第35話心の救世主。
「ユークディア・オリヴァーに話をする件、頼むな」と、ガイールに念押しされたので、そのまま帰りの足で彼女の泊まる宿まで来ていた。
そう言えば、裸見ちゃったっきりなんだよな。
キレられたりしないかな?
宿の受付で呼び出しを頼みロビーでそわそわしつつ彼女を待っていると、離れた場所から声が聞こえた。
「あ、あの、この前はごめんなさいっ!!」
俯き気味にユークディアは開口一番何故か謝罪の言葉を継げた。
やはり、気にしているのだろう。少し距離を取っている。
「ど、どうした? 謝るのは俺の方だったと思うんだが?」
「え? だ、だってはしたない格好をみせちゃったし……帰らせることになっちゃったし……」
何て良い子なのだろうか。ガチギレされても可笑しくないと思っていたのだが。
「あの爆発娘には思う所はあるけど、ユークディアさんには俺も申し訳ないと思っていたんだ。怒っていないなら逆に助かったよ」
「うん、怒ってないよ……思い出したくは無いけど。
呼び方、ディアでいいよ?
あっ、そっか。自己紹介、出来なかったのよね。
私は知ってると思うけど、ユークディア・オリヴァーよ。
あの子はローレライ・ルジャール。
独立派なのは知ってるわよね。
私が剣鬼の娘で、あの子が賢者の娘よ。
私がディアって呼んで欲しいって言ってたからか、あの子も真似してレラかレイラって呼ばれたがるわ。
あー、あのね? レラは今まで特別扱いで育ってきたから限度が分かっていないだけなの。
言いたい事は良く分かるけど、良かったら仲良くしてあげて欲しいな」
『悪い子じゃないのよ?』と言いながらも彼女は呆れた遠い目をして溜息を吐いた。
「俺の名前はケンヤ・カミノ。好きに呼んでくれ。今日はちょっと込み入った話があるんだが、出来れば落ち着いた場所で話したい。時間あるかな?」
そう尋ねると、彼女は何の躊躇もなく、部屋まで入れてくれた。
今はあの爆発娘は不在のようだ。
椅子とベットに座り向かい合って頼まれた話を彼女に伝える。
最初少し顔を顰められたが、中立と言うより関係ない人物だから仲介に選ばれた事を伝えると一応は信じてくれた様子。
「随分アバウトな話ね。それで何が起こるの? 信憑性は? と言うか予言を頼りにクーデター起こしたの? とか疑問は尽きないわね」
まったくだ。
色々と確認しなければいけないところがある。
とは言え、大事な部分を言えないと抜かしがったからな。
本当にそれだけが理由なら俺が滅ぼしてやろうかと思うくらいには頭にきているってのに。
「だろうね。俺も信憑性に欠けるから話を伝えるだけだぞって言ってある。断ってくれて構わないからね」
『流石に信用できないわ』と溜息を吐くユークディア。
「まあ、貴方が同席して守ってくれると言うのなら、いいわ……」
彼女は『うーむ』と事実を吟味し、ギリギリの所で了承を決めたようだ。
「えーと、行かなくても一向に構わないんだけど……」
「あ、あれ? 本当に断っちゃっていいの?」
呆気に取られた様だ。『ホントに断っちゃうよ?』と少し笑みを浮かべている。
「うん。正直やり方が気に入らないって言うか国の凝り固まった考え方ってのが気に入らない。だからあいつらは嫌いじゃないけど、応援する気はないかな」
「そうっ! そうなのよ!! カミノさん、分かってるわね」
彼女は身を乗り出して、こちらの手を握ると、嬉しそうに笑う。
少し勢いに押されつつも、同世代の女の子に神野さんなんていわれたものだから俺も心が和んだ。
そんな空気になってきたというのに……
突如扉が開いたかと思えば、その先に爆発娘が立っていた。
「わわわっ、お邪魔だったかな? もうちょっと外にいるね?」
と、主にディアに向けたからかいの言葉を投げる。
一々面倒な返しをするんだよな。これでまたユークディアさんがツンモードになってしまう。
友好的に話しをまとめてさっさと帰りたいんだけど。
ああ、本人がこう言っているのだし、おざなりに返してやれば良いのか。
「ああ、邪魔だから二人きりにしてくれると助かるな」
「ふぇっ!?」
と、驚きの声を返したのは爆発娘ではなかった。
何か拙かったかな?
話を済ませたいと理由付けしているからおかしな事ではないと思うのだけど?
「えっと、ディアちゃんを口説くのはダメだって言ったよね? もう忘れちゃうほど残念な頭なのかなぁ? お姉さん怒っちゃうよ?」
本当にうざいな。
剣士スキルの『威圧』でも使ってちっと脅かしてやるか。
「……何から突っ込めば良いんだ? おませなお子ちゃまだなぁ? そろそろお仕置きが必要か? お尻ペロペロしちゃうぞ!」
あ、間違えた……ペンペンだった。
「ぃや……近寄らないで……やだぁぁ……」
な、泣き出してしまった。
あれ、何か俺が悪者にしか見えない状況なんだけど……
「あ、いや、言い間違えた。ペンペンだ、ペンペン」
彼女はお尻を隠し『近寄らないで!』と強い口調で言い放った。
一歩も動いてはいないんだが……
二人はゆっくりとこちらの動きを確認しつつ、後ろに後退していく。
爆発娘の隣から聞こえて来た「ごめん。今日も帰ってくれる?」とはユークディアさんの言だ。
余りにドン引きさせ過ぎてしまったのか、二人は両手を握り合ったまま壁際まで下がっている。
本気でお引取りくださいと言われてしまった。
いや、間違えただけだよ? と弁解するも、聞く耳は持ってくれない。
『明日の顔合わせだけは付き合うから、帰って』と悲しそうな視線を向けられた。
なるほど……
エミリーとかティファにもこういう事を言えば、粘着されなくなるのだろうか。
うん。ためしにやってみよう。
ティファになら蔑んだ目で罵られるのも一興かも知れないし。
いや、そんな趣味は無いが、お姫様だし……
一回だけ、一回だけなら……
そんな馬鹿な事を考えていたら、いつの間にか町の外壁まで来ていた。
あれ?
こっちに用は無いんだけど、何故俺はこっちに歩いて来たんだ?
と、無理やりそう思ってみるものの……
本当は、理由なんて分かっていた。
通り抜けるでも無しに何度もここには足を運んでいる。
「ああ……帰りたい」
帰ろうと思えば、直ぐにでも帰れる。
本当にすぐだ。数時間走れば良いだけだ。
女の子と新たに知り合うたびに思っていた。
俺は自分の彼女とイチャついていたいのにと。
拒絶されるのが怖いからここで足が止まってしまうのだが……
ああ、そうだ。
バレない様に『隠密』使って様子を見に行こう。
そう、依頼状況の確認をしに行ってもおかしな事ではないだろう。
ミラたちの前では『隠密』を起動させておけば良いのだから。
うん。大丈夫大丈夫。
そうと決まれば早かった。
もう19時を回っているというのに、夜の闇にまぎれて外壁を飛び越し、走り出した。
ははは、寂しくなったから国外まで走って向かうとか……
子供並みに感情に左右されてんな。
まあ、明らかに精神的にも若返ってるのは分かってるけど……
それでも、もうちょっと男として面目の立つ言い訳が欲しいところだな。
あー、あれだ。
時間的に大迷宮のボスがリポップしてるし。
地下墓地もだし。
強化石が全然足りてないし。
うん。これは必要な行動。
ああ、後買い込んだミスリル原石とかも持っていこうかな。
無詠唱アクセサリー量産しようと思ってたところだし。
もしかしたら……元に戻ってくれてるかもしれないんだし……
なんて……流石にありえないけどさ。
けど、良いんだ。
今は、元気にしているのを確認できれば。
意味の無い思考をぐるぐると回しながらも、一度も足は止まらなかった。
そして深夜、そろそろ日を跨ごうとした頃、俺は小鳥の囀り亭にたどり着いた。
きっともう王都に戻ってるだろうけど、ユミルとユーカはこっちに居るだろうし。
そう思ってこっそりと中へ進入する。
勝手知ったると、我が家の様にすいすいと奥の部屋まで進む。
まずはユミルの所だ。
戦略的目標として、この順番は覆せない。
彼女に最近の近況を教えて貰わねば。
そう考えつつ、彼女の部屋の前に立った。
勝手に入ったら拙いかな?
けど……外から声を掛けてユーカに聞こえたら……
って何躊躇してんだよ。
ユミルは俺の彼女だ。何が悪い事がある。
そうだ。
堂々と腰を落として音を立てずに入っていけば良いんだ!
暗闇の中、彼女の部屋のドアをゆっくりと開いた。
小さく『キィィィ』と扉の開く音が立ち、俺の心を泡立たせる。
だが、部屋の中から反応は無い。
ゆっくりと闇に慣れてきた目で覗き込めば、ユミルは天使の様な寝顔で寝息を立てていた。
「ユミル、ユミル、夜這いに来たよ」
俺は、ここぞとばかりに悪戯を開始する。
ポヨンポヨン
ブルンブルン
ピンッ!
「んやっ!」
「……っ!?」
や、やばいっ、逃げなきゃ!?
って、違う。起こしに来たんだった。
暫く様子を見てみたが、規則正しい寝息が続いた。
さあ、もう一度。
ポヨンポヨンと、したところでガシっと腕を掴まれた。
「うひゃっ!? ご、ごめんなさいっ!!」
「もう、帰ってくるの遅いですよぉ。待ってるのが私一人じゃ来てくれないのかと思いました」
ベットから体を起こすと同時に抱きついてきた。
凄く嬉しいのだが、このまま押し倒すのは拙かろうと体を離す。
「押し倒したくなっちゃうから、今は普通に話をさせて」
「分かりました。後で、ですね」
と、予想外のアクティブさを感じつつも、本題に入った。
当然聞いたのは最近の皆の様子だ。
まだ、半数は帰らずに残っているらしい。
ミレイ、エレオノーラ、アナスタシア、エドウィナは王都へ戻った。
他の残った面々は、日々レベル上げに勤しんでいるようだ。
ミラがハルに進めたのが切っ掛けになり、ゴブリンの森に通う事になり、ミレイを抜かした『か弱気乙女』の面々とエリーゼが、ハル、ユーカ、ミラのレベル上げを面倒見ているらしい。
何故かミラが一番精力的に頑張っているのだとか。
可笑しいな……レベル上げ、嫌がっていたと思ったのだが……
まさか、俺を殺す為とかじゃないよね?
本気で泣くよ?
残ったユミルが宿の運営をしながら子供達を教育しているのだとか。
「そう言う事なら、ユミルを連れ出すのは無理か」
「えっ!? 私で、ランスさんの為に何か出来る事があるんですか?」
「いや、ごめん。ただ寂しくて一緒に居て欲しかっただけなんだ……」
言い訳を考えてきたのに、優しく受け入れてくれるユミルに素直に言ってしまった。
かなり情けなさを感じて視線を下げた。
そんな俺を彼女は、腕を回し抱きしめてくれた。
「い、行きます。絶対行きます!」
「けど、こんな理由で子供らから仕事奪うわけには……」
「大丈夫です。ユーカはもう戦うのは嫌だって言ってましたから」
どうやら、ゴブリンに骨折するほどに殴られたらしい。
サポートがあるから直ぐに引き剥がされ討伐されたが、調子に乗っていたところをガツンと凹まされて、もう嫌だと言い出したようだ。
「なので、交代しても良いよって言われてたんですよ。余り戦いには興味なかったので、私を連れて行ってください」
「うん。一応、もう一度ユーカに聞いて許可貰えたら、一緒に行こう」
「じゃあ、早速聞いてきます!」
ばっと跳ね起きるようにペットの上に立ったユミルが可愛いこぶしを握ってやる気をアピールする。
「いやいや、まだ夜だからね?」
「あ、じゃあ、ええと……寝ますか?」
ユミルは『そうでした』と女の子座りで腰を落ち着け、布団の隣を軽く叩いて顔を赤らめた。
ぐはっ、やばい、キュンと来た。
けど、今は……今はちょっと場所が……
「一応ミレイちゃん達の無事も確かめたいから、王都も行ってこようと思うんだ」
「あー、そうですか……そうですよね……」
ユミルは悲しそうに目を伏せた。
もしかして、魅力が無いからとか思ってないだろうな。
ここは彼氏としてきっちり言っておかねばなるまい。
「ま、まあ、今日は寝る時間が無いからだけど、明日からは帝国で二人で暮すんだ。寝るのも一緒、だからな?」
彼女の手を取って、軽く引き寄せて、フレンチキスをお見舞いした。
恥ずかしくてかなり挙動不審になってしまっているが、勘違いさせたままよりは良いだろう。
と言うか、嫌がられてないよな?
これすら拒否られたらもう全て捨てて一生引き篭もるレベルで精神が逝く。
「や……約束、ですよ?」
「ああ、約束だ」
繋いだままになっていた手の暖かさを感じてニギニギしてみると、同じく握り返され、見つめ合う。
ヤバイな、どんどん雰囲気に引きこまれていく。
視線が彼女の瞳に吸い寄せられて、近づいていくのを止められない。
ここは、小鳥の囀り亭だってのに。ミラやエリーゼやユーカが居るってのに。
……いや、ハーレムなんだし?
元々ユミルもメンバーなんだし?
ここで臆する必要は無いんじゃないかな……
そして、俺は雰囲気に身を任せた。
「……っん、ちゅぱっ、んんっ……ランスさ……んっ……」
「ユミル、と、止められなくなりそうだ。このまま……い、良いかな?」
「は、はいっ、勿論です……はぁはぁ……」
ゴトっと小さな音がした。
背筋が凍りつきそうになった。
だが、俺はこの音を気にしてはいけないと本能の呼びかけを無視した。
だがやはり、恐怖に抗えずチラリと目を向けてしまった。
「ほら、ユーカが音立てるから。ランスが気がついちゃった」
「だって、人の姉を犯そうとしてるんだよ」
「去勢ですわね」
『んっ……はぁはぁ、ランスさん……』と、ユミルが後ろに気がつかずに、誘うような声を上げる。
三人は何故か俺が作ったミスリル製の武器を持っていた。
三人は血の気の引いた青い顔で口の両端を吊り上げた。
「ねぇ、お兄さん……切り落としていい?」
「ランス、ほら、出してっ。引っこ抜いてあげる」
「去勢ですわね」
や、ヤバイヤバイヤバイ! めっちゃ怖い!
未だに気がつこうとしないユミルを抱きしめて寝返りをうち、無理やり反対側を向かせた。
「ちょ、ちょっとユ、ユミル? 待って、あっち見て!」
「んっ? どっちですか…………っ!? ひ、ひぇぇっ!? ランスさん助けて!」
俺も助けて欲しい。
だけど、頼れる人が見当たらない。
「ま、待て、話があるんだ」
「ええ、去勢した後でしたら……」
「うん、まずは引っこ抜いてから……」
「朝食はキノコスープ」
武器を構えてじりじりと寄って来る三人。
漸く、驚きから高まりすぎた恐怖が少し落ち着いた。
ユミルを背に守るように前に出る。
「無理に決まってんだろ! 死んじゃうっての! 後、ユーカ、キノコじゃないからな!?」
「死んじゃえばいいじゃん! 人の事苦しめて、何いってのよっ!」
「そうです。私も実家での立場がなくなりました。最低です」
「ランスは好きになっても嫌いになってもうざい。死ね」
ひ、酷すぎる……
本気で死んで欲しいって思ってるんかな……
「ランスさん大丈夫です。皆嫉妬してるだけ、んちゅっ、んっ、ちゅぱっ……こうやって見せ付けられてるのが悔しいんです」
ユミルはキスをして来ながらも、視線はミラたちのほうへ向いていた。
完全に見せ付けている。だが、顔色は優れない。
恐怖で顔を引きつらせるほど怖いなら、そんな油を注ぐような真似しなくても……
「もうっ、皆さんも、そんな顔しないで下さい。わかりませんか? 好きじゃないならもう嫉妬する必要が無いんですよ。ほら、本当はユーカもして欲しいんでしょ?」
「んな訳ないじゃん。気持ち悪い。お姉ちゃんも、もう当分は近づかないでね。ホントありえない」
確かに、三人とも苛立って見える。
本当に気持ちが残っているのだろうか?
だとすれば、これほどうれしい事はない。
「うん。やる気出てきた。俺、頑張るよ。絶対元に戻すから。ミラ、ユーカ、エリーゼ、待ってて」
「分かった。ランク上げながら待ってる」
おお!! やっと普通に返してくれた。
「お兄さん……私、次ぎ会う時はオリハルコンの剣が欲しいなぁ」
ああ、レベル上げ頑張ってるんだもんな。それくらい全然良いよ。
「私はランス様に刺さる剣が欲しいです。ありませんか?」
「「あっ、それ私も欲しぃぃぃ!!」」
……知ってた。
皆そのつもりなの、知ってた。
やばい、涙がこぼれそう。
「えっと、ランスさんそろそろ行きましょう。こんな人たち待たせて置けば良いんですよ。何も言わなくても勝手にちゃんと待ってるんですから」
どういう事?
うん? 居ない間、俺の事ばかり言ってた?
悪口ばかりだけど、口にしない日は無かった?
意気地なし? 童貞? 変態?
ほ、ほほう。それは……泣けば良いの?
「まずは、移動しましょう。王都に行くんですよね。多分、ミレイさんも同じだろうから見ればすぐに分かりますよ」
良く分からないけど、何かユミルも一緒に来てくれるっぽい。
「って事だからユーカ、ごめんなさい。暫く家を空けるね」
「はぁ? ふざけないでよ。お姉ちゃん治ってまで私に店、押し付けるの!?」
「ならもうお店、捨てちゃう? ユーカが望むなら今度は私が働いて養うよ? ランスさんと一緒にだけど」
「……だから気持ち悪いって言ってんの」
そう吐き捨ててユーカは部屋を出て行った。
その後、拒絶されまくって放心状態になっていた俺は、ユミルに背中を押されるように小鳥の囀り亭を後にした。
人の居ない夜道を二人きりでゆっくりと歩く。
俺は良いんだけど、まだ深夜なんだよなぁ。
寝てた所いきなり起こしてこんな事になっちゃって……
と、心配になり顔を伺えば、何故かニマニマとユミルには珍しくだらしない笑顔を浮かべていた。
「無理してない?」
「うぇへへ、生きてきて、一番幸せかもしれません」
腕にしがみ付き、デレェっとした表情は疑いようがないくらい素直な気持ちを表していた。
あの日から、ずっと追い詰められていた心が初めて心から休まった感じがした。
信じて受け入れてくれる彼女が愛おしくて仕方が無い。
「帝国について、落ち着いたら、デートとか、旅行とか色々しような」
「うぇへへ、あ、でも……魔法のお勉強はいいんですかぁ?」
「ああ。それくらい、平行してやってみせるさ」
そう言って、彼女を抱き上げた。
「ひゃっ!?」っと、声を上げて驚きつつも彼女は直ぐに頬を緩ませる。
帝国に居たときに感じていた寂しさは何だったのだろう。それくらいに満たされた。
彼女の驚いたり、笑ったりする顔がもっと見たくて魔法を色々見せながら走っていたら、あっという間に王都についていた。
だが、王都に着いたはいいものの、今は深夜、探しようが無かった。
とは言え、明日は帝国で用事が満載だ。入学式の日でもある。
とりあえず、寮に居るエドウィナに声を掛けて話を聞かせてもらった。
起こした時、かなり驚かせてしまったが、事情を話して許してもらった。
「あー、はい。
帰りもそうでしたが、帰ってきてからも荒れてましたね。
エレオノーラさんが勤める酒場に入り浸って、ランスさんの事ばかり……
え? あ、身の危険は無いと思いますよ。
名の売れた冒険者でもありますし。
塞ぎこんでいるというよりいじけているの方が近い感じに見えますし」
とエドウィナとエレオノーラの見解はそんな感じらしい。
余り可笑しな事にならないように見ていてくれたら嬉しいと声を掛けて移動する。
目指す先は俺の城だ。
可哀そうだが、ブレットを叩き起こして話し合いの席についてもらった。
「え、ええ!? ぼ、僕がですか!?」
と、騒ぎ立てるブレットにお願いしたのは、今後のこの農地の全権を譲るという話だ。
要するに、自立して頑張れと言いに来たわけだ。
「一応10年分の土地代金は納めてある。
他にも信頼できる人に見て居てくれと頼んでもある。
俺自身も帰って来れそうならまた前の様に一緒にやっていっても良いんだが、まだ分からないんだ。
この先どうなるかが……」
「あの、いつまで頑張ればいいですか?」
「あー、言っておくが、お前が全部面倒みろって話じゃないぞ?
そうだな、ブレットのやる事は一つ、
問題が起きた時に話を纏め、信頼できる大人に相談する事だ」
うん。もしかしたらって事を考えているだけだからな。
最悪を想定すると、大型ボスで帰らぬ人になってしまうとか……
まあ、これを口に出すとユミルが心配するだろうから言わんけど。
「え? それだと今と何も変わらない様な……」
「ああ、特には変わらないな。今まで通り、皆と一緒に農業やっていく感じで良いと思う。俺も長く帰らない可能性があるってだけで、問題が解決すればすぐにでも戻ってくるしな」
これはある種の俺の為の行為だ。
最悪、忘れて放置しちまっても大丈夫なようにしておきたい。
帝国で学校が始まったら更に色々やる事が増えそうだからな。
それに、いつまでも俺が必要な状況と言うのは良くない事だ。
ブレットもやるべき事を把握できたからか、自信を持って頷いた。
念の為と、ミスリルアクセを数点置いていく。
何かあればロドさんかラーサ経由で金に換えて凌げと。
予想金額を聞いたブレットは、どこにしまおうかと、必死に頭を悩ましていた。
「お前も大分成長したな。あれからまだそんなに経ってないのにたいしたもんだ」
「背、伸びました? ご飯しっかり食べてるからかな?」
と、ボケをかますブレットに突っ込みを入れ、話し合いを打ち切るとユミルを連れて帝国へと向かった。
道中、ユミルが凄い真剣な表情で言った一言に面食らって転びそうになった。
「ランスさんは同姓もいけちゃう人だったんですね。ってちょっ!! お、落ちちゃいますっ」
「あぶねっ!? いきなり変な事言うからっ! どこを見てそう感じたんだよっ!? 止めてよっ!!」
「ふふ、でも少年たちの寝顔を見る姿がとても愛に溢れてましたよ?」
「……まあ、お父さん代わり位には思ってるけど。断じて男に興味は無いからな」
彼女にそう断言すると『冗談です。今は私だけの、ですもんっ』とギュッと抱きつかれた。
全く、ユミルは男を狂わせる才能を持っているのではないだろうか。
彼女の可愛さに、早くも陥落してしまいそうである。
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