第49話 バリル
「良かった。クリス嬢と話していたから、そうではないかと思ったんですが……如何せん、こういう場にはなれなくて。すみません」
頭を掻きながら苦笑いをするその顔は、誰かによく似ていた。黒に近い赤い髪。青い瞳。そうだ。仕草や口調は全く違うが、黒の中に微かに垣間見える赤はハーバードによく似ている。ハーバードは燃えるような明るい赤をしているが、この青年は黒に赤い色素を足したような色だ。
「僕、バリルって言います。兄が良くお世話になっているそうで、ええ」
抱いた疑問は、彼の自己紹介で確信に変わる。この人は、ハーバードの――王族の次男に当たる人物だ、と。
この世界では初めて見た、この世界のメガネだろうか。額のないフレームのそれが印象的だった。女王陛下が、次の王にと推している人物。武道の心得はないものの、知識は豊富だという青年。そこまで思考を巡らせて、私は知らぬ間に彼を値踏みしていることに気が付いた。不快にさせてしまっただろうか、とはっとする。
「こちらこそ。初めまして……でしょうか?」
「え? ええ、そうだったと思いますが」
「ロベリタ嬢は、先の毒の事件で記憶が混乱しているんですよ。」
「そ、そうでしたか。それは失礼しました。初めまして、ロベリタ嬢」
セシルの助け舟に、青年が改めて頭を下げる。私はそこで、アランの言葉を思い出した。――貴族が簡単に頭を下げるものじゃないよ。 その言葉は、目の前の彼にも言えるのではないか、と。
「出過ぎたことを申し上げます。……私共に、そう簡単に頭を下げるものではありません。どうか自信を持ってください。バリル皇子」
「は……貴方の言う通りですね。すみません。兄にもよく言われるのですが、どうも、慣れなくて」
私の言葉に、彼は暫し困惑した様子だったが、やがて屈託のない笑みを浮かべる。しかしまだ、どこか困惑の混じった表情だった。
自信がない、とでもいうのだろうか。皇子たち自身はハーバードに王位を譲ろうとしている。その意味が、なんとなく分かった気がした。
「私もです。先ほども女王陛下とお話したのですが、緊張してしまって」
「ああ、陛下とお話したんですね。僕なんかを応援してくれる、優しい方ですから。大丈夫ですよ」
「バリル皇子は、こういう場は初めてで?」
「ええ。いつもは書斎にこもっているので……あ、書斎とはいっても、国立図書館の奥なんですが」
禁書とかを扱ってる場所だよ、とアランが小さく耳打ちをする。
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