやってお互いのサポートに徹するのが一番重要だ。
ダメージを高めたいなら中衛のアタッカーを作ればいい。
一番ダメなのは間違いなくミラだな。
攻撃を当てる事より周りを支援するのを考えてみよう。
全員が無事に戦闘を終える事が一番大切だからね」
ミラは、強くなろうと必死なんだよな。
その所為で、連携よりも単独で自分が攻撃を当てる事だけを考えてしまう。
ラーサは後衛の攻撃が飛んできてない事が前衛の動きのせいだってわかっててああ言ったのだろうし。
ミレイちゃんもわかっててフォロー入れるみたいにああ言ってた感がある。
ミラに戦闘中も何か言ってたみたいだし。
それでもへばり付いてスキル使い続けたのは、あの事件のせいだろうな……
「ミラ、何があっても俺が守るよ。だから、周りと一緒に強くなろう?」
「……前回間に合わなかった」
「ミラさん! いい加減にしてください!
間に合わなかったのはケンヤさんの所為じゃないでしょう!?」
少し、ふて腐れる様に返した言葉に、ユミルが怒りの声を上げた。
「止めな。こういった言い合いするのがランスさんにゃ一番の負担だろうよ。
取り合えず、二人でゆっくり話し合うんだね」
そう言ってラーサがユミルの肩に手を置いて、移動を促す。
後衛組みの方へとミラを残し移動した。
「……上手く行かない。私、思ったより不器用」
「知ってる。不安だから強くなりたいだけなんだろう?
けど、理由がわからなくて取り除いてやる事が出来ないのがもどかしいよ」
「ランスは、こんなに言っても怒らないね。
私の事、私以上に知ってるし。おかしい」
力なく寄りかかる彼女の体を支えた。
どうにかできないものかと考えを巡らす。
ミラはもう、ゴブリンなんぞに後れは取らない。
だからと言って不安が消えるわけでもないだろう。そういうのはトラウマとなって付きまとう。
俺はあの時、恨まれようともそれと付き合う事を決めた。
何故ならそれはミラと付き合うに至る為の必須条件だったからだ。それでミラに怒る様な事は出来るだけしたくない。
その根元であるトラウマは解消してやりたい。
ただ単純に強くなれば平気になっていくと思っていたが、見通しが甘かった。
「ミラ、これだけは忘れるな。あの日、お前を助けた時に決めたんだ。
一緒に居られるなら、なんだってしてやろうって。
だからさ、俺はずっと一緒だ。トイレだけは別々」
「ふふふ、それ、久々に聞いた。今度一緒に入ってみる?
ランスの見ててあげる」
え?
って俺がすんのかいっ!?
「変態かっ!」
「ランスにだけは言われたくない」
あっ、はい。
「私は、ランスに会えた。
それだけが……ううん、それが私の幸せを膨らませていく。
だからね。もう罪悪感だけは感じないでいいよ。
私は、もう幸せなの。
あの日、恨むって言っちゃったけど。
ホントはね、怖かっただけですぐに恨みなんてすぐ消えたの。
なんて心がキレイな人なんだろうってずっと思ってた。
もうそれは過去形だけど……今はただの変態」
「ちょっと、ミラさん。上げて落とすの止めて貰えませんか?」
「ふふふ、私の楽しみだから取らないで?」
「ふむ。じゃあ夜の俺の楽しみも取らないでくれるか?」
「……変態」
うむ、いいだろう。
その汚名、甘んじて受けよう。
ならば、次はどんなプレイを頼む考えておかねばな。
うむ、これは大切な事だ。しっかりと吟味せねば……
「話は着いたみたいだね。それで、次はどうするんだい?」
お、おおう。思ったより皆近くに寄ってきていた。
さては、聞いて居たな。
「なんだかズルイです。ミラさんはケンヤさんとの時間が一番長いのに」
「それを言ったら次はお姉ちゃんでしょ! もっと私に時間使うべきだよ」
「お前らうっせぇな! 私なんて無視されてんだぞ! ちょっと黙ってろよ!」
カーチェ、ごめんな。もう出来るだけ無視はやめるよ。
でも、反応が楽しくてさ……
っと、時間が無いんだから無駄話に変わったなら進行させないとな。
「じゃあ、連携の話し合いは各自で詰めて貰うとして、次は俺たちだな。
成績の優秀な四人であれだったんだ。
大変だと思うけど、気合入れていくぞ!」
「ケンヤが居るなら平気。私は愛で強くなる」
「大丈夫です。痛みには多少慣れがあります」
いや、エリーゼ……食らっちゃダメだよ?
「ふはははは、私の槍が火を噴くのだ! ドラゴンなんぞ穴だらけなのだ!」
いつもより慎重になっていて最初は大人しかったのに。
まあ、いいか。それでこそアンジェだ。
じゃあ、釣ってくるかね。
そう思っていたら視界に移動中のランドドラゴンが映った。
即座に『ライトニングボルト』を目の前に落として注意を引き、気がついた瞬間に怒りくるって向かってくる。
「正面、やってみて良いですか?」
「良いよ。エリーゼは前回アンジェのおかげで散々だったもんな。
今回は一匹だしサポートもするから」
「わ、私は『パリィ』が無いのだ! ランスさまが数間違えたのが悪いのだ!」
あー、うん。ごめんごめん。
出来るけど……確かに槍じゃ難易度が高すぎたな。俺の所為かも。
「ケンヤ、色々教えて。この体に」
こら、胸に両手を当てないの! うずうずしちゃうでしょ。
ゴテゴテした鎧つけてて良かったよ。
危なかった。エミリーのその小ぶりなおっぱいもまた強敵なのだ。
そんな風にふざけて始まった後発組だが、とてつもなく安定していた。
驚いた。
正直、俺が手を出す必要が無い。
その決定的なほどの差はやはり連携だ。
俺がじっと見てるからか、アンジェもエミリーもエリーゼの指示に素直に従った。
当然ハルもそんな事に文句を言う奴ではない。
そして、エリーゼは指揮を執る才能があった。
位置取り、ターゲットの譲り合い、それらを良いタイミングで回していく。
「やばい。俺の出る幕が無いほどに完璧だ。先行組みはこれ見てて!」
「プ、プレッシャー掛けないでください。一杯一杯なのですわ」
そう言いながらも、最後までミスといえるミスが無く、戻った後もユーカやルイズちゃんからやり易かったと褒められていた。
「エリーゼさん、ちょっと話を聞かせてもらえませんか?」
「あっ、私も聞きたいわ。エリーゼお願いっ」
ユミルとミレイに囲まれて連れて行かれるエリーゼ。
ずっとサイクルでやっているから、当然の様にカートに乗り、先行組みがエリーゼから色々と話を聞きだす。
エミリーも連携の力を思い知った様で「一発も食らってない」とドヤ顔だ。
ハルはハルで「連携って凄いっすね。ラーサさん達の組に成績で勝てるほどに変わるなんて思わなかったっすよ」と呟く。
図らずも、中々に良い感じに理解してくれた様だ。
だが、お前は勇者だからな。あれくらいは必須だぞ?
「そ、それより次行かないんすか?」
なんだよ、その早くしろ的な目は……って他の皆もかよ。
全く……いや、男は黙ってカートを引こう。
いいもん。何も言ってくれなくたって……
そうして俺たちのレベリングは続いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます