……この国には、特殊な力を持つ子供たちがいた。

 曰く神によって与えられた世界を正す力だとか、世界を滅ぼす悪魔の力だとか。国内外問わず様々な噂は立つが、実際のところは力を持つ本人たちにも分からない。ただどちらにしても、他の者にはない強大な力を持っていることに変わりはなかった。

 そしてある時、その子供たち――〈シィーラ〉と名づけられた少年少女は、国の政府によってこの白い建物で暮らすことを義務づけられた。

 ここはアスプロス。政府によって造られた、〈シィーラ〉の力を意のままに操ることを目的とした研究施設。


 ――全ては戦争に勝利するため、だそうだ。



    α



「…………っ」


 ぱち、とラーナは目を覚ます。

 ……自室、か。

〈シィーラ〉たちが暮らす部屋はどこも同じ作りになっているが、一応それぞれに個室が与えられている。基本的には室外に出ることすら禁止されているから、この部屋に誰もいないということはそこが自分の部屋だということだ。

 不意に、ズキ、と頭が痛んだ。これだから「実験」は嫌いだ。

〈シィーラ〉の力は様々で個体によって異なるが、その全てに当てはまる共通点は「他の者は有しない強大な力である」ことと、「本人の意思によってしか発動しない」ということ。

 アスプロスで行われている「実験」は〈シィーラ〉の力を操ることを目的としている。その力を使うために本人の意思が必要だというなら、

 つまりあのヘルメットのような機械は、ラーナの自我を奪おうとしたものであった、というわけだ。それによって脳にかなりの負荷がかかり、実験後には必ず頭痛が伴う。

 それでも、残念ながらラーナは奴らに抵抗することはできない。アスプロスで暮らす〈シィーラ〉たちの体には心臓に近い位置に小さな機械が埋め込まれており、抵抗をしたりアスプロスから逃げ出そうとすれば、そこから強力な電撃が流れるようになっている。直接心臓に届くのだから、当然防ぐこともできない。政府にとって貴重な存在である〈シィーラ〉を無闇に殺すわけにはいかないだろうから、どちらかと言えば抑圧の意味が強いのだろうけれど。

 それでも、奴らは逃げられるぐらいなら殺すだろう。神や悪魔の力を持つと言われてきた〈シィーラ〉たちより、よほど人間からはかけ離れている。それを容認するこの国も、また然り。

 ラーナは上体だけを起き上がらせ、ふるふると頭を振った。頭痛は少し残るが、放っておけばそのうち勝手に治るだろう。

 そんなことより。

 ラーナは瞳を閉じる。そうして壁も床も天井もすり抜けて知覚するのは、アスプロス内の全ての意識。その中からたった一人、の意識を探し出す。

 難しい話ではない。彼もラーナと同じ〈シィーラ〉の一人、与えられた部屋は一つだけで、「実験」の時以外はその部屋から出ることは禁止されている。そして、ラーナはその部屋の大体の場所を知っていた。

 とはいえ、詳しい場所まで知っているというわけではない。大体の目星をつけ、その周辺にある全ての意識の波を読み取る。

 すぐに見つかった。昔から、ずっと近くで感じていた彼の意識の波。

 そっと、声に出さずに語りかける。


『聞こえる? ガシュア』

『あぁ、聞こえるよ、ラーナ』

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